第五十一話 カフェ衣装
今日も学校は騒がしい。
廊下には文化祭で使うであろう道具が並べられていて人がすれ違うことも出来ない。
「こう、廊下に物が出てくると本格的に文化祭って感じだよね。」
「ただ、歩きにくいだけだ。」
前を歩く風凪はホントに楽しみなのか少し足取りが軽い気がする。
この高校、体育祭とか文化祭といったイベント事には力を入れているらしく毎年豪華と有名だ。
豪華にするこっちからすればふざけるなという言葉を送りたい。
生徒も授業がほとんどなくなる文化祭には力を入れる。
だから、俺みたいな基本無気力な人間には辛い。
教室は今、カフェの準備で色々と物が出入りしている。
「ただいまー。」
「あ!花形、帰ってきたよ!」
「ちょっと!押さないでよ!」
カフェの準備スペースとは別にカーテンで仕切られた奥で優達が何やら騒いでいる。
「花形、倉宮さんのメイド姿どう!」
結局、コスプレ喫茶みたいにするのか。
龍平大歓喜。
女子に引っ張られて優が出てくる。
メイド姿の優は恥ずかしいのか俺と目を合わせず下を向いている。
「恥ずかしいよ、スカートだって短いし…」
「似合ってんじゃん。」
「でしょ!私たちが作ったんだ!」
手作りでこのクオリティならほんとにすごいと思う。
ただ、胸のあたりがサイズオーバーなのか生地が張ってて苦しそうだ。
「1番苦労したのがここの胸よ。」
女子が手の甲で優の胸を叩くとポヨンという効果音付きで跳ね返ってきた。
「このデカい胸のせいで作るの大変だったんだから!」
「アレだけサイズ測ったのに!?」
「妬ましくてね、少しサイズ小さくしてやったわ。」
やることがしょーもないというか地味というか。
「まあ、ドンマイ。」
「その言葉が1番傷つくんだよー!」
慰めの言葉をかけたら女子はカーテン裏に行ってしまった。
あれ?言葉間違えたかな?
「で、俺はなにをすればいいんだ?」
「あ、青君にも衣装あるから着てみて!」
「え、俺もカフェ出るの?」
二重労働じゃね?過労死しちゃうよ?
「大丈夫、青君はキッチンで作る役の人だから。」
「それなら、まあ。」
で、手渡されたのが黒い服。
正確には執事の人が着るような服。
「なにこれ。」
「これ着て、接客とかするんだよ!」
「普通のカフェにするんじゃないのかよ。」
「本当はそうするつもりだったんだけどインパクトが足りないなって話になってこうなった。」
途中、結構省いたが何となくわかった。
コスプレ喫茶じゃなくて従者喫茶ってわけか。
大いに結構、だけどそれに俺を巻き込まないでほしい。
「それに俺、採寸された記憶ないんだけど。」
「大丈夫、大人用の大きいやつらしいから。」
しかし、ここで駄々をこねても仕方ない。
俺はトイレで着替えて教室まで戻った。
「うわ、花形。やっぱり持ってるね。」
「青君!すごく似合ってるよ!」
褒められれば褒められるほど、恥ずかしい。
「うん、これならカフェに出られる。」
「なんで、俺なんだ。演劇とかで忙しいのに。」
「大丈夫だって、出るのは数分だけだしあくまで女子の客を呼び寄せるためだから。」
そんな身も蓋もないことを。
「なら、俺じゃなくてほかの奴でもいいんじゃないか?」
「それならもう試した。けど、しっくりこなかったの。」
「そ、そうか。」
全員試し済みとなると強くは出れないな。
「花形、これ掛けてみてよ。」
南城から渡されたのは眼鏡だ。
「なんだこれ。」
「度は入ってないから。ほら、掛けてみて。」
渋々掛けてみると女子達から悲鳴が上がった。
「やっぱり、眼鏡かけるとより似てるね。」
「誰に似てるって?」
南城曰く、最近深夜帯にやってる女性向けアニメに出てくる執事に似てるとのこと。
深夜アニメなんて最近見てないから全然分からない。
「花形!あんた、カフェ出る時眼鏡してでて。」
「なんでだよ、嫌だよ。」
「い・い・か・ら!」
「わかったから離れろ。」
鬼気迫る表情で肩を掴まれたら誰だってはい。と言ってしまう。
それに、怖かったし。
衣装合わせが終わって体育館がまた空いたため演技の練習。
「んじゃ、問題のシーンから行こうか。」
問題のシーンとはナイトがミミに告白するシーンである。
何度やってもOKが出ないあのシーンだ。
ミミ役の風凪と向き合って開始される。
風凪と向き合うだけでこの前のような事がフラッシュバックしてきて風凪の色っぽい所が思い出される、
『ミミ、お前が好きだ。付き合ってくれ。』
『...はい!喜んで。』
「カット、花形。この前より良くなってる。伊波さんはどう?」
「えっと、もう少し我慢してる感が出るといいですね。」
「花形、頭の中で風凪さんを襲うことをイメージしな。」
「いきなり何言い出すんだよ…。」
「男子高校生の頭なら余裕だろ。」
南城、お前は男子高校生の頭を年中お花畑だと思ってないか?
「思ってる。むしろ性欲丸出しのゴミだめだと思ってる。」
「さいで。」
ひでぇ風評被害だ。
普通に名誉毀損レベルだ。
が、南城よ指示は的確だ。
さっきだって風凪を押し倒したことを思い出したから出来たことでそれがなければ俺はいままで通りダメだしをくらっていた。
「それを踏まえてもう1回。」
(花形君、あの時のことを鮮明に思い出して。そしたらできるよ。)
(あんまり思い出しすぎるとそれはそれで演技に支障が出るんだけど...)
風凪の顔は今から俺に襲われるとでも言いたげな顔だ。涙目、上気した頬、荒い吐息。
ここで押し倒さなかった俺を褒めたい。
俺は風凪の肩に手を置いて少し伏せがちになりながら言った。
こうでもしないと理性が持たない。
『ミミ...。お前が好きなんだ...だから...付き合ってくれ』
『...はい。喜んで!』
自分でも無意識のうちにセリフを変えてしまった。
風凪のあの小動物のような顔は反則級の可愛さがあった。
「カット!花形!そのセリフ改変いいじゃん!センスあるわ!それに、そんな演技が出来るなら最初からやればいいのに。」
「私も、そのセリフ改変はとてもいいと思います。」
「脚本家のお墨付きも貰ったし監督として演技に文句はないし、このシーン。OK!」
さっきのは演技じゃないんだけどな…本気で自分の理性と戦っていた。
それはもう激戦でしたよ。この辺一帯が焼け野原になった。
「花形君?苦しそうだったけど大丈夫?私、そんなに気持ち悪かった?」
「いや、風凪が可愛すぎて理性抑えんの大変だっただけだ。」
「あうぅ。」
俺は一体何を言ってるんだ?
思ったことをそのまま伝えただけだがそれ最も避けるべき内容ではなかったか?
ハッとなって風凪の顔を見ると顔はこれまでに見たことがないくらい真っ赤にして恥ずかしいのか嫌なのかスカートの裾をギュッと握ってふるふる震えている。
「うわー花形がセクハラしてるー。」
「ちがっ!これは、その意図的なもんじゃなくて。」
「それで天然とかあんたどんな性格してんのよ。」
「これは小説のネタとして使えるかも...」
この後、風凪がセリフを噛みまくったりしたため午後の演技練習はいつもより短くなった。
そして、その責任は俺にあると南城と風凪から言われてしまった。
思ったことを正直に伝えただけなんだけどなー。
解せぬ。




