第四十四話 修学旅行ーハプニング
朝、寝不足な俺は何度目かの欠伸をして食堂に向かった。
理由は簡単、あの後は優が喋り続けたから。
ほとんど寝てない。
龍平達が帰ってこなかったから龍平のベットで寝かしたけど俺は寝れなかった。
隣で同い年の女子が寝息や寝言を言われては寝れるものも寝れない。
翌朝になって先生が生徒の移動に気づいたみたいだがなんにも事件らしい事件は起こってないためお咎めなしということになった。
「青君、やっぱり眠いの?」
「ああ、誰かさんが喋り続けたせいでな。」
隣に並んでいた優は同じぐらいの時間しか寝てないのに元気いっぱいといった様子だ。
その元気はどこから来るんだと毎度思う。
「優奈ちゃんは眠くないの?」
「うん。昨日はちゃんと寝たし眠くないよ?」
あの時間寝ただけでちゃんと寝たと言えるのは優だけだ。
現に俺は今超絶眠い。
朝食を食べ終わったら各班に別れて昨日出された課題を終わらせるために出発する。
俺達の班はもう全部終わってるからその辺でも観光することにする。
玄関で出発すると担任よ清水に言ってホテルを出る。
「昨日の繁華街行ってみない?」
「倉宮さん、買いたいものでもあるの?」
「別にそういうのはないけどなんか楽しそうじゃん?」
「あそこ、疲れるから嫌なんだけど…」
「この島の人達は元気だからね。花形君とは反対かもね。」
しかし、優にそんな願いが通じることはなく俺達は繁華街で今日も今日とて暇を持て余していたおばさん達につかまった。
「あら、昨日の修学旅行生じゃない。ちょうど話に上がったところよ。」
「貴方達の班決めって生徒が決めたのかい?」
「いえ、先生が仲のいい人同士を集めたみたいです。」
「あー。そうなの。好きな人同士なら男女の人数が丁度良かったんだけどね。」
まあ、男女2人づつの班だから。傍から見ればそう見えるらしい。
「私が学生の頃なんて酷いものよ。男は漁師か工場の後継ぎしかいなかったもんね。」
「そもそもの男の数が少ないから仕方ないんだけどねー。」
「それに比べれば貴方達はラッキーよ。そこの彼はちょっと暗めだけどなんだかんだやってくれるタイプだし。そこの元気そうな彼は引っ張ってくれるだろうし。」
こういう人達ってデリカシーってもんがないのか。
優と風凪は話すのが楽しいのか輪の中に入って喋ってる。
俺達は少し離れたカフェ的な場所に座っているが声が大きいし繁華街自体そんな広さはないから声がすごくよく通る。
「なあ、さっきの話って俺達の事だよな。」
「多分な。」
「俺って引っ張ってくれそうな見た目してる?」
「杏奈に物理的に手足引っ張られてそう。」
「ははは。それは上手い...そういうことじゃない!」
冗談だ。 2割は。
「そういう青砥はあのおばさん達の言う通りじゃね?」
「そうか?」
「だって、体育祭だってなんだかんだ言いながら全種目でいい結果出てるし、夏休みのあいだだって何回倉宮さんと遊びに行ったんだよ。」
「初めはだいたい反対するけど倉宮さんがやろうとすると手伝うだろ?」
言われてみればそうかもしれない。
完全に無自覚だったが。
「青君!皆が話したいことがあるって!」
なんだろ、嫌な予感しかしないよ。
「あんた、こんないい子達と一緒にいるんだからもっと楽しくしなさいよ。」
「これでも楽しくやってるんですよ。」
「なら、もう少し笑ってみたらどうだい。傍から見たら完全に楽しくなさそうだよ。なんか、疲れてるって感じが常に出てる。」
まあ、疲れてるのはあながち間違いじゃないから別に直さなくてもいいんだけど、
「分かりました。面白いことがあったら素直に笑いますよ。」
「男は甲斐性と包容力だよ!」
そう言って俺の背中をバシバシと叩く。
痛いからやめていただきたい。
「ああ、最後にもう一つだけ。」
「はい?」
「この子達を泣かせたらあんたの所まで言ってお尻ペンペンだかんね!」
昔、俺が幼稚園頃に母親に言われたのを今思い出した。
似てるんだよな、この人。
船の時間が迫っておばさん達と別れると俺達はそのまま港に向かった。
バスの車内は本当は静かなんだろうけど優がいるってだけでかなり騒がしい。
他にも乗客はいるが優の明るさからなのか文句を言う客はいない。
言ってくれた方が助かるんだけどな。
俺達じゃあもう優は制御不可能になっているから。
優が前の席で喋って、風凪が困ったふうに対応。
ホントに困ったら俺の方を向いて助けを求めてくる。
その度に優を抑えなきゃいけないから大変だ。
一旦は静かになるがまたしばらくすると騒ぎ出してしまう。
誰か、この暴れ馬を止めてくれ。
優のマシンガントークを聞きながら港近くの停留所に到着。
「よくあれだけ喋って喉渇かないな。」
「慣れてるからね!」
「そんなことに慣れないで静かにする努力をしてくれよ。」
「話すことが無くなったら静かになるよ?」
「それって、遠回しに黙らないよ?って言ってる?」
「うん!」
元気があってよろしいようで。
白い歯をにっと笑って見せてもダメなものはダメなんだ。
少しは努力しましょう。
「いつかやるよ。」
優がついに俺みたいなことを言い出した。
俺を見習っても得るものなんてないぞ。
港に行くと既に何班かは着いていて後は船の到着待ちってとこだった。
時間的には丁度いい。
その後、全班が到着し船に乗り込む。
今丁度12時だから着くのは3時間後。
着いたら着いたで今度は全員で島の特色なんかの話を聞く。
そして、俺は思った。
俺の人生って平穏じゃないのかもしれないと。
こう思ったのにはちゃんと理由がある。
この修学旅行はかなりイレギュラーな動きをする。
途中での事故に備えて先生達は数時間余裕を持って動いているだろうがさすがに日にち単位での遅れは予想外だったらしい。
事の発端はうちの幼馴染の優にある。
俺達が乗る船は一般客も一緒に乗船している。
だから、俺達が降りない島でも船は停泊する。
その時に客の波に飲まれた優は1人降りる予定のない島に降りてしまった。
それに気がついたのは風凪が叫んだから。
「優奈ちゃん!戻って!」
風凪を声を聞いてデッキに走った俺だったが船は港から出航しようと進んでいた。
さっきも言ったが、この船は一般客も一緒に乗っている。
だから、時間を遅らせたり戻って貰うことは不可能。
俺はなにを思ったのか財布とかが入ってる小さいバックを優に思いっきり投げてそのまま飛び込んだ。
夏を過ぎた水は思ったより冷たくてもう少し季節が遅かったら低体温症か心筋梗塞を起こしていたかもしれない。
途中溺れそうになりながらも優の元へ到着。
「まったく...お前は...いつも...面倒事ばかり持ち込みやがって...」
泳ぎ慣れてないというか運動不足のこの体でよくあの距離泳げたと思う。
「ごめんなさい。」
「取り敢えず、次の船を待つぞ。」
近くの釣具屋に聞いたところ、今日の船はさっきの船で最後だという。
「マジか。やられた。」
「ごめんね。」
「謝んなくていい。今回のはたまたま運が悪かっただけ。優が自分から降りたって言うなら拳の1つでもくれてやるところだが。」
今回は客の波に飲まれたってだけの話。
優は悪くないというのは幼馴染だからの贔屓目だろうか。
「明日1番の船で帰る。今日はもうないらしい。」
『わかった。くれぐれも倉宮を頼んだぞ。』
「言われなくても。」
俺達は泊まる所を確保するためにホテルへと入っていた。
「清水先生、なんだって?」
「了解。だそうだ。」
「そっか。」
「今日は一緒に寝泊まりするんだね。」
「昨日もあんまり変わらないだろ。」
「今日はベット1つだもん。」
「はあ?俺はソファで寝るぞ。」
「えー!なんでよ!昔みたいに一緒に寝ようよ!」
元気たなったのはいい事だがいつものように無茶振りが飛んできた。
不祥事続きでホント疲れる。
俺はもっと穏やかな人生を望んでいるというのに。
周りがそうさせてくれない。




