第四十二話 修学旅行ーその2
島一番の水族館に来た俺達は券売所でチケットを買って中に入る。
「水族館なんて久しぶりだよー!」
「俺もここ数年行ってないな。」
水族館なんて行ったところで何が面白いんだと俺は思う。
ただ、魚達が泳いでるのを見るだけで他にすることなんてない。
「花形君は水族館、嫌い?」
「あまり、好きじゃないな。」
「どうして?」
「館内が暗くて眠くなる。あと、人多い。」
「そっか。私は好きだよ?」
「たしかに、風凪ならこういう所で本でも読んでそうだ。」
俺はこういう所で本を読むとそのうち寝落ちする。
ま、1回その本の世界に入ってしまえば長い時間起きてられるけど。
水族館の中は予想通り暗く人も多い。
「あんまりはしゃいで離れるなよ!」
「分かってるよ!」
そう言いながら水槽に走り寄っていく優を見ると物凄く心配だ。
一応、龍平がそばにいるしなんかあった時は龍平が対処すると思うがこの人の多さじゃあすぐに見えなくなる。
俺は風凪と一緒にゆっくり見てまわった。
「この魚って恋愛をしないんだな。」
「ホントだね。あ、生まれた瞬間からもう生涯寄り添うパートナーが決まってるんだね。」
「不自由な恋してんだな。」
「あ、この魚さんはギリギリまでオスが悩んでパートナーを決めるんだね。」
「選べる立場とか魚の癖に生意気だな。」
(花形君もあんまり立場としては変わらないんだけど…)
「今気づいたけどさ。風凪、さっきから妙なんだ。」
「私も同じ事思ってると思うよ?」
「優の」「優奈ちゃんの」
「声がしなくなった」
さっきまで聞こえていた優と龍平の声が全く聞こえなくなった。
人が多いからそれにかき消されているだけなのかそれとも声が届かない程遠くに行ってしまったのか…。
恐らくは後者だろう。
はしゃぐあまり先に進みすぎた。
ま、水族館の順路は一方通行だし俺達もどの道優達がいる場所まで行くことになる。
ゆっくり追って行けばいいか。
それからは、風凪とゆっくり魚を見ながらまわった。
「魚って色んな種類がいるんだな。」
「そうだね、特にここは島国だから本島にはいないような魚さんもいたね。」
「あ!2人とも遅ーい!」
俺と風凪が感想を言い合っていると聞き覚えしかない声が聞こえてきた。
俺達が今いるのがほぼ出口に近いお土産屋兼飲食コーナー。
先に突っ走った2人は暇を持て余してここで待ちぼうけをくらっていた。
「優達がさっさと先に行ったからだろ。」
「だって、楽しいんだもん。」
「分からなくなないがはしゃぎすぎるな。」
「次から気をつけるもん。」
何度目の、次から気をつける、だろうか。小さい頃から聞かされている。
「で、次はどうする?」
「この辺でインタビューしておく?」
「そうだな。それがいい。あまり遅い時間になると人がいなくなる。」
俺達は水族館から島一番の繁華街に移動した。
「繁華街も賑わってるな。」
「この島の人口のほとんどがここに集まってるんだろう。」
「それより早くインタビューしようぜ。あんまり時間はないぞ。」
今の時刻は午後2時。
6時までまだ時間があるが話かけた人全員がインタビューに答えてくれるとは限らない。
少し急ぐか。
しかし、俺のそんな心配は杞憂だった。
「本島からの修学旅行生かい!本島はやっぱりどこもこの繁華街より賑わってるもかい!?」
「そうですね。都心の方はここよりにぎわってると思います。」
「いいねー。この島はこの繁華街しかないしコンビニなんて便利なものはないんだよ。魚とかが新鮮なのはいいんだけど。」
「魚が新鮮なのは羨ましいですね。私は料理が好きなので。」
「へーそこの彼氏君にも作ってあげたりしてるんだ。」
「そ、そうですね。美味しいって言ってもらえて作り甲斐がありますよ。」
インタビューのほとんどは風凪がやった。
この島の人は普段がホントに暇なのか聞いてもないことをペラペラしゃべってくれるから俺でも行けたかもと思ったけど、受け答えが出来ないから無理だと思った。
島の人が予定より多く話してくれたから時間がかなり空いた。
ここからホテルまでゆっくり行っても1時間で着くことが出来る。
「繁華街でも見て回るか。」
「時間も余ってるからいいよ。」
時間管理役の風凪から許可も貰ったし見てまわろうか。
そして、思った。
この島の人は世話焼きな人が多い。
繁華街の真ん中を通っただけでめちゃくちゃ話しかけられた。
時には何か食べ物を貰ったり、話をしてくれとお願いされたりもした。
特に島のおばさん達は暇らしく昼間から集まって一日中話しているという。
繁華街のメインストリートを歩いただけなのにかなり時間をくってしまった。
「この島の人は楽しい人ばかりだね。」
「皆暇なんだろ。どこ行くにも飛行機か船使わなきゃいけないし。」
「青砥、俺、めっちゃ疲れた。」
「おばさん達の相手、おつかれ。」
「おつかれじゃねぇよ!色んなこといっぺんに聞かれるから大変なんだぞ!」
「いや、俺におばさん達の質問に答えるだけの愛想と語彙力と気力がない。」
「お前、よくそんなんでホールやってんな!」
慣れというやつだよ。
それに、店に来る客全員俺目当てで来てるわけじゃないから変な詮索はされないしこっちには無関心だから。
それに比べおばさん達はこっちに興味を示してグイグイ来るからちょっと無理。
「花形君はグイグイ来られるの苦手?」
「苦手というか戸惑う。」
「青砥はマイペースだから。自分のペースを乱されるのを嫌うんだよ。」
龍平の言う通り、優のテンションとか奇行にはもう慣れてそれくらいじゃあペースは乱れない。
けど、海の日や事件後の目の前にいる女子2人からのキスは俺のペースを大いに乱した。
2人ともなにが狙いなのか未だに分かっていない。
風凪が言うには『お礼』だと言う。
優が言うには『お疲れ様』だと言う。
女子高生という不思議生命体はなにを考えているのか分からない。
「青君?なんか怖い顔してるよ?」
「あ?」
「お、怒ってる?」
「あ、いや。少し考え事をしてたんだ。」
「青砥がそんな怖い顔して考え事とか珍しいな。」
「花形君、大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。」
君たちの奇行によって俺が悩まされているなんて思ってないんだろうな。
ほんと、なにが目的なのか話してからキスをして欲しい。
.....いや、それはそれでシュールすぎるか。
繁華街を歩いている内にホテルに戻る時間となった。
バスを乗り継いでホテルへと向かう。
ホテルの玄関口では担任の清水が待ち構えていて点呼と到着確認を済ませる。
「女子は2階、男子は3階な。」
それぞれの部屋を伝えられて階段を登って各部屋へいく。
「それじゃあ、後でね。」
「おう。」
夕食までのスケジュールはほとんどないに等しい。
つまりは、着いた順から自由時間。
トランプをするもよし、違うクラスの奴と話すもよし。
自由な時間。
「なぁなぁ、青砥。夜、寝静まったら女子の部屋に行こうぜ。」
「お前、去年もやって見つかってるんじゃなかったけ?」
「去年は色々と策が穴だらけだったんだ。」
「で、今年の作戦は?」
「俺達、男子は3階、女子は2階、つまり!わざわざ廊下を通る必要がない!ベランダから出てそのまま女子の部屋の前まで直行出来るってわけだ。」
「そうか、頑張れ。」
「あれ?青砥はやんないのか?」
「眠いしダルい。」
「よし、皆に倉宮さんにイタズラするチャンスだぞって言いふらしとこ。」
「そんなことしたらお前の骨粉々にして海に流してやるよ。」
「はっはっは!冗談だって、だから拳を握り締めたままこっちに近づいてくるな!」




