第四十一話 修学旅行
長いと思われた夏休みが終わって9月の始業式。
相も変わらず俺は空き教室で時間を潰していた。
まだ、残暑で暑いが暑い体育館で立ってても同じ事だったら俺は空き教室で寝ていたい。
チャイムが鳴って教室に戻る。
いつもなら優が迎えに来るまで寝ているが今回はそうもいかない。
夏休み明けから2週間後には俺達2年生は修学旅行に出かけるその諸連絡と班が発表されるんだ。
だから、早めに戻る。
「おっす、青砥。今日は倉宮さんの迎え待たないんだな。」
「修学旅行の連絡があるからな。」
教室に入って早々に絡んできた龍平。
修学旅行も立派な単位の一環だから出ないといけないのが面倒臭い所である。
しかも、行くのが島という何とも在り来りな場所。
まあ、公立じゃないし授業料もそんなに高いわけじゃないからその分行くところも限られるんだろうけど。
「あ!青君今日は早いね!」
「龍平にも言われた。」
「ほらー席つけー」
気の抜けた声と共に入ってきたのは担任の清水。
相変わらず気だるげそうだな。
「で、次は皆お待ちかね、班の発表だ。」
その言葉にクラス中が沸き立つ。
何がそんなに楽しみなのだろうか。
誰と一緒になったところでどうせ向こうでの行動班が決まるだけ。
誰と一緒でもただぼーっと歩いて特になんの思い出もなく帰ってくるだけだ。
次々と発表されていく班。
班は男女2づつのある種の思惑すら感じる人数。
「で、最後に花形、倉宮、風凪、鈴木。呼ばれてない奴はいるか?.....いないな。」
やっぱりな。
「やったー!青君と一緒の班だ!」
「分かったからくっつくな!」
「俺も嬉しいぞー!」
「それ以上近づくなら頭蓋骨粉砕するぞ。」
「怖すぎる!」
女子のハグならまだしも男ハグとか吐き気がする。
「でもでも!つくしちゃんも一緒なんだよ!」
「聞こえてるから知ってるよ。」
「よろしくね花形君。」
「よろしく。」
いじめが無くなったとはいえ、いつも俺達といるからあまり他のクラスメイトとは喋っている所を見ない。
見てもなんか顔を赤くしてる事が多い。
それなら、慣れている俺達と組ませようって魂胆なんだろうけど。
それからは、どこを回るかの相談と自由行動の時になにをするかの相談をした。
バイト先には修学旅行のため俺と龍平が来れない事の旨を伝えるとお土産を期待されてしまった。
女性が喜ぶお土産ってなんだ?
そんなことをして過ごしていたらあっという間に2週間が過ぎた。
今日は修学旅行に出発する日。
朝の5時に俺は空港にいた。
隣には眠そうに船を漕ぐ優の姿がある。
楽しみにし過ぎて全然寝てないんだとか。
「青君...肩貸して...」
「立ったまま寝るのかよ…」
そんなことを言っている間に優は寝た。
取り敢えず、危ないから俺のトランクに座らせて横腹辺りに頭を寄せた。
「おっす!青砥!」
既視感のある呼び声と共に現れたのはやはり龍平。
「朝から元気だな。」
「おうよ!昨日は飛行機で寝ないようにたっぷり寝てきたからな!」
「そうかよ。」
こっちは最上級に眠い。
元々、人より多く寝ないと快眠とは言えない体質だから非常に眠い。
「おはよう花形君。」
「おはよう。」
「今日は楽しみだね。」
「そうだな。部屋とかじゃ優をよろしく頼む。」
「うん。任せて。」
「よっし!全員揃ったな。点呼の後、飛行機に乗るから寝てるやつとかいたら起こしておけよ。」
点呼された後飛行機に乗った。
飛行機の座席は1班で片側1列。
龍平、俺、優、風凪
の順で座っている。
龍平が窓の景色を見たいと駄々をこねたからこの座席になった。
飛行機が離陸すると多少の振動はあるが機内は静かになった。
殆どの生徒が寝たからだ。
隣で準備万端と言っていたバカももう既に熟睡している。
着いてから寝ることは不可能。
だったら俺も寝よう。
飛行機が着陸して本島から離れた離島に到着した。
今回の修学旅行は最初は複数ある島の奥に行って船で戻りながら本島の空港に戻ることになっている。
そして、この広い島を観光することにした。
午後6時の夕食に間に合えばどこに行ってもいいということになっている。
「よし!じゃあ、どこから行こうか。」
時刻は午前10時、昼には少し早い。
「先にお土産決めとく?」
「そうだな。まだ水族館とかも開いてないからそうしようか。」
空港近くのお土産屋。
お土産屋と言っても感じとしては昔ながらの駄菓子屋みたいな感じだ。
(お土産か...真奈にも言われてるしバイト先にも持っていかなきゃいけない。)
正直、なにを買えばいいのか全然分からない。
無難に食べ物でもいいか…。
「ねぇねぇ!青君!これなんかどう?」
優はこの島の先祖の仮面を付けていた。
「そんなもん何に使うんだよ。」
「暗闇からわっと!出てきて相手をびっくりさせるとか?」
「いや、そんな限定的な物はいらない。」
「面白いと思ったのに。」
優はほっぺを膨らませて不満そうだが使い所がないのも事実。
結局、お土産はお菓子類を買うことにした。
「よし、大体いい時間になったから昼にしようか!」
「やったー!お昼だー!」
前のハイテンション2人と後ろのノーマルテンション2人という一見バランスのとれた班だが前の2人のテンションが高すぎてバランスが崩れかかっている。
「で、何食べる?」
「うーん。この島って何が有名なの?」
「この島は蕎麦が有名らしいよ。」
「この島来たことあるのか?」
「ううん。必要になると思って事前に調べて置いたんだよ。」
「さすが、風凪さん。頼りになるぜ!」
「よし!お蕎麦食べに行こー!」
元気よく歩き出す前の2人とそれに着いていく後ろ2人。
「ホント、風凪がいて良かったわ。」
「?なんで?」
「俺1人でこの2人をまとめられるとは思わないし事前に調べて置いてくれたのはホントに助かった。」
緊急時の連絡こためにスマホの常備は許されてはいるが電池の消費が激しいためあまり使えない。
だから、知恵袋の風凪がいて助かっている。
「そう思ってくれてありがとう。」
「こちらこそ。」
俺は自然と風凪の頭を撫でていた。
「わ、悪い。」
つい、優にやるみたいに癖で頭を撫でてしまった。
「人に撫でられるって安心するね…。」
風凪は恥ずかしそうにそう言った。
しばらく歩いて着いた蕎麦屋。
お昼時というのもあって客の入りはいい。
空いてる席に座ってそれぞれの蕎麦を頼む。
「昼食ったら何する?」
「伝統的な家屋を見る、水族館、後はインタビューくらいだね。」
「じゃあ、水族館行くか。伝統的な家屋を見たってあんまり面白そうじゃないし。」
「結局全部やらなきゃいけないんだから一緒だろ。」
この学校はこういう所で自由なんだがその分俺達が時間の管理をしなきゃいけない。
一応、俺と風凪が時間計算をしてどこにどれくらいの時間を使えるのか出してはあるがこいつらがそれに沿ってくれるかどうかだ。
蕎麦を食べ終わって俺達は水族館に向かった。




