第三十七話 逃げ
昼食兼夕食を食べ終えた俺達は杏奈の実家に来ていた。
キャンプ場に店長を残して。
「で、なんで俺達は連れてこられたんだ?」
「それは、私達が遅れた理由でもあるんだよ。」
「確かに遅かったよな。」
なにか運ぶ物があるって言ってたのに何も持ってなかったしなにかあると思っていたが。
「はいこれ!」
渡されたのはジンベイという男の浴衣だ。
「なにこれ。」
「お父さんの浴衣です。使用済みで申し訳ないですけど。」
「これ着るの?なんで?」
「今日、川原で花火大会があるんだよ!絶対見なきゃ損じゃん!」
「いや、損かどうかは知らないけどわざわざこれに着替える必要なくないか?」
「もー!雰囲気は大事だって!」
そしてなんやかんやで押し切られて俺は今ジンベイを着ている。
そして、水着と同じ色の浴衣を来た優達。
川原は杏奈の実家から徒歩で10分ほど行った所にある。
川原ではいくつもの屋台が並んでいる。
「結構大規模だな。」
「はい。それは街一番のお祭りですから。」
人が多くて歩きずらい。
俺は今、風凪の手を握りながら歩いてるからあまり人が多い場所は避けたい。
風凪が履いてるのは下駄だ。普段から履いてるわけじゃないから風凪も歩きずらそうにしている。
「大丈夫か?」
「うん。最初よりは痛みは引いたから。」
確かに気持ち引いたように見えるけどまだ腫れてることには変わりない。
「あまり、無理するなよ。」
「大丈夫だよ。それに...先越されたくないもん。」
大丈夫だよ。の後、なにか言ったが人混みがうるさくて聞こえなかった。
風凪と話してふと、辺りを見ると優達の姿がなかった。
優だけならいつものことだが杏奈や龍平、鈴姉までとなると本格的にはぐれてしまったということになる。
まあ、幸い時間になれば杏奈の実家に戻ることになるから適当に時間を潰して戻ればいいか。
「悪い、優達とはぐれた。時間になるまで適当に歩こうと思うんだが風凪は歩けるか?無理ならどこかで休むけど…」
「ううん。大丈夫。けど、手は離さないでね?」
「分かった。」
俺と風凪は人混みの中、歩き始めた。
☆
手を繋いでる。
それだけで顔が熱くなっているのが分かる。
人混みもそれに伴う喧騒も彼と一緒にいるなら心地いい。
ほとんど無口で必要なことしか喋らないけど握られているてから伝わってくる存在の大きさ。
私に合わせて歩幅を合わせてくれる優しさ。
それが無意識だとしても私は嬉しい。
この時間が永遠に続けばいいと私は思う。
☆
「風凪、顔が赤いけど暑いか?どこかで休むか?」
「そうだね、ちょっと足が痛くなってきたかな。」
花火の時間にはまだ早いが風凪を休ませるために俺は川原に腰をかけた。
ホントならレジャーシートがあるんだが今は杏奈が持ってる。
「地面に直で悪いけどここでいいか?」
「うん。いいよ。」
風凪が横に座ってしばらく沈黙が続いた。
物凄い既視感だった。
「あの、花形君...」
「あー。腹減った。なにか買ってくるけどなにかいる?」
「あ、えっと、りんご飴とか綿菓子とか甘いものが食べたいかな。」
「了解」
そう言って俺はまた人混みの中に入った。
自分でも分かってる。今のは明らかな『逃げ』だ。
風凪が海の日のことについて聞こうとしたから逃げた。
別に風凪に話したところで俺にとって不都合なことなんて今のところ何も無い。
そう、今のところ。
最近、特に優と風凪の様子がおかしい。
優はまあ、夏休みでテンションが上がってると考えれば納得がいかないことも無い。
けど、風凪は優みたいに夏休みだからといってハメを外すタイプには見えない。
だとしたら、なんなんだろうか。
今の俺の知識量じゃ解決出来ない。
考え事をしながら屋台でりんご飴と綿菓子とたこ焼きとか色んなものを買った。
風凪のとこに戻ると優達の姿があった。
風凪に話を聞くと、俺を待っているあいだに優達と合流したらしい。
それで、買いに行った俺を待っていたらしい。
「もー!探したんだからね!」
「いや、あれは倉宮さんが走り回ったから青砥達とはぐれたんじゃ...」
「私がはしゃぐの分かってるんだから私から目を離さないでよ。」
なんという自分勝手な。
俺は優のお守りじゃないんだぞ。
後、はしゃがない努力をしましょう。
俺が無駄に疲れるだけだ。
「で、青君はなに買ってきたの?」
「色々。」
「このたこ焼きって出来たてですか?」
「鉄板から上げたばかりだからそうなんじゃ?」
「あ、じゃあ1つ貰ってもいいですか?」
「...別にいいけど。」
俺はこの時点で杏奈が何をしようとしてるのか分かってるしまった。
「はい、龍平先輩。あーん。」
激熱のたこ焼きを龍平に丸々食べさせようとしたんだ。
小悪魔を通り越して悪魔だな。
「え、でもこれ熱いよね?」
「ぐすん。先輩は私からの食べ物は食べられないって言うんですか?」
「いやいや、そんなことはない!」
「では、はい」
嘘泣きからの悪魔がもう達人の域。
「あーん。」
熱いたこ焼きを丸々一個口に入れた龍平。
最初は大丈夫そうにしていたが急に暴れ出した。
理由は簡単。
杏奈が持ち上げてから口に入れるまで少し時間があった。
だから、たこ焼きの表面は冷えてたけど中までは冷えない。
噛んだ瞬間に熱いのが口の中に広がったわけだ。
一通り暴れた龍平は涙目になっていた。
「舌の感覚がない。」
「あんだけ熱いの食べればそうだろ。」
「好きな子からのあーんならどんな熱い物でも食べる!これ、鉄則。」
「なら、龍平先輩。今度溶けた鉄食べて下さいよ。」
「せめて、食べ物でお願いします。」
もはや、龍平を殺そうとしてる杏奈であった。
閑話休題
「花火って何時からだ?」
「夜の8時からですね。」
今は7時40分
花火まで20分ある。
「あと、20分。」
「また、なにか買ってくるか。」
「あ!じゃあ私も行く!」
「じ、じゃあ私も...」
「風凪は買ってきてやるから座って待ってろって。いくらでさえ人が多いんだ。」
「う、うん。...ありがとう。」
俺と優は人混みに入った。
「つくしちゃんの足良くなってる?」
「最初よりは痛みは引いてるらしい。」
「そうなんだ...あ!射的あるよ!青君得意だよね。」
得意とというか優が致命的に下手なだけなんだけど。
真っ直ぐ狙ったはずなのに飛んでくるのは俺の方という。
弾道が慣性の法則やら物理法則を無視して来るから。
「ねぇねぇ!1回やってみよ!勝負だよ!」
ということで、勝負することになった。
弾は5発。どちらがどれだけ商品を落とせたかで勝負。
だいたいの射的屋って落ちないように奥行きが広かったり後ろに支えを置いてることが多い。
だから、引き分けでもまあ、しょうがないと思う。
けど、まあ、駄菓子みたいなやつだったら軽いし支えとかも置けないから落とすのは簡単だったりする。
さて、何を狙おうか。
そう言っているうちに優は全ての弾を撃ち尽くし商品は駄菓子だけ。
本人は渾身のドヤ顔を披露してきた。
「おっちゃん。ちょうど客もいないし銃全部使ってもいいか?」
「お、珍しいことするね。いいさそれで取れるならな。」
了承は取った。
あとは、狙う獲物を決めるだけだ。




