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第三十話 難事件

「え?今日の7半から8時の間どこにいたかだって?」

「出来れば詳細にお聞かせ願えればと。」

「そうだなー。7時半なら風呂に居たし8時ならここでビール飲んでツマミ食べてたかな。」

「そのようですね。」


「外にはなぜ出たんです?」

「会社から電話がかかってきたのさ。こっちは有給とって来たのにそれがどうのこうのって.....」


大人って大変なんだなと思った瞬間である。


このオッサン、かなり出来上がってるのか酒臭いのなんのってビールも既に10杯以上飲んでる。

こんな状態で犯行に及べるとは思わない。


途中で寝てしまって仲居さんに運ばれるのが関の山だ。


次に話を聞くのが右手に包帯を巻いた彼女。

名前は近衛楽(このえ らく)


Q7時半から8時の間どこにいましたか?

「そうだね。私はずっと愛佳まなか達といたよ。なんかあったのか?」

「実は...」


捜査に協力して貰うには事情を説明する必要がある。


「なるほどね。それで私はその容疑者ってわけか。」

「あはは。けど、楽はずっと私達といたから無理だよ。それに、こんな腕で荷物の中から物を取り出すなんて出来ないよ。」


「ちなみに、なぜ怪我を?」

「岩場でロッククライミングしてたら落ちちゃってさ手首からゴキッだよ。全治1ヶ月だってさ。」


近衛さんはカルテまで見せてくれた。

たしかに、日付は今日のだし骨折は本物のようだ。


「なぜ外に出たんですか?」

「コンビニまでちょっとね。けど、私一人じゃないよ。数人とで行った。」


続いて聞くのがメガネの男性。

名前は佐野健吾(さのけんご)


「僕ならずっと食堂にいたよ。仲居さんの誰かと話したから聞けば分かるよ。」

「ちなみに、どんなお仕事をされてるんです?」

「ほんとどこにでもある中小企業のサラリーマンだよ。今はその企画書を書いてるとこ。」


「外に出た理由は?」

「うーん、特に理由はないけど強いて言うなら気分転換かな。こうしてずっとパソコンと向き合ってると目とか頭が疲れちゃうからね。」



一通り全員に話を聞いてみたがやっぱりあの4人の中に犯人はいない気がする。

まだ、確定したわけじゃないけど誰も俺達の部屋に侵入する必要が無い人達ばかりだ。


「手詰まりですね。」

「やっぱり、侵入方法が分からないことには絞りようがないか。」

「その事なんだけどさ。」


真奈が真剣な声で切り出す。


「秘密の入口とかがあるんじゃないの?」

「はぁ?」


秘密の入口だぁ?

んなもんなにに使うんだよ。

それに、そんなものあったら仲居さんが言うって。


「ないな。」

「アニメではあったのに。」


それは、アニメでの話でフィクションだろ。

こちとらノンフィクションで現在進行形で事件と真っ向勝負してんだよ。



しかし、真奈の案も悪くないと思った自分もいた。

突飛的な思考だが有り得なくはない。

畳のした屋根裏、押し入れの中だとか用意すればいくらでもできる。


しかし、そんなものホントに何に使うのかって話。

仲居さんならマスターキーで開けることが出来るからそんな秘密の入口なんて必要ない。


それに、そんな大掛かりなものを用意するよりドアに細工した方がいい。

ここは、大広間で大人数の客が泊まる場所。

1度侵入してしまえばかなりの荷物が漁れる。


だから、犯人も狙ったんだと思ったが。


「犯人はなに目的で私達の部屋に入ったんだろうね。」

「まだ、分からない。」

「分からないって下着とか水着とかじゃないのか?」

「なら、既に取られてもおかしくないだろ。水着は濡れてるしパンツと同じ生地の布を何枚も持ち歩く人は少ない。」


「青君が本気モードだ。」

「お兄ちゃんにしては珍しい。」


お前ら...人が真剣に犯人探ししてるのにそんな呑気なこと考えてたのかよ。


まあ、今回に関しては俺は少しムキになってる。

それは自分でも理解してるつもりだ。

理由は俺でも分からない。


「けど、私達だけの荷物が襲われたなら犯人は男の人じゃない?」

「その可能性の方が高いだろう。」


と言っても犯人に繋がるような直接的な物は何も出てきてない。

だから、犯人像も不明確なまま。


犯人はなにがしたかったんだ。

ただ、人が迷惑するような事をしたかっただけ?

いや、なら財布とかを盗んで適当なとこに捨てるかそのまま奪うだろう。

その方が人が困る様子が伺えるし自分が疑われる心配もない。


「ねぇ、青砥。ほんとに犯人はこのドアから入ったのかしら。」

「じゃなきゃどこから?窓は無理だし天井だって管理人室から行くしかないんだ。入るとしたらこのドアからしかない。」

「確かにそうなんだけど。誰かがこの部屋に入ったのは事実。それも、5分で私達の荷物を漁りきる程慣れた手つき。なにかおかしいと思わない?」


「おかしいのは分かってる。この部屋に入る方法が今のところないんだから。」

「そうじゃないの。なにか大事な事を見落としてる気がする。それにこの部屋、違和感があるの。」

「俺はそうでもないが。」


唯一頭がいい鈴姉でもこんな考えなきゃいけないような事件を俺みたいな馬鹿が解こうとしてると思うとアホらしくなってくる。


「取り敢えず、夕飯にしようか。捜査に夢中になって食べるのを忘れそうだ。」

「そうそう。腹減りすぎて背中くっつきそうだ。」

「そのままくっついて内蔵ごと潰れればいいんです。」

「杏奈ちゃん!犯人が怖いのは分かるけど人に八つ当たりしないで!」


いつもより罵詈雑言に拍車がかかった杏奈。

得体の知れない犯人に怯えてるのは言わずにだった。


夕飯を食べていると仲居さんがこの宿の地図を持ってきてくれた。

捜査にはどこまでも協力的な仲居さん。


「お客様、これが当宿の見取り図でございます。」

「あ、ありがとうございます。」

「それであのー捜査の方はいかがでしょう。」

「ほぼ進捗なし。」

「左様でございますか。」


「情報が少なすぎる。けど、この見取り図があれば少しは進展するかもしれない。」

「お客様の望むもの出来る限り用意させていただきます。」

「やけに協力的ですね。まあ、助かりますが。」

「お客様になにかあったとなれば協力するのは当然です。」

「それだけじゃないでしょう。」


俺がこう言うと仲居さんが顔を青ざめさせた。


「さっき、スマホで調べたらこの宿過去に何回か盗難事件が起きていますよね。しかも、現場は俺達が泊まってる部屋。」

「あの...それは...」


「当時の警察も怪事件として捜査は難航。結果何も進展がないまま警察は撤収。事件は迷宮入りとなった。」

「騙すつもりはなかったんです。」


「確かに2年前、あのお部屋で盗難事件が起きました。あそこに泊まったお客様のお荷物が盗まれるという事件が起こりました。」

「警察にも言いましたがあのお部屋に隠し扉やその類のものはございません。」


この仲居さんが言うことは恐らくホントのはずだ。

部屋1つの間取りを組み替えるのに数日で終わるとは思わない。

しかも、その間工事関係の人が出入りすれば流石にバレる。


そんな事を言わないってことはあの部屋は他の部屋と同じただ広いだけの部屋と言うことになるんだろう。


だが、さっき部屋を調べたところ気になる点が幾つかあった。


あの羽目殺しの窓。

鍵は閉めてあったはずなのに窓の鍵が開いていた。


今いるメンバー全員に聞いたところ誰も鍵を開けてないという。


仲居さんが言うにはお昼に全部屋の換気をした時に閉め忘れたのだろうとのこと。


.....果たしてそうだろうか。



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