第十六話 仲直り?
「好きか嫌いかで言えば嫌いです。」
「結構ハッキリ言うのね。」
「ただ、そうでないなら『普通』ですかね。」
「『普通』?」
「別に俺が嫌がることしてないじゃん。鈴姉は」
鈴姉。
俺が中学時代に呼んでいた名前。
直人がその呼び方だったからそうなった。
「で、でも風凪さんの時はあれだけ散々言ったのに...」
「あれは、大切な家族を失った人の正当な権利だと俺は思ってる。」
「......ごめんね。」
謝る鈴姉に俺は黙ったままだった。
許す許さないの話じゃない。
さっきも言ったが俺は謝られることなんてされてない。
どちらも大切な親友、家族を失ったもの同士
似た者同士なのかもしれない。
「で、加奈先輩は仕事しないんですか?」
「え。」
「あれれ?おかしいな。バレテないと思ったんだけどなー。」
「部屋出てった後にすぐ戻ってきたでしょ。足音でバレバレです。」
俺と鈴姉の会話を終始聞いてたんだと思うが...
「加奈?仕事は?」
「えっとー今は休憩中?」
「加奈。正座。」
「はい!」
出てってすぐに戻ってきたってことは仕事もサボって来たんだろうな。
それが鈴姉の怒りに火をつけたわけだ。
それからは、俺は今まで通りの作業に戻って、鈴姉は加奈先輩に説教していた。
帰ってきた実行委員のメンバーの目は「なんだこの状況」という目をしていた。
今日の実行委員は流れ解散となった。
まあ、会長と副会長が取り込み中だから仕方ないとうは思うが。
俺も仕事を片付けて帰ろうとした。
「あ、青砥は残って。」
やっぱりね。
椅子に座りなおして数十分。
「こんどやったら課題見せないから。」
「ごめんて。」
プイとそっぽを向く会長に縋り付く副会長。
この凸凹が長年の付き合いの秘密なんだろうな。
「で、加奈。青砥との話を聞いてどう思った。」
「いや、可愛いなって。」
「いい加減殴るよ。」
「鈴音がやっと正直になったなと。」
「加奈先輩は何がしたかったんですか。俺と鈴姉を一緒に作業させて。」
「二人を仲直りさせようかと。」
「仲直り?」
「そ、あの事件からのもう4年だよ?もうそろそろいいんじゃないかなと思っただけ。」
もうそんなに経つのか。
「はい。それじゃ。仲直り。」
俺と鈴姉は目を合わせた。
すると、鈴姉は顔を赤くして
「だめ。仲直りはしない。」
「そういうと思ってた。」
「なんでよーここまできたら仲直りしようよー」
「だめ、まだ私の中で青砥のこと許せてない。私は不器用だからきっとまた青砥に当たってしまう。」
「あーもう。こういうとこで素直なんだから。」
不器用で変に素直で自分にストイック。
それが篠崎鈴音という人の良いところなんだと思う。
中学から見てきたから分かること。
初見の人は当たり強いめんどくさい奴って印象をもつだろう。
ぎこちない雰囲気で解散となった俺達だが、最後にこんな事を言われた。
「今後、私を呼ぶ時は『鈴姉』と呼んで。」
無表情でそんなことを言われた。
頬が引くついてたけど。
☆
鈴姉達と別れた後、普通に家に帰った。
ちゃんと自分の家に帰った。
「あ、青君お帰り。」
玄関に顔を出したのは優。
優が俺の家にいることは不思議じゃない。どちらかというと日常茶飯事のことだ。
「あ、花形君お邪魔してます。
「先輩。遅いですよ。」
この二人が家にいた。
風凪はあの時以来だし、杏奈は初めてのはずだ。
「どうやって入った。」
「青君のお母さんが私の家に来てて鍵くれた。」
いくら幼馴染とはいえ人に鍵を渡すなよ...
「で、その2人は?」
「ほんとはね優奈ちゃんの家で話すはずだったんだけど…」
「優奈先輩が青砥先輩の家でやろって話になって...」
「2人とも酷い!」
「でも、優が誘ったのは事実だろ?」
「う、それはそうだけど...」
「まあ、今更出てけとも言わないが静かにな。俺は少し寝る。」
「「「はーい」」」
返事だけは立派だがどうだろうか。
まあ、案の定3人集まった女子たちはうるさかった。
寝ようにも声が二階にまで聞こえてくる甲高い笑い声(主に優の声)。
ほんとにうるさい。
あまりにうるさいから俺は下に降りた。
「おい、もう少し静かに...」
ここで俺は言葉を失った。
リビングの扉を開けるとチアガールが3人いた。
「「「あ...」」」
チアガール達はその場で固まった。
俺も固まった。
「「きゃああああああ」」
二人分の悲鳴が聞こえた。
「人の家で何してんだよ。」
「体育祭で着る衣装だよ。」
体育祭で着る?よくその案通ったな。
あ、理事長俺の叔母だったわ。
「それなら、優の部屋でやればいだろ。」
「私の部屋じゃ3人着替えるには狭いんだよ。」
「一人ずつ着替えればいいだろ。」
「....めんどくさいじゃん?」
こいつ...。
その気持ちは分からなくないけど
「花形君!」
「青砥先輩!」
「「出てって!」ください!」
自分の家のリビングから追い出される人がここにいた。
恥ずかしなら着なきゃいいのに。
☆
「優奈ちゃん!花形君にみられちゃったんだけど!」
「話と違いますよ!優奈先輩!」
「そんなこと言っても青君が降りてくるなんて思ってなかったよ。」
体育祭で着るチアガールの衣装。
本気のチアガールみたいに本気で応援するわけじゃないけど少しでもクラスの皆(主に青君)が頑張ってくれればいいかなと思った。
「けど、最初に言いだしたのは杏奈ちゃんだよ?」
『先輩方がチアガール姿になれば青砥先輩も本気になると思いますよ?』
という提案から出てきた案。
「けど、今の反応を見るとあんまり効果はないよう思えるけど...」
「いえ、その心配はありません。」
「先輩方は綺麗ですから、他の男子の視線は釘付けです。他の男子の視線が釘付けになった状態に青砥先輩は嫉妬します。嫉妬は自覚していなければイラつきになります。先輩方がいる状況では人や物に当たることは出来ません。そこで、先輩は種目でイラつきを発散しようとします。それで、本気を出してもらうという魂胆です。」
「今更だけど、杏奈ちゃんって策士?」
「凄い計算。」
「まあ、先輩が嫉妬しなければ使えないことですが。」
☆
リビングを追い出された俺は自分の部屋で音楽を聞いていた。
元々リビングに入り浸るわけじゃないないから構わないが。
今頃、チアダンスの練習でもしてんのかな。
の割には静かだが。
まあ、静かなことに越したことはない。
俺がリビングに行ってから優達の笑い声なんかは聞こえなくなっていた。
恥ずかしさで赤くなってる.....なんてことはないな。
そうなるなら、まず、男の家でチアガールになったりはしないだろ。
体育祭の衣装とか言ったけ?
あんまり優のあんな姿はほかの連中に見せたくはないんだが…。
優やるって言うなら仕方ない。
不届き者は俺の鉄拳制裁をお見舞いするとしよう。




