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第十四話 素直

鼻を衝く独特な薬品匂い、体を包み込む柔らかいもの。


俺が目を覚ましたのは保健室のベットの上だった。

起き上がろうとすると頭に激痛がはしった。


「もう少し寝ていなさい、多分頭打ってるから。頬だって切ってるし。」

そういわれて頬に手を持っていくと人差し指と中指を合わせ太さぐらいの絆創膏が貼られていた。


「生徒会長は。」

「君の隣で寝てるよ。ぐっすりとね。彼女には特に外傷はなし、打撲痕もない。階段から転げ落ちて怪我をしたのは君だけ。」


よかった。

倒れた理由としては大方過労ってとこだろ。

常にビシッとした生徒会長がうっかり指示をミスするほどに疲れていた。


「それにしても、驚いた。」

「なにが。」

「女の子と庇って自分を犠牲にするとか花形はホントに人間か?」

「....俺馬鹿だからそんな難しい話されてもわかんね。」


「いいかい。人間ていうのはね、自分を守りたがる生き物なんだよ。イジメなんかが分かりやすい例だ。」

「例え、頭で「誰かを助けなきゃ、守らなきゃ」と考えてはいても実際そういう局面に対峙したときはどうしても自分の身を最優先で守ってしまう。」

「自分より相手を優先するのは、ロボットか自己犠牲が激しいかのどちらかだ。」


「別に自己犠牲は激しいとは思ったことはないが。」

「思ってないだけさ。例えこれが生死にかかわることでも花形は篠崎を守ったよ。」

「本当は直した方がいいことなんだが、なおすつもりはなさそうだね。」

「当たり前だ。」


そんな戦場じゃないんだから常に死が付きまとう訳じゃない。

なら、多少の無理は通るってもんだ。


「で、なんで生徒会長が倒れるって知ってしたんだい?」

「目の前で倒れればそりゃ支えるだろ。」

「人間の反応速度は最速で0.2秒だ。しかも、それは人がMaxの興奮状態にあるときに出る数値。花形は篠崎に発情でもしてたのか?」

「その興奮とはちがうだろ。それくらいはわかる。」


「副会長から聞いたんだよ。最近、生徒会長の様子がおかしいって。」

「それで、倒れるかもしれないって警戒してたわけか。」

「そんなとこだ。本人には悪い事をしたと思ったが。」

「それまたなんで?」

「生徒会長は俺に怒ってる。昔の出来事でな。ホントは触れられたくはなかっただろ。」

「まあ、その辺は本人に聞かないと分からないが人を助けるって観点で言えば花形の行動は間違っていないと断言して置こう。」

「人助けの観点では、だろ。」




「青君!大丈夫!」


保健の鳴川と話していたら優が保健室に飛び込んできた。


「倉宮、急いでるのはわかるが落ち着け。」


優を見るに家から走ってきたんだろう。

とすると、俺が寝ていた時間はそんなに長くはなかったのか。


「俺は大丈夫。」

「ほっぺ怪我してる。」

「ああ、階段を転げ落ちた時に切ったんだと思う。」


生徒会長はしばらく起きないと聞いたため俺と優は帰った。


彼が出て行ったあと、締め切っていたカーテンが開かれる。


「さっきの聞いてどう思った。」

「...別になんとも。」

「保健に限らず教師になるには心理学を大学院でとる必要があるのをしっているか?」


私は鳴川先生の顔を見れずにいた。


「篠崎、過去になにがあったか知らないが花形が守ってくれたのは事実だ。もし、花形がいなかったら頭を打って死んでいたかもしれないんだ。」

「それくらい、分かっています。」



不貞腐れた子供みたいに私は唇を尖らせた。


普段、優等生として成り立っている私は自分を表にだすことはない。

だから、こうして、倒れることがある。

前にもなんどか倒れかけたことがあった。


素直じゃない性格のせいでまともに話せるのは加奈くらい。

彼のような自由な性格が羨ましい。


「ま、階段から転げ落ちたのは篠崎も一緒だから寝ていきなさいな。」

「...そうします。」


私はそう言ってベットの毛布に顔を隠すようにかけた。


今まで散々罵詈雑を浴びせ続け、ついこの前も風凪さんの件でボロボロになるまでいってしまった。

彼の性格上顔には出ないけど相当傷ついたのはたしかだと思う。

けど、彼のせいで弟が自殺したのは事実。


助けてくれて『ありがとう』っていう感情と、『まだ許せない』っていう感情が入り混じって大変なことになってる。


(明日、ありがとうくらいは言おう。)



次の日、今日は実行委員はない。

毎日あったら大変だし。

まあ、絶対何日かはさぼるけど。


「お、青。丁度良かった。」


昼食時の昼休み。

俺が空き教室に向かおうとしていたところで加奈先輩と会った。


「二年のだれかに用ですか。」

「青に用がある。って涼音が」


加奈先輩で気づかなかったが後ろに生徒会が隠れているのが見えた。


「ほら、ここからは、自分でいいな。早くしないと、人集まるぞ。」

「えっと、コホン。」

「昨日はどうもありがとう、お陰で助かったわ。用っていうのはそれだけ。」


ホントにそれだけいうとやや早足で三年生の階に戻って行った。


「なんで素直になれないかね。」

「ごめんな、青。引き留めて。」

「いや、全然きにしませんが、なんなんですかあれ。」

「昨日助けてくれてありがとうって言いたかったけど素直じゃないから涼音は。」


加奈先輩は少し苦笑してそれじゃと言って帰って行った。

ホントになんだったんだろうか。



時間は飛んで放課後、三年生の教室に二つの陰があった。


「涼音。もう少し素直になれない?」

「あれで、精一杯。これ以上は無理。あれだけ、今まで悪態ついてきたんだから。」

「まあ、あれを忘れろとは言えないけどさ、ありがとうくらいは言えるようになろうや。」

「...善処します。」


あれでも、精一杯素直になったつもりだったが傍から見ればまだ足りないらしい。

そもそも、他の女子生徒はどうやってコミュニケーションととっているのだろう。


同性とのコミュニケーションは加奈がいるからなんとかなっているが異性と話すことなんて委員会などの仕事関係か、教職員との会話程度。


同世代の男子生徒と雑談することなんてない。


「ねぇ、加奈。」

「ん?」

「男子とのコミュニケーションってどうやってとるの?」

「んー私の場合、バイト先でとることが多いかな。それにほら、私は龍平がいるし。」

「そっか。」


「おー。その様子だと、異性に興味が沸いたって感じですか~?今まで勉強か読書にしか興味を示さなかった篠崎さんが。」


聞く相手を誤ったと私は直感で感じた。

長い付き合いなのにどうして学習しないのだろうか。


「そんなんじゃない。この先、大学、専門学校、就職。どの道に行くにしてもコミュニケーションって大事でしょ。でも、私は異性とのコミュニケーションは絶望的なの。そう思ったらどうしたらいいかと思っただけ。」

「別に異性とのコミュニケーションなんて取らなくていいんじゃない?」

「え?」

「涼音はアレがあってから男が嫌いになってるよ。その状態で話しても相手が傷つくだけ。だから、無理にはなさなくてもいいと思うよ。」

「別に男嫌いってわけじゃ。」

「いいや、そうだね。何年一緒にいると思ってるの。」


そう言われるとそうなのかもしれない。


「それに、涼音にとって一番身近な男子ってだれ。」

「書記の長谷川...かな。」

「月一話すかどうかじゃん。」

「文芸部の金子...。」

「一回話したきりだよね、その反応。」

「仕方ないじゃない。忙しいんだから。」


「私に案がなくはない。けど、涼音は嫌がると思う。というか気まずいと思う。」


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