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第百二十九話 りょうこの恋文

「まずこの怪文書の正体だが、まあ見ての通り熱烈なラブレターだな。」

「?正体がわかったってことは消された文字も分かったってことですか?」

「断言は出来ないがな。」


「まず『この─が治る気配はない。』の部分。上の文章では『りょうこ』という人のことが好きで心臓がドクンとすると言っている。心臓がドキドキしてることに対して『治る気配はない』という表現は不自然じゃないか?」

「そうでしょうか。普通に使うと思いますが...」

「この文章がいつ書かれたものかどうか知らないがここの生徒会就任のシステムは知っているな。」

「当然です。生徒会長は投票でその他の役職は生徒会長が直々に任命するんです。」

「その通りだ。これを書いたのは生徒会書記だ。言葉の使い方があやふやな奴を書記なんかにするだろうか?まあ、中には果肉入りの果の字を間違える書記もいるがな。」

「それでも普通に使いますって。」

「例え使うとしてもそのあとの文、『もどかしい』には繋がらないと思うが?恋心とかの言葉が入るなら後の言葉は『治まる』とか『静かになる』とかその辺だ。」


なにかが治らなくてもどかしい。

入る言葉が恋心でもなんにしてもだ。

愛をささやく言葉が入るには言葉選びがおかしい。


「そう言われると...そうですね。」

「せんぱいならどんな言葉を入れますか?」

「この言葉だと...病気か病とかその手の言葉だろうな。」

「え?なんで?ラブレターなんじゃないんですか?それがなんで病気って言葉が出てくるんですか?」

「そんなの知るか。けど、病気とか病って言葉を入れるとすんなり解釈出来る。」


『この病気が治る気配はなくすごくもどかしい。』


「多分、なんとか太郎は入院生活を送っていたんだろうよ。病院生活ってのは暇だからな。」

「確かに飲み込めますが...裏のヒントはなんですか?」


「病気というのを答えとした場合、かぐや姫は結構良いヒントになる。かぐや姫は最後、男に不死の薬を渡すんだ。その不死の薬を飲めば病気なんて怖くない...といった所か。」


「早い...私が1日掛けて分からなかった所を数十分で解くなんて...」


これ考えるために1日潰すとか暇人かよ。

その暇を俺にも分けてくれ。


「次に『出来ることなら君と一緒に──たい』の文面。これはまあ、病気と絡めれば簡単だろ。」

「一緒に死にたい...」

「それが1番合う言葉だろうな。」

「では、この『神様の召し上がりもの』というヒントは...」


「『神様の召し上がりもの』てのはグリム童話の無理心中の話だ。さっき調べた。」

「この人たちは無理心中してしまったのでしょうか。」

「さあな。そこまでは分からん。まあ、本当に心中したなら当時の新聞なりテレビなりで取り上げられるだろ。」


そして、最後のヒント『ロミオとジュリエット』

これも心中の話ではあるが…


「『消えない愛』とでも言いたかったんだろ。」

「確かに...ロミオとジュリエットの主題は消えない愛ですからね...」


「俺の見解は以上だ。俺のやつはあくまで推論であり、物理的証拠はない。まあ、暇つぶし程度に聞いてくれたらいいさ。」

「花形ってそんなに頭いいんですか?」

「良くて中くらいだろ。」

「せんぱいはIQが高いんですね〜。」

「頭はそんなに良くないぞ。」

「頭は悪くても頭の回転が速ければIQって高いもんなんですよ。」


「この手紙ってどこから出てきたんだ?」

「生徒会室の引き出しですけど?」

「なら本人に返しに行こうか。とその前に...」

「本人?これ、結構古びてますけどそんな最近書かれたものなんですか?」

「いや、書かれたのは少なくとも10年以上前だと思う。」

「なんでそんなこと分かるんですか。」

「その名前の横のマークが10年以上前に恋文を書く時に名前の横に書くマークだったんだから。」

「そうなんですか。誰なんですか?この手紙の宛先であるりょうこって。」


「この学校でりょうこってつく人は1人しか俺は知らない。」


冬野と佐原を連れて職員室に向かう。

放課後のこの時間なら顧問でも無いなら大概職員室に居るはずだ。

職員室を開けて無言で突き進む。


「おーどうした。生徒会長なんか引き連れて。謀反か?」

「いや、忘れ物を届けに来ただけだ。」

「私にか?生徒会室には最近入ってない...!!!」


ほーら食いついた。


「花形?その手紙。どうしたんだ?」

「生徒会室で見つけてな。届けようと思ったんだ。」

「...中身は読んだか?」

「バッチリと。あと、所々消えてる部分があったからちゃんと書いておいた。」

「そうか。なら、この手紙のことは忘れろ。ほら、もうその手紙もない。」


俺の担任である清水涼子は俺から手紙をひったくるとそのままシュレッダーにかけた。


「なぜこの手紙の宛先が私だと?」

「正月に叔母が家に来た時言ってたんだ。それをたまたま思い出しただけだ。」


年明けにここの理事長が家に来たときに言っていたことだが、理事長と清水と保健医の鳴川は同級生でここのOGだそうだ。

今でも3人で飲みに行く程度には仲がいいらしい。


「今から想像もつかないが生徒会副会長だったんだってな。」

「え、意外です。」

「てっきり生徒会なんてクソ喰らえくらいにしか思ってないと...」

「私の評価も大概だが...そうだな。私は高校生時代は副会長をしていた。会長はカリスマ性に溢れたここの理事長だ。鳴川は保健委員で生徒会役員ではなかったが生徒会室によく顔を出していた。私が高校2年の時にあの手紙を貰ったんだ。彼のことは非常に残念に思う。私が返事をする前に逝ってしまったからな。結局返事が出来ないまま手紙は生徒会室の引き出しの奥底に仕舞われたんだ。それに、所々消えていて読めなかったし。」


「折角俺が数十分かけて解いたのにすぐシュレッダーにかけやがって...」

「たかが数十分で解いておいて何を言うか。」

「解けなかった奴に言われたくない。」

「まあ、その手紙ももうないからこの話は終わりだな。」


「え?まだあるけど?」

「は?」

「そんな最初から大元を渡すわけないじゃん。ちゃんとコピーしてある。」

「おま、ふざけんなよ!人の過去をなに大量生産してくれてんだ!今すぐ燃やすから寄越せ!」

「別にいいぞ。」

「.....元のやつはどこだ。」

「その中にあるだろ?」

「ないから言ってるんだ。」


「ああそう言えばここに来る前に優にあったなーそんときに渡したファイルに入ってるわー」

「お前...教師を強請るつもりか...!」

「そんな人聞きの悪い。有効活用と言え。」

「こんな性根腐ってる奴が生徒とかもうお前死ねよ。」


「暴言はいいが1回はその解いた奴を読んどけ。ヒントがありなが解けないとか情けない。」

「うぐっ!」「うぐっ!」


清水に言ったつもりが生徒会長にまでダメージがいった。

ま、恋文なんて成人してから貰えるわけじゃないんだ。

病気で床に伏しても書いたやつの意図も汲み取れ。


「分かってる。花形が解いたと言うなら読む。だから、原文を寄越せ。」

「シュレッダーにかけないと誓うなら。」

「誓うから。」


清水に原文を渡して職員室を後にした。

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