第百一話 豆腐メンタル
九重と冬野が喧嘩した日の放課後、いつものように九重の家まで行くとかなり拗らせた九重がいた。
「なにしてんの?」
「警戒の構え。」
それにしては防御する物が毛布という耐衝撃性や防弾のへったくりもないフカフカのものなんだが?
「どうせ君のことだから言い過ぎだって説教しに来たんだろう!?」
「これは僕のメンタルを守るシールドだ!」
「今すぐ出てこないならそのシールド貫通の攻撃が行くがいいか?」
「それは嫌だ!」
九重はスルリと毛布から抜け出すといつもゲームをしているゲーミングチェアに座ってまた毛布にくるまった。
まあ、そのシールドが必要な話はしないが精神安定剤になるならいいか。
「ま、と言っても説教しにきたわけじゃない。」
「じゃあ、なにしにきたんだい?」
「誤解を解くために来た。」
「僕は別に誤解なんて。」
「いや、お前は誤解してる。じゃなきゃ来るわけないだろ。」
九重の誤解は主に2つ。
・冬野達は決して九重を見捨てたわけじゃないってこと
・イジメってのは受けてる側以上に見てる側が辛いってこと
この2つだ。
「でも、真城は助けてくれなかった。」
「助けられなかった。の間違いなんだ。」
「一緒じゃないか。」
「言葉は似てるがな大分違う。」
「九重のやつは完全に拒絶したこという。」
「けど、本当は助けたくても助けられなかった。が正解だな。」
「考えてもみろ。九重を助けた冬野がイジメられたらお前は助けられるのか?」
「それは...多分無理。」
「だろ?しかも言い方は悪いが九重は女として見られてなかったどうだな?」
「うん。女だったらもっとひどい事をされてたとおもうし....あ」
「気づいたか。冬野がためらったのはそのためだ。もっと酷いことをされることを恐れた。」
「それを考えずにただ助けてくれなかったというのは少し都合がよすぎるんじゃないか?」
「やっぱり説教だ。」
「されたいなら、前の生徒会長仕込みの説教をしてやろうか?」
「だが、断る!」
目の前で加奈先輩を怒る鈴姉の迫力は凄い。
鬼が目の前で人を襲っててもなんら違和感ない迫力だったよ。
「少しは仲直りする気になったか?」
「別に喧嘩してたわけじゃ...」
「少なくとも、冬野は嫌われたと思ったらしいぞ。」
「そんな...僕はただ...」
「仲直りする気があるなら期限は冬休み明けだ。それまでに仲直りしろ。じゃなきゃ、お前を学校にむりやりでも連れて行く。」
「そんなの卑怯だぞ!君にはなんの責任もないじゃなか。」
「俺には元々退学という人生を左右する問題がある。そもそも、俺はおまえらが仲直りしようがしまいがどうでもいい。九重が学校に来さえすれば俺の仕事は終わりだ。」
「ブレないな君は。」
「冬野にも言われたわ。」
ま、実際は仲直りしてもらったほうが後腐れなくさよなら出来るからしてもらうに越したことはないが。
冬休みまであと1週間もない。
数日後にはクリスマスでそのあとは、年末年始と友達・家族との時間が増えて会いづらくなる。
するなら早めのほうがいいんだが...
「そんなすぐには無理。あんなこと言っちゃった後だもん。すぐは厳しい。」
「なら、いつならいける?」
「クリスマス明け、26・27のどっちかならいける。」
「そうか、まあ、特別準備することもないが頑張れ。」
「冬野はどうやって呼び出せばいい?」
「そこは俺に任せていい。やりたいならやらせるが?」
「いや、任せた。」
「任された。」
よし、これで準備はバッチリだ。
冬野は当日呼び出すとして...あとは九重はその日まで落ち着いていられるかどうか。
「...やっぱりダメか...」
「え?なにが?」
「動揺しすぎだろ。」
「いやだなー動揺なんてしてないよ。」
「なら、テレビの電源をつけたらどうだ?その画面じゃ動かないだろ。」
「そんなことは分かってるよ!」
こんの豆腐メンタルが。
「おい。服を着ろ。」
「そんな脱げだなんて...君はやっぱり獣だったんだ。」
「ホントに脱がされたくなかったら早くしろ。」
「ほんの冗談じゃないか。」
「で、着替え終わったけどどこにいくんだい?」
「黙ってついてこい。」
「なんか怒ってる?」
「別に...。」
「それをネットの世界では怒ってるっていうんだよ。」
別に豆腐メンタルにイラついたとかそんなんじゃねぇし。
なんなら俺も豆腐メンタルだし。
悩んでた時の俺って常にこんなんだったのか?
それならよく鈴姉に怒鳴られなかったと思う。
いや、一回怒られはしてるけどさ。
「あのーそろそろどこに行くか教えて欲しいんだけど。」
「服買いに行くぞ。」
「服?どこに?」
「3駅離れたところに大型のショッピングモールがある。そこまでの買い物だ。」
「それなら家でネットショッピングで注文すればいいだけでは?」
「うるせぇ。文句あるか?」
「...いや、ないです。」
無言のままショッピングモールまで来て九重に似合いそうな服を探していく。
あーこうなるんだったら優かつくしを連れてくるんだった。
完全に失敗した。
こうなったら奥の手だ。
「すいません。妹に似合う服ってありますかね。」
「おい。誰がいもうと...」
抗議する九重を睨みで黙らせた。
「少々お待ちください。」
「え、あ、ちょ!」
「お前が抵抗しなきゃ数分で済む。」
まだ、知らない人と話すのは同性でも難しいか。
となると、他人の力はあまり頼れないか。
「こちらなんかいかがでしょう。」
九重が着せられたのは少し大人っぽい服。
ベレー帽にべ―ジュのニット、薄紫のカーディガンと黒のロングスカート。
「ちょ、こんな大人っぽいの僕には似合わないよ。」
「体が幼児体系なんだから少しは大人ぶっとけ。」
「なんだと!見たことないくせに!」
「家であんな恰好してるんだ説得力がないぞ。」
「くっ...なにも言い返せない。」
「仲がよろしいんですね。」
「よく言われます。」
九重が着た一式を九重が元々着てた服を取りに行ってる間に会計を済ませた。
店員さんも分かってたらしく、値札をすべて取ってきてくれた。
会計の時、女性に知らせないのがマナーと龍平がどや顔で言っていた気がする。
直ぐに殴ったからよく顔は覚えてない。
「ただいま。いくらだった?」
「さあ。わすれた。」
「レシート見せて。」
「貰ってない。」
「じゃあ聞いてくる。」
「さっきの人、休憩入ったから今いるのは男の店員だぞ。」
そういうと九重はピタリと止まった。
分かりやすい奴。と同時に操りやすい。
優より操りやすい女子は初めてだ。
「僕に借りを作らせてなんのつもりだ!」
「さあ、色んなことしてもらおうかな。」
「エッチなことはなしだぞ!それに僕としたってつまらないだろ。」
「さっきも言ったがお前の幼児体系じゃたつものもたたないから安心しろ。」
「そうか...誰が幼児体系だ!僕の安心を返せ!」
うがー!と威嚇するように両手を上げる九重にはもはやかつての引きこもりだったころの面影は感じられない。
今はもう元気な女の子だ。
「うがー....!なにして。」
「お前がうるさいから黙らせたんだ。」
「これはこれで恥ずかしくないかい!?」
「いいかよく聞け。」
俺は九重の頭を自分の胸に埋めたまま言いたいことを言った。
「俺は別に退学になってもいい。だが、お前は学校をもっと楽しむべきだ。今は冬野が生徒会長だし俺の幼馴染たちもいる。お前を守ることは出来る。俺は...」




