言いようのない恐怖
「おはよう。」
洋平は眠い目を擦りながらリビングへの扉を開けた。
返事がない。妙だ、毎日少なくともおれよりは早く起きて新聞を読んでいるはずなのに。
「じーちゃんが、いない。」
どの部屋にも祖父はいなかった。
「雨か、こんな天気の中散歩になんか行くかな」
目玉焼きでも作るか、そう思い立ちテーブルに目をやると一枚だけあるメモ用紙が目に入った。
ハッとなってすぐにそのメモをめくる。
洋平はしだいに呼吸を乱し、額に汗を浮かべる。
「そんな、どういうことだよじーちゃん」
洋平は上にパーカーを1枚だけ羽織り、家を飛び出した。
走る洋平のもとに、ちょうど登校途中のクラスメートの梶原が通りかかる。
梶原は陽気なキャラで友達のいない洋平の貴重な友達の1人だった。
「おーおー洋平くん、どうしたお前そのクールな面がびしょ濡れだぜ?あれ?てか制服は?学校行かねーの?」
目の前を通り過ぎて遠くなっていく洋平に対して最後は叫び気味になる。
「学校に行ってる場合じゃなくなったんだよ」
降りしきる雨の中疾走する洋平はどんどん進んでいく。
「なんか、おもしろそうじゃん!」
傘を捨てて走り出す梶原は好奇心に駆られていた。
洋平は振り返らずに尋ねる 。
「なんでお前もついてくる」
「いつものクールな榎田くんらしくないなーなんて思いまして!」
相変わらずふざけた口調の梶原に対してついカッとなってしまう。
「そんな場合じゃねえんだよ!」
いつもとはちがい、何か差し迫ったような声に少し戸惑うも、梶原はしっかりとした表情で答える。
「ま、お前が困ってるなんて珍しいからな。貸しを作っとくのも悪くないぜ!」
しばらくの沈黙しつつ走った後、洋平から口を割る。
「じーちゃんが、」