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残酷な盤上の世界

神様は平等とはよく言ったもんだ。

神は人を選んだ。一部の人間にしかその能力を与えず、その人間たちは凡才たちを簡単に切り捨てた。そんな凡才たちもまた一部の人間によって守られ、7年の平穏を得ている。


おれたち凡才は生かされている。自分だけじゃ、何も、何も守れない。


「おはようございます。今日からこの学校に転入しました、酒々井です。みなさんよろしくお願いします」

そう言ってニコッと笑い、頭を下げる。


転校生か、珍しいな。榎田は窓の外に見える異常なまでに高く分厚い壁に目をやっていた。


この都市は人口約100万人、7年前の事件以降壁の外とこの都市は一切交わらないものとして市民は認識している。故に、7年間外がどうなっているのか、誰も知らない。

それもそのはずである。当時おれは10才で、ショックにより記憶は曖昧だが確かにあの時に家族を失った。殺されたんだ、覚醒者に。


あの日からおれは抜け殻のように生かされている。もし今この都市を守るために管理している覚醒者の気が変われば殺されるんだろうか。意図も簡単に?


もう全てがどうでもいい。


「よろしくお願いします、酒々井です。」

ずっと窓の外を見ていて気づかなかったが、いつの間にか隣に座っていた。


第一印象は、はっきり言って弱しそうなやつ。だった。女なのかと疑うような中性的な顔立ちに、華奢な体。の割にニコニコしていて見ていて少し腹が立った。


「ああ、よろしく。」

初対面なりの挨拶を返して洋平は前に向き直る。


「お名前を聞いてもいいですか?」

洋平は前を向いたまま淡白に答える。

「榎田洋平」


「じゃあ洋平くんですね」

いきなり馴れ馴れしいやつと思いながらも口には出さなかった。それを最後の一言に会話は終わった。



「ただいま」

洋平はマンションのドアを閉め靴を脱ぐ。


「おお、洋平。暇で暇でかなわないんじゃ、はよ打ってくれ」

祖父の榎田孝三は将棋の本から目を離し、こちらへと視線を送る。


「いいけど、ご飯先に作っちゃうよ」


「おお、そうじゃった。いつもすまんな、洋平」

洋平は一瞬驚きの表情見せたが、すぐに微笑みを取り戻す。

「なんだよ。いつもそんな事言わないのに、どうしたのさ」


孝三はいつになく真剣な表情になる。

「洋平。今はワシの100勝無敗じゃ。」


パチ

「洋平は、この世界についてどう思う」


「さあ、将棋みたいなもんじゃね?」


孝三は、はっはと笑いながら駒を進めて来る。


「結局、戦いになれば能力の低い歩兵は王を守るために使い捨てられ、能力の高い駒が相手の弱い駒からどんどん削っていく。だから能力の低い駒は高い駒の身代わりになって死ぬしかない。そうだろ?」


「それは違うぞ洋平。

ほれ、王手飛車取りじゃ。」


「おれたちは、弱いじゃないか。」


「わしらには意志があるじゃろ、駒とは違う。自分で考える力がある、それが一番の違いじゃよ。

それに、ほれ、歩兵だってちゃーんと強くなるチャンスが与えてあるじゃろが。」


「だから、考えるのをやめたら負けじゃぞ。洋平。」

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