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初めての人たちと九班ー1

約一ヶ月ぶりです。



『こんにちは、ヤグ。お仕事お疲れ様です。

シャラ・デ・アロンの件は了承しました。彼女をあなたの部下として登録しておきます。証明書はまた後日。それに伴って、あなたには班長へ昇進してもらいます。班長の義務については最初に渡した冊子を読んでくださいね? 今後は班長会議にも出席してもらうつもりですので、宜しくお願いします。

それから、彼女の教育係として九番域の調査班から二名派遣しておきました。暫くはそちらで世話をしてやってください。

ではまた。次の班長会議でお会いできる日を楽しみにしています。


追伸

ささやかなが班長昇進のお祝いを添えておきました。是非、使ってみてください』



この数日間、シャラとピアを引き回して各所に挨拶に行っていた。この時点では正式に調査班になったわけではないが、彼女が断るはずもない。挨拶に回ったのは傭兵ギルドと呼ばれている『ガウゴクス』、商会ギルド、役場、行きつけの武具店。ついでに、一番世話になるであろうサリの街の案内もね。


案内に費やした二日間は宿に泊まってもらい、その後に家を買ってあげた。なにせ俺がサリの街で拠点として使っているのは小さな家だ。それこそ、二人住めば窮屈に感じるくらいのね。だから二人には最初に新しく家を買ってあげ、一月は暮らせる金と食料を渡してその日はさよなら。家の金は俺への借金って事になった。利息はつけないから、いずれ返してもらう予定だ。次の日は休みにして、今日から仕事の説明に入ろうと朝起きた時にテーブルの上を見たらこんな手紙があった。


「……無性に魔獣を斬りつけたい気分だね」


何で朝っぱらからこんな気分が悪くなる文字を読まなくちゃならないのか。無駄に綺麗な字が余計に苛つかせてくれるね。いや、それ以上に問題なのが二行目の一文だ。


ーーシャラ・デ・アロンの件は了承しました。


シャラはマグリニアル王国で八凰騎士団の副団長をしていた。メイドの方はさておいて、少し知名度が高すぎるからシャロンという偽名を使って登録申請書を提出したはずなのに……。


思いっきりバレてる。あの人も召喚術師だから、あの時近くで監視しているのがいたのかもしれないね。迂闊、としか言いようがない。あの人が俺を手放しにするはずがないと、考えておくべきだった。


それで、次に厄介なのが九番域の調査班、通称九班が来ることか。誰が来るのかは知らないけど、先生達にも協力してもらってこれ以上情報が漏れないようにしないとね。了承した、とあるくらいだからレレリアはシャラの件を漏らさないだろうし、こっちが下手を打つのは注意しておかないと。


「……はぁ」


全く、班長になるのは仕方がないとして、どうしてただ仕事をこなそうとする俺の前に無駄な仕事が増えるのか。将来性を見込んでシャラを引き抜いた俺にも責任はあるかもしれないけど、この手紙のせいで一気に奈落に叩き落とされたような感じだ。


……そして最後に、


「……これ、先生の魔法で中身が見えないかな」


手元の小箱をジッと見つめる。真四角の、青いリボンで十字に閉じられた白い箱。重さはほとんどない。試しに一度振ってみると、中からカラカラ音がした。


さて。どうしようかコレ。


選択肢としては捨てる、開ける、誰かに開けさせる、かな。捨てるのは報復が怖いから無しだね。かといって、無闇に開けるのも怖い。


ミヤか、先生あたりに開けてもらうのが無難かな。とりあえずは、ミヤを呼ぼうか。


「ミヤ。来てくれる?」


「はい、主人」


俺の呼びかけに、ミヤは一瞬で横に現れる。今日も暗闇に溶け込むような真っ黒い毛が綺麗だね。片一方が半分しかない尻尾も微妙に揺れてるし、何か良いことでもあったのかな。主人の俺は朝から機嫌が悪いというのに。


まぁそれはどうでもいいか。ミヤ、関係ないし。それより、さっさと頼みごとを押し付けちゃおう。


「おはようミヤ。来てもらってすぐで悪いんだけどさ、この箱、開けてくれる?」


「おはようございます主人。分かりました」


即答。そうだった、ミヤは基本的に俺と先生からの頼み事は断らないんだよね。


ま、流石にレレリアも危ないものは入れないだろうから大丈夫かな。ミヤに任せておいて言える台詞じゃないけど。


「では主人。箱を」


「はい。魔力は感じないから危険はないはずだよ」


床に箱を置いて、少し離れる。ミヤの病狼という種族の持つ性質上、物理的、魔術的な干渉は非常に受けにくい。触れるもの全てを腐らせる事も、病狼にはお手の物だからだ。今では先生からの教えで自在に操れるようになっているから、問題ないんだけどね。


そんな訳で、この箱から何かが飛んできてもミヤならある程度は無効化できる。もし仕掛けがあるとしても、流石にレレリアも本気で魔術を組んではこないだろうし。内心そんな事を考えつつ、ジッと、ミヤの姿を見つめていると、彼女は毛だらけの前足から伸びる爪を箱にかける。


それから器用に青いリボンだけを切ったミヤは、これまた器用に前足の爪で箱の両端を切り落とした。そして開いた真横から足を入れて中身を押し出すと、ようやくそれが見えた。


「……指輪、かな?」


細い紐で括られた銀色の指輪だった。数は四つ。どれも大きさは同じに見えるけど……、


「主人。おかしな匂いはしない。ただの指輪」


「みたいだね。でも、何で四つも?」


指輪を拾い上げてよく見てみるも、気になる点はない。材質的には銀、かな。銀は魔術の触媒によく使われはするけど、これを四つも俺に渡す意味がイマイチ分からない。


まさか本当にお祝いって訳でもないだろうし。換金しても大した額にはならないんだよね。なら、どうこれを役立てろと?


「龍人族って銀の指輪に関する風習ってあったっけ?」


「私の記憶にはないです」


「だよね。銀って触媒以外の使い方だと、吸血鬼族とか狼人族が婚礼の時に使うって話しか聞いた事ないし」


「龍人族が貴ぶのは宝石類です。その中に、銀は含まれない」


「光り物大好きだからね、龍人族は。……まぁそれはいいとして、尚更これの意味が分からなくなったね」


手元の指輪を見ながら唸る。これをどう使えばいいのか、或いは持っているだけでいいのか。手がかりが全くないから、推測も立てられないね。


まぁ、とりあえずは保留かな。チリアの影の中にでもしまっててもらおう。


「んじゃ、そろそろシャロン達の所に行こうか。ミヤはどうする? ついてくる?」


「邪魔じゃないなら」


「先生ならともかく、ミヤは静かだから邪魔じゃないよ」


「なら」


僅かに尻尾を振ってついてくるミヤ。俺はミヤの頭を一撫でして、着替え始めた。



サリの街は大きい。流石に帝都よりは見劣りするけど、それでもイレニア帝国で三本の指に入るくらいには広い。これは『真理の森』が近くにあるからだろう。刺激さえしなければ、基本的に『真理の森』から魔獣が攻め込んでくる事はないとはいえ、それでも魔獣が気紛れか何かで街を目指してくる事は少なくない。その為の防備を固めた結果、街は発展していった、らしい。


ーー『不落の街』


帝都にも並ぶ武力を持つサリの街はいつしかそう呼ばれるようになったとか。大体三十年前にあったらしい戦争でも、当時は小国の一つだったサリの街そのものにはほとんど被害もなかったとか。まぁ、優秀な人員は何百人と亡くしているから、イレニア帝国に吸収されたんだけど。


とはいえ、サリの街が強固である事に変わりはない。だから、サリの街の住民には徹底して教えられている事がある。


『真理の森』で騒ぎを起こしてはならない。


だから立ち入りが禁止されているし、それを破った者には厳しい罰則が待っている。街を危険にさらす行為と、なんら変わりがないからね。先日いた無知なバカでもない限り、立ち入ろうなんてアホはいない。まして調査班の者であれば、担当していなくとも理解していて当然。


……そう、思ってたんだけどなぁ。



「……どうして君たちが捕まっているのかな?」


サリの街の中心部に聳え立つ時計台の真下にある地下牢獄。シャロンの家に行く途中に衛兵に同行を求められてついて来れば、そこには知れた顔が二つあった。


「救世主! 救世主が来てくれた! ヤグちゃん早くここから私を出してちょ!」


頭から三角の耳を生やす猫人族のビスコッティ。小柄な体格に似合う童顔に緑の大きな瞳を持つ奴だ。俺を見つけるや否や、一つの三つ編みにした茶色の髪を揺らして鉄格子を掴み、ガンガンと喧しい音を立てた。


「ヤグ? ヤグだよね? おー、助かった。俺だよ、俺。シリウス・ラジアル。さっさとここから出してくれ」


そしてシリウスと名乗った隣の牢にいる男。こいつはビスコッティとは対照的に長身で真っ赤な鋭い双眸を持つ。病的にまで白い肌だからか、かなり際立つ長い黒髪をそのまま伸ばしていて、頭からは鬼族の印である小さな角を生やしている。


何とも凹凸なコンビだ。二人とも赤字に白い線の入った囚人服を着ているから、余計に凹凸さが際立つ。どっちも二十代だから年の差はそこまでないけど。シリウスは三十路に片足突っ込んでた気もするけど、どうでもいいか。


……まぁ、逃避はここまでにしておこう。この二人が九番域調査班の班員。そしてシリウスに至ってはそこの副班長でもある。


その調査班の二人がどうして牢屋にぶち込まれているのか。答え、『真理の森』に無断で立ち入ったから。そこを見回りの部隊に捕まったから。基本的に、調査区域が立ち入り禁止となっている場合、それは調査担当班以外の調査班にも適用される。つまり、俺の担当区域である『真理の森』に九班の奴らは許可なく立ち入れないって事になるね。


それをこの二人は無視した。このまま行けば牢屋に数十年はぶち込まれてても文句は言えない。レレリア、完全に人選間違ってるよ、コレ。


「主人。このアホ共は?」


「できる事なら放っておきたいんだけどね。レレリアから送られたってなると、無視もできないよ」


「残念」


「全くだね」


「あれれー、そこの二人はおかしな会話をしてるよ尻軽シリウス君」


「おかしいなビスコッティちゃん。俺たちはレレリア様から直接の指示を受けてここに来たっていうのにこの扱いはおかしいなビスコッティちゃん。あと、俺は尻軽じゃないよビスコッティちゃん。愛が平等なんだよ」


「あははー、気安くちゃん付けで呼ぶな尻軽シリウス君」


「ちょっと口を閉じててね君たち」


言いながら、自然とため息が口から漏れた。ふと隣を見れば、案内してくれた犬人族の衛兵さんが苦笑いを浮かべてドン引いていた。


「あの、それでこの二人は……」


「あぁ、ごめんね衛兵さん。この二人の身柄は俺が責任を持って預かるよ。荷物の中身はもう探ったんでしょ? なら、この二人が調査班の人間だって事は分かってもらえただろうし」


「は、はい。確かに証明書は確認しております。しかし、規則では『真理の森』へは担当者以外の方が立ち入るのは禁止されておりますが……」


「そうだね。いかなる理由があれ、罰則は受けなくちゃならない」


壁越しに会話を続ける牢の中の二人を見つめながら、ヤグはそういえば、と衛兵に言葉を続けた。


「この件を知っている衛兵は何人くらいいるの? 具体的に、数で教えてもらいたいんだけど」


「へ? えぇと、そうですね。見回り担当が十人、門番が二人……あぁ、でも引き継ぎであと五人には……それと看守の人達と……た、多分三十人くらいだと思います」


「三十人、か。それじゃ衛兵さん、もしもの事を考えて四十人、その一人ひとりに十万リンを支給するよ」


「へ?」


「あ、勘違いしないでね? これは君たちへ謝礼だから。この馬鹿共を捕まえてくれた事と、本来なら俺がしなくちゃならない仕事をしてくれたお礼。だから、遠慮なく受け取ってよ」


「は、はぁ。では、ありがたく……」


「あぁ、でも」


俺は指を二本立てて、衛兵の顔の前で見せつけた。もちろん笑顔は忘れない。


「もしこの二人の事を忘れてくれるなら、一人あたり二十万リンに金額を上げちゃうかもなぁ。忘れてくれるなら、だけどさ」


「え、あ、そ、それは……」


「ねぇ」


その二本の指で衛兵の着ているシャツの衿先を掴んで引き寄せる。衛兵の耳元に顔を寄せて、周りに聞こえないようにそっと呟く。


「……仲間の人達には調査班のヤグが身元を引き受けたって言えばいいよ。レレリア様の名前を出せば、誰も深くは聞いてこない。俺がレレリア様直属の部下だって、君も知ってるよね?」


「……は、はい」


「なら、話は簡単。君は今俺が言った事をボカして伝えればいい。そうするだけで、君の仲間にはお金が入る。何なら、君にはその倍……いや五倍のお金を支給しようか。百万リン。そう簡単には稼げない額だ。……どうする?」


「……百万リン」


「不満?」


「い、いえ! そういう訳では……」


「なら、話は終わり」


俺は顔を離して、にっこり笑う。よく見れば衛兵の顔色が悪い。根が良い人なんだろうね。けど、この国で普通に生きていくならまだしも、こういう仕事に就いていたらかなり損な人生を歩んで行くことになるだろうね。


「それじゃ、この二人を解放してくれる? 心配しなくても、お金は後日払うよ。真っ黒い鼠がね」


若い子でよかった。懐柔しやすいし、お金に弱いし。まぁ、暫くはチリアの部下に監視してもらうけど。



結局一千万リン近くの浪費だ。後でレレリアに請求しよう。


「いやー、何度も言うけど助かったよヤグ! こいつと同じ空間にいるのって結構キツかったからさー!」


「それは何気に酷くないかビスコッティちゃん。俺はこんなにも心を開いているっていうのに」


「あははー、くたばれ色情鬼」


「笑顔で毒を吐かないでくれよ。あと、牢屋の中では壁越しだったじゃないか」


「壁一枚じゃお前の色臭さは阻めないんだよー色情鬼君」


「はいはい、そこまでだよ君たち」


ここはサリの街から少し離れた街道沿い。シャロン達にはここで待ち合わせるよう書いた手紙をチリアに届けてもらい、俺たちは一足先に来ていた。


道中、こいつらのくだらない喧嘩を聞き流しながらやっとたどり着いたわけだけど、隣にミヤがいなかったらこいつらぶん殴って担いで来てたね。ホント、それくらい鬱陶しかった。


「主人。命令があれば、この二人を地獄に叩き落しますが」


「その心遣いは有り難いよ、ミヤ。けど、まだ大丈夫。その時が来たらお願いね」


「はい」


「ちょちょ、ヤグ待って! こいつと一緒にしないでよー!」


「というより、その時って何ヤグ。いつかやるって事か?」


「その詰まってない頭でよく考えついたね、シリウス。ご褒美にその時までの日を三日縮めてあげるよ」


「嬉しくないから!」


ピャーピャーと騒ぐシリウスと、私は、私はセーフだよね、と詰め寄ってくるビスコッティ。馬車一つ通らない静かな空間だから、二人の声がやたらと響いてうるさい。九班の班長とは何度か会ってるけど、よくこんなのを二人も囲ってられるよね。


ホントに尊敬するよ。俺なら、一日と保たずにこいつら解雇してる。


あと、こいつらの服装も牢屋にいた時から変わった。ビスコッティはシャツに短パンという囚人服より簡素なものだけど、シリウスの服は黒いコートに黒いシャツ、黒いズボンに黒い手袋、黒いブーツ、極め付けが黒い三角帽子だ。不審者丸出しの格好としか言いようがないね。腰から長剣を差しているから、更に危険度が増しているし。


なんて考えていたら、チリアから連絡があった。


「……っと、そろそろ来るみたいだね」


「お、ヤグお得意の召喚術ってやつ? 相変わらず凄い魔術だよな」


「こんなのは召喚術のおまけだよ。それより、シャロンは大人しい子だから、あまり騒がないでね?」


「りょ! だよヤグ。あ、でもあと一人いるんじゃなかったっけ?」


「いるけど……まぁ、気にしなくて良いよ。一応調査班になれるように申請はしたけど、シャロンの付添い人みたいな感じだし」


ピアは、まぁシャロンの元付き人からそのまま移行したって感じだしね。あれだけ抵抗してたけど、結局シャロンの意向には従う事にしたのか、俺のやる事に口を出さなくなったし。


ピクピクと耳を動かしながら、そうなの? と訊いてくるビスコッティに頷いて、俺は街道の先を見つめる。


「あぁそうだ。シリウス。シャロンとピアに手を出そうなんて考えないでよ? 君は女を見るとすぐに腰を振りたがる発情鬼なんだからさ」


「いや、待ってくれよヤグ。さっきから人を色情鬼だ発情鬼だと酷くないか? 何度も言うが、俺は愛が平等なんだって」


「分かったわかった愛が平等君」


「それを名前みたいに言わないでくれ!」


「おー、シリウス・ラジアル改めて愛が平等君。いいね! いい名前だと思うよ平等君!」


「ビスコッティまで……」


がくりと膝から崩れ落ちる全身真っ黒の不審者。暫くこうしていてくれないかな。静かでいい。割と本気でそう思っていたら、背後から道端を汚す吐瀉物を見た時に出すような声が聞こえた。


「……な、何ですかコレ」


「……見てはいけませんシャロン様。目が腐り落ちますよ」


お、ようやく来たねシャロンにピア。さっそく目の前のゴミにドン引いているようだけど。


「こんにちは。シャロンにピア。チリアも、案内ご苦労様」


『朝飯前でさ』


チリアは仕事は終えたとばかりにとっとと影の中に隠れてしまう。そういえば今日は仲間内で結婚式があるとか言ってたっけ。邪魔しちゃったね。


「あの、こんにちはヤグさん。この間はありがとうございました。何から何まで世話を見てもらって、本当に感謝しています」


「その分働いて返してもらえばいいよ。一年間だけだけど、俺としてはこき使うつもりでいるからね」


「もちろんです。言われた事は何だってやります」


「……それ、あまり男の前で言わない方がいいよ」


「……雌」


ミヤ、何ボソッと暴言を吐いてるの。ほら、ピアには聞こえたのかトンデモない目で睨みつけてるよ。


「こんにちはヤグ様。それとそこの雌犬も」


「あー、はいはい。あまり挑発しないでねピアさん。ミヤも睨みつけない」


「…………」


ピアの態度が多少軟化したとはいえ、何故かミヤとの相性が悪い。一年契約だからそこまで仲良くしてもらうつもりはないけど、会話くらいはちゃんとしてもらいたいね。


「おーい、ヤグ! こっちを無視して話をしないでよ!」


「あぁ、ごめんねビスコッティ。この二人が教育対象だよ。金髪の方がシャロン、黒髪の方がピア」


シャロンの格好はなるべく目立たないようにと言ってある。簡素な白いシャツとその上に薄い色のジャケット、下は紺色のズボンと、イレニア帝国内では標準的な服装だ。防具関係はシャロンの意向で付けないことにした。速さで戦いを作るシャロンは騎士団にいた頃も任務中は防具はあまり付けなかったらしいし。


ピアの服装もシャロンとあまり変わりはない。あと、シャロンの剣は目立つ要因の一つになるから家に置いていてもらっている。代わりの剣が出来るまでは店売りの長剣を使ってもらうことにした。


マグリニアルの人達がイレニアに来る事は少ないし、イレニア内でも八凰騎士団の顔を知っている人は少ないから変装はしていない。仮にバレても、揉み消せば済む話だし。


「おー、シャロンちゃんにピアちゃんね。よろよろだよ二人とも! 私はビスコッティ! そこのゴミと一緒に、九班に所属してるよ!」


「あ、はいよろしくお願いします。私はシャロンです」


「ピアです。よろしくお願いしますビスコッティ様」


「もー、二人とも固すぎだよー! シャロンちゃんもピアちゃんも可愛いんだから、もっと楽しそうにしようよ!」


「はぁ……」


さっそく馴れ馴れしく二人の肩を叩くビスコッティ。まぁ、この子は元からこういう子だからね。騒々しさに目を瞑れば九班で一番社交的だし。


「あの、ヤグさん? 教育ってどういうことでしょう?」


「ん? あぁ、そういえば言ってなかったね。とはいえ、俺も今朝知った事なんだけどね。まぁ、二人には調査班になるのに必要な知識や規則を知ってもらうために、調査班の奴らから教育を受けてもらうの。その役目は俺でも良かったんだけどね。上司が教官役を派遣してくれたんだよ」


「となるとこの方達がその教官役、という事でしょうか?」


「そ。そこのゴミは別として、ビスコッティは優秀だからね。教官役としてはうってつけだと思うよ」


「おー、嬉しい事言ってくれるねヤグ! そうそう! 私はこれでも序列九千三百位の実力者だからね! 調査班歴も二年になるし、教えられる事はたくさんあるんだよ!」


今現在、序列の最低位は確か百万くらいだったはず。その中で四桁の中に入る序列を持つビスコッティは、こんな性格をしていても強い。ちなみに俺は一万五百位。んで、そこのゴミは三万五千位。


「一応説明しておくと、調査班の仕事をしていて二年も生き残っているのは、かなり珍しいんだよ。ほとんどが一年保たないからね」


「はぁ、成る程。ではヤグさんは調査班に勤め始めてからどのくらいになるんですか?」


「大体三年、かな。ついでに、そこのゴミは九年。あれでも九班の副班長なんだよ」


「……世も末、ですね」


いや、その意見には同意するけどさ。初対面の相手にそれはどうなのよ、ピア。


「んじゃ、お話はここまで。ビスコッティ、あとはよろしく頼むよ」


「あいあいさー! ビスコッティちゃんにお任せ!」


「え、ヤグさんは一緒じゃないんですか?」


「折角二人も来てくれたからね。俺は本来の仕事に戻るよ」


ここは『真理の森』に続く街道とは逆の道だ。街道から外れて進めばそれなりに魔獣が出る所もあるし、第一、九班の二人を『真理の森』に入れる事はできない。


『真理の森』に入るにはサリの街の領主とギルド長、副ギルド長、そして俺の許可がいる。王族のレレリアが言えばそれを無視できるけど、手紙にそんな事は記載されてなかった。つまり、勝手な事をして無駄な罰則は受けたくないって事。


「じゃ、頑張って。ミヤ、行こうか」


「はい主人」


ビスコッティもシリウスも騒々しいが無能じゃない。俺は安心して来た道を戻った。

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