禁術に追われる副団長さんー〆
五
「だから私は言っただろう。勝手に突っ走るなと。あの戦い方、一歩間違えば死んでたのはお前なんだぞ? 分かっているのか?」
「だから、分かってるって言ったじゃん。しつこいよ先生」
「いや、お前は分かっとらん。分かってないからあんな行動に出たのだ」
「でも、あんな行動のおかげで万事上手くいったでしょ? おまけに条件付きで執行人の一人と繋がりが持てたし。差し引きで見たら、それなりに得はしてるよ?」
「はぁ……。全く。お前は……」
ソファの背もたれに足をかける先生は、呆れたように頭を落とした。
俺たちがいるここは、ギルドの応接間。内装はギルド長の部屋と大して変りはない。その部屋に、今は三人と二匹、加えて一羽がいた。
一羽は、今ため息を吐いた先生。本名はデーアル。人の上半身程度の大きさで、茶色の羽を持った梟だ。種族的には大梟という、鳥種の中でも魔法や魔術に特化した化け物じみた力を持つ鳥、らしい。琥珀色の大きな瞳と、頭に乗った小さな王冠が目印だね。
そして一匹は、俺の膝にいるチリア。二本の長い尻尾が退屈そうに俺の腕に絡んできてるよ。空気を読んでか、念話もしてこない。可愛いね。
「とりあえず、現状の確認をしておこうか。先生のお説教は、後で聞くから」
「全く。覚悟しておけ。私の説教は朝まで続くぞ」
……いや、それは勘弁だけど。まぁ、いいか。
まずは、テーブルを挟んで目の前のソファに座るお二人に話をしておかないとね。
「んじゃ、改めて自己紹介といこうか、副団長さん。いや、元副団長さん」
「……はい」
「ーー!? ーーっ!」
あ、ちなみにメイドさんは拘束魔法で縛ってるよ。うるさいのは敵わないからね。何より、あの敵意剥き出しの目を見る限り、まともに話し合いができるとは思えないし。
いずれ落ち着くでしょ。今は無視だね。
「まず、俺はヤグ。会った時にも言ったけど、このイレニア帝国で調査班に勤めている。んで、俺の隣に座ってる? のが先生。気軽に先生さんって呼んであげて」
「挨拶が遅れたな、騎士殿。私はデーアル。この馬鹿弟子の言うことは気にしないでくれ」
「……えぇと、ボクも挨拶が遅れまして。ボクの名前はシャラ・デ・アロン。マグリニアル王国の八凰騎士団のニノ団所属、副団長をしておりました」
「立派な肩書きだ。どこぞの馬鹿弟子にも見習ってもらいたいものだ」
「うるさいよ先生」
ジト目で先生を見やりつつ、シャラにも目を向けてみる。
シャラの体は、とても騎士をしていたとは思えないくらい細い。そして白い。ついでに小さい。背だけで見るなら、学園に通っている生徒にも思える。これでどうやって剣を振るうんだろ。魔法重視の戦い方をするのかな? ……まぁいいや。やや煤けた金の長い髪に、琥珀色の瞳を宿した鋭い双眸。顔つきは、どっちかと言うと美人系かな?
美人は国の宝だ、という人がいるけど、それが正解ならマグリニアル王国はそれなりの宝を失ったことになるんだね。
「今は、ただのシャラです。禁術を彫られたので、もう騎士団からも家からも見放されていますから」
「そう諦観なさるなシャラ殿。禁術についての知識なら、私も多少は持ち合わせている。何かの力になれるであろう」
「執行人の男もそれを期待してたよ。精々、力になってあげてよ」
「無論だ」
大きく頷く先生。頷くというより、頭を大きく上下に動かしただけだけど、シャラには通じただろう。
「ありがとうございます。ボクも魔法の知識は人よりあるつもりですが、禁術についてだとさっぱりでして……」
「誰だってそんなものだよ。むしろ知ってたら、脳を引っ張りだして知識を覗き見たいくらいだし」
「例えが物騒だぞお前は」
「ただの冗談だよ、先生」
「お前の冗談はそれに聞こえない」
「先生の耳は腐ってるんだよ」
『ボスと大ボスは仲がいいでさ』
「……どんな目をしてるのさ、チリア」
「……後輩は正しいです。主人」
「ミヤもか……」
俺の座るソファの後ろに寝転んでいたミヤが、そっと呟く。視線を向けると、やる気なさげな真っ赤な瞳で上目遣いに俺を見ていた。
ミヤは、病狼と言われる狼種の魔獣だ。体躯は俺と同程度。どす黒い毛皮を持ち、大きな二本の尻尾が特徴の特殊な魔獣。ミヤの場合は、諸事情で片方の尾が半分に切れているけど。
病狼は遥か昔に絶滅に追いやられた魔獣でもある。その理由は、病狼の最大にして最高の武器でもある、体質にある。
触れただけで致死性の病気にかかり、爪が擦るだけで一日と保たず死ぬ毒を与える殺しに特化した能力。それが病狼の特性だ。当然だけど、人からしたらその存在は害悪でしかない。病狼の気性は穏やかで、狩りの時以外は自分から襲いかかったりしないんだけど、そんなのは関係あるわけもなく。
先生の話によると、今から五百年前に病狼は人の手によって絶滅の一歩手前まで追いやられ、残りは人の手の届かない奥地へ消えたとか。ミヤは、そんな病狼の生き残りだね。
まぁこの子の場合、たまたま先生に見つけられて俺が育てたんだけどね。例の体質も、自分で抑える術を先生が教えてたから、一緒にいて危険はないし。
「……ミヤとチリアこそ仲がいいね。あぁ、ついでだから紹介しておくよ、シャラさん。この子はミヤ。俺が契約している召喚獣の中では一番の後輩で、種族は病狼。病狼の事は知ってる?」
「本の知識程度なら、ですね。その本もかなり昔のものでしたし、病狼は絶滅したと聞いておりましたから大分朧げですが」
「そ。まぁ、俺に敵対しなければ危険はないよ。この子は、俺より利口だからね」
「そんな事はありません、主人。主人は私の飼い主ですから」
「あはは……とりあえず、よろしくお願いします、ミヤさん」
「……よろしく」
不満そうなメイドを除けば、これで自己紹介は済んだね。ミヤは人見知りだし、シャラも社交的とは言えなさそうだし。まぁ、次第に仲は良くなるでしょ。
ひとまず、と俺は手を叩き、注目を集める。向かい合って座るシャラも、俺の隣で背もたれに足を掛ける先生も俺に目を向けた。
「んじゃ、そろそろ本題に移ろうか。シャラさん、あなたの今後についてね」
ジッと、シャラの目を見て言うと、彼女は静かに頷いた。流石に状況が分かっているだろうから、何も言わない。いや、何も言えないの間違いか。
ま、もったいぶっててもしょうがないからさっさと結論だけ言ってしまいますかね。
「まず、シャラさんの扱いについてだけど……君には調査班に入ってもらって、俺の部下になってもらう」
「調査班に、ですか?」
困惑気味のシャラの表情。まぁ、気持ちは分かるけど。
「そ。むしろ、それしか君がここで生きていく道はないよ? 元とはいえ、八凰騎士団の副団長を国がただ放っておく訳がないし、このまま売り子でもして暮らしていくのにもリスクはある。君はまだ、執行人に追われているんだからね」
「……それは、分かっています。では、あなたの下にいた方が安全、ということでしょうか?」
「大まかに言えば、肯定だね。俺の下なら国に目をつけられても手は出せないし、執行人を迎え討つ戦力も整っている。ひとまずば安心、って形かな」
「戦力、ですか? ヤグさんの実力は知っていますが……その、失礼ですが召喚獣の方々もそうなんでしょうか?」
執行人の実力を知っているだけに、中々懐疑的だね。分からないでもないけど。なにせ、見た目は梟に狼に鼠だし。
「そうだよ。先生は近接戦闘はできないけど、魔法、魔術の扱いは誰よりも上手い。俺よりも強いしね。ミヤは人化もできるし、魔法も使える。分かりやすく言えば、ギルドのAクラスの奴らが数人いても、勝てるくらいの力はある。チリアは戦闘には向いてないけど、時間を稼ぐ手段を幾つも持っているし、奇襲も得意だ。それに……」
そこで言葉を区切って、俺は指を四本立てる。
「ここにはいないが、俺が契約している奴らは後四匹いる。どいつも気まぐれで面倒だが、喚べば来るし、それなりに強い。だから戦力だけで見るなら、俺の下が一番安全だ。自由もそれなりにきかせるつもりだしね」
言うことに従わない奴らだが、戦いとなるとすぐに来る頼もしい奴らだ。そのおかげで、普段はどこかでフラフラしているわけだけど。
「ついでに、もし君が国に仕えることを決めた場合、その生き方の顛末も話しておくよ。まず、マグリニアル王国の情報を全部吐かされる。そしてその後は、多分『武王』の一人、アリスに目をつけられるだろうね。『武王』の事は知ってるよね?」
「はい。イレニア帝国で王を除く、上から三番目までの実力者に与えられる称号、ですよね? 詳しくは知らされていませんでしたが、どの方もかなり強い、とか」
「そ。簡単に言えば、序列三位までの奴らの事。または……別次元の存在だね」
強さが正義のイレニア帝国では、戦闘職、或いはそれに準ずる職に就いている奴らに順番を付けている。高ければ高いほどそいつは強いって感じで、序列によって優遇されるものが多くなる。当然だけど、重犯罪は見逃されないけどね。
「『武王』はどいつも化け物みたいに強いんだけど、中でもアリスは色んな意味で別格だね。シャラさんみたいなのは、真っ先に手を出されるよ」
「……どういう事でしょうか?」
「アリスは、綺麗なもの、可愛いものが異常に好きなんだよ。そして強いものもね。シャラさんはきっと、いや絶対にアリスの目にとまって、可愛がられるよ」
「…………」
「分かってないって顔をしてるね。分かりやすく言おうか。……アリスの可愛いがるは、物理的にだよ。散々いたぶられて、殺されかけて、最後には……喰われる」
「喰われる、とは?」
「そのままの意味だよ。アリスは食人の趣味があるんだ。本人は可愛いものと綺麗なものしか食べないみたいだけど、シャラさんだったらその基準には達しているでしょ。とんでもない暴挙に思えるけど、アリスにはそれをして黙らせるだけの力がある。……そうだね、今のうちにマグリニアルとイレニアの違いを……」
「ヤグ。話が逸れているぞ」
「……だね。つい、ミヤとの癖が出たよ」
頭を掻いて、息を吐く。ミヤの教育で、魔法の使い方、一般的な知識は先生に任せていたけど、戦い方とかその他諸々は俺が担当していたから、つい教え癖が出てしまう。気をつけてはいたんだけどね。
仕切り直し。小さく咳払いをして、俺は話をまとめる。
「つまり、俺が何を言いたいかというと……シャラさんが俺の手から離れたら、シャラさんは長生きできないよ、って事。後ろ盾なく国に住んでも、いずれは執行人かアリスに殺されるだろうからね」
「シャラ殿、ヤグの話を後押しするわけではないが、私もそうなるだろうと考えている。『武王』のアリスは、最早人である事を辞めている存在だ。私達は何度か相対した事があるから余計にそう思っている」
アリスの異常性は、国の上層部の一部だけが知りえている情報だ。俺たちが知っているのは、偶然に過ぎない。その偶然が何度も続いているのは、それも偶然だと信じたい。
「……信じがたい話です。食人をして、国が許しているなど。マグリニアル王国では人が人を食すなんて、お話の中にもありませんでしたから」
「だろうね。人族至上主義のマグリニアルが、そんな話を作らせるわけがない。でも、ここには現実にいる。獣人族でも肉食の、中でも歳をとった奴らは食人の経験があるみたいだからね。それに今だと吸血鬼族は血の選り好みはしないって言われているけど、実は人の血を好むんだよね。肉と皮、骨には興味ないらしいけど、これも立派な食人だ。だから、イレニアだと、取り立てておかしいってわけでもないんだよね」
「…………」
人族の中で人族の常識で生きてきたシャラからしたら、受け入れがたい事実かもね。アリスは特例として、今はイレニアでも食人は禁止されているし。
神妙な顔つきで、シャラは黙って一点を見つめている。彼女が幾つかは知らないけど、二十歳は超えているはずだ。二十年以上の経験で培ってきた常識を変えるのは、早々できるようなものじゃないだろうね。
けど、変えてもらわないと困る。どの道彼女が生きていくには、俺の下以外にはないのだから。
……そう、錯覚してもらわないといけない。俺のためにも、彼女のためにも。
「……さて、自分の身がどれだけ危険な状況に置かれているか、理解してくれた? 何かしても、何もしなくても命を落とすって事は、分かったよね?」
「よく分かりました。だから、あなたの元で働けと、そう言うのですね?」
「そ。言っておくけど、拒否権はないよ。あぁ、死にたいなら話は別。そこのメイドと一緒に、どっかに消えてくれ。その場合は、俺も国に報告するけどね」
この後の人生が懸かった分岐点だ。シャラだけじゃなく、そこのメイドのもね。
広くはない室内に、静寂が満ちる。やや俯くシャラの顔には、宝石のように光沢を放つ金の髪が目を隠していた。その奥にあるはずの琥珀色の瞳は、俺からは見えない。
背後では退屈そうにミヤが尻尾を床に優しく叩きつけている。膝にいるチリアは、俺の頭の中に一方的な念話を送ってくる。先生は何も言わない。
シャラの横にいるメイドも空気を読んだのか、目だけでシャラをジッと見つめている。そしてポツリと、だけど俺にはっきりと伝えるように口を開いた。
「……ボクは剣しか扱えません。魔法も、禁術のせいで使う事はできません。料理は師匠から止められていますし、洗濯もピア任せです。学はありますが、ボクが得意だったのは歴史学です。イレニア帝国で役に立つとは思えません。……それでも、ボクを使いますか?」
俺に向けられた瞳は綺麗で澄んでいて、そして酷く純粋だ。俺は一つ頷いて、口元に笑みを浮かべた。
「剣が使えて、考える頭があれば十分。だから、契約をしよう」
チリアの背中を軽く指で叩いて、俺の足元の影から一枚の紙を出してもらう。
取り上げるとそれは、やや煤けたような白の紙。その表には大きめの字で、契約書と書かれている。俺は紙に薄く魔力を流し込んで、大げさに言葉を紡いだ。
「契約内容は三つ。第一に契約主は被契約者の身を守らなくてはいけない。第二に被契約者は職務に関することであれば契約主の命令に逆らってはいけない。第三にこの契約はいかなる理由があれ、一年後のこの日まで破棄する事ができない」
俺が言葉を走らせると、紙の上に言葉通りの文字が浮かび上がる。最後にお終いと呟くと、紙の下部に横に伸びた線、二人分の署名する場所が紙の上に現れた。
シャラは目を開いて、紙に視線を向ける。
「……《魔鎖契約の紙》、まさかそんな物まで持っているなんて」
「物知りだよね、シャラさんって。これ、かなりマイナーな魔具なんだけど」
「あ、いえ、以前見た事があったので」
「そ。なら、説明はいらないね」
チリアに頼んでペンとインク瓶を出してもらい、紙と一緒にシャラに渡す。
「右側の方に名前を書いてね。その後に、唾液でも血でもいいから、体液を一滴垂らして」
「……唾液でも、いいんですか?」
「体液なら何でもいいんだよ。格式ばった奴らは血を好むけど」
おずおずと受け取ったシャラは、テーブルの上でサラサラとペンを走らせる。とんでもなく綺麗な字だ。下手ではないが上手くもないと評価をもらっている俺の字じゃ、こんなに丁寧には書けない。
躊躇いもなく、シャラは名前を書ききってペンをテーブルに置く。そして人差し指を舌で濡らすと、名前の横に軽く押し付けた。
「これでいいでしょうか?」
「完璧。それじゃ、俺も名前を書いちゃうか」
ペンを取り、俺も左の欄に名前を書く。シャラのと比べると大分お粗末な字だけど、気にしない。横で先生が、性格の差がよく分かるな、と言っていたけど、気にしない。
俺も舌で指を湿らせて、名前の横に押し付ける。これで、契約はほとんど完了した。
「最後に、俺とシャラさんの魔力が必要になる。シャラさん、紙を持って、少しでいいから魔力を流して。……あぁ、そうか。先生、『心削術』の効果って、魔力を使うだけでも適用されるの?」
「少量なら問題あるまい。要は、魔力を一定以上使うと『心削術』は発動するのだ。低難度の魔法以下の魔力なら、問題なく使えるだろう」
「だって。気をつけて、魔力を流してね?」
「はい」
シャラは紙を摘んで、恐らくは魔力を流した。俺も端っこを掴んで魔力を通す。そして息を一つ吐いて、契約の呪文を口にする。
「ーー契約主ヤグの名において契約を結ぶ。被契約者シャラ・デ・アロンの心意に違いはなく、契約主の意は契約が履行されるまで変える事を許されない」
紙が僅かに発光して、伸びた光が俺とシャラの片腕に纏わりつく。朧げな光は徐々に細長いものに形を変えていき、その姿を作っていく。
「ーー契約は鎖で結ばれる。《魔鎖契約》の名の下に」
言葉と共に、光が形成していたものは発光を収めて完全にその姿を表す。俺の左腕とシャラの右腕には、肘の下辺りにリング状に結ばれた鎖の模様が浮かんでいた。
黒い、刺青のような鎖の模様。これで、契約は結ばれた。
「……終わり、ですか? この鎖が、契約の証なのですね」
「そ。これで、君は俺の部下になったわけ。まぁ、まだ申請してないから調査班の肩書きが付くのは後だけど」
光と一緒に消えていた紙のあった所を一瞥して、俺は背もたれに体を預ける。成功して良かった、という感じだね。《魔鎖契約の紙》を使った契約は、拘束力が強い上に簡単に行える。けどその代わり、両者が納得している状態でいないと使えない面倒な契約だ。
もしシャラに不満があったら《魔鎖契約》は成立しない訳だ。……というより、俺はその可能性の方が高いと思っていたんだけどね。ここまで追い詰めておいて何だけど、東の大陸にある国、コクリナ魔法国に逃げ切れれば執行人からもイレニアからも手を出されずに済んだ訳だし。
コクリナ魔法国は魔法、魔術、魔導に興味がある者に寛容だけど、他国からの干渉を一切受けないある種閉鎖的な国だ。その割にコクリナ魔法国が生み出した理論や技術は全く秘匿しない、それどころか使者を出して教えに来る親切さも持っている。
一日を十六刻、一刻を四十細、一細を四十末と、時間の割合を決め、単位をつけたのもコクリナ魔法国だ。数百年前に発表されたそれは、今や子供でも知っている程定着している。
それだけの力を持つコクリナ魔法国に表立って手を出す国は、今はいない。だからそこに逃げ込んで、上手いこと取り入れば生きていくことだってできたはず。
シャラがその案を思いついていなかった、っていう線もあるけど……どうなんだろうね。まぁ、この一年は俺の下から離れられないし、面倒な考察は後にしようか。
「ま、取り敢えず宜しくね、シャラさん。給料分働いてくれれば、文句は言わないからさ」
「はい。よろしくお願いいたしますヤグさん。頑張って働きますね」
ひとまずは手が増えた事に喜んでおこう。暫く忙しくなることだし。