98 双直剣『千斬り』
自分とヨミを先頭にした面々が歩いて行けば先に戦っていたプレイヤー達が気を遣って道を開けてくれる。それに軽く応援を返しながらもそろそろ最前線と言う付近でヨミが口を開く。
「それで、作戦は?」
「俺自身は何も考えてないけど」
「は?」
横から突き刺さる様な視線を感じたまま少し無言の時間が過ぎる。
やがて諦めたのかため息を吐いて肩を落とした事を感じる。
「……まあ一応前衛中衛後衛に分けておくわね」
「適当に突っ込むから何とか合わせられるか?」
「またアンタは……。はいはい、行って来て良いわよ」
「わーい」
許可が出たのでそのままダッとモンスターの群れに走りこんで行く。
後ろから『えっ』とメンバーが口に出しているのと、「ほらほら、早くギルマス助けに行くわよ」と言っているヨミの声が聞こえて来る。
流石はヨミだ。ありがたい。
「ガード3!フォートレス2!砦盾!」
「ちょっ、タテヤ、良いのそれ!?」
「防御力は大事だからな!」
「過剰過ぎるのよ!」
「はっはっは、後衛が死んだら普通は回復手段無いから必死なんだよ!」
「笑いながら言う事じゃ無いわよねえ!」
しばし経ち他のメンバーも本格的に参戦しだした頃。
アリサと雑談しながら自分は一つの疑問を頭に思い描いていた。
前衛、多くね?
自分、ヨミ、カスミ、カナ、ライアン、ガノン、ケンヤの7人が前衛。
コノハナ、カナミ、ミカ、アデルリットの4人が中衛。
アリサ、アリス、ミノリの3人が後衛。
遠距離攻撃って不遇なんかな……?
そして前衛の戦い方も酷い。
一言で言うとするならば芝刈り機と言えるだろう。
大量のモンスターを俺が引き付けている間に他の前衛と中衛の10人が一匹に対して集中攻撃をして即座にHPを消し飛ばすと言う流れ作業になっている。
引き付けたモンスターに対しては後衛の魔法使い達が範囲攻撃でダメージを重ねて行く。
そしてそのHPが減ったモンスターに対して10人が……と言う風に苦戦も何も無くなっていた。
挑発スキルってとても便利ですね。
それにしても気になるのはヨミの武装だ。
直剣二本を両手に持ち振り回しているのだが柄頭の部分に奇妙な部品が付いているのが見える。
眺めていると視線に気付かれたのかこれがどうかしたの?な感じで手元を振られたので気になる、と言った目線を送る。
ヨミは一回頷くと片手を空け腰の後ろから直剣の柄より少し太い柄状の物を取り出す。
柄の中は空洞になっており両側に直剣をはめ込んで行き、中央に空けられたスリットに固定用の金具をはめ込めば双直剣とでも言うべき物が完成する。
何それカッコいい。
しかも鍔に被せる様にしてL字型の持ち手を追加で付けている。
取り回しも良さそうだ。
「何それ。ロマン武装?」
「私も元々ソロでやろうと思ってたんだけどそれならってカスミが作ってくれたのよね」
「へえ、元ネタとかってあるのか?」
「あるらしいわよ?なんでもお姫様が使うんだって」
「……えらい武闘派だな」
「結構気に入ってるのよね、コレ」
「もしかしてそれ馬上でも使えたりしない?」
「良く知ってるわね」
「さっき思い出した。普通じゃ扱えない武装って良いよな」
「ロマンよね~」
「そう言えば地面に刺さった時ってどうしてるんだ?」
「ああ、脚甲も作ってもらってるから思いっきり蹴って次に繋げるのよ」
「もっと武器を労わってやれよ!」
「錬金術でMP消費しての修復があるから折れなきゃ問題ないわよ」
「ええ……」
アンタもやってる事でしょ?と言われたがすみません、スキルとか一切調べてないです。
言ったら怒られそうなので言わないが。
「さて、狩りますか」
「さて、やりますか」
さすがゲーム。あんな物も振り回せるんだなあ。
そしてこの会話を聞いていた者達はこう言った。
『双剣○ーネだアレ……!』
俺も思ったよ。
双直剣となり更にダメージ効率が上がったヨミと共に盾バットとただの鉄塊を使いモンスターを肉片に変えて行く。
大分潰したとは思うのだが進軍が止まる様子が無い。
しかし、だ。それにしても。
「モンスターの動きが遅いんだけど、どう思う?」
「やっぱり遅いわよね」
「うーん、これは根っこ潰しが必要なのかなあ……」
「タテヤは何か知ってるの?」
「知らされていると言うか何と言うか……」
幾度目かの休憩中に戦場を俯瞰出来る位置に居たアリサに聞いてみればやはり遅いらしい。
やっぱり北の国からこんにちはーかぁ……。
師匠達は本当に来てくれるのだろうか。それが気がかりです。
ただそれでも戦っていれば数は減って行く。
それでも数は多いのだが。
ある程度落ち着いた所でヨミから一度退いて休憩しようと言われたので殿を務めながら街まで戻った。
次は激戦区と化している北側らしい。
西側だけでもかなり激戦だったと思うのだが……?
「物量作戦に似てるのよねモンスターの動きが」
「北の国が操ってこっちに流して来てると言う妄想が現実味を帯びて来て面倒だな」
「先生達が来てくれないと全滅しそうね。北側には既に激昂熊も居るみたいよ?」
「え。早くないか?」
「しかも二桁単位」
「うわあ……」
「まあ一番プレイヤーも行ってる方角だから一日は持つんじゃない?」
「二日は?」
「モンスターの後続次第」
「キツイなあ」
「今日は徹夜、行ってみる?」
「最終戦前に爆睡しそうだ」
「じゃあ明日にしましょうか」
「そうするか。で、次は北か……」
激戦区と言われている方角を見ながらそう言った後にヨミから返事が返って来ないのでそちらを向けば表示枠を見ながら緊張した顔。
「東側にもイノシシが出始めたみたい」
「マジかよ」
「しかも人員不足」
「と言う事は?」
「行先は東に変更」
「りょーかい」
「便利屋よね、私達」
「まあ気楽と言えば気楽だけどな」
「ああー……、ソロで適当にやろうと思ってたのにー……」
「なんでこうなったのやら……」
「アンタが言うなって一瞬思ったけど考えてみればある意味被害者よね」
「ヨミ。森は、怖いぞ」
「意味合いが違うと思うんだけど……」
ギルドメンバーを見れば大体は多少疲れた様な表情を見せているもののまだまだ大丈夫そうだ。
よーし、それなら最前線行っちゃっても良いよね?
何人かは首をぶんぶん横に振っているが大丈夫大丈夫、希望者だけだから。
それにHPがヤバくなれば先生の血ポーションもあるから。ね、大丈夫でしょう?
口端が吊り上がっているのが自分でもわかる。
何故やられるかも知れない場所にでも笑顔で行こうと言えるのかは戦闘に関しては多分きっと師匠達以上に怖いモノが無いと知っているからだろう。
「せ、先輩!まさか連戦って事は無いですよね!?」
「タテヤさん!流石に休憩は許されますよね!」
俺の笑みを見て兄妹が慌てているが連戦は無いが休憩は今の内にしておけと言うと地面に膝を付いて項垂れだした。
何か不味かっただろうか?
「あの、タテヤさん?こんなにハードだとは聞いて無かったんですけど……」
「ミノリか。今は俺とヨミ基準で動いてるからな。耐えてくれ」
「ええ……。そんなあ……」
ミノリも兄妹の所に行って体育座りをしてぐったりした。
何か不味かっただろうか。
「タテ兄、掲示板の方に東側が大変だって書き込みが大量に来てる」
「ヨミとタテヤは一体何を経験して来たのよ……」
姉妹にそう言われた所で東に向かい歩き出す。
はて、して来た事と言えば一対軍勢を何度も二人でやって来ただけなんだが。
そこまで珍しいだろうか?
どうにも自分の基準があやふやになっている事に気付く。
指摘してくれる者も居なかったからなあ。
アルタ街防衛戦。
日はまだ高く、モンスターは波の如く押し寄せる。
勝たねばならぬ、報酬の為に。
まともな武装を、得る為に……!
はい。
アレです。




