96 アルタ街防衛戦 四日目
朝です。
身体を起こせば向かいのベッドにヨミが寝てます。
寝顔も綺麗だなあと思いつつ昨日の記憶を引っ張り出す。
昨日は確か夜遅くまで色々言い合ってたんだったな。
友人とあれだけの時間話せるなんて今まであっただろうか。
ありがとう、と言う風に寝ているヨミを拝んでおく。
眉間に皺が寄った気もするが何か不味かっただろうか?
ともあれ身体を起こし部屋を出れば目の前にカスミとアデルリットが居た。
なんで二人がここに?
「……どうしてヨミの部屋から?」
「おお、タテヤ君、やったんだね!」
「とりあえずカスミは睨むのをやめてくれ…、それとアデルは何を考えた?」
カスミに疑うような目つきで見られ、アデルからはさも解ってますよと言った笑みを向けられ居心地が悪い事この上ない。
「友人同士の会話を楽しんでただけなんだが…。それと部屋に関してはアリサに聞いてくれ」
「アリサに?……ああ、教えたんだね」
「アリサちゃんが?へえ~」
「まあ大体俺が怒られてただけで特におかしな事は起こってないから安心してくれ」
更に疑惑の目が深まりました。
あれ?
その後少し雑談したのちヨミに用がある二人と別れ宿屋を出る。
とりあえず噴水広場にでも行こうか。
辿り着けばそこには幾つかのテーブル等が置かれ一番大きな所には街の模型を中心に何人ものプレイヤーが話し合っているのが見えた。
情報を整理している人の所に時折伝令が走って来てはまた走り去って行く。
おお、凄い本部っぽい。何処となくテンションも上がる。
眺めていると何人かと目が合う。ぎょっとした表情で立ち上がるとこちらに礼をしてくる。
いきなりそんな事をされれば誰だってビックリすると思う。俺はビックリしました。
慌ててこちらも直角90度近くの返礼を返す。慌て過ぎた。
そのやり取りを見てこちらに気付いたのか他の人も声を掛けてくるようになった。
お辞儀をする機械になったが如くいろんな人に挨拶をしながら頭を下げる。
その様子を見て幾人も口を開け信じられない様な物を見る目をこちらに向けて来る。
あの、魔王呼びされてるからって威張れるようなメンタルは持ってないんですよ?
俺は小心者なんです。
その後あちこちを歩き回り色々と話をさせてもらう。
何故か嬉しそうに握手を求めて来る人が居たので握手をする。
その人の後ろに列が出来てたのだがなんなんだろうか。
頑張りましょうね、と声を掛けつつ列を消化していく。
持ち場を離れてまで話す時間を作ってくれた人達にお礼を言いつつさて去ろうかと考えていると肩を叩かれ、後ろを向けばシュンセツさんの顔が間近にあったので思わずのけぞる。
「おっと、ごめんごめん」
「いえ、すみません」
謝りつつもシュンセツさんと話す姿勢を取る。
「僕もさっき来たんだけどやっぱり凄いね、タテヤ君」
「まあ、ええ、その……。そう、ですね」
「あんまり嬉しそうじゃないね?」
「名前の付けられ方がアレでしたから……」
「とりあえず君が噂通りの様な性格じゃないのはさっきので解ったよ」
「どんな性格なんです?」
「立ち塞がる者を問答無用で全て滅して行く悪鬼みたいな性格だって感じだったね」
「確かに全員倒してるんで間違いじゃないんですけど……」
「女性プレイヤーからは美少年顔なのに笑顔が怖い、だってさ」
「……泣いて良いですか?」
「一人の時にね」
「はい。それで、自分って何か仕事ありますかね?」
「もう後は人員配置と防衛地点確保ぐらいでその後は戦闘になると思うからそれまでは自由に過ごしてもらって構わないよ」
「配置は東でお願いしても良いですか?」
「出来れば北の真正面をお願いしたかったんだけどね。ヨミちゃんからも言われてるしタテヤ君は希望通り東側に配置。ただ宵闇の森の人達には各所に散ってもらって潤滑剤になって貰おうと思ってるから手勢はあんまり出せないかな」
「トップが自由人って凄いですね」
「戦力を遊ばせてると思ったら北側に呼び戻すけどね」
「わかりました。それじゃ、とりあえず北側にでも行って来ますかねえ」
「よければ少しでも減らしておいてくれるとありがたいかな?」
「少しですか?」
そう聞くとシュンセツさんは一瞬考え込んだ後何かを納得した様に眉尻を下げ笑う。
「うん、少しでも減らしておいて欲しい」
「わかりました」
二人してにやりと笑いながら握手を交わす。
さて、『少し』減らして来るとしよう。
噴水広場を後にし北側に向かい、外壁を抜けそのまま森に入って行く。
歩きながら盾バット、籠手、脚甲、道着、先生の大盾、首飾りと装備を整えていく。
鉄塊は重いので今日は無し。魔法技能は……。使う暇があれば良いなあ。
おや、おでましの様だ。相手はなんだろうか。
識別してみる。
激昂熊 Lv??? モンスター
??? ??? ???
うん、朝の一匹目で相手する様な奴じゃねえな?
ま、やりますか。
今日は夕方まで頑張ろうと思う。
何匹倒せるかな?
自分に気合を入れる為にも声を出しつつ走り出す。
「おっしゃ掛かって来いやオラァ!」
「ガォォォォォォォォォン……」
「遠吠えはやめてくれやゴラァ!」
仲間を呼ばれた事に動揺し思わず変な事を口走りつつも盾バットを振りかざし走る。
熊の振り下ろしを左腕の大盾で受けた後両手でバットの持ち手を持ち振りかぶる。
「職務投棄!」
「ギャオオオオ!?」
もう片方の腕による振り下ろしをバットにぶち当てそのまま振り切る。
物凄い爆音がしたと思ったら熊の腕が吹き飛んでいた。
どうやら破壊出来たらしい。
しかし熊の目は死んでおらずむしろ怒りに満ち満ちている。
それでこそ俺のトラウマよ。肉がドロップ出来たなら鍋にしてくれるわ!
腰が抜けそうになりながらも再び熊に挑みかかって行く。
周囲を横目で見れば続々と小型のモンスターも揃って来ている様だ。
さて、何処まで行けるかな?
あれから大分経ち兎や狼、蟻やトレント等を撲殺しているとある事に気付く。
あまりにも簡単に倒せているのだ。
そして何かに操られている、と言う仮説を頭に思い浮かべる。
北側の国が仕掛けた大侵攻、師匠達の昔話、お助けキャラ。
なるほど、これは師匠達がやって来てくれそうだ。
俺はソロで囲まれても問題無いステータスと防具だがこれは他の人には厳しいだろう。
それに相手モンスターのレベルも二桁目前と高い。
これは辛いだろう。
だがここで頑張っておけば多少でも後々楽になるんじゃないかと思う。
さて、続きいってみましょー。
≪レベルアップしました≫
≪ボーナスポイントを5点獲得≫
≪スキルポイントを5点獲得≫
≪レベルアップしました≫
≪ボーナスポイントを5点獲得≫
≪スキルポイントを5点獲得≫
≪レベルアップしました≫
≪ボーナスポイントを5点獲得≫
≪スキルポイントを5点獲得≫
≪レベルアップしました≫
≪ボーナスポイントを5点獲得≫
≪スキルポイントを5点獲得≫
≪職業レベルがレベルアップしました≫
≪ボーナスポイントを20点獲得≫
≪スキルポイントを20点獲得≫
≪識別のスキルレベルが上がりました≫
≪盾のスキルレベルが2上がりました≫
≪回避のスキルレベルが2上がりました≫
≪受けのスキルレベルが2上がりました≫
≪精密操作のスキルレベルが2上がりました≫
結局朝から夕までひたすら戦い続けた。
かなりの量のドロップを逃しているがそれに関しては他のプレイヤーが拾っていてくれたらしい。
どうぞ、と大量に渡されても正直自分一人で使い切れる気がしないので後でゲンコツにでも全部押し付けようと思う。
何故持ち去らなかったのかと聞けば流石にそんな事は出来ないと言われた。
良いプレイヤーさん達ですね。
その後ゲンコツの所に寄って素材を全部預けて行く。
椅子から飛び上がってこちらに詰め寄って来るレベルだったのでよっぽど多かったのだろう。
これからフル稼働だ、と鼻息荒く去って行くゲンコツを見つつ他の職人さん達に合掌。
頑張ってください。
宿に帰り部屋に入った所でジト目のヨミに出迎えられる。
「……今日は何をやって来たのかしら?」
「ちょっと森の様子見に行ってた」
「ちょっとで済まされる戦果じゃ無いんだけど」
「師匠達は普通に狩ってたぞ?」
「アンタの基準が英雄基準になった事は確かね」
「そっかー……」
「まあ明日からは私も付いて行くから。起こしなさいよ?」
「ん?なんでだ?」
「アンタ一人だと何やるかわかんないから監視するのよ」
「あの、俺、魔王軍のトップなんですけど……」
「鬼嫁が目の前に居る訳だけど」
「そりゃ勝てないわ……」
「よろしい。それじゃ、今日あった事話していきましょうか」
「おう」
そしてまたヨミと話し続ける。
途中アリスが乱入して来たりもしたがおおむね平和に過ごせた。
明日はどうなるのやら。
とある斥候。
偵察01:『本部へ報告。北側に動き有り、警戒されたし』
情報長:『本部了解、配置確認急ぐ』
四日目終了。
動きが難しいです。




