93 アルタ街防衛戦 二日目
何処からか聞こえて来る鳥の声に目を覚ませばそこには布の天井があった。
しばらくぼーっとしている間に昨日の事を思い出す。
昨日は確かレンガ作ってコスプレして……あれ、なんか夢の中で戦ったような。
しかしゲーム内睡眠でも夢は見れるんだろうか?もし違ったなら……。
装備をいつもの物に切り替えた後にテントの入り口を開ける。
目の前に五体投地が三つ並んでいた。
「ひいいいいっ!」
思わず尻もちをついて後ずされば人の形が崩れ土下座になっていった。
完成した所で先頭の男が声を上げる。続いて唱和。
「「「昨日はすみませんでしたあ!」」」
「何がですかっ!?」
「「「覚えて……、無いんですか……?」」」
「はい?」
その後車座になって話してもらった所によると俺は昨晩寝ぼけたまま戦ったらしい。
細かく聞けばお礼やお詫び、誘い等の話すらも無視して挑み掛かったらしく全員に壁に叩きつけるかめり込ませるか斬るかのどれかをやったらしい。
……やっちまったなあ。
目の前の三人は闇討ちを画策していてそれで人を集めたらしいのだが関係無い人達が俺に挨拶にしに行くと勘違いしたらしくおかしな集まりになったそうだ。
後で関係無かった人達に謝りに行かないとな……。
「悪夢じゃなかったのはわかったんですが貴方達はなんで待ってたんです?」
「ああ、さすがに俺らが巻き込んだ奴等には謝ったけどな。起きた後に説明役が必要だってんで引き受けたんだ」
「それにしてもなんで土下座を……」
「解りやすいだろ?」
「ビビったんですけど」
「……案外普通なんだな、お前さん」
「そこら辺の1プレイヤーがたまたまこうなっただけですからね。普通ですよ」
「寝ぼけてる方が恐ろしかったってのもおかしな話だけどな」
「はは……」
その後も色々と聞いた所で動き出す為に彼らと別れる事に。
最後に言われた事は俺を倒して名を上げてやろうと思って居たらしいのだが倒された時点でその気はほとんど消えたらしい。
そして先ほど話した時点でもうそんな気は起きなくなったらしく真面目に楽しむらしい。
それは良かったですと言えば笑って肩を叩いて去って行った。
「威張らない魔王ってのも居るんだなあ」とは一言余計だと思ったけどね。
その後自分もテントを片付けてプレイヤー間の有力者達に会いに行く事に。
トップに立つ者はとにかく顔を繋げておけとの事だったので街を走り回れば良いそうだ。
とりあえずは昨日やらかしてしまった方の人達に対して謝りに行く為走り出す。
「お、タテヤ君か。おはよう」
「おはようございます」
「おー!魔王様じゃねえか!おはようさん!」
「おはようございます」
街はまだまだ小さいもので走り出せば直ぐにプレイヤーに遭遇する。
朝の挨拶をしてくる者もおりこちらも挨拶を返していく。
「おらぁ!魔王!いつか倒してやるからな!」
「今すぐやりますか?」
「う、い、今は良い……」
「解りました。それと、おはようございます」
「お、おう?……ああ、おはようさん」
時たまこちらに絡んで来る者も居るがそれを自分なりに軽くあしらいながら走り去って行く。
時折誰かの足音が背後からするのだが気のせいだろうか?
まあ斬りかかられたら反撃すれば良いだろう。そう適当に考えつつ目的地に向かう。
まず士官と言っていた人の所へ。
昨日のこちらの事を友人と話していた所に話題の本人が来た事に驚いているのを放置して寝ぼけていた事などの謝罪から始まり士官の話に移行すれば彼の方から断りを入れて来た。
えっ、と思えば彼は苦笑しつつもあのシゴキに耐えられる自信が無いと言った。
周りが神妙な顔で頷いてたがそこまでなのだろうか。
弟子入りの人もそこに居たがガクガク頷いていた。
そこに話したかっただけの人も到着ししばし座談会の体になった。
なんだかんだで最初の街と言う事もあり頑張りましょうねと皆楽しそうに言っていた。
次にギルド誘い関連と詫びに来た人達の元へ。
詫びの人。
ヨミ攫いの人達からだそうだがなんかえらく大量に素材を貰った。
幾ばくか返そうとしたのだが固辞された為受け取った。後でヨミに渡しに行こうと思う。
自分でしでかした事でもある為厚かましくもトラウマ等の事を聞くとリアルの方にも影響があったらしく女性に丁寧なナンパになったらしい。
それはそれでどうなのかと思ったがだいぶ矯正してくれたと褒められた。
やり過ぎたのはこちらなのでその点は謝る。
その事を伝えてくれるように頼めばそれは出来ないと言われ理由を聞けば俺の事を話すだけで敬語口調になるらしい。……大丈夫なんですかね?
宴会の人。
聞けば俺が来なかった為に用意したモノのランクが低かったから来なかったと他のメンバーが勘違いしたらしくイベントの上位報酬に食材があればそれを肴に宴を開くとの事。
無論そんな物貰えないので必死に説得した。
何故残念そうな顔をしているのかが甚だ疑問である。
スケジュール管理に関して聞かれたのでヨミに放り投げておく。
すまんなヨミ。俺は予定を立てるのが苦手なんだ。
「後で魔王の嫁に怒られそうだね」
でしょうね。
誘いの人。
昨日の事を謝ったのだが相手が指を鳴らすと唐突に何人かが俺の身体を持ち上げそのまま何処かに運ばれる。敵意は無いとの事なのでおとなしくワッショイされて行く。
何処かの宿に入った所で降ろされれば目の前に座るは眉間に皺が寄ったおっさんの姿。
周りの顔も真剣だ。あれ、詰んだ?
「オメエさんが魔王か?」
「は、はい、なんか魔王って事になってます」
正面のおっさんが話し掛けて来るので若干ビビりながら自己紹介。
それを見て少し皺を緩めながらも低い声でいくつか聞いてくる。
既にこちらは大人数に囲まれているので緊張で頭がパンクしそうである。
「魔王軍だなんだとやってるみてえだが」
「俺は旗印と言う名の客寄せパンダ扱いですね」
「ほう。まあ俺らも参加してるからそれが解れば良い。命令はしてくるのか?」
「強制じゃないので大分融通は効くと言うか大部分を個人個人で判断するらしいです」
「そんなもんで周りが動くのか?」
確かに人は集まったが怯え等から防衛団に入った人も居るのだろう。
だがこれはゲームだ。イベントは祭りだ。だから言う。
「祭り好きならば、きっと」
「ふむ……」
しばしの沈黙の後こちらを見据えて来る。
どうにか身体をのけぞらさずに耐える。
「よし、今回は踊らされてやる。頼んだぞ、大将」
「えっ?」
「魔王だなんだの名前に踊らされてるお前さんだ。人の踊らせ方も知ってるだろう?」
「いやそれはどうかと……」
名前負けと素直に言ってくれませんかね?
「まあ良い。それで細かい話は何処に聞けば良い?」
「噴水広場の方ですかね」
「わかった。よろしくな」
「楽しみましょう」
「そうだったな。楽しもう」
右手を差し出されたのでこちらは両手で合わせる。
「トップの態度じゃねえな」
「飾りですんで。勘弁して下さい」
それを聞いてがっはっはと笑いが起こる。
なんかよくわからんが認められたらしい。
戦わなくて済んだ事に感謝しよう。
「ところで昨日来なかった理由はなんだったんだ?」
「あ」
良い訳と謝罪にその後半時間程を費やした。
寝ぼけるのはダメでしたね……。
どうにか許してもらった所でお暇させてもらった。
さて、次は何処に行こうか。
「……ホントに色々来たわね」
ギルドメンバーと共に借りた宿の一室にてヨミは唸っていた。
確かに昨日色々頼まれるとは言ったが早速来るとは思わなかった。
そうでなくても昨日の夜に起こった事のせいでイメージが微妙に上がっているのだ。
いわく寝ぼけ、と言うのがユーモラスらしいがそれは違うだろうと思いたい。
しかしこれは無いだろう。
それに後で何やら素材を持ってくるらしいが今でも過剰にあるのだ。
そして今目の前に広がっている大量のタテヤに関する面会申し込みの表示枠の山。
本人に聞いた所スケジュール管理頼むわ、と軽く頼まれた事に対して若干腹が立つ。
ただちゃんと顔繋ぎはやっている様なので怒るに怒れない。
「まあ管理した所で会いに行くのはアイツだしね。やってやるわよ!」
その後ひたすら情報を捌き続ける事になったヨミは色々あって魔王軍のご意見番扱いとなる。
そして宿からの出待ちをしていた者達は出て来ないとわかると肩を落とし去って行った。
魔王の嫁本人を見ようと思って居た彼等なのだが情報を持って行けば直接会えると考え街に散らばって行く。
奇妙な事にこれが功を奏し魔王軍の名を広める事となった。
二日目。
まだ森は静かであった。




