表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/162

85 「ありがとうございますうううううう!!!」

直剣を右手、盾を左手に装備する。脚甲も着けておく。

カツラに関しては頭部装備扱いなので壊れない限りは外れないそうだ。

カウントダウンが終わった所で敵側から一人歩み出てくる。

それに合わせてヨミも中央に歩いて行く。

静かに斬り合いが始まった。


剣同士がぶつかり合う度舞い散る火花は美しく。

その中で動き続ける二人もまた綺麗だった。

具体的に言うとポニテメイドが躍る様は見事だった。

直剣をまるで扇子、はたまた扇の様に振るい流れを繋げていき、その中に相手の剣を滑りこませ受け流しそこで体への道が開いた所に一気に連撃を叩き込んで行く。

たまらず相手が魔法を唱えてファイアバレットを使って来たのだがそれに対してヨミが取った行動は真正面から叩き切ると言う物だった。

縦に真っ二つに別たれた火球は横に広がって行き俺の真横付近で爆発した。

両横から熱風を浴びた俺はと言えば引きつりそうになった頬を抑える事に必死だった。

何やってんですかヨミさん……。


そして途中から相手が一人増えたのだがそうなった方が動きが機敏になるのはどうかと思う。

後々聞いた所「相手はお互いへの気遣いもしないといけないから動きやすいのよ」と説明されたのだが貴女は何処でそんな事を知ってくるんでしょうか。


フォローも忘れ眺めていると途中わざと弾き飛ばされて横に来たヨミに睨まれる。

はて、なんだろうか。


「フォローは?」

「あ。……した方が良かった?」


ヨミに小声でそう聞くとヨミはしばし悩んだ末にこう言った。


「別に大丈夫だったわね。それじゃ、次からは隣合わせで行きましょ」

「ヨミ姉の全力戦闘してる所まだ見てないんだけど」

「私のなんて見ても参考にならないわよ」

「そうかな?」

「そうよ。それじゃこれから戦うわけだけど負けたら怒るわよ?」

「説教はやだなあ」

「別にしばらくその格好のままで過ごすだけよ」

「お姉ちゃん、自分、頑張る」

「よろしい。それじゃ、お願いね」

「早くこの服脱ぎたいなあ……」

「似合ってるわよ、その恰好」

「複雑な気持ちなんだけど……」


俺がそう言えば、ヨミはにっこり笑った。


「話は終わったか?」

「ええ、待たせたわね」


こちらの話し合いを待ってくれていた相手の代表が声を掛けてくる。

ヨミの左横に立ちつつ会話を聞く。


「構わん、戦えればそれで良いからな」

「そ。ありがと」

「それで、全員で掛かっても耐えられるのか?」

「遠慮なく掛かってきなさい。メイドは凄いんだから」

「そうか。なら全員、突撃!」


その言葉に生き生きとしながら散開し包囲を企んでくる相手集団。

それに対してヨミとお互い無言で取った行動はただ一つ。

一方向の打開。そして殲滅。


いつも(・・・)通りである。


数十秒後。

俺とヨミは背中合わせで戦っていた。

最初の強襲にて二名ほどを切り伏せる事に成功したのだがその後囲まれてしまったので背中合わせでお互い正面を相手に戦う事になったのだが……。

ああ、久々だな、この感覚。

前は男キャラ同士だったから感覚も変わると思ったがこの体勢はよくやっていたからなあ。


戦闘を続ける中でヨミと出会った時の事を思い出す。


切っ掛けのゲームは一人称視点で動かすタイプのガンシューティング系MMO。

銃器類でモンスターを倒したり試合等のPvPをしたりするのが主題の物で基本はソロ。

様々な地形やダンジョンがあり普通にRPGとしても楽しめたためよくログインしていた。

俺はPvP自体はあまりせずにダンジョンに入ったりフィールドを駆け回っていた。

一年ほど経った頃だろうか。新ダンジョンが実装された。

もちろん入った。走りまくった。撃ちまくった。何度も死んだ。

それでも入った。走りまくった。撃ちまくった。何度も死んだ。


そしてある時ヨミと出会う。


実装された新ダンジョンにも死亡トラップ、と言う物は勿論あった。

その内の一つがうっかり踏むと全方位にモンスターが湧くと言う最悪な物だった。

これが最悪と言われた理由はゲームの視点が一人称なので背後からの攻撃に対応しにくいのだ。

最初の内は自分も何度か引っかかった。

その内にスイッチの場所が見分けられる様になっていくのだが……。

ヨミはその頃実地で覚えるのが一番だと思っていたらしく普通に踏んだそうだ。

そして包囲をどうにか切り抜け逃げている先で俺と出会う。


まあ甘酸っぱい物なんて無くて渋いおっさんが全力で走って来てたんですけどね。

しかも大量のモンスターを後ろに連れて。

トレインを発見した後即座に逃げようとしたが足元から「カチッ」と言う音がした時はリアルで顔から血の気が「ゾゾゾ」と言う音を立てながら引くのを聞いた。

丁度レアドロップを引いていたのも関係していただろう。とても焦った事を覚えている。

即座に囲まれて行くのをレーダーで見ながらこちらも数が少ない内におっさん側に走る。

後ろに逃げる手立てもあったが後ろと前と両方囲まれる状態にしてしまったのは俺なのでどうせならと咄嗟に共に死ぬ方向を選んだ。

相手が何を考えているのかはわからなかったのだが向こうは銃を取り出すとこちらとの中間辺りに一発撃ちこんだ。

何がなんだかわからなかったがとりあえず近づいてからだと思いキャラをそちらに走らせる。

相手が先に中間辺りに辿り着くと後ろを向いて撃ち始めた。


なんだこのおっさんと思いつつもこちらも辿り着いた所で振り返ればモンスターの群れ。

うへえ、と思いつつもこちらも銃を取り出して撃っていく。

密集し過ぎて撃てば当たる状態なんてそれまでに何度あっただろうか。

そうして鳴り止まない射撃音が数十分間続いただろうか。

気づけばレーダーに敵を示す物は消えており屍骸が重なり過ぎて重くなっている画面をどうにかする為にモンスターからのドロップアイテムを拾って行く。

お互いに目の前を片付けて行けば良かったのでサクサク進んだ。


終わった所で振り返ればこちらに謝罪の礼をモーションでしているおっさんの姿。

『すまん、俺が悪かった。謝らせて欲しい』


なんかこのおっさん渋いぞ!と思ったのが第一印象だった。

お互い様だと言った所で笑顔のモーションを返す。

相手も返してくれた所でなんとなくフレンドになったのが始まりだろう。


その後は共にソロプレイヤー同士、ゲームの攻略関連等を俺が教えたり技術的な面を向こうが仕入れて来たりとしていた。

そして一度目に味を占めてしまい二人揃ってわざと背中合わせで追い詰められる事が多かった。

そんな感じに楽しんでいたのだがお互いにリアルの事情もありそろそろゲーム内で会うのも厳しくなっていた為チャットをする事になる。

年は同じだと聞いていたのだがそれ以外は特に聞いても意味が無いので聞かなかった。

そして聞かなかった為にその後一年以上女だと知らないまま話してた自分が出来上がる。


あれは衝撃的だったなあ……。


思い出した所でやる事は変わらないのでひたすら目の前の者を対処し続ける。

左手の盾で弾き、右手の剣で斬る。

左手の盾で弾き、右足で蹴る。

右手の剣で相手の剣を弾き飛ばし、左足で蹴る。

右足で受け止めて、右手の剣で刺し殺す。

右足で蹴り飛ばし、左手の盾で受け流す。


そうやって向かってくる者達のHPを飛ばし続ける。

後ろに関しての心配はしていない。

倒されていたのなら今頃背中が刺されている筈なので。

刺されていないのだから、大丈夫なのだ。


攻撃を防ぐ為に軋む盾の音と剣同士が奏でる剣撃の音と時折鈍く響く蹴撃の音が響き渡る広場。

その中央に立つは二人のメイド。周囲には既に二桁を数える者達が倒れている。


「ヨルミ」

「何、姉さん」


そんな中後ろのヨミが背中を預けて来た時に声を掛けて来た。


「ちょっと交代してくれない?」

「え、今からそっち?」


この間にも戦闘は続いているが数が減って余裕が出て来たからだろう。

口調も軽い。


「散々私の攻撃受けさせたから良く効くと思うのよ」

「でも攻撃激しいんでしょ?」

「アンタに効くとは思えないからの提案よ」

「りょーかい」


それまでヨミの攻撃的な動きに慣れてた相手に対して防御主体の自分ぶつけるとか鬼ですね。

まあ、お互い変化が欲しかったのは確かなので受ける。


「それじゃ、3秒後ね」

「はいはい。1、2の、3!」


こちらに合わせてヨミが相手の剣を思い切り弾いた音がした。

そこで背中を密着させた状態でお互いに右側に体を回転させる。

半回転すれば目の前にはヨミが相手していた人達の姿。

背中のヨミは既に前進して殲滅戦に移行したようだ。


先ほどまでの人達は『え』、と言う目でこちらを見ているがこれも戦略なんです。

許せとは言わないけどせめて笑顔でHPを削り切ってあげますから。


『ひ、ひいいっ!般若だぁ!』


おい、コラ。


一層笑みが深くなった。



そして数十秒後。

最後の一人にリクエストされたので空に打ち上げるキックをお見舞いした所でフィニッシュ。

「ありがとうございますうううううう!!!」

と叫びながら飛んで行ったのが妙に記憶に残っている。


≪魔王討伐隊が全滅しました。メイド姉妹の勝利となります≫


ふう、勝てたか。

さて、メイド服を脱いだら今日はもう上に籠もって修理関連に取り掛かろう……。

なんて事を思っているとヨミの手が肩に掛けられる。

後ろをちょいちょいと差されたので見てみれば圧倒的に増えてるお客さんの列。

先ほど戦ってた人達も並んでいるのでこれはつまり、そう言う事なのか?


「逃げられると思う?」

「無理、だよね……」

「そうね」


がっくり肩を落としていると背中をぽんぽんと叩かれた後にこう言われた。


「それにしてもアンタ結構女言葉使えるのね。驚いたわよ」

「結構辛いんだけど」

「変声機とか無いのかしらね」

「嫌な予感がひしひしするよ?」


「ま、今は諦めとくわよ」と言ってヨミはテーブルを元の位置に戻すのを手伝いに行った。

俺にもお客さんから指名が掛かっているのでこれはもう今日はメイド服のままですね。


こんちきしょう。


その後狩りから帰って来たメンバーに生暖かい目で見られたりメイド服を渡して着てもらったりとしながら騒がしい時間を過ごした。

とりあえずライアンとガノンとケンヤがウェイター姿だったのを許さないと思う。

この恨み、いつ晴らそうか……。


ただ後で自分を撮った写真を貰い見れば可愛い美少女が映っていた。複雑な気持ちになった。

これ、リアル顔と似ても似つかんなあ……。

化粧、おそるべし。



そしてログアウト直前に気づいたがイベント対策何もやってませんね。

……なるようになーれ。

他者から見た戦闘シーンって書くの難しいですね……!


メイド服には長期使用に耐える為それなりの物理防御性能が組み込まれています。

防刃繊維と言った所でしょうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ