77 お茶会
御茶葉さんと烏龍さんに持て成されているヨミを置いて6日目の事を教えてもらう。
「私がその日もいろんな人に囲まれてた事から始まったんだけど…」
「何人ぐらいですかね」
「3桁は超えてたと思う、かな」
「おおう……」
聞けば初日から絡まれていたそうで更に日が進むごとにその人数も増えて行ったらしい。
これに関してはヨミが初日から吹き飛ばした連中が合流して行った事も関係している。
一番の理由はアイドルの様に崇めだす連中が出来た事が原因らしい。
……なんと言うか、うん。
「さすがはカナさんですね」
「ええっ!」
「今のでその感想が出て来るアンタも凄いわね」
「チャットじゃその後は教えてもらってなかったがヨミが勧誘したんだろ?」
「あ、私はカナミさんからです」
「『友達が困ってる』なんて言われちゃ断る理由も無いしね」
「でも斬ったのヨミだろ?」
「皆でやっちゃいました…」
「あれは忘れたいわね…」
苦笑しながら話す二人を見つつ『皆でやった』事を聞き取る。
その時にはカナさん含めて七人で二桁を相手したらしい。
大体がナンパ、パーティー勧誘でファンはギャラリーになっていた。
それに勝ったと言うのだが各々が数名を相手取っていたと言うのだから恐ろしい。
そして勝った事も普通は結構な騒ぎになる筈で掲示板にもやった事が書かれていたらしいのだがその頃俺がやってしまった事が発表されてからは忘れ去られかけたらしい。
「時系列的にはどうなってるんだ?」
「私がログインした所に狩りに行ってたヨミちゃん達が帰って来たの」
「その後に絡んでくる連中はぶっ飛ばしてお茶した後に一緒に狩りに行ってたらアンタのあれよ」
「なるほどな」
「最初は皆半信半疑だったんだけどね」
「公式のページ見て私は焦ったわよ」
「ふむ?」
ヨミには俺の容姿等は伝えていなかったのだがレベルが2桁に到達しているモンスターの数々と所々で使われている異様な装備の数々を見て俺だと気付いたらしい。
それを見て7日目にやる事を決めたらしいのだが……。
当日に俺を見て思った事を聞いてみる。
「まずタテヤ君を見て思ったのは普通の人だなあ、かな」
「普通!?」
「うん、普通の男の子。凄い人って聞いてたからもっと厳つい人が来るのかなって皆身構えてたの」
「あっ、そうですか…」
「それに両手盾なんてみんな聞いた事も無かったから……」
「確かに胡散臭いですね」
「今では思ってないから安心してね」
「あ、はい」
その後ヨミと気楽に話していた事やリーンさんとも話していた事。
さらにはライアさんが愛でられ始めた所で警戒を緩めたらしい。
驚いたのは自分達が参戦せずにヨミが任せた所だと言う。
それはそうなりますよね。
「なあヨミさんや」
「何かしら」
「俺の事をなんて紹介したんだっけ?」
「『両手盾の変な凄い奴』」
「……褒め言葉、か?」
「微妙ね」
「微妙か」
ただその後やった事により胡散臭さが倍増したらしい。
一人対300弱の戦いに挑み勝ったと言うのが各々のキャパシティを超えたらしく、しばらく引き気味での応対になったらしい。
よくわからない内に勝っていたらしいので何をやったのかがわからなかったそう。
まあガードカウンターを知らないとそうなりますよね。
ヨミは知っていたので安心して任せていたらしい。
「ただ魔王呼びは予想外だったわね」
「今では盾の魔王だもんね」
「その呼び名結構恥ずかしいんだけど」
「プレイヤーの間では既にアンタが隠しレイドボスみたいな扱いだけど?」
「プレイヤースキル凄いよね、タテヤ君」
「……俺、ただの1プレイヤー。OK?」
「「「「それは無い(かな)」」」」
「oh……」
俺の自己紹介に下心云々のくだりを言ったせいで後々女子会が開かれどうするかの話し合いが起こりヨミがそこでいろいろ暴露した後にそれを聞いて自由に判断する事にしたそうだ。
その後の狩りでもまた驚かされたそうだがヨミが驚いていないのを見て皆も考えを改めたらしいが……。やはり規格外だと言うのは変わらなかったらしい。
「やっぱりヨミちゃんが攫われた日が凄かったよね」
「朝から4桁以上の人と戦った後にサッカーですからね」
「あれはちょっと怖かったかな…」
「やった側はそうでも無いんですけどね」
「普通はやらないよ?」
「そうでした…」
一日目のインパクトが完全に上書きされた日だったらしく、それに加えて俺がヨミの事を大事に思っている事が感じられたそうな。
下心云々も臆病なだけだったとわかった為皆も受け入れやすくなったらしい。
三日目はライアンとガノン氏に慣れる為色々やってみたらしいがあの二人は直ぐに馴染んだらしい。俺とは違って馬鹿げた戦果を出していないからと言われたがあの二人も充分凄いと思うんですけど。
一昨日はメイドを連れて来たり出自が遺跡だったり家が立ったり兄妹と戦った後に入団したりと色々あったらしいがそれも狩りに行けば特に気にならなかったそう。
「そう言えば昨日はみんな何やってたんだろうか」
「いつも通り探索したりお茶したり戦ったりしてたわね」
「あんま変わらないのな」
「劇的に変わったらそれもおかしいと思うわよ?」
「俺は昨日ずっと部屋にこもって書類読んでたからなあ……」
「ミノリの事忘れてない?」
「あ。そうだ、後でカナさんにあの台詞叩き込んだ事問い詰めないと」
忘れてたの?と言う顔をするヨミ。
忘れてました。
「あ、あれは忘れて下さいっ!知らなかったんです!」
「はい、忘れます!」
焦った様子のカナさんに言われて忘れた所で気になっていた事を聞く事に。
「御茶葉さんと烏龍さんがヨミの友人ってのは本当なのか?」
「友達じゃなかったら大人しく縛られる訳ないでしょ?」
「……そうか」
「それにもてなされるのも悪くないしね」
「ヨミちゃんは優しい人なんですね」
「カナさん、何処か違う気がするのは俺の気のせいですか?」
何故その状況で不貞腐れる事無く話せるのかが不思議だったが友人だかららしい。
ヨミの懐の広さは凄いなあ。
御茶葉さんと烏龍さんに話を聞けばリアルの方の付き合いからもあり始めた所でお互い偶然にも喫茶を開きたかったらしく安い物件を探した所茶ーロン亭のログハウスを教えてもらったらしい。
安かった理由は『人が来ない』が大部分を占めていたらしいがそこが好都合だったようで知り合いが来れば良いと考えていたらしい。
メニュー等も色々試行錯誤を繰り返しているらしいが甘味に対する力の入れようは称賛に値すると思う。女性恐るべし。
ただ色々と有名人になってる俺が来るとは思っていなかったらしく結構驚いたそうだ。
「いやー、ヨミちゃんがよく話してくれてた男の子がホントに来るなんてね!」
「ああ、存外普通だとは思ったが女性の口説き方が下手だね」
「なあヨミ!普段一体何吹き込んでたの!?」
「わ、私は特におかしな事は言ってないわよ!」
「珍しくヨミちゃんが饒舌だと思ったらタテヤ君の事ばっかり話すんだよ?」
「あの時は珍しい物を見れたと思ったな」
「なあヨミ!お前実はウッカリさんなのか!?」
「ち、違うわよっ!」
「良いねえ、いいねえこのバカップル!」
「ああ、燃やしたいな」
「「違うわっ!」」
同時に叫んだ所で三人に再び生暖かい目で見られる。
どうやったら信じてもらえるんですかね。
諦めた様に再びコーヒーを口に入れる。
あー……、窓から差し込む光が綺麗だなー……。
そこにカランカランと扉に付けられた鈴の音が響く。
御茶葉さんと烏龍さんが「いらっしゃいませ」と言うのを聞きつつ皆でそちらを見れば扉を開けた所で固まっている他のプレイヤーの方々。
こちらの事を凝視しているのだがなんだろうか。
いや、正確にはヨミの方を見ている。
何かおかしい部分が……、あったわ。
俺の横に座り椅子に縛られているヨミの姿。
その前に置かれているケーキとフォーク。
動かせない腕、その横に居る俺を見て俺が食べさせていると思ったのだろうか。
『お、お邪魔しました……』と言い残し扉を閉めて行かれた。
「なあヨミ」
「ねえタテヤ」
「どうするよあれ」
「見られた事は仕方無いわね」
「そうか」
「でも」
「おう」
「二人に説教したいからこれ解いてくれる?」
「はいよ」
ヨミの縄を解き後ろで固まっていた御茶葉さんと烏龍さんを連れて厨房に連れて行くのをカナさんと二人で見送る。
「もう少しゆっくりしてから戻りましょう」
「はい!」
そう言ってから残されて行ったタルトを一口。
うん、美味い。
『盾の魔王が嫁を縛り強制アーンプレイをしつつ女性を口説いていた』
「何この情報!?」
「確かにあの状況を見ただけだとそうなるわね…」
ヨミさんがヒロインになるのか。
それはまだ決めていません。




