75 爆弾発言
人が二桁単位で吹き飛び『わああああ!』と声が上がり周囲は騒然となる。
上に吹き飛んだ人たちが地面に次々と叩きつけられた所に上にどんどん積み重なり山が作られていく。
そして天辺にマリーさんが着弾し死屍累々と言った有様の山が出来上がる。
マリーさんを蹴った衝撃で浮いた身体を着地させた所で目の前に現れる表示枠。
≪勝利条件を満たしました≫
≪プレイヤーマリーの敗北、プレイヤータテヤの勝利となります≫
≪看破のスキルレベルが上がりました≫
≪盾のスキルレベルが上がりました≫
≪回避のスキルレベルが上がりました≫
≪受けのスキルレベルが上がりました≫
あー……。
やっちまったな?
「おい!吹き飛んだ連中が綺麗に山になってるぞ!」「そしてその頂点に吹き飛ばされた女性がぐんにゃりと倒れているだと!?」「スゲエ!何あのオブジェ!」「でもあれ下段大丈夫か?」「あ、ダメっぽい、重量のせいかHPが結構な勢いで削れてる」『助けてー!』「あー、すまん、上に乗ってる人数多くて間に合いそうに無いわ」『うおおおお!早く上の方退いてくれえええ!』「あー、すまん一番上が気持ち良さそうにノビてるしあれ降ろしたらキレられそうだわ」「あ、一番下が」「あっ」「消えたな……」「さて二段目か」「こっちも削れてるけど抜けられないのか?」「まだ無理そうだな。最初より長く苦しむ事になるだろう」『い、いやだー!またトラウマになるー!』「俺飛ばされた方角に居なくて良かったと思うよ」「だな」「で、どうする?」「あれはやった本人が回収しないとダメじゃないか?」「あ、連れの人が登ってった」「お?」「回収したな」「よーし、上段ー、降りていいぞー」『うーい』「下段はもう少し頑張れよー、ほれ、ポーションだ」「一部女性も混じってるから気を付けろよー」『わかってるよ!』「お、おう、すまん」「それにしてもなんだ今のは」「例えるなら人間砲弾?」「そこはボーリングじゃね?」「「「それだ!」」」「だろ?」
山が一段低くなりジョージさんがマリーさんを回収し山が人に戻っていく。
巻き込まれた人達、ホントごめんなさい。
重量物に押し潰されるダメージってちゃんとあるんだな。
デカイ奴に挑む時は注意しておこう。
死に戻った人が走って帰って来た所で彼等を見ればそこまで怒っている風でも無かったがそちらを向いて謝罪としての礼をしておく。すみませんね。
ただ謝られた側の人たちの顔が「えっ」って感じだったのはなんでだろうか。
ちゃんと謝りますからね?
周囲の騒ぎも収まった所でマリーさんが口を開く。
「タテヤさん、見事な衝撃をありがとうございました!いやー、ゲームだと本当に味わえるんですね!」
「あ、え、はあ、そうですね」
「でも人にぶつけられるなんて……、良い体験ですね!」
「あ、それは焦って方向を間違えました」
「そうだったんですか、てっきり最初から狙ってたのかなって」
「頼まれた通り上に上げようとしてたんですが予想外にマリーさんが強かったので…」
「頑張った甲斐はあった?」
「大有りですよ。なんですか近接戦って。魔法職でしょマリーさん」
「私ジョージとばっかり組んでるからね、あんまり負担掛けたくないんだ」
「なるほど。それにしても口調、普通なんですね」
「ああ、テンション入ってない時は大丈夫だから安心して」
「上がると?」
「蹴って下さい魔王様!」
「あ、はい、わかりました。普通でお願いします」
若干引きつつお願いすると「わかったわ」と言ってくれた。
さて次はジョージさんか。
「えっと、俺はもう逃げても良いんですかね?」
「ああ、構わない。ありがとう、これでマリーも大人しくなる」
「こちらこそ貴重な体験が出来ました」
「何かあれば俺達も手伝うから言ってくれるか?」
「はい。そうさせてもらいます」
「それで、何から逃げるんだ?」
「……ウチのメンバーからですね」
「魔王でも敵わないのが居るのか?」
「まあ、ある意味ですが」
「それじゃ急いだ方が良いな」
「え?」
「ほら、あれ」
そう言ってジョージさんが俺の後ろを指差す。
そこには明らかに連れて来られているヨミを筆頭にウチのメンバーが並んでいた。
アリサとアリス、コノハナの三人にヨミが担がれてる。
「うわぁ……」
思わず口に出してしまったのが聞こえたのだろうか。
ヨミがこちらに顔を向け呟く。
「……なんでこうなったのかしらね」
それは俺も知りたい。
ギャラリーが道を開けた所を通りミツを除いた一回に居た面々が目の前にやって来る。
ここで逃げても後で帰った時に捕まるだろう。
そう思い待っていると歩み出て来たのはカナさん。
なんで?
予想とは違った登場の仕方に広場もざわめく。
「え……?」「なんで担がれてるんだ?」「嫌そうな顔してるし何があったんだろヨミさん」「メンバー自体は落ち着いてるみたいだが…」「おい、速報!速報だ!」「このタイミングでか?」「ああ、情報提供者のMによると魔王がヨミさんに対して『巫女服が似合うぞ』と言った後に逃げ出したらしい!」「マジかよ魔王様やるなあ」「それが恥ずかしくて逃げてきたのか?」「ヨミさんは強く否定しなかったらしいが……え、ホントに?」「でもなんで担がれてるだろうな」「お互いに逃げられないようにとか?」「あー、ありそう」「と言う事は、一体何が起こるんだ?」「んー、魔王様の嬉し恥ずかし物語とか?」「何それ面白そう」「いや、待て。カナさんが出て来たぞ」「え?なんでカナさん?」「さあ?」「まあとりあえず見ようぜ」「おう、そうするか」「「「面白そうだしな!」」」
普通は嫉妬やら非難の視線が先に来ると思うんですよ。
生暖かい目と興味津々な視線が先に来るのはなんででしょうか。
今度掲示板で聞いてみよう。
カナさんは緊張した表情で目の前まで来ると深呼吸を一回。
「えっと、タテヤ君」
「なんでしょうか、カナさん」
「えっと、その、ね」
「はい」
段々静まり返る周囲を気にしつつものんびり待つ。
ここで止めていれば良かったなと次の瞬間に思う事になったが。
「タテヤ君が望むなら、してあげても、良いよ?」
「は?」
『えええええ!?』
その一言を言った所で周りの声に驚き顔を真っ赤にして俯くカナ。
阿鼻叫喚になるギャラリー。
メンバーの方を見れば女性陣は笑顔で怒っており男三人はきょとんとしていた。
誰か、説明してくれ。
カナさんに改めて質問。
「あの、カナさん、俺、なんて言いましたか?」
「えっと、私に和服を着て給仕をして欲しいって言ってたってミノリちゃんが…」
「あ、あー、あー……。えっとですね、それには誤解があります」
「違う、の?」
「はい。俺は割烹着姿で働いている所が見たいって言ったんですよ」
「そう、だったの……?」
「そうです。ちなみにさっきの台詞は惚れてる相手に言うものです」
「ふぇ?」
解説をすると顔を更に真っ赤にするカナさん。
何故さっきの台詞を言われたかの説明は貰ったが、あれはダメだろう。
ピンポイント過ぎて一瞬ギョッとしたわ。
誰だ仕込んだの。あ、ミノリが目を背けた。
後で怒っておこう。
あ、ヨミが拘束を解いて地面に降りた。
そしてこちらに向かってくるヨミ。
「すまん、手間取った」
「抑え切れなくてごめんなさい、でもなんで街から出てないの?」
「捕まった。後実行班のミノリを後でどうにかして欲しい」
「わかったわ。それにしても何かしら今のは」
「んー、カナさんに聞かないとわからないけど多分お礼代わりに何かしてくれようとしてそれがあんな言い方になったんじゃないか?」
「勘違いは?」
「この状況で出来るか?」
「うーん……、微妙ね」
「少しは信じてもらえませんかねえ」
「嘘よ。でも周りはどう思ってるかしらね?」
「……怨嗟の声に満ち溢れてるんだけど」
「魔王らしくなって来たわね」
「何処まで行ってもステータスが高いだけのプレイヤーなんだがな」
「周りはそう思わないからじゃない?」
「そうか……。で、この状況どうすればいいんだろう」
「カナも固まってるしね。攫っちゃえば?」
「は?いきなり何を言いますかねヨミさんや」
「アンタも団員とちゃんと話しなさいって意味よ」
「あー…、確かに避けてたなあ」
「だから適当な所に連れて行ってお茶でもして来たら?」
「店を知らないんだが」
「……後で教えるからとりあえず屋根上に行って来なさい」
「はいよ」
そこで途中からこちらをちらちらと見ていたカナさんに向き直る。
「カナさん、少し良いですか?」
「は、はい!大丈夫です!」
「落ち着ける場所に行きたいと思うのですが、攫っても良いでしょうか」
「えっ!は、はい、どうぞ!」
両手を前にバッと出してふるふる震えるカナさん。
えーっと。
「ヨミ」
「お姫様抱っこで行きなさい」
「アッハイ」
一応OKも貰った所でカナさんをお姫様抱っこする。
続いてギャラリーに道を開けてもらい壁に足を掛ける。
「あっ」とは誰が言っただろうか。
「ふぇっ!?きゃあああああああ!」
おお、レアな悲鳴。
それを聞きながら屋根上まで飛び上がる。
下の方からは『ゆうか、逢引だー!』と聞こえてきたが今回はそんな感じだな。
さて、何処に行こうか。
とりあえずはのんびり走るとしよう。
この時以来『魔王はヒロインを攫うのが趣味』と言った噂が流れる。
魔王本人は否定しずらそうにしていたと言う。
なんてね。
いつも白紙の次話投稿ページを見ると身構えてしまいます。
でも一文でも書き出せると言葉が続くのは不思議ですね。
いつになれば14日目に辿り着くのでしょうか。




