67 屋根上散歩
興奮冷めやらぬ広場。
最早慣れた人達の会話も聞こえてくる。
「あー、やっぱりな」「と言うか降参しようとしてたの遮ってたよな」「お怒りだったんだろ」「それにしてもあんな風になってたのか」「ダメージ入ってたけどあの脚甲も盾扱いになるのか?」「普通は鎧扱いだけど魔王様だから何かそう言う装備持っててもおかしくないよな」「だとするとサッカーの正体って自爆ダメージも含めてのカウンターになるのか?」「いや、あれは攻撃力もおかしかったが自爆ダメージだけであれだけ行くとは考えにくい」「それでもどれだけ俊敏あるんだろうな」「4桁いってそうだけど」「でもレベル見てもそこまでおかしくは無いけどなあ」「既に30台到達してる事に疑問を持とうぜ」「あ、そう言えばそうだったな」「それにしても災難だなあ、あのイケメン」「鳴かなければ蹴られなかったのに…」「鳥だと蹴らないだろ」「じゃあなんだ?」「ボールとか」「ボールは友達…」「多分違うと思うぞ」「ああ、私も蹴って下さい!」「誰かその魔法使い抑えろ!」「す、すまんウチのメンバーが!」「よし、隠せ隠せ!見せるな!」「お、おう」「ああ、そ、そんな、魔王様ー!」
遠ざかっていく声と解散し始めるギャラリー。
あの人はいつか何処かで遭遇しそうな気がする。
どうやって避ければ良いんでしょうね。
周りを見回した後改めてイケメンに向き直る。
「……さて、と」
「ヒッ!」
目線を向けるだけで怯えるのはどうかと思う。
後ろにアリスを愛でていた女性達も頬が引き攣っている。
うん、説明面倒くさいや。
「なあイケメンさんよ、後ろのメンバーはアンタが助けたのか?」
「……?ああ、そうだが」
「そうか。助かる」
「なっ!?」
「ま、後の事は周りに聞くなり調べてくれ」
「なっ、あっ、えっ……」
何を言われたのかわからないと言った表情のイケメンを無視してアリスの元へ。
近付いて行けばこちらを避ける様に離れる女性達。
アリスはと言えば先程までぐったりしていたのが少しは回復した様子。
「すまん、遅れた」
「大丈夫、待ってない」
「そうか。一旦俺の家に送るぞ」
「わかった。アリサも一緒に」
「おう」
話を聞いていたアリサに手招き。
怪訝そうな顔をしつつもこちらに寄って来る。
改めて提案。
「とりあえず俺の家に行くぞ」
「わかったわ」
「何でアリスが捕まったんだ?」
「広場で待ち伏せされてた所に私達が通りがかったみたいで…」
「なるほどな」
「悪い人じゃないから余計に面倒でね」
「ま、今は急いで離れるぞ」
「方法は?」
「屋根上爆走」
「は?」
そこまで言った所でアリサとアリスを背中側に顔が向くよう肩に担ぐ。
突然の行動に唖然とする周囲を置いて南南東エリアの建物の壁に足を掛ける。
丁度家があるエリアだ。
「え、ちょっとタテ兄まさか」
「え、ちょっと待って待って」
「すまん、早く行かないとダメなんだ」
「「理由は?」」
「説教が待ってるからな!」
「「私達関係無い!」」
「すまんな!」
そう言い切ってから壁の段差を蹴って登っていく。
やってみたが本当に出来るんだな、壁走り。
ステータスは偉大です。
屋根に辿り着いた所でアリサの怒号とアリスの無言の背中殴りと共に下から聞こえてくる喧騒。
『は!?』『忍者!忍者だろあれ!』『ヒロイン達荷物扱いで運ばれてったけど』『馬っ鹿お前今はそれよりも重要な事があるだろうが!』『ああ、走ってたよな!壁を!』『ああ、走ってたよな!』『そしてあれ誘拐だよな!』『絵面はな。それよりどーすんだあのリアクションが追いつかなくて固まってる6人』『あー、まあ放置で良いだろ』『色々規格外な者に手ぇ出したらああなるんだよなあ』『触らぬ魔王に祟り無し』『合ってるからイラつくわ』『なんで!?』『ああ、戻って来たら魔王様が居なくなっているなんて!』『おいまたかよ!』『すまん、またウチのメンバーが!』『捕らえろー!』『ああ、そんな、そんなあああああ!』『なんで一緒のパーティーなんだ?あんた等』『友達だ』『なるほどな…』
……急いで正解だったな。
ただ二人には聞こえていなかったらしくその間にもドスドス殴られている。
「あー……説明が必要だったか?」
「説明されてたら自分でホームに戻ったわよ!」
「タテ兄、一応ログアウトしてからホームを選んでのログインも出来る」
「ほお、そう言うのも出来るのか」
「ただし本拠地がある街じゃないと出来ないけどね」
「別の街でやろうとしたら追加で必要」
「そうなのか」
別に忍者スタイルやらなくても良かったんですね。
すまん二人とも。
「で、お願いがあるんだけど」
「なんだ?」
「歩いてみたいの。良い?」
「ああ、構わんが」
「タテ兄、私も」
「おう」
二人を屋根上に降ろす。
興味深そうに屋根上からの景色を見る二人。
普通はこんな所登らないもんな。
「ま、とりあえず行くか」
「降りる時はどうするのかしら」
「俺が抱えて降りる」
「却下」
「自分で飛び降りる」
「却下」
「後は屋根裏部屋から入るか」
「なんで三つ目が最初に出て来ないのよっ!」
「いや、飛び降りてみたくならないか?」
「そんな恐怖体験したくないわよ!」
「タテ兄、下手に落ちたら落下ダメージが凄いと思う」
「そうか……良い案だと思ったんだが」
「なんでそう思えるの!?」
「普通は出来ない事をするのがゲームだろ?」
「タテ兄の普通って…」
「アリス、タテヤの感覚に惑わされちゃダメよ」
「うん、わかった」
「そこまで酷いか?」
そう聞くと姉妹は同時に当然よ、と言った具合に頷いた。
酷いらしい。昨日はアリスも楽しんでくれてた筈なんだが…。
聞けば昨日は前が見えていた状態だったからだそう。
さっきのは目の前が地面で下が壁だった為怖かったそうな。
うん、これは俺が悪いですね。
「前後逆だと顔を壁面で削りそうで怖かったんだよ」
「足でも一緒だと思う」
「それもそうか」
「手を離されたら落ちる恐怖が凄かった」
「あー……。ごめん」
「ん」
アリサを見れば「アリスと大体一緒」と返されたので謝っておく。
そうして屋根上を歩き始めたのだが……。
「なあアリサ、アリス」
「うん、タテ兄」
「ねえ、後ろに増えてない?」
「さっきの広場に居た人達だとは思うんだが」
「なら特に問題は無いと思う」
「まあ、放っといても私達は知らぬフリで良いでしょ」
「そうするか」
歩く場所に気を付けながらも三人で歩く。
屋根は天辺が平らで傾斜も緩く瓦が敷き詰められており横には薄い金属を半円状にして作られた雨どいも見える。
見回せばアルタ街を一望出来、それだけでも見事な景観である。
途中後ろから『あ、足がすべっ、あああああ!』と言う類の声が断続的に聞こえて来ていたが三人とも振り返らなかった。
そうこうしている内に我が家に辿り着く。
屋根裏部屋の外に出れる窓を開け、中に二人を招き入れる。
何も無い部屋の筈だったのだがいつの間にか幾つか荷物が。
後で見る事にしよう。
「よし、着いたぞ」
「良い部屋」
「へえ、こんな風になってるのね」
「いい部屋か?」
「良い部屋。物語の始まりの基本的な物」
「そ、そうか…」
アリスのテンションの基準がわからんな。
アリサも興味深そうに見回している。
「それで、下に行くにはどうするの?」
「ああ、そこの蓋を開けて飛び降りたら俺の部屋だ」
「……結局飛び降りるのね」
「そこまで高くないからな?」
「だと良いわね」
「アリサもミツさんに挨拶するの?」
「私が会っても良いのかしら。タテヤはどう?」
「まあ構わんだろう。昨日会ってるし」
「もし私が情報を漏らしたら?」
「怒る」
「それだけ?」
「それだけ」
「もしヨミが集めたメンバーじゃなかったら?」
「笑顔になる」
「それは怖いわね」
「……」
「どうしたの?」
「ツッコミが欲しかったんだ…」
「あ」
「タテ兄の笑顔は独特だから」
「フォローになってないぜアリス…」
自爆しながらも下に降りる。
実際は下の部屋に梯子がありそれを使うのだが今回は飛び降りると言う事で。
最初にアリサが降りて次に俺が降りる。最後のアリスが飛び降りるのをキャッチする。
それを見たアリサが「なんで思いつかなかったんだろう…」と言っていたがそこは許して欲しい。
そうして扉を開けた所でソファーに見えるはいつもより若干にこにこが少ないライアさんとこちらに対して半目を向けているミツさんの姿。
威圧感が凄いです。
[タテヤ様、説明をして頂けますか?]
「すいませんでした」
思わず腰を曲げた直角の礼をしました。
うん、やっぱり出かける時は帰宅時間を伝えるのも大事だね!
それとミツさん、左足直ってるように見えるんですけど。
注目しているとミツさんの声。
[勝手ながら今後のサポートの為に昨日の品々を使わせて頂きました]
「あっはい」
応急処置自分でされたんですね。
俺、要るのかな?
頑張ろう。
壁を走りました。
他の人達はよじ登ったり建物内の最上階から上がったりしています。




