66 魔王の笑顔
噴水広場近くまで来た所でメッセージが届く。
なんぞやと思いながらも一度立ち止まり読む事に。
送り主はアリサ。一体なんだろうか。
『ごめん。この数日間で収まってたんだけど今度はタテヤ狙いになったみたい。とりあえず噴水広場まで来てくれる?』との文面。
添付ファイルも付けられており画像の様だ。
見れば複数の少女や女性に撫でられているアリスの姿とその塊の横に立つ長身のイケメン。
よくよく見ればアリスはがっちりホールドされて愛でられているらしい。
なんだろう、微妙に面倒な空気がするんですけど。
とりあえず行って確かめよう。
ただなんとなくイラっとしたので先生の刀を装備しておく。
そして急がないといけない理由を思い出したので脚甲と籠手を装着し道着も中に着込んでおいて大盾も背中に背負っておく。
これでイケメンさんが俺がハーレム云々とか言って来たら速攻プチッと潰そう。
場合によっては無視をして家に行かねばなるまい。
ライアさん、強いからなあ……。物理的に。
いつもの本気装備になった所で広場に向かう。
何故か俺の後ろに人が集まって来ていて行列になっているのは何故だろうか?
試しに後ろを向いてみると集まっていた者達はサッと目を逸らす。
……。まあ、良いか。
広場に入るとプレイヤー達の目線を一斉に浴びる事となった。
うん、とても注目されてますね。
逃げ出したいです。
そうは思っていてもアリスを助けないと後々面倒な事になるのがわかりきっているので先程の画像の集団を探す。
自分が首を回して探していると向こうが気付いたのかアリサの呼び声。
それとメッセージ。
『噴水東側に居るわ。早くアリスを助けてあげて、いつもより目が死んでる』
それに従い大勢のプレイヤーを連れて歩いていくと見つけた。
辺りを見回していたイケメンにまず気付かれる。
そして高らかに声を上げるイケメン。
「来たか!自作自演でハーレムを作った魔王が!」
その後女性達もアリスとアリサを庇う様に立ち塞がりこちらに敵意を向けてくる。
アリサを見る。
視線をこちらに合わせた後目を閉じ言う事無しと言った感じに首を振られた。
アリスを見る。
視線を合わせた後いつもより目が死んだ状態で口の動きで『助けて』と言われた。
うん、まあ、そうだな。
とりあえず、蹴るか。
そう決意すると同時に口の端が上がっていく。
その笑みを見て少し後ずさるイケメンと女性達。
「な、なんだその笑みは!……いや、それこそが魔王か!決まりだな!」
「「「「「うわあ、気持ち悪い笑み…」」」」」
それを聞いた周りのギャラリーからは口々にこう聞こえてくる。
「あいつ等終わったんじゃね?」「多分トラウマコースだよな」「幾らなんでも情報集めて無さ過ぎじゃね?」「それにハーレムって言っても誰がメンバーなんだ?」「ヨミさんは鬼嫁だろ?」「緑髪の少女も入ってるのか?」「昨日はメイドも居たが」「カナさんとかどうよ」「さすがにそれは無理だろ……」「じゃあアリサアリス姉妹とか」「あれはどちらかと言えば妹にしたくならないか?」「ああ、そうだな…」「リアルの妹はそんな希望抱けんぞ」「砕くなよ!やめろよ!一人っ子なんだよ!」「す、すまん……」「まあ話を戻すとだ」「おう」「あのパーティー、潰されるよな」「だな」「だって、なあ」「ああ。魔王様笑顔だもんな」「サッカーだよな、あれ」「盾すら使わないなんて……さすが魔王様!私も蹴って下さい!」「おいなんかMが混じってるぞ!」「魔王様避けてー!」「避けずに受けるんだろうな」「だよなー」
昨日も居なかったかドMのお方。
それにしてもライアンとガノンも居る筈なんだが名指しで俺か。
情報全く仕入れて無かったとしたら魔王呼びされてる俺は悪っぽいよなあ……。
自作自演って、俺は一体何をどうやったんだろうね。
周りが一切自分たちを擁護しない事に困惑しているイケメンチーム。
女性陣を周りを見回して空気の変化のしなさに戸惑っている様子。
こちらを見て叫ぶ金髪イケメン。
「な、なんでだ!魔王は悪じゃないのか!」
「なあイケメンさんよ」
「な、なんだ!」
「俺の事に関する情報はどんなもんだ?」
「ああ、初日から女性達を悩ませていた者達を魔王が殲滅したとは聞いているよ」
「それだけなら俺は良い奴じゃないかね?」
「いや、魔王と呼ばれているのなら事前に人を雇って煽った後に自分で叩きのめして善人を演じると言うのもやっているに違いないと思ってね」
イラ。
「そうか。……考えを改める気は?」
「僕に勝ったなら少しは話を聞こう!」
イラッ。
「いや、面倒だし掲示板読んでくれ」
「なッ!?」
「正直さっさとアリサとアリスを回収して家に帰りたい」
「なっ…、なっ・・・。じゃあ僕が勝ったら彼女達を解放して欲しい!」
「……」
「この条件が呑めないと言うのか!魔王!」
イライラッ。
「いや、そもそもハーレムなんぞ作ってないからな?まあ、負けたら俺がギルドを抜けるよ」
「わかった!こちらは僕一人で挑ませてもらう!」
「うん、わかった、さっさとやろう」
「ふん、魔王なんて名前、僕が剥がしてあげるよ!」
「そうか」
装備類を籠手と道着と脚甲と首飾りの四つに変更。
ついでに超狂走ポーションも出しておく。
「なあ、イケメンさんよ」
「なんだい?」
「アンタは良い事をしようとしてくれたんだよな?」
「ああ、君がさっき言った事をしていたのなら僕が動かない理由は無い!」
「そうか。それは嬉しいんだが、すまんな」
「何がだい?負ける前の交渉かい?」
「いや、頑張って耐えてくれよ」
「……?」
≪目の前のプレイヤーに対しPvPを申請します≫
「ルールは戦闘不能か降参で勝利だ」
「わかった」
相手が受けた所で始まるカウントダウン。
その間に手順を確認する。
全速回避の発動だけで行けそうだな。
一応超狂走ポーションも用意してはあるが。
相手の装備は刀身が波打っているフランベルジュと呼ばれる剣が主武装の様だ。
多分他にも色々小細工はしてくるのだろうがこちらがやるべき事はシンプルだ。
蹴るか、殴るか。
そうしてカウントダウンが0になり。
即座にイケメンが突っ込んで来る。
さて、特に恨みは無いが苛立ちは発散させて貰うとしよう。
まず全速回避を発動し繰り出される剣撃を避ける。
ここで避け続けられると思わせないのがポイントだ。
あえて足の動きを遅くし主に上体で避ける。
すると右足のふくらはぎを狙った攻撃が外側から来たので右足を持ち上げる。
そのまま放置すれば左足に到達するが持ち上げた一瞬で職務投棄も発動させて踏みつける。
踏まれたフランベルジュは一撃でへし折れた。
驚愕するイケメン。
「なっ、なっ、なあぁっ!?」
「うん、すまんな。だが売られた喧嘩なんでな」
「う、嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ!フルに近い耐久が一撃だなんて!」
「色々あってな」
「お前は一体――!」
「ただのプレイヤーだよ。ただの、な」
「ひっ!ま、まお、あ、い、いや、こ、こうさ――!」
それを聞き何かを連想したのか逃げ出そうとして口を開こうとするイケメン。
逃がさんよ?一発蹴りを叩き込む。
そこからは酷かった。
まずイケメンの顔を掴みます。
腹に蹴りを叩き込みます。
腹に蹴りを叩き込みます。
腹に蹴りを叩き込みます。
腹に蹴りを叩き込みます。
腹に蹴りを叩き込みます。
腹に蹴りを叩き込みます。
腹に蹴りを叩き込みます。
腹に蹴りを叩き込みます。
腹に蹴りを叩き込みます。
次に上に放り投げます。
着地時に職務投棄付きの蹴りをプレゼントします。
HPバーが消し飛びます。
≪勝利条件を満たしました≫
≪相手プレイヤーの敗北、プレイヤータテヤの勝利となります≫
目の前に怯えきったイケメンが現れます。
ドン引きしているイケメンのパーティーメンバーが居ます。
目に生気が戻ったアリサとアリスが見えます。
周囲のギャラリーは歓声を上げています。
うん、すっきり。
敵対者にやってる事完全に悪だよな、俺。
今度お祓いでも受けに行こうかな。
あわれ噛ませイケメン君は爆発四散!(識別もされず
姉妹が巻き込まれたのはギルドメンバーが来るのを待ち伏せされてたからです。




