62 お茶と説明
戻る前にふと気になり屋根裏部屋に上ると幾つかの木箱。
試しに見てみた箱の横には『割れ物:取り扱い注意』とあったので刀を使い釘ごと斬って開けてみる。
「おお、本当に割れ物だった……」
中に入っていた物は大小様々な色とりどりのゴツゴツとしたクリスタル状の物体が箱一杯に詰められていた。リストの様な物があったので確認してみる。
『品目:魔結晶 用途:制御核』
品目の下には色と共に何が入っているかが書かれており虹色が一番数が少ないようだ。
虹色の物を一つ手にとって鑑定してみる。
虹魔結晶 品質A+ レア度9
様々な魔素が奇跡的なバランスを保ち出来た魔結晶
内包された力は凄まじい物を誇る
≪鑑定のスキルレベルが上がりました≫
なんだろう、これ、貰っても良かったのかな?
何度も失敗した後に成功したらレア度が高過ぎて一発でレベルアップしたんですけど。
ちょっと胃痛がして来ましたよ?
固まりつつも次の箱に取り掛かる。
『書籍、書類:湿気注意』も釘を斬って開ける。
中には大量の紙、紙、紙。
これを読むだけで何日掛かるだろうか。
ちょくちょく隅に判子でこの国のマークの周囲に『ロイヤル 研究所』とギリギリ読める物が押されているのだがこれ国家機密なんじゃ……。
本文の大半は読めなかったがキャラクタースキルに『言語学:SP40』と言う便利な物があったので職業レベルを上げて取得してから読む事にしようと思う。
その他の箱も開けて行くとケーブル、本体部品、何かわからない機械、メイド服などが詰まっており最後の箱には何故か仕立て屋から今後ともよろしくと言う手紙が入っていた。
多分、大口の注文だったんだろうな。
この手紙にもまたこの国のマークと一緒に『ロイヤル』の文字。
その他にも色々な配線がなされた金属板や作業用の工具なども入っており至れり尽くせり過ぎて軽く言った事を多少後悔する。
さらに最後には『足りなければローディスに言って貰えれば追加で届けさせる』と言うバルガロフさんからの手紙も入っており改めて頬が引き攣る。
誰かに侵入されるとも思わないが怖いので道具袋内に入れる。
PKされても困るのでしばらくは道着を来た上でコートか何かを着ておこうと思う。
多少気持ちを落ち着かせた所で応接間に戻る。
3人は平和にお茶を飲みつつぽつぽつと会話をしていたらしい。
色々と不思議な組み合わせであるがミツさんがライアさんにも上手く話を振っているようだ。
開けるとまずミツさんに気付かれる。
[戻られましたか]
「お帰りタテ兄」
「おう。ちょっと荷物を開けてたらとんでもない物が届いてた」
[荷物?]
「何か届いてるの?」
「ああ、バルガロフさんに頼んでおいた……って、あ」
[どうかなされましたか]
「何かあったの?」
「いや、二人にはどう説明した物かと思ってな」
[説明しにくいのであれば実際に見せた方が早いと思われますが]
「ここで見れる物?」
「ああ、じゃあ開けるか」
そう言って先程の荷物を出して行く。
結晶類、ケーブル、本体部品、何に使うか解からない機械、書類一覧等々。
最初は興味深そうにしていた三人だったがあからさまに上質な物ばかり出て来るのを見て心なしかアリスの顔が引き攣りミツさんの目が疑惑に染まりライアさんも不思議そうにメイド服を取り出したりしている。
「タテ兄、これ、王立研究所って書いてあるように見えるんだけど」
[それにこちらの品々もいくらか質は落ちますが上等な物ですね]
「ああ、やっぱり王立だったか」
「タテ兄、一体何をやって来たらこんな物を貰える様になるの?」
[私からも聞きたいですね]
「恐ろしく長くなるけど、最初から話すか?」
「聞きたい」
[お聞かせ願えますか?]
「そうか。ならお茶を頼んでも良いか?」
[失念していました]
「ひどっ!」
[嘘ですよ。アリス様、お湯をお願いします]
「ん、わかった」
ミツがティーポットに新しい茶葉を用意する傍らでアリスが「ファイア、ウォーターバレット」と呟き空中に球状の水の球が浮かぶと共に熱せられ熱湯になって行く。
それはそのままミツが持ったティーポット内に落ち飛沫を飛ばす事無く中を満たす。
何をどうやったのか跳ねた熱湯は飛び散る事無く中に収まったのだがなんだろう、凄い技術をどうでも良い所で使われたような気がする。
お茶も入り話し始める前にミツさんから『異世界訪問者』なる話を聞く。
「意味はそのまま別の世界から来た者達ですか?」
[ええ、時に別の価値観を持った者達がこちらに来るかも知れないと創造主様が仰られておりまして実際に度々幾名かの方達が来られては去って行きました]
「それを何故俺達に話すんですか?」
[もしかすれば貴方達もそうでは無いのかと思われまして]
「確かに近いかな?アリスはどう思う」
「実際異世界。それに説明も楽」
「そうだな。それじゃミツさん、俺達は十日程前にこの世界に来た、と言う事を念頭にお願いします」
[承知いたしました。そしてタテヤ様]
「なんでしょう」
[私に敬語は不要です]
「……俺が慣れるまで待ってくれ」
[承知致しかねます]
「難しい事を要求するな、ミツさんは」
[敬称も不要です]
「…なあ、アリス、メイドってもっとおしとやかな者じゃ無かったっけ?」
「幻想」
[戦闘用でもありましたので]
「そっかぁ……」
はー、と俯きため息を吐きつつお茶を一杯。
さて、最初から話すか。
相手はアリスにしてもらおうか。
「さて、初日から話すか」
「最初からお願い」
手をぱちぱちしながら聞く姿勢になってくれるライアさん。
なんだろう、可愛い。ミツさんは静かにこちらを見ている。
最初から…ネタキャラ作成シーンは要らんな。
じゃあ熊からか。
「最初の出現位置が街じゃ無く森の中でな」
「それで?」
「それでまず目にした物が熊が吹き飛んで来て目の前の地面を削って行く所でなあ」
「ごめんタテ兄幾らなんでもそれは無いと思う」
「だよなあ……。まあカウンター発動させて倒したんだよ」
「まあ、で片付けても良いの?」
「その後も色々あったからな。まずは倒した後師匠に会ってそこで弟子入り」
「弟子?」
「デカイ爺さんでダンガロフって人が色々教えてくれる事になってな。一日目は兎を倒せず二日目で倒せるようになった」
「激昂兎を?」
「激昂角兎をカウンターで削って首をへし折って倒した」
「ごめん、タテ兄の職業がわからない。格闘家?」
「両手盾。三日目に運命の出会いが会ったんだがあの日から色々おかしくなったんだよな」
「今のこの状態になった切っ掛け?」
「今のこの状態になった切っ掛け。その日は朝から干物を作ってたんだが」
「待って、待ってタテ兄、干物作り?」
「ああ、干物作りで運命の出会いをしたんだ」
「……この先もこんなのが続くの?」
「残念ながら、続くな」
「わかった、私も覚悟を決める」
「作ってたら後ろから美人に声を掛けられてその人が先生だった訳なんだが…」
「だが?」
「ルーネ先生は師匠の師匠をやってた人だって言う情報と共に俺も先生の生徒になって鍛えてもらう事になったんだが、その後が問題でな」
「先生は何者だったの?」
「古代龍」
「え?」
「古代龍」
「……」
「矢を避けた風圧で吹き飛ばされて気絶した後に古代龍だってバラされた」
「……私が聞いても良かったの?」
「既にヨミは巻き込んであるから」
「酷いねタテ兄」
「聞きたがったのはそっちだからな」
「ズルイね」
「ハハハ。起きた後は色々貰ったり昔話を聞いたりしたな。4日目からは狼も倒す様になったし」
「一人で?」
「一人で。それに毎朝関節技を極められたりその詫びに色々装備を貰ったりしつつ色々やってたんだが六日目に不幸な事故が起こってな」
「あの動画の事?」
「うん、あれの事。真相を言うと行く方角間違えただけなんだ」
「……え?」
「うん、熊を倒す様に言われて教えてもらった方角がな……」
「タテ兄」
「なんだ?」
「ちょっと落ち着く時間が欲しい」
「お、おう」
「長くなるんでしょ?」
「まだ掛かるな」
「ヨミはよく我慢してるなと思う」
「まあ、うん、だよなあ」
何度か説明していて思う。
何やってんだろなあ、俺。
さて、お茶を飲んだら後半戦だ。
どれだけ驚いてくれるかな?
既にミツさんの目が厳しいんですが嘘くさいですかね?
ごめんなさい、本当なんです。
まだまだ。




