59 「やっぱりこの人魔王だよ!」
色々と起こり騒然となる広場。
ケンヤと話したいのだが周りがうるさ過ぎて話せそうに無い。
メンバーを見れば俺に注目が集まっていた間に既に逃げ出しているのが見える。
面倒な事になるのを避けたのだろうが置いて行かれた事に対し少し遠い目になる。
ヨミからは『先に確認しに行くから落ち着いたら来て頂戴』とのメッセージが届いていたのでしばらくはここで待つ事になるだろう。
ライアンとガノンからは『なるべくケンヤ君を連れて来て欲しい』とのお言葉。
あ、これ連れて行ったら戦わされるフラグっぽい。頑張れケンヤ。
まだ注目が俺に集まっているし特に出来る事も無いので周囲の会話を聞いてみる。
「うおおおお、なんだ今の戦い!」「ガノンさんとの戦闘も凄かったが最後の何だアレ!?」「アレを防いだ上で勝つあの盾使いなんなんだ!本当に盾か!?」「盾なんだよなあ……あれで」「おい誰か動画取ってるか!?」「おお、魔王対勇者で撮ってあるぞ!」「よし貼れ!皆にも見せてやろうぜ!」「おう、貼っておくわ」「それにしても最後のケンヤって奴一体何やった?硬直してたしスラッシュ系に見えたが」「トリプルスラッシュに見えたけど」「え、まさか両手打ちとか出来るのか?」「なんでも出来るらしいからな、多分出来るんだろう」「もしくは双剣スキルとかで乱舞とか?」「ありそうだなそれ」「派生やら何やらだったりレベルアップで使用可能スキルが増えたりとやりたい放題だからなこのゲーム」「俺は盾の魔王さんに教わったわ。カウンターって凄いんだな」「お前、討伐初日参加組か……」「ああ、プレイヤースキルって大事なんだなって。今のもそうだが」「だな。しかも綺麗にイベント告知も来てるぞ」「あ、本当だ。四日後?何やるんだろうな」「チーム分けての集団戦か街の防衛戦かもしくは特別マップでサバイバルとか?」「ああ、魔王様大活躍しそう」「なんかもう認識がレイドボスだからなアイツ」「何がどうなればああなるんだろうな」「運に恵まれたからじゃないか?」「それにしたってあの動きの説明は?」「受ける攻撃とか訳わかんねえな」「まあ不遇職でも鍛えればああなるって言う実例を見たな」「奥が深いな……」「よし、俺も頑張るぜ!」「おお、何の職業なんだ?」「行商人」「「「…………」」」「え、コメント無し?」「「「いやぁ……」」」
職業には違いないけど戦闘とかどうするんだろうか。
交渉を鍛えるんでしょうか。なんだろう、強そう。
ひとしきり騒いだ所で解散する流れになったのかこちらに感謝を述べつつ去って行く皆さん。何で感謝されてるんだろうか。
ケンヤの方にも声は掛けられているので今の戦闘の事なのだろう。
その流れも落ち着いた所でこちらに近付いて来るケンヤ。
隣には金髪の少女が申し訳なさそうな顔でこちらを見ている。
彼女が多分妹さんだろう。
目の前に来た所で話し掛けられる。
「いやあ、まさかアレを防がれるなんて思ってませんでした」
「ダブルスラッシュまでは見た事あったからな」
そう言うと少し納得した様子。
それでも疑問はあるようで色々聞いてくる。
「最後の盾投げはどんな判断を?」
「斬り方がハサミだし間に何か挟めば切るまで多少時間は取れるかなと思って投げた」
「受けるか下がるかのどちらかを取ってくれたならまだ追撃出来たんですけどね」
「こっちとしてはスキル使用後の硬直時間にトドメを刺せるかと思ってな」
「スラッシュ系は硬直短いんですけどね……」
「攻撃スキルを最後まで使ってなかったから使われた瞬間に今しかない!って思ったぞ?」
「見せなさ過ぎて躊躇を作り損ねましたか…」
「多分な。それと多分盾関連なら持ってるシールドアタック系のスキルが俺には無い」
「えっ?……道理でシールドアタックなどもある筈なのに使わないと思ったらそう言う事だったんですか?」
「それと職業スキルしかまだ取ってない」
「えっ!?嘘でしょう!?」
これには苦笑いをしつつ返答。
「大真面目に本当。情報集めを一切してなかったからな」
「ああ……。でもキャラ作成時に言われてた筈ですけど」
「このネタキャラ作るのに夢中で重要な事しか聞いてなかった」
「ええ……」
「それとスキル使わないと攻撃力0だからな俺」
「えっ」
目を丸く見開くケンヤ。話を聞いてた妹さんも驚いてる。
まあ、普通は攻撃力にも振ってるよね。
振ってないんですよこれが。
「本当だぞ?」
「え、じゃあ最後のパンチは……」
「職務怠慢系のスキルだな」
「あの感じだと防御力が0になるんですね?」
「正解。まあ使いどころ間違えたら瞬殺されると思うが」
「死に戻りは?」
「まだ無いな」
「……強いですね」
「貰い物だけどな。さて話は変わるが横に居るのが妹さんで良いのか?」
そう聞くと一瞬困惑したようだが妹さんを紹介してくれるケンヤ。
「あ、はい。妹のミカです。ミカ、こっちに」
「初めましてタテヤさん。ミカと言います。兄の勝負を受けて下さった事、ありがとうございます」
「よろしくミカさん。なあケンヤ」
「なんでしょうか」
「兄より余程しっかりしてそうなんだけどミカさん」
「外向きはそうですね。敬語を外せば結構変わりますよ?」
「良かった、兄よりも優れた妹が居るのかと…」
「あ、そこは実際優秀です」
「……辛いな」
「こう言うゲームでも無いと先手が取れませんからね」
「あの、兄さん、タテヤさん?勝手な事ばかり言ってると斬りますよ?」
「「ごめんなさい」」
笑顔で怒られた。柄に手が掛かってるんですけど。コワイ!
怒られた後に何かを思い出したのかケンヤが話しかけて来る。
「あ、そう言えば聞きたい事があったんですけど」
「なんだ?」
「いえ、タテヤさんは六日目に送って来たあのメッセージの送り主で良いんですよね?同名の人が他に居るとも思えないんですけど」
「おお、そう言えば送ったな。確かに俺が送り主だがどうした?」
「いえ、あの後友人さんに会えたのかなと思いまして」
何このイケメン。気に掛けてくれていたなんて……。
「ちゃんと会えたよ。さっきまで居たヨミって奴なんだが知ってるか?」
「ああ、魔王の鬼嫁さんですか」
「……え、鬼、付いたの?」
「ええ、付いてますよ。知らないんですか?」
「掲示板も見ないからなあ」
「結構面白いですよ、見てみたらどうですか?」
「今度見てみる」
「会えたなら良かったです。あ、フレンド登録良いですか?」
「おう。それじゃ送っとくよ」
「ありがとうございます。出来ればミカも良いですか?」
「ぶっ飛ばされた相手とフレンドとは……」
「『私が倒して見せます!』って意気込んで最後まで残ったのに打ち上げでられたと聞いた時には思わず笑っちゃいました」
「いやー、新居が俺を待っててな」
それを聞いて何かを認めたくない様な顔をしているミカが入ってくる。
「えっと、あの、タテヤさん、新居ってなんなんですか?」
「ウチのメンバーから家を貰える事になってな。それを早く見たいが為に急いだんだ」
「えっ……」
「焦りからか思い切り殴ってごめんな。すまん」
「いえ、その、そうじゃなくて……。家に負けたんですか私たち」
「そうなるな」
ミカはそれを聞き俯いて何かをぶつぶつと呟く。
そして兄の方に顔を向け、数秒溜めてから叫ぶ。
「兄さん、この人魔王だよ!悪魔だよ!酷いよ!」
「そうだな妹よ、魔王だろう!」
「まあ実際酷いよな」
「否定されなかったんだけど!」
「さすがはタテヤさんですね!」
「よーし二人とも魔王の新家に招待してあげよう」
「えっ!?」
「良いんですか?」
「ただし条件がある」
「な、なんですか?」
「なんでしょう」
「ライアンとガノンと戦ってもらいます」
それを聞きミカは驚愕しケンヤは少し獰猛な笑みを見せる。
兄の様子を見て再び妹が数秒溜めてから叫ぶ。
「やっぱりこの人魔王だよ!」
「そうだな、魔王だな!」
「楽しんでないか……?」
面白い兄妹である。
ミカさんのテンションが解からないよ……。
さて、やっと行けそうだ。
早く落ち着きたいなあ……。
イベント盛りだくさん。




