57 続々 会話
ギルドを出る寸前に借りていた部屋を引き払わなければ行けない事に気付き荷物を取りに走る。僅か一日泊まっただけだったので特に思う事も無くベッドと木彫り熊を回収。これからは街で過ごす時間の方が長くなるかなと思うが多分色々出歩く事になるんだろうなと思う。
引き払う時に部屋の確認の為に多少時間を取られたが同じエリアなので然程時間は掛からずに再び宵闇の森まで戻る。
急ぎ戻るとホーム前には既に改良された背負子に座り手を繋いだ状態のミツさんライアさん。その隣にヨミが立っており近付いて行くとこちらに気付いた様なので声を掛ける。
「おお、ヨミ、わざわざ出て待っててくれたのか」
「他の皆は先に行ったわよ?」
「え、家主置いて行ったの……?」
「まあ理由としては街中探索って言ってたけど多分、ね」
「あー。まあ後で誘う予定だったしまあ良いか」
それを聞いて半目になるミツさん。
ヨミもため息。
[そこは怒る所かと思われますが]
「一応私も止めたんだけど外見を先に見てる分止める理由が弱いのよね」
[それに彼らも中には入らないと言っていましたがそれを伝える前に許すとは]
「まあ実際送る側としての確認の時間を取りに行ったんでしょうね」
[成る程。そのような見方も出来ますか]
「ただ早く行かないと目立つと思うわ」
[もう遅いと思われますが]
「あー……」
そこでこちらを見るヨミ。
「えっと、もう背負っても良いんだよな?」
「ええ、そうして頂戴」
「おう。それじゃミツさん、ライアさん背負いますよ」
[ええ、お願いします]
断りを入れてからしゃがみ込み背負子を背負い立ち上がる。
立った所でヨミからの疑問の声。
「……そう言えば私もライアさんとミツさんの事が見えたままなんだけどなんでかしら?」
「気に入られたんじゃないか?」
「そうなのかしら?ライアさん」
自分は背負っているので見えなかったが多分ライアさんはにこにこしながらヨミの事を見ていたと思う。多分だけど。
その後は特に背中の二人に視線が集まると言う事も無く北北東エリアから新居の南南東エリアの端近くに向かう。のんびり歩きつつ冒険者用の店や建物の間のスペースを使った露天等を横目に見ながらまずは中央噴水を目指す。
ミツさんとライアさんは静かに揺られているのでその間ヨミと雑談をする事に。
「結構離れてるな」
「あの場所になったのは色々理由があったのよ」
「そう言えばなんで北側じゃなくて南側の物件になったんだ?」
「それなりに安くて改造しても良くて尚且つプレイヤーがあまり行かない場所を探した時にあったのがあの場所だったの」
「ああ、なるほど?」
「それにアンタが色々動くにしても北側だと目立ちそうだったから……」
「あー…。顔バレしてるもんなあ」
「私達以上に有名になってるから多分歩いてるとPvP売られると思うわよ?」
「え、何そのシンボルエンカウント方式」
「避けられるだけマシじゃない?」
「うーん、そうだろうか」
「それで話は変わるんだけど」
「うん?」
「新居が今のホームより上の物になる訳だけどギルマスとしてはどうする?」
「どうしようかねこの地位。返品しても良い?」
「返されて野良になられたり平団員になったら他からの勧誘戦争が起こると思うけれどストレスとか大丈夫?」
「あー……」
申し訳無さそうなヨミの顔。
「私が頼んだのが原因だから怒ってくれても良いんだけど」
「発端は周りだから怒りにくいしこっちに頼んだのも最終手段だったんだろ?」
「こっちは利用するだけした上にギルマスにして更に素材とか情報とかで色々施して貰ってる訳だから無理難題吹っ掛けて貰わないと返せないんだけど」
「うーん、親友の頼みだったから何も求めないって事にしといてくれないか?」
「私一人だったらそれでも良かったんだけどね」
「あー、そっか、他の面々か」
本当に思いつかないのでどうしようか。
ヨミも何か頼んで欲しそうにしているが自分としては普通にこの世界を楽しみたいだけなので真面目に悩む。しかし考え付かないので話しながら考える事に。
「下心からの行動だったって事で評価がプラマイゼロになって帳消しとか無理?」
「その下心、殆ど見えてない訳だけど信じてもらえるのかしら」
「え、結構出してたと思うんだけど」
「二日前の事を見た後だとアンタが下心から動いてたって言われても信じてもらえないわよ」
「サッカーか……」
「多分上がってるわね、好感度」
「下げられないか?」
「無理でしょうね」
無理か。それにしても、まあ。
「堂々巡りだなあ」
「それだけこっちも悩んでる事は覚えておいてくれる?」
「覚えとくよ。あ、そうだ来る前に一狩りしたんだがまたギルドに入れといても……」
「貸しだけが増えるわね……」
「あ。ま、まあ、俺の加護とか消えたら普通だから、な?」
「……ホント、どうしてこうなったのかしらね?」
「不思議だよなあ」
二人して遠くを見つめる。
そこに届いてくる喧騒。
「なんだ?」
「何かしら?」
声がする方を見れば中央の広場で何か起こっているようだ。
自然と早足になり広場に辿り着き噴水の傍を見ればそこに居るのは先に出ていたであろうギルドメンバーの面々とその前に立っている少年が一人。
髪は金、背丈はそれなり。顔から窺える年の頃は俺と同じぐらいだろうか。
メンバーを見ればライアンとガノンは面白そうな物を見ている笑いの表情。女性陣はカスミとアリスとアデルリットはぼんやり眺めている。アリサは顔に手を当て笑いを堪えつつコノハナは目を白黒させカナはおろおろしていてカナミがそれを抑えている。
そしてこちらを向いた少年から聞こえてくる声。
「僕はケンヤ!魔王との一対一を所望する!」
それを聞いてまずは横のヨミに顔を向ける。
「なあ、ヨミ」
「ごめんなさい」
そう言いつつ目を逸らされた。
「ヨミさんや」
「なんと言うか……、本当に居るのね?」
「これでアイツが『僕は勇者だ!』とか言われても頷けるぞオイ」
「さすがにそれは無いと思うけど……」
そしてまたケンヤ君の声。
「タテヤさん!僕は貴方を倒して勇者になる!」
ヨミに目を向ける。
「ごめんなさい」
謝られた。
そしてどうやら戦わないといけないらしい。
ごめんなさいゲンコツさん、もう少し掛かりそうです。
何かを諦めつつも近付いて行く。
背中のミツさんからのコメント。
[タテヤ様は本当に不思議な体質を持っているのですね]
体質なのか、コレ?




