52 ガードと二刀流とミツ
さて、と。
唐突に戦う事になった訳ですが。
「ライアさん、この方を壊した場合は……ごめんなさい全力でどうにかします」
ニコニコ笑顔の威圧を貰ったので全力でどうにかする手段を考える。
さて、何をしないといけないのか。
1、壊してはいけない
2、反撃して壊してもダメ
3、上二つを厳守しないとライアさんに怒られる
三つ目が一番ヤバイですね。
ううむ。
考え込んでいると構えたまま首を傾げる自動人形。
[来ないのですか?]
「少々お待ちを」
そう言って刀を外し左前腕に小盾を左手に手盾を着け、右手に手盾を持つ。
そして最後。
4倍返しのスキルをオフにする。
さて、頑張りますか。
左手を腹の前に置き右手を振りかぶれるように構える。
そして近付いて行く。
しかし何もしないし出来ない。
[来ないのですか?]
「攻撃手段が無いものでして」
[そうですか。では防いで頂きましょう]
「お手柔らかにお願いしますよ」
[では、行きます]
「はい」
そうして静かに戦闘が始まった。
しかしとても考える事が多く難しい戦いだった。
自動人形さんの構えは左手の盾を前に出しその影に隠れるように右手を構えている。
動きはこちらへの盾の殴り付けを行いそれを右手で防ぐと次の瞬間身体に開いた隙間に刺突剣を突き入れてくる。
どうにか左手を狙われそうな箇所に伸ばし受ける。
自動人形は防がれたのを感覚で知ると体勢を戻しまた最初の構えに戻る。
ガノンさんで慣れていなければ刺さっていただろう。
これ、本当に目が見えてないんですよね?
そしてマズイ事が判明。
下手に受けると自動人形さんの身体が保ちそうに無い。
どうにも見た目に反さず中身もボロボロであるらしく動く度に何かの粉が落ちて行く。
こっちの盾に当てた衝撃で右腕からミシリと音がしたので限界が近いのだろう。
なので当たる瞬間にこちらの盾が弾き飛ばされる様に受ける。
ボクシングのミット打ちの打たれる側の感じだろうか。
今まで知らなかったのだがジャストガードはどうも攻撃判定が発生すれば判定してくれるらしく自動人形の攻撃速度が無い時でも当たればそこで判定が起き一瞬自動人形の動きが止まると言う事が何度か起こった。
どうも攻撃のダメージを軽減したり0にする事でそこで相手が込めた力が消えるらしい。
今まではカウンターで反射していたので気付かなかったがこれも中々酷いと思う。
[本当に攻撃して来ないのですね]
「壊したら後が怖いので必死です」
[それにこちらを気遣う余裕まであるとは]
「貴女の身体も直す対象ですので」
[それは嬉しいお言葉。ですが少々足りませんね]
「え、まだですか?」
[あと少しだけお付き合い下さい]
「はあ、わかりました」
[ありがとうございます]
そう言って自動人形は左手の盾を投げ捨て背側の腰に着けられた剣を抜く。
刺突剣と長剣の変則二刀流になった。
あれ?二日前にも見たような……。
[では、行きます]
「え、あの、のわあああ!」
そこからは大変だった。
まずカウンターが出来ない。
なのでひたすら受ける事に意識を向ける事が出来たのは良かった。
ただ刺突剣の動きが面倒である。
多用はして来ないのだが左手の長剣に意識が向いていると突き込んでくる。
速さはそこまででは無いのだがただタイミングをズラされるので困る。
あと一番の問題。
自動人形さん、笑顔なのは良いんですが全力で叩き込んで来るんです。
あの、こっちが受けるの失敗したら壊れるんで勘弁して下さい。
めっちゃミシミシ言ってるんですけど。
え、これ壊れたらやっぱり怒られるの?
ど、どないせえと。
そして俺にとって絶望の音が響き渡る。
ビキッと言う音と共に自動人形さんの左足が折れた。
自動人形さんがコケる。
俺の頬が引き攣る。
ライアさんの笑みが深くなる。
[あら?……これ以上は戦闘を続けられませんね]
「ご、合格でしょうか?」
[ええ、合格としましょう]
「お、おお……やっと終わった……」
[お疲れ様です。それとお聞きしたい事が一つ]
「なんでしょう?」
[どうして攻撃をなさらなかったのですか?]
「理由は壊してはいけない、だけで十分だと思いますが」
[何度かこちらも隙を作っていたのですがそれを見逃す程弱くは無いでしょう?]
「自分は素の攻撃力が0なんですよ」
[え?]
「スキルを使わないと攻撃出来ない上に基本的にカウンターでしか反撃出来ません」
[……と言う事は先程の戦闘は]
「ええ、本当に防ぐだけしかしていません」
[気遣い、ありがとうございます]
「それでも一部分とは言え壊れたんですが大丈夫ですか?」
[動きに支障はありますが貴方に直して貰えると思い無茶をしました]
「頑張りますがその前にお願いしたい事が」
[なんでしょう?]
「ライアさんから壊さないようにと示されていたのですがこの場合どうなるのかをそちらの口から説明して頂けると……」
[ああ、そうですね。これは私が自分からやった事です。貴方が気に病む事は無いですよ]
「との事なので許してもらえませんかライアさん」
ライアさんを見るとOKが出たので安堵する。
さて、次はこの人も連れて行く訳なんだが。
「そう言えば、貴女の名前は何と言うんでしょうか」
[名前、ですか。正式名称は無くNo.3と呼ばれていました]
「うーん、番号かあ。ミツさんとかどうでしょう」
[安直ですね]
「ですよね」
[では今後ミツ、と名乗る事にします]
「え?」
[まさか撤回はされませんよね?]
「いえ、あの、はあ。それで良いのでしたら」
[さて、これからはどうなさるおつもりですか?]
「予定としては街で用事を済ませた後にミツさんに色々聞きたいですね」
[承知致しました]
「しかし移動をどうするか。あ、そうだライアさん、背負子って作れます?」
[私は背負われるのですか]
「ですね」
ライアさんにトレントの原木を渡して背負子を作ってもらう。
そしてそこにミツさんを乗せて背負う事に。
「でもそのままだと移動中に崩れそうですね」
[さすがに過度の衝撃には耐えられないかと思われます]
「うーむ。あ、そうだ」
[今度は一体何を?]
「ミツさんのボディ部分をライアさんのツタで巻いてもらおうかなと」
[そのような事が出来るのですか?]
「多分出来るかと。ライアさん、お願いします」
一回頷くと一気に服の隙間から全身をツタで巻かれていくミツさん。
隙間無く巻かれているようで動きは鈍くなったが崩壊はしにくくなったと思いたい。
顔には布を巻いて貰う事にする。
なんと言うか、大掃除中の人の装備みたいになった。
「うん、面白い見た目になりましたね」
[もう一度斬りましょうか?]
「え、まだ仕込みが?」
[侍女ですから]
「侍女はそれが普通なのか……」
[嘘ですよ]
「えっ」
[では、お願いします]
「は、はあ。……あ、そろそろ時間もマズイ。ライアさん行きましょう」
その後は急いで背負子に座ったミツさんを担ぎ螺旋階段を登る。
入り口を出た所でライアさんに再び封印してもらいその間にヨミと会話。
どうやら今日もそれなりの人数が居るらしい。
それと既にゲンコツさんの所に発注したらしく街外れに近い所の家を買い取って魔改造に着手したらしいが魔改造の文字に不安を覚えた。
何をするんだろうか。
封印も終わった所でライアさんをお姫様抱っこして全力ダッシュ。
後ろでミツさんが結構揺れてたが許して欲しい。
長い時間を戦っていたので時間がヤバイのです。
そうして走っていつもの平原に辿り着き。
ヨミと出会ってまず言われた事は。
「また変なの背負ってるわねアンタ。周りに見せても大丈夫なの?」
「あ」
ミツさんの事どう説明するか考えてませんでした。
うっかりですね。
しかもミツさん左足が無いです。
誤魔化せないなあ……。
何はともあれまずはPvPを終わらせよう。
そして修理に着手したい。
結構ワクワクしてるんです。
うへへへへ。
と言う訳で3体追加となります。




