51 朝と投げとまた遺跡
十日目。
朝です。
横を見ればライアさんが座っていました。
テントの入り口を見れば地面近くの隙間から女性の手が覗いており「おのれぇ~」と言う先生の声が聞こえる。
どうやらまた捕まったらしい。
それを見て昨日言おうと思っていた愚痴について少しは優しくしようと思った。
「ライアさん、おはようございます。先生はまたですか?」
頷かれた後に入り口を開ける。
足元にはツタに足首を絡め取られて倒れたらしくこちらに手が届いていない美女の姿。
うん、インパクトが凄いです。
「おはようございます先生」
「おはようタテヤ君!ちょっと助けてくれないかな!?」
「…今日は何をしようとしたんです?」
「……ちょっと忍び込んで装備を着けてあげようかなって」
「遂に理由無く神話装備渡されそうになってたんですか。朝食抜きですね」
「えええー!?」
「ライアさん、お願いします」
一言頼むとじたばた暴れる先生をきっちり包んでくれるライアさん。
うーん、残念美人。
良くわからない物体になった先生を跨いでテントを出る。
焚き火の方向を見れば師匠だけ。
先生の方に目線を飛ばしてからこちらに戻して来た所で挨拶。
「おはようございます、師匠」
「起きたか。しかしワシ以上に遠慮が無いな」
「なんと言うか、龍扱いすると負けた気分がしまして」
「……ルーネ師匠に限ってはそれで良いのかも知れんな」
「多分ですが。他の方達は?」
「ケティー殿は昨日の内に弟と共に街に送って行った。ヤク殿は先程森へ戻られた」
「客人はライアさんだけですか」
「ああ、それと頼みの件に付いてじゃがバルからはローディ宛に送っておくそうじゃ」
「わかりました。街に行ったら寄る事にします」
「そうしてやれ。しかし昨日は何があった?」
「ああ、そう言えば着替えてませんでしたね」
そう言えばまだぼろきれを纏ったままだった。
布の服にしておく。
「幾ら修練の輪を使ったとしてもお主でも服がぼろきれにされるとは驚いたぞ」
「昨日は行った方向が悪かったようでして」
「まさか、とは思うがルーネ師匠と話していたのは」
「ええ、兎が多めに居る方角を聞いたんですが…」
「何と戦った?」
「輪を着けた状態で兎と狼と熊と静かな熊と連戦しました」
「……よく、生きて戻ったな」
「どうにかですが生き残りました」
「よく生き残れたのう」
「ただ昼から戦って夜になったと言うのは自分でも疲れましてどうにか帰って来た後に即座に就寝をしました」
「凄まじい戦いを生き延びて来たならばあの動きも頷けるな」
「何か変わってましたか?」
「お主覚えておらんのか?」
「何がでしょう?」
「帰って来てからルーネ師匠の突撃を片手で放り投げておったが」
「へ?」
一切覚えてないですヨ?
ん?でも、あれか?
戦闘が終わってからどうにか帰ってテントに入る前のあれだろうか。
「あの、師匠」
「どうした?」
「えっと、帰って来る時には精神的に疲れ果ててましてあまり覚えて無いのですが一つだけ心当たりが」
「思い出したか?」
「いえ、頭の中では飛んできた兎の首を右手で掴んで上に放り投げたと言う感じでした」
「こっちからはルーネ師匠の首元を掴んで何やら腰を落としたと思うとルーネ師匠が遥か上空に飛んで行っておったのう」
「あれ?でも確かその時は修練の輪を外してたのに兎の速度と間違えた……?」
「ワシとしてはお主の反応速度に驚いたがの、何かあったのか?」
「いえ、輪を着けた状態の兎砲弾の速さと外した時の先生の速さが一緒ぐらいだったんですがどれくらい早かったんです?」
「ルーネ師匠としては加護を与えた分気兼ね無く行けると思ったのじゃろうな。軽く地面がえぐれた状態で飛んで行かれた後にお主に投げられて叫んでおった」
「ああ、やっぱり凄い勢いだったんですね」
「しかし無意識とはの。やらせたルーネ師匠もあれじゃがお主も相当な化け物じゃの」
「師匠、俺はまだ人の域をギリギリ外れて無いと思うんです」
「まあ、そうじゃのう」
そう言うと師匠は諦観の目をルーネ先生に向けた。
あの、まだ大丈夫ですよね……?
しかし投げ飛ばしていたとは。
いつの間にやってたんでしょうね。
昨日の戦闘終了時くらいから記憶が無いです。
あ、そう言えばヨミに謝ってないや。
街に行ったら謝る事にしよう。
「今日はどうするつもりじゃ?」
「朝の一狩りをしたら街に用事をこなしに行く予定です」
「ふむ、そうか。鍛えるのをサボらなければ自由に過ごせ」
「はい。ルーネ先生の加護に負けないぐらいに強くなって見せます」
「……お主も無茶をするのう」
「意地みたいな物ですが」
「それもまた良し。存分に鍛えて来い」
「ただ何か起こればここに帰って来てるんですよね」
「おかしな事も起こり続けると運命の様じゃのう」
「不思議なモノです」
「ま、流されるが良かろうて」
「師匠、先生の流れを止めて下さい」
「それは無理じゃ」
「師匠……」
かか、と笑う師匠。
いつかはこの人と戦闘して生き残らないとダメなんだろうなと思うと体が重いです。
さて、とりあえずは街に行ってちょっとなぎ払うお仕事をしなければ。
……ちょっとの基準が麻痺してる気がするけどもう遅いよね?
今日は一体何人だろうか。
その後朝食を取りライアさんを伴って朝の一狩りに出発する。
昨日は兎と狼と熊を多めに狩ったので今日は蟻と木を確保しようと思う。
枠もレベルアップで増えたので色々便利になった。
そして現在の装備は首飾りと脚甲と刀のアサシンスタイル。
どうみても盾職じゃ無いですね。
素材の為なら仕方無いんや!
嘘です。
いやだって楽しいんですよ。
サクサクHPバーが割れて行く様を見ちゃうとね。
今は職務投棄があるとは言え無かった場合の事を考えるとこの楽しさが際立ちましてね。
戻れなくなりそうです。
そうこうしている内に昨日と合わせて700枠近くを刈り取る。
いやー、便利。
「そろそろ街に行きますかね、ライアさん。……今日も連れて行きたい場所が?」
袖を引かれたので聞いたら頷かれた。
さて、今日は何とご対面するのかね。
そうして結構早めに走るライアさんに連れられて走る事十数分。
多分街の西側の山の方に来たと思う。方角としては北西?
まだ森の中だがマップ名を見るとランドロン鉱山とあった。
その内に目の前が開けまたもや地面に埋まった建物がそこにはあった。
ああ、またですか。
しかも昨日よりドームの直径が大きいんですけど。
「えっと、今日はここですか?」
頷かれたので入り口を探す。
あれ?見当たらないぞ?
そう思いライアさんを見ると驚愕の光景。
「入り口が見当たらないんですが……あの、ライアさん?そのツタで掲げた岩を一体どうするおつもりで?」
その疑問には笑みと共に答えられた。
思い切りドームに岩が叩きつけられると共にその当たった部分がいとも容易く壊れた。
砕かれた部分から中に続く道が出てくる。
……容易く?
砕かれた部分を見ると土の塊だった。
「ライアさん、この部分だけ土の塊に見えるんですけどもしかして?」
ニコニコ笑顔で返された。
多分ライアさんが封印していたのだろう。
おっかなびっくり中に入ると少しの直線がありその奥には螺旋階段が。
崩れ落ちやしないかとビクビクしていたらライアさんがツタで補強してくれた。
ありがとうございます。
そうして降りて行くと円形の広間の中心に出た。
見回せば8つ程分かれ道がありライアさんはその内の三つを指差す。
疑問を抱きつつも他の道も後で行く事にしつつ優先的に差された道に入って行く。
明かりに関してだがライアさんが光の球を浮かべてくれておりかなり見える。
自分もフラッシュを覚えたらドヤ顔フラッシュが出来るだろうか。
何処かでヨミに聞いてみよう。
一つ目の道に入って行く。
少しすると道より少し広めの空間に出た。
奥には扉のような物とその前に座り込んでいる侍女服を着た女性の姿。
どうやらまた、らしい。
「ライアさん、お願いします」
この人は左半身がかなり失われており左肩から股間に掛けて欠けており部品が周囲に飛び散っている。
ライアさんに拾ってもらいそれを道具袋に入れた所で次に向かう。
扉に関しては開かなかったので門番なのだろう。
何を守っていたのだろうか。
二つ目。
同じ道のりで今度もまた扉の様な物が見え、その前に座り込む侍女服風の姿。
こちらも回収する。この人はどうにも破損が少ないのだが自動停止なのだろうか?
三つ目。
奥に辿り着くとまた扉があったのだが今度は様子が違った。
扉の前には薄汚れ、所々ほつれた侍女服を着た女性が立っておりこちらを見ていた。
右手には刺突剣を握り左手には小盾を装備している。
その身体には何処もかしこもヒビが入っており動く度に破片が零れ落ちそうな程だ。
それを眺めていると話し掛けられる。
[侵入者ですか?]
ひび割れた声だがそれでも聞き取った。
しかし侵入者か。間違ってはいないんだが。
「連れて来られた場合はどうなるんでしょうか」
[連れて来られた?]
「はい、ライアさんに連れられて」
[その方はどちらに?]
「自分の横に居る少女がライアさんです」
そう言ってライアさんを前に出すがよくよく見ると女性の目に光が無い。
どうやら見えていないらしい。
しかし俺が動くと微かに揺れるので何かしらのセンサーを持っているようだ。
[私の目では見えませんね。貴方は一体どうしてここに?]
「修理を頼まれまして」
[修理?私達のですか?]
「ここに居るライアさんに頼まれて、ですが」
[直せるのですか?]
「挑む事を許されるのであれば直したいと思います」
[そうですか。では一つ試させて頂きましょう]
「何をでしょうか」
[私に勝って下さい]
「はい?」
[では、行きますよ?]
「えっ。あの、ライアさん、これは一体」
ライアさんを見ると即座に道の方に逃げておられた。
目の前の女性はギギと音を立てつつも構えて行く。
あ、これは逃げられませんね。
しかしどうしようか。
ま、やってみよう。
アイエエエ動いたアアアア!
です。




