46 隠蔽と笑顔と運搬
初期話の方から少量ではありますが合間合間に地の文を追加する事にしました。
耐えて下さっていた方々、ありがとうございます。
のんびりやるつもりなので追加した場合は最新話の後書きにて追記を入れます。
少し痛み出した胃を抑える様に右手を腹に当てつつバル王からの頼み事について考える。
ダンガロフ師匠は王族で、弟さんが会いたいと言った。
森の中はライアさんが居ればどうにかなる。
俺の頼みを聞いた事を説明しに行かないと先生のお茶目で国が滅びかねない。
あっこれ断る要素無いや。
「自分の方からは特に断る理由が無いですね」
その言葉に笑みを浮かべるバル王。
「おお、そうか!ではよろしく頼む!」
「ダメに決まってるわよ!」
その頭をスパコーンとはたくローディス。
バル王の頭が前に倒れテーブルの縁に額が当たりテーブルにヒビが入る。
大丈夫なのかな?
「えっと、ギルド長、先程からの口調に関して聞きたい事もありますが一応説明をお願いしたいです」
額をさすりつつ身体を起こすバル王を見つつローディスが説明してくれる。
「口調に付いては私がダンやルーネさん、このバルと昔なじみなのとダンの弟子だってわかったから無理にギルド長を演じる必要も無いと思ってね。ダメな理由は王がそんな簡単に執務を空けるなって所。他にも安全上の理由だったり顔バレしたらどうするんだとか服装はどうするんだとかはあるんだけど一番の問題はあの森のモンスター程度なら片手間で狩れる実力があるから力尽くで止められないのよねえ」
えーっと。これって頭をはたいた理由って、あれか?
「一応止めたフリって所ですか?」
その答えに笑みを強くするローディス。
「正解。さすがに送り出すにしても顔見知りの私が止めなかったら問題になるからね」
「と言う事はどうなるんでしょうか」
「バルが後で激務で倒れるのも厭わないのなら行って来ても良いわよって事」
「だそうですがバル王様、大丈夫なんですか?」
聞くとゆっくりと口を開くバル王。
「ああ、その程度なら戻ってからどうにかしよう……」
ローディスさんの言葉に遠い目をしつつも答えるバル王。
あ、既に激務が待ってる目をしてる。師匠達の所まで徒歩二時間だけど大丈夫なのかな?
その辺は自分が気にする事では無いだろう。
「それにしてもバル王様は強いんですよね?それに弟であればダンガロフ師匠達が今住んでいる所も知っている筈じゃ?」
その言葉に苦笑を浮かべるお二人。
苦笑したままバル王が口を開く。
「あの二人は元々様々な国を巡る旅をしておってな、その過程で色々と家も与えられておる。その上ワシは先程まであの森に兄達が住んでいるとは知らないままでのう」
同じく苦笑したままのローディスも後を継ぐ。
「私もさっきケティーの手紙で知るまではこんな近くにあの二人が住んでいるなんて知らなかったのよ?」
その言葉に疑問を抱く。
「あれ?でもケティーさんは数年毎に師匠達が熊狩りを手伝ってくれているって……」
「それがねえ、私には引退した熟練冒険者を新人教育の為に参加してもらうって事しか伝わってなかったの。お礼をしたいと申し出てはいたんだけど断られ続けちゃってて遠慮しいだと思ってたらまさかのまさかよ!」
「なんで情報が伝わってないんでしょうね?」
それにはバル王。続けてローディス。
「あの二人は英雄じゃ、そんな二人が居場所がバレたらどうなると思う?」
「抱え込みたい権力者が群がりに来るわよね?」
ああ、さっき言ってた事か。
「つまり街ぐるみで隠蔽し続けて来たと?」
「そう言う事になるかのう」
「私達にまで隠さなくても良いのにね」
同時にため息を吐くお二人。
それと同時に嬉しそうな笑みを浮かべている。
「何故隠されていた事に対して笑みが出るんですか?」
そう聞くと二人は少し顔を見合わせてから笑い出した。
なんで笑っているのだろうか。
「ああ、そうか、そうじゃったの、説明をせねばならんのう」
「そうねえ、まず一つはこの街を守ってくれている事。それともう一つはルーネさんの事を恐れない子がこの街から出て来てくれた事に対してかしらね?」
俺?何か笑われるような事をしただろうか。
「自分と隠されていた事に何の関係が?」
「だってタテヤ君はこの街の子でしょ?隠されていた事を知らないままでも龍の事とこの国の英雄のお話は知っているでしょう?」
そうローディスさんに言われる。
……えーっと?
街ぐるみで隠す事を決めたのはこの街の爺さん婆さん世代で、自分は孫レベルの年齢だから当時の事は知らなくてもおかしくは無くて、でも龍の話を聞いて恐れたり憧れたりするのが当たり前の事で?その上で英雄達と出会って普通に過ごしてその上弟子入りした俺がってええいつまりなんだ?
俺はこの街の子供だと思われていて自分の年齢だと師匠達の事を知らないまでも英雄の話を聞いていてもおかしくは無くてそれを聞いた上で師匠達と普通に喋っていたと思われている。
凄い度胸がある奴ですね!
「いえ、自分は本当に何も知らないまま師匠達と出会いまして」
その言葉にきょとんとするローディス。
「あら?それじゃあ一体何処から来たのかしら」
どう返せば良いのでしょうか、これは。
プレイヤーだと説明する訳にもいかんし。
そうだ!こんな時こそ記憶喪失設定を!
「とても遠くから来たのでしょうが記憶が所々無くてですね」
「気付いたら森の中だったの?」
「ええ、意識が戻ったと思ったら目の前を熊が通過して行きまして」
「そこでダンと会ったの?」
「はい」
「大変だったのねえ」
「最初に会ったのが師匠で無かったら今頃死んでいますね」
最後の言葉は本心から言う。
それが伝わったのか頷いてくれるローディスさん。
「まさかとは思うけれど本当に知らなかったのね?」
「ええ、師匠達に話を聞いても簡単に言われたので師匠達は凄いなあとぼんやり思ったぐらいですがケティーさんに詳しく聞いて驚愕しました」
それを聞いて頬に手を当て思案するローディス。
バル王は苦笑されている。
「手紙の最初にも書いてあったけど本当に不思議な子ね」
「そうですかね?」
「やった事に対して疑問は抱かなかったの?」
「師匠達ならやってそうだなと思いまして特に気にせず流しました」
「うーん、やっぱり不思議ね。まあだからこそなのかも知れないわね」
「はあ」
よくわからないが何かを納得されたご様子。
そして話が変わる。
「さて、それじゃこれからバルと一緒に二人の所に行く事になるけど大丈夫?」
「徒歩だと二時間掛かりますけど大丈夫ですかね?」
バル王は二時間と言う単語に口端を引き攣かせたが「大丈夫じゃ……」と言う。
なんでしょう、煤けて見えます。
「帰った後の事は置いておくわ、道中はどうするの?」
「道案内はライアさんに任せて自分はもしもの為の護衛でもしようかと」
それを聞いて口調が最初に戻るローディス。
「アタシも仕事が無ければ行ったんだけどねえ、全くギルド長なんてやるもんじゃないよ」
「あの、ギルド長、口調が」
「ああ、ごめんなさいね。それで一番の問題は街を出るまでよねえ」
「バル王様は顔を知られていたりするんでしょうか?」
「それは無いわね、ここは結構辺境なの。でも……」
「でも?」
「見た目からダンの親類だと思われてそこからバレるかも知れないわね」
「あー……」
それを聞いて顔を背けるバル王。
何も考えて無かったんでしょうか。
「どうしようかしら?」
「どうしましょうかねえ?」
と二人で悩んでいると左手をライアさんに引かれる。
なんでしょう?ライアさんを見るとツタを何処からか生やしバル王の方に伸ばしている。
「なんじゃ!?」との声をする方を見ればバル王がツタでぐるぐる巻きにされていた。
何コレ。
「どうしたんですかライアさん?……何故ツタでバル王を簀巻きに?」
困惑しつつ眺めていると何かを察したローディスさん。
「あら?それ、良いわね!」
「え?」
「ドライアドさん。それ、顔まで覆えるかしら?」
コクリと頷き綺麗な繭状にツタを動かして行くライアさん。
騒いでいたバル王も理由を察したのか静かになる。
完成したのは中にバル王が入ったままのツタで出来た繭。
そしてライアさんはそれに背負う用のツタを加えて行く。
ああ、なるほど。
「街を出るまでは背負えば良いんですね?」
ニコニコ笑顔を返される。
どうやらそうらしい。
そしてこちらを見る呆れたような感心したようなローディスさん。
「王をツタで覆った上で背負うなんて光景を見れるとは思わなかったわね」
「背負う事になっている事も前代未聞なのですが」
「それもそうね。他の人に聞かれたら私からの依頼で荷物を運んでいる事にしなさい」
「そうさせてもらいます」
「それじゃダンとルーネさんによろしくお願いね」
「はい。では行って来ます」
そうして昨日に引き続き今日は弟さんを連れて行く事になりました。
ただ王様でありそれがツタに包まれた状態で自分が背負っている事に違和感しかありません。
なんでこうなったのだろうか。
きっと師匠達が凄過ぎるからですね。
……真面目に修行しないとマズイよなあ。
方法を考えておかないと。
結構こじつけになります。
整合性は投げ捨てました。
後王様の口調がズタボロです。
地の文を入れるとペースが落ちます。苦しい。




