43 素材と研究と魔石
細かい買取価格などは解体後の物を決めると言うので品質検分役数名と素材担当、経理担当とゲンコツ、俺、ヨミ、カスミ、ライアさんの十数名ほどで建物内の倉庫に向かいそこで放出する事に。
兎が4、狼が2、蟻が1.7、トレントが2、熊が0.3と言った比率で狩っていたのだがそれでも今の道具袋内の枠729の内500程を使っていた。
枠はキャラクターレベルの二乗で固定されているが袋の数を増やせば実質二倍になるらしい。
残りの200ちょっとは大半が先生ポーションで自動人形は数枠取っていたが特に問題は無い。
幾つかの枠に装備品があるがこれもまた特に問題は無い。
倉庫内の一角に立つ。
「さて、それじゃ出しますよ?」
「幾つ狩って来たんだ?」
「ざっと500ぐらいですかね」
「多いな…。素材でか?」
「倒した後そのまま道具袋に放り込んだんで解体してもらえますかね?」
「わかった。おい!手ぇ空いてる奴は手伝うように言って来い!」
その言葉に何人かが鍛冶場と工房内に人を呼びに行く。
「それじゃ出して行きますね」
「おう。頼む」
そうして出されて行くモンスターの死骸達。
何処かを切るだけでも判定が出たので気を付けて斬っていった成果が出ているようでわりと完全な姿で並んで行く。
その状態の良さを見て狂喜している素材担当の人。
その数を見て口端を引き攣らせている経理担当の人。
この光景を見て呆れているヨミ。
目を丸くして積み上がっていくのを眺めるカスミ。
いつも通りのライアさん。
ゲンコツさんは笑ってました。
積み上げた後は男達が解体するそうなので暇になる。
そこでさっきの会話で気になった事を聞く事にした。
「さっき取引の会話中に幾つか聞きたい事があったんですが」
「ん?なんだ、言ってくれ」
「通用しないと言うのはなんででしょう?」
「ああ、こっちも色々とやっては見たんだが戦えはしても連戦が出来ない」
戦えはしても連戦が出来ない、一戦一戦が厳しい闘い?ああ、なるほど。
「耐久度不足ですか」
「どうもこの街から一定を離れると途端にモンスターが強くなるみたいでな、街の周囲で取れる物で作ると次の村まで装備がもたない」
「激昂の森はどうなんです?」
「狩れれば丁度良い狩場になると思うが現状ではまだ色々足りん」
「俺が特殊なんですね」
「この量の素材があればどれだけ攻略が進むかウズウズするぜ」
「あ、そう言えば暇だって言ってましたけど何作ってたんです?」
「ああ、見せてやるよ。来てくれ。おおい!客を案内してくる!解体はきっちり頼むぞ!」
その声『はい!親方!』と元気良く返事を返されつつも俺を伴い別の倉庫に向かうゲンコツさん。幾つか扉を挟んでその倉庫はあった。
「開けるけどびっくりするなよ?」
「びっくり?」
「ああ。……そらよっ!」
「ん?……おおおおおお!」
そこにあった物は大量の武器防具。
剣、長剣、短剣。弓、長弓、弩弓、小盾、盾、大盾、バリスタ、ハンマー、石杭、手回しドリル、鋤、鍬、鎌など様々な物が置かれていた。
片隅には連射式弩弓の試作品も置かれておりテンションが上がる。
だって連射式だぞ!
テンションが上がった状態のまま話し掛ける。
「本当に色々作ってたんですね!」
「ここには戦闘関連と農具みたいな工事用の物が置いてある」
「ん?鍛冶屋でしたよねこのギルドの名前」
「名前はな。中身は囲い込まれるのが嫌な連中で出来た何でも生産屋だ」
「おお、と言う事は?」
色々期待しても良いんですね?
「他にも装飾品だったり服飾とそれに合わせて布製作の機材作りもやってる。後は海に行く事が出来ればと思っていたんだがお前さんのお陰で解決しそうだ」
「どう言う事です?」
「ここにある物は大抵が耐久度が低い。木も例外じゃない。そこにお前さんが大量のトレントを入れてくれたから研究も捗る。ついでに今から船作りに着手しとけば海でやれる事も増える」
「そこの弩弓が売られていないのってもしかして」
「ご想像の通り直ぐに部品が割れて使い物にならなくなる。だから今回の件は受けて貰えて本当に助かった」
そう言って頭を下げてくるゲンコツさん。
数秒経って頭を上げるのを待ってから話す。
「あれだけあれば作れる物が増えますかね?」
「間違いなく増える」
「どんな感じになるんでしょう?」
「モンスターの素材も丸ごとだから弓の強化も出来るようになるし合成弓も作れる。剣はまだ鉱石類が整ってないからそこまで強化は出来んかもしれんがそれでも爪や牙の加工でも武器は増える。防具に関してはアントの甲殻がそのまま使えるし繋ぎに兎と狼の物を使えばそれだけでも増える。熊に関してはマントを作って羽織ればそれだけでも防御が上がるだろうし今まで作れなかった物に対しても手が出せる様になるかも知れん」
「お、おお。凄い事になるんですね」
「まあ研究してみなけりゃわからんが」
若干引きつつこの仕事を受けて良かったなと思う。
それに俺にもメリットはある。
一人だけステータスで隔絶しているのが多少でも縮まる可能性が出て来たのだ。
やはり、嬉しい。
それにしても。
「鉱石類はどうしているんです?」
「ああ、NPCからの買い付けに今は頼ってる」
「ここら辺は取れる場所が無いんですか?」
「あるにはあるんだがこの街の周辺から離れてるから相手が強くて採取もままならん」
「あー……、それは確かに暇ですね」
そこでやれやれと手を振るゲンコツさん。
「お陰で鍛冶師なんて名前が付いてる割には俺は基本研究開発ばっかりだよ」
「おおう、なんじゃそりゃ」
「作れる物が少なくて暇なんだよ」
「なるほど。採取場の方角はどこですかね?」
「西だが……行ってくれるのか?」
「用事があれば、と暇潰しですかね」
「それを言える強さは羨ましいな」
「貰い物ですが使わないと腐るものですしね」
「腐るとはまた、大層だな」
「使っていないと取り上げられそうな気もするので戦々恐々ですよ」
「おお、怖い怖い。ああ、こっちも思い出したんだが」
「なんでしょう?」
「さっき行った俺が依頼を受けるって件について詳しく話すのを忘れてたと思ってな」
「あの言い方だとこっちが頼めばゲンコツさんに行きますが違うので?」
「正確にはそっちから提案された武装を研究開発するって感じだな」
「ん?」
「さっきも言ったろ?研究開発ばっかりだって」
ああ。あー、あー…なるほど。
「じゃあ魔法銃でもお願いしましょうかね?」
「定番だな。引き受けた」
「軽いっ!」
「まあ納期は未定だがな!」
「元々最後のはオマケでしたからね、のんびりお願いします」
「すまんがしばらくはあの素材の山を使って大量の物を作る事になる。研究は何時になるか」
「のんびりやりましょうよ、始まったばかりなんですし」
「急がされても作れないからな!」
「言い切った!?」
その後は倉庫を出て解体作業中の所へ戻る。
素材担当とカスミさんが顔を付き合わせて何やら相談していた。
ヨミとライアさんは解体現場を興味深そうに見ている。
「あれ?カスミ、一体どうした?」
ゲンコツさんも声を掛ける。
「ん?何か問題でもあったのか?」
掛けられた声に反応する二人。
「タテヤ、さっき熊からこんなのが出たんだけど」
「親方、これは一体なんなんでしょう?」
そう言って二人に見せられた物を見てみる。
見た目はただの石だったのだがステータスを見てみると。
魔石 品質D- レア度1
微量に魔力が秘められた石
おお、魔石だ!
それにテンションが上がっていると真剣なゲンコツさんと素材担当の声。
「この存在を知ってる奴は他に何人居る?」
「多分熊解体をしてた奴等は知っちまってますね」
「また扱いに困るもんが出て来たな、どうする?」
「こっちとしては搬入元に返したいですね」
「一応理由を聞いとこう」
「数が少ないのが一つ、これから大量に必要になると言うのが一つ、後はウチだけが量を持ってるとなれば干上げを食らうかも知れません」
「そうだな。おい、タテヤ!」
呼ばれたので出て行く。
「あ、はい、なんでしょう」
「ウチとしてはコイツを使って研究したいんだが今は返しておきたい。良いか?」
「それは構いませんけど。研究しなくても良いので?」
「こっちとしても色々想定外でな。多分ドロップ率が低い物でも上手く解体すれば獲れる確率は上がる。それが今回良い具合に出ちまったみたいなんだが下手に情報が漏れると魔石求めて森に突っ込んで死に戻り多発なんて自体になりかねん」
「あ、それはマズイですね」
「後になれば確保もしやすくなるだろうが現時点では返品しておく」
「わかりました」
ゲンコツさんから袋に入った魔石を貰う。
ふうむ、また凄い物が手に入ってしまった。
袋を見つつ思っていると今度は経理担当の人が申し訳無さそうな顔。
「親方、すみません、言い難い事なんですが……」
「ん、なんだ?」
「一括払いが出来ません」
「ああ、想像がつくが理由は?」
「持ち込まれた量が多かったのと品質がどれもこちらで上げられてしまったので……」
「まあ、そうなるわな」
そこで口を挟む。
「あ、俺は別に後払いでも大丈夫ですんで金が出来ればお願いします」
「良いのか?」
「ただ技術関連についてウチのカスミに色々教えて頂けると助かります」
「すまねえな。その話で引き受けた」
にやりと笑うゲンコツさん。
全然すまなそうじゃないから何か思惑があるんだろう。
「ともあれこれで用件は終わりですかね?」
「ああ、長々と時間を取らせて悪かったな。また頼む」
「手が空いていたら、ですけどね」
「だな。成果が出ればまた伝える」
「のんびり待ってますよ」
そうしてヨミとライアさんも回収してからゲンコツさんの所を辞去する。
次は……冒険者ギルドにでも行くかな?
遅くなりました。
地の文を入れるのが難しいです。




