04 兎の体当たり
「さて、数日は帰ってこんからの。色々持って行く」
「自分は荷物持ちですか」
「普段は一人でやるんじゃが今日は迎撃に専念出来そうじゃ」
「普段から泊り込みですか?」
「色々あっての。ほれ、行くぞい」
「はい。……重っ!」
「なんじゃ情けないのう」
ホントに重たいんですけど。
何が入ってるんでしょう。
それから家を出て師匠が普段鍛錬に使っていると言う場所に向かって連れられる。
目の前では師匠が襲い掛かってくるモンスター達を仕留め続けている。
しかも雑談しながら。
「師匠、兎の攻撃で気を付けるべき事ってあります?」
「まあ噛み付き、突進の二つしかして来んし大丈夫じゃろ」
「師匠基準で言われましても」
「ああ、それと修行の間はレベルアップしてもボーナスとスキルの取得禁止じゃ」
「し、師匠、さすがにそれは辛いです」
今の手持ちのスキルとステータスだけでどうにかしろと?
「元々相手依存のスキルじゃからの、今のお前が多少強くなった所で変わらんぞ」
「それはそうですが」
「それなら弱いままでも勝てる手段を鍛えんかい」
「はい……」
「それに上手くいけば新しいスキルが取れるかも知れんしのう」
「本当ですか?」
「ああ、お主が頑張ればな」
「頑張れば、ですか」
「ちなみにワシも今は攻撃力0じゃぞ」
「は?」
「防御力も0になる事もあるがの」
「えっ、師匠じゃあ今やってる攻撃の数々は一体どうやって」
「そこはまだ話せんのう」
攻撃力も0、防御力も0で目の前の暴風を生み出している?
ちょっと世界に挑み過ぎてませんか?
「まあ鍛えていけばいずれ辿り着く」
辿り着ける気がしませんよ?
「そら、着いたぞ」
「おお、綺麗な場所ですね」
「モンスターが居なければじゃがの」
「全くです」
目の前に広がるのはデカイ湖。
なんというか、デカイ。
向こう岸が見えませんよ。
「荷物を降ろしたら早速戦ってもらうとするか」
「はい」
「もう始まっておるぞ?後ろじゃ」
「え?」
振り返ってみたものは今まさに打ち出されんと身体に力を溜める丸い物体で。
それが兎だと気付いたのは腹に衝撃を食らい吹き飛んでからの事であった。
俺のHPを8割削りながら。
「師匠!助けて!」
「なんじゃ貧弱じゃのう」
呆れた顔で兎を即座に仕留める師匠を見てようやく一息を吐く。
「今の攻撃は…」
「ただの体当たりじゃの」
「え、突進は?」
「使われとったら今頃瀕死じゃの」
「え」
うさ…ぎ…?
「まあまずは慣れる事じゃな」
そう言って頭に液体がバシャバシャと振り掛けられる。
それと同時に全快手前まで回復する俺のHP。
驚いて師匠を見るとにっこり笑顔。
「師匠、まさかこれは」
「まだまだたくさんあるから遠慮なく食らって来い」
ですよね!
そうして兎に一方的に戯れられる事十数分。
ふと思った事を聞いてみる。
「なんでジャストガードもカウンターも発動しにくいんでしょう」
「少し考えればわかるじゃろうて」
試しに兎との戦闘を思い出す。
腕を振り回して盾に当たった時は反射せずにHPがかなり減った。
盾を構えて盾の部分に受けた時はダメージが減ってたけどそれでもHPは割と減った。
偶然盾の中心で受けた時はダメージもあったけど25%反射が発動した。
盾の中心で受けつつも身体をしっかり構えていた時はダメージ無しで50%反射が発動していた。
盾以外の場所に当たった場合は死に戻りを覚悟した。
つまり?
「多分ですけどちゃんと受けないとガードした事にすらならないとか?」
「その通り」
「やっぱり…」
かか、と笑う師匠。
タイミング覚えろって言われましても。
これは体捌きのような。
「しかもこれ体勢が崩れてると良くて25%じゃないですか?」
「まあ、小盾じゃからのう」
「で、鍛えるにはどうすれば?」
「ひたすら兎と戦って、その後はワシとの組み手じゃの」
「師匠との組み手…?」
あの火力をどうにかしろと?
「兎で慣れたなら対人も慣れんとのう?」
「慣れたくないです」
「まあ慣れておけ。町に行ったら確実に絡まれるからの」
「え、師匠何かやったんですか」
「色々と、な?」
「そこで楽しそうに笑われましても」
「まあおいおい話してやる。今は覚えろ」
「はい……」
そして森の中には悲鳴が響き続ける。
「ほれほれ、もっと先読みして構えんかい」
「素人なんですけど!?」
「ワシの弟子を名乗るならそれぐらい出来るようにはしてやる」
「やだこの爺さんスパルター! げふぅ」
「ぬ、また食らったか」
「ひいいいいこっち来るううう!」
「前途多難じゃの」
こうしてVRMMO一日目は爺さんに弟子入りをして兎にボコられて終わりました。
……冒険? してませんね。