38 リーンさんと師匠達とこれからと
森の中をライアさんと二人ゆっくり歩く。
時間にしてみれば僅か半時間程だったが色々疲れた。
このまま師匠達の所に行ってもいつものテンションで話せるかどうか。
「ちょっと、休みます」
ライアさんにそう言って近くの木の下に座り幹に背を預ける。
こちらの右手を両手で包み前に座るライアさん。
心配させちゃってますね。
ごめんなさい。
さて現状の問題は。
害意は無かったとは言えPKをやってしまった事。
さっきやった事は下手するとお縄頂戴かも知れないと言う事。
あっはっは!
やっちまったな。
どうしようか。
そんな答えの出ない思考を続ける事数分。
ふと目の前に白い光。
「なんだ?……AIさん?」
『こんにちはですね、タテヤ様』
何故か目の前に翼の生えたあのAIさんが立っていた。
「えっと、どうしてここに?」
『ヨミ様より今回の事に対する嘆願を頂きまして』
「ああ、俺がやっちゃった事ですか」
『正確には先程の10数名に対する行動とヨミ様に対するPK行為ですね』
「で、どうなるんでしょう」
『10数名の方は宵闇の森所属ギルド員、ライアン様、ガノン様より事情を知らされております。お咎めは有りません』
「蹴り飛ばしたりもしたんですが、大丈夫なので?」
『今回の事はタテヤ様が発端の出来事だとお聞きしましたがそれに対し相手が他のプレイヤーを巻き込んだ時点でタテヤ様の行為は正当な物だと判断されました。それと相手に対する威圧ですが戦闘中の行為だった為に問題無しと致します』
「ちなみに誰が判断したんです?」
『私です』
「えっ」
『こう見えても私は結構上位の権限を持っているんですよ?』
「マジすか」
『そしてPK行為に関してですがタテヤ様本人から理由をお聞かせ下さい』
「友人を安心できる所に送りたいと思ったからです」
『あらあら。ヨミ様からは『アイツ多分私が見てるとやりにくい事やるから返されたんだと思って……』と言われていますが?』
「……否定は、出来ませんね」
『否定してもらわないと困るのですけれど』
「え?」
『ええ、PK行為に対しての処置ですが助ける為に死に戻りをさせるとは思っていなくてですね』
「はい」
『攫った連中が全面的に悪いのでお咎め無しとし、PKの表示を取り消させて頂きます』
「えっ!?」
驚きつつも消えるPK表示。
「あの、本当に良かったんですか?」
『戻しましょうか?』
「いえいえ今のままで良いですごめんなさい!」
『こちらとしてもその方がありがたいですね』
「しかしまあ、わざわざAIさん直々に来られるとは」
『結構柔軟なんですよ?』
「出て来過ぎじゃ無いですか?」
『暇なんです!』
「ごめんなさい」
『と言う訳なのでしばらくお話しをしましょう』
「あ、はい。他の所は大丈夫なんですかね?」
『姉妹が行っている筈です……』
「あの、目を逸らさないで下さいAIさん」
『私の名前はリーンと言うんですが知らないんですか?』
「一切情報を仕入れてこなかった物でして」
『そ、そんな……』
「名前持ちな事自体今知りました」
『がーん!ですよ全くもう!』
「ごめんなさい」
『それと今後についてのお話になりますがどうするんですか?』
「生産にでも手を出そうかと」
『今のタテヤ様のステータスだと上位の物を簡単に作れますが』
「……ど、どうしろと」
『こちらとしても想定外の事でしたので出来る限りのフォローはするとしか』
「ですよね。なんで調子に乗って防御に全部振ってしまったのやら」
『ただエンドコンテンツではタテヤ様の防御力が素で必要になるボスなども居ますね』
「いつの話になるんでしょう」
『……月単位から年単位かと』
「ですよね!」
『申し訳、ふふっ、ございません』
「チクショウなんてAIだ!」
『楽しみ方はご自分で見つけて下さいね?』
「はい」
『さて次は……。ああ、そんな』
「どうかしたんですか?」
『人手が足りない様です。すみません、また今度お話、お願いします』
「あ、はい。わかりました」
『それでは良き旅を』
「はい。色々とありがとうございました」
『それでは』
そう言ってリーンさんは去って行った。
なんと言うか、うん。
ありがとうございます。
「ライアさん、心配事は無くなりました。励ましありがとうございます」
ライアさんにお礼を言うとまた手をぶんぶん振られて身体が揺れる。
ああ、平和だなあ……。
元気を取り戻した所で再び師匠達の所へ向かう。
それとヨミにメッセージで今起こった事をさっくり伝えて置く。
詳しくは今日のチャットで書く事になるだろう。
さて、懸念も無くなった。行こう。
「ライアさん、走っても良いですか?」
そう言うとパッと背中に飛び乗られたのでそのまま背負う。
行きますぞ!
「あのライアさん、首、首が絞まってる!緩めて!」
でもテンションが上がったライアさんに首を極められかける。
ぺこぺこ謝られたらしいのだが後頭部にゴッと言う衝撃と共に意識が途切れた。
どうやらライアさんの額はとても硬いらしい。
木だけに。
目を覚ますと目の前にライアさんの顔と空が見える。
後頭部には不思議な感触のする物。
人にしては硬いし木にしては柔らかい不思議な感触です。
それにしても女性三人コンプリートですか。
でも一番平和な気絶の仕方だったと思います。
やっぱり天使やな!
平和な気絶ってなんだろうか。
「起きたか」
「起きたね、少年」
「おはようございます。師匠、ヤクさん」
ライアさんの膝枕から身体を起こしつつ二人に挨拶。
先生はアル様とケティーさんと会話しつつもこちらを見ていたので会釈のみを返す。
「で、間に合ったかの?」
「はい。間に合いまして撃滅してきました」
「よし。それならばルーネ師匠もこれ以上イラつかないじゃろう」
「少年が気絶して運ばれて来た時は何があったのかとても聞きたそうだったからね」
「いやあ撃滅自体は半時間で終わったんですがその後歩いて来まして」
「ふむ、それで?」
「その後ライアさんにまた走って行こうと言った所背中に飛び付かれたんですが」
「ああ、背負う為にか」
「勢い余って首を極められかけた後謝ろうとするライアさんに頭突きを食らって気絶した様で」
「それでライアが困惑していたのか。気に入られているね、少年」
「なんともまあ、珍しい事じゃの」
「関節技で落とされるよりは平和でした」
「お主も基準が曖昧になって来とるのお……」
「すまないね、アル様とネフィリム様が迷惑を掛ける」
「あそこまでフレンドリーな龍が居るとは思っていませんでした」
「何、あの方達は賢い。人よりも」
「私はどうなる?ガンダロフ」
「ヤク殿は最初から聡明だったろうに」
「そうだったか」
「そうですぞ」
「で、俺はこの後何も考えていないのですが」
「何、ゆっくりして行け」
「疲れているだろう。こちらへ」
「あ、はい。ライアさんもケティーさんの所へどうぞ」
そう言ってライアさんを送り出す。
そしてケティーさんの横に座るとニコニコしだした。
うん、癒しです。
おばあちゃんと孫みたいな見た目だけど実年齢逆とか思っちゃいけません。
いけないのです。
「タテヤ君お帰り!どうだった?女の子を攫う悪い奴は撃滅できたかな?」
「何故女子だと?」
「女の勘!」
「わあ高性能」
「で、どうなったの?」
「攫った連中に今後手出ししない様に告げて一回は見逃しました」
「さすが私の生徒!」
「途中までは見逃す気は無かったのですが怖くなりまして」
「うん、うん。次にやったら私が出てあげるからね!」
「先生が出ると地形が変わるのでやめて下さいお願いします」
「ダンガロフー!かつてない真面目な声で断られたんだけど!」
「ルーネ師匠、自重をお願いします」
「そんなー!だって生徒だよ!教え子だよ!助けないと!」
「自分でなんとか出来る様に色々渡したんですから信じた方が良いと思いますぞ?」
「それもそっかー……。うん、そうだね!そうしよっか!」
「あの、ホント、ホント勘弁して下さい先生」
「そこまで言われると落ち込むんだけど」
「ルーネ師匠は規格外ですからのう」
「そこに助けられている事も多いので出来る事はなんとかしたいんですよ」
「うん、それなら良いかな!」
「ありがとうございます」
「……神話装備を持って苦労する事があるのかの?」
「……周囲が色眼鏡を掛けた目で見て来ます」
「実力を付けろ」
「はい、師匠」
この後はのんびり過ごした。
明日からは何をしようかね?
まあ景色を楽しむだけでも良いだろう。
楽しみだ。
遂にライアさんにまで食らいました。
でもお茶目で済みそう。
さすがライアさん。
作者も予想して無いヒロインっぷりです。




