35 師匠達と英雄譚と魔王の笑顔
今度は周りの視線も和らぎ特に胃がキリキリする事も無く出る事が出来た。
ケティーさんに遠慮しつつも軽く手を振り歩くライアさんはやはり癒しです。
心が落ち着きますね。
木だけに。
そうして歩いている間にケティーさんにこの国や英雄のお話を聞かせてもらう。
「あの方達がこの国に来てくださった時にはモンスターの大侵攻が起こっていてねえ」
「ああ、あの大量の熊とモンスターの群れですか」
「良く知っているんだね?ともかくそれが幾つあっただろうかねえ」
「え?一つだけだったのでは?」
「幾つも、さ」
「……この街、よく無事でしたね」
「無事だったのはあの方達がやって来てくれたお陰さ」
「一体何をやったんです?」
「戦っていると見慣れぬ男女二人がいきなり現れてモンスターの中に飛び込んで行ったのさ」
「ああ、師匠達ならやりそうですね」
「男の方が『ルーネ師匠!ワシは東を!』と言って『じゃあ私は残り全部ねー!』と聞こえたんだが最初は聞き間違いだと思ってねえ」
「先生……」
「その二人を見送ってからも戦い続けていたんだがある時から増援が来ない事に気づいたんだ」
「あー、なるほど。飛び込んで殲滅でしたか」
「正解だよ。ともあれそこを片付けてあの方達は大丈夫だろうかと皆で見に行ってみると通ったであろう道にモンスターの死骸で道が出来ていてねえ」
「ああ、その頃からやる事変わって無いんですね、師匠」
「お前さんはホンに不思議な子だね」
「そうですかね?」
「普通ならびっくら仰天!と言うのがこの話を聞かせた時の通例だったんだけどねえ」
「最初に会った時から二人の常識外れな強さを見てしまっているもので」
「それなら仕方無いねえ。そして奥に入ると熊の群れとその後ろに居る一際大きい熊と戦っている二人の姿」
「ああ、静かな熊さん…」
「あの熊の名前を知っているのかい!?」
「静かなる怒れる熊と言います。先日師匠達の企みなのか手違いなのか挑まされて勝ちました」
「えええ!そりゃ本当かね!でも一体どうしてだい?」
「その前日までは兎と狼だったんですが熊を倒せば一旦修行は終わりだと言われまして」
「アントやトレントを飛ばすなんて随分無茶な事をするんだねえ」
「それで送り出された方角に丁度群れが居ました」
「え?……それはまた、運が悪かったねえ」
「一応色んな装備やアイテムは貰っていたので勝てたんですがよくある事なんですかね?」
「いや、それは無いよ。あの二人が一掃してくれてからも定期的にモンスターを狩ってくれてるから進行してくる程の規模は出なくなったんだけど」
「数年毎に起こっていた、と言うのはありますか?」
「ああ、何年か毎に熊の中から大ボスが生まれてね。それを冒険者を鍛えると共に倒してくれるのが通例だったんだけど……今年はもう出そうにないねえ」
「ああ、やっぱり……」
「良く生き残れたね。よく頑張ったねえ」
「あの時は必死でした」
「うんうん。生き残れたなら良い事さ。それでその後の事なんだけどね」
「うん?続きが?」
「実はこの森にモンスターを押し流していたのは北の国でね」
「……まさか国を滅ぼしたって」
「そう。たった二人で国を滅ぼしたのさ」
「うわぁ、作り話だと思いたかった」
「話に聞けばまず聖女様は自身が古代龍だと言う事を明かしてからその国の王都に全快魔法を掛けたらしいのさ」
「マジで一都市やったんすか先生」
「そうしてやった上で『私に喧嘩売りたいなら買うわよ?』と言い放ちその国は何も出来ないまま敗北した後侵攻を考えていた面々は開拓地送りになってねえ」
「やっぱり人好きなんですね先生」
「お付きの方が甘いと進言したそうだけど一度は救いを与えたい言い放ったと聞いてから皆あの方を聖女と呼ぶようになったのさ」
「おおー。でも何故この森に住む事になったんでしょうか」
「あの方達はやった事が大き過ぎて目立ち過ぎてしまってね。誰もが来れる場所では騒がしいだろうと皆で相談したのさ」
「激昂の森になった理由は?」
「文字通り片手間で倒せるからねえ」
「なるほど」
「それにしても今でもお守り下さっているとは……」
「気に入ったんでしょうね」
「それなら一番嬉しいねえ」
「ま、会ったら色々話しましょう」
「ありがとうね、ボウヤ」
「お礼はライアさんに」
「うん、そうだね。ありがとうドライアドさん」
「あの、すいません、ライアさんがむくれているので名前でお願いします」
「うふふ、そうね、そうだねえ。あの時助けてくれてありがとうね、ライア」
ニコニコ笑顔で機嫌が良くなったのを隠せていないライアさんに右手を振り回されまた俺の肩が悲鳴を上げぬぐぐぐぐぐぐぐ!
耐え切ったぞ!
あっちょっ今引っ張られたらぬわー!
また謝られました。
そうしてテクテク歩く事二時間。
一応師匠の家にも寄ったのだが居なかったので湖畔だと思い行く事に。
辿り着いてみると四人とも居た。
ヤクさんは何か手に持った物を師匠達に渡そうとしていたらしくこちらを向いて驚いている。
驚きますよね。一日で帰って来たんだから。
「あ、タテヤ君帰って来たの!なんで!?」
「昨日出立した筈じゃが一体どうした?」
「用事で戻りました。ライアさん、ケティーさんをこちらに」
ライアさんにケティーさんの手を引きこちらに連れて来てもらう。
ケティーさんは目を見開いたまま震えている。
その目じりには涙。
「ルーネ聖女様、救国の英雄ダンガロフ様。お目通りの叶う機会を幸運にも得られた事を感謝いたします」
「タテヤ君、このおばあちゃんは誰なのかな?通り名知ってるって事はあの街の人なんだろうけど」
「タテヤ、このご婦人はラルタ街から来たのか?」
「はい。街中を散策している時にライアさんが見つけられまして話を聞いた所師匠達と話がしたいと」
「なるほど。確かに簡単に来れる様な場所では無かったがドライアドと共になら、か」
「ライアちゃん大活躍ね!」
「と言う次第で連れて来たわけです」
「うむ、よくやった」
「ありがとうね!」
「はい。ところでヤクさんとアルさんはここに居ても良いので?」
「この森の守護を任されているのでこの地からは離れ難いが動くだけなら大丈夫だ」
「大丈夫なのよ!」
「ボウヤ、そこのお二人は?」
「男性がヤクさんで女性がアル様です。こう見えてお二人とも龍です」
「えええっ!?お、お二人とも!」
「あー、新鮮な反応ね?」
「そこの少年が最初にネフィリム様と出会っていなかったら見れていたでしょうね」
「まあ後はお任せします」
「タテヤ君も投げるわねー」
「俺じゃわからない話の方が多いので」
「確かにそうじゃの」
「なのでのんびり聞いておきます」
「そうねー、ケティーさん。時間は大丈夫?」
「この婆には幾らでも」
「うん、ゆっくり話しましょ!」
「おお、ありがとう、ありがとうございます……!」
「では私がお茶を淹れよう。アル様はその方が座れる物を」
「はーい!他の人から見たルーネのお話なんて久々だもんね!」
「ルーネ師匠のやった事が今ではどうなっているのか聞かないといけませんからの」
「ダンガロフちゃんも同罪よ?」
「振り回されただけだったんですがの……」
なんと言うか良い物見れましたわー。
やったぜ。
師匠達は本当に凄かったんだな。
うん、加護を貰ったとは言え勝てる気が一切しません。
なんでやろか。
師匠達だからな!
そしてお茶を楽しもうと持ち上げた時通知の音。
ん?
≪ギルドメンバーから6件のメッセージがあります≫
≪フレンドから6件のメッセージがあります≫
メッセージ欄を見ればヨミ以外の6人全員からのメッセージが届いていた。
ヨミ以外?
何か嫌な予感がする。
待てよ、これは何かのサプライズだろ?
そう思いたいと自分で考えつつ開いていく。
内容は全て一緒。
タテヤへ
タテヤ!ヨミが攫われたの!
人数は不明!多分私達のファンじゃない!
相手は町外れの闘技場に一人で来いって言ってる!
行って助けてあげて!
アンタならなんとかなるでしょう!?
アリサ
一瞬で頭が沸騰する。
俺の貴重な友人に何て事を!
煮え立った頭で衝動的に立ち上がろうとしたその時右袖に引っ張られる感覚。
そちらを向くと心配そうな顔をしているライアさん。
左手で顔を触ってみると笑っているのか無表情なのかわからない強張り方をしていた。
瞬間で頭が冷え周りを見渡すと真剣な顔でこちらを見ている師匠と先生。
ヤクさんとアル様もこちらを見ている。ケティーさんも心配そうにこちらを見ている。
やっちまったか。
「すみません、師匠、先生」
「構わぬ。何が起こった?」
「話しなさい、先生命令よ」
優しさに涙が出そう。
「友人が俺に一人で挑めない馬鹿共に攫われました」
「何?」
「それは撃滅しないとね!」
「即断ッ!?まあ、するつもりなんですがこれから行くとなると……」
「場所は?」
「アルタ街の外れにある闘技場だそうで」
「ふむ、それなりの距離じゃの」
「下手に時間を掛けたくは無いんですが……」
「私が飛んであげようか?」
「目立ち過ぎますね」
「少年、そう言う事なら良い物がある。ダンガロフ、あれを」
「おお、そう言えばそうじゃったの。ヤクさんから預かっておったんじゃった」
そう言って師匠が布包みから取り出したのは脚甲。
膝から下を護る形状で余計な装飾等は無い。
ただ微かに薄青く色が付いている。
「それとダンガロフ、超狂走ポーションとライアを背負わせれば良いと思うのだが」
「その手があったか。タテヤ、ルーネ師匠の血はまだあるか?」
「ありますが、一体何をするんですか?」
「お主を全力で走り続けられる様にする」
「は、はあ」
「と言う訳じゃ、さっさとこれを履いてこれを飲んで走って来い!」
「は、はい!」
そうして渡された二つの物。
脚甲はいつもの如く加護が掛かる。
翔龍の脚甲【両手盾】 品質XX レア度XX
空を翔る龍の脚甲
装備者を何処までも運んでいく
俊敏+600
自己修復【特大】
new!両手盾職が装備した場合両手盾扱いとなる
超狂走ポーション 品質B- レア度5
効果時間の間俊敏が+500されるが効果が切れるまでにHPとMPを90%失う
再使用時間1分
いつも通りいつものですね!
でも今はありがたい。
AIさんに貰った首飾りも着けておこう。
そうすると俊敏3000越えの化け物が出来上がる。
「よし。行って来い」
「師匠、ありがとうございます!」
「馬鹿者!礼を言う暇があったなら走れ!」
「はい!」
「ちゃんと倒してくるのよ~」
「はい!」
そうして俺は走りだす。
背中にライアさんをおんぶしながら。
クソッ、無事で居てくれよ?
頼むから。
もし無事じゃ無かったら?
笑いながら殲滅しよう。
魔王の友だちに気軽に手を出したなら。
それは償ってもらわんとなあ?
次回。
主人公の相手の心がへし折れるまで嬲るのをやめまテン!
※予定です。




