02 熊と爺さん
唐突に起こった衝撃的事件。
熊が転がって行って十数秒。
「……なんだったんだ今のは」
それに答える声があった。
「ぬ、マズイ!小僧!さっさと逃げろ!」
遠くに見えるは道着を来た白髪の爺さん。
その声に振り返ると目の前に仁王立ちした熊。
「ギャァァァァァ!」
「げ、まだ生きてんの!?」
熊のHPバーは残り4分の1ほど、MPバーは半分くらいか。
ただ問題が一つ。
熊の名前が見えない。
これって格上って事ですよね?
「ひいいいいい」
驚きから腕を前に突き出す事しか出来なかった自分を誰が責められようか。
「ガァッ!」
熊パンチが目の前に迫ってくる。
「ひえええええ」
情けない声を上げつつも熊のパンチに腕を突き出す。
するとゴインッ!と言う衝撃が腕を伝わりピロリン♪
パリーン……と言う音がして熊のHPバーが砕けた。
そしてインフォメーション。
≪激昂熊の爪を入手≫
≪激昂熊を判別出来る様になりました≫
≪レベルアップしました≫
≪ボーナスポイントを5点獲得≫
≪スキルポイントを5点獲得≫
レベルアップ…だと…?
何が起こったのやら。
ゴインッはガードしたと言うのはわかる。
ピロリン♪がカウンター発動音?
いやクリティカル音か?
スキル説明を見ればわかるかな。
SP5【ジャストガード】
相手の攻撃にタイミング良く盾を合わせる事でダメージを軽減する
ジャストヒットするとダメージは0になる
体術でも発動可能
自分のHPバーは減ってないからジャストヒットか。
まさか開始一分経たずに見れるとは。
とそこまで考えてから熊のHPバーを思い出す。
50%反射で4分の1で多分あれはボスだよな?
防げてなかったらこっちのHPバー砕けててもおかしくないよね?
死に戻りしててもおかしくなかったのかー。
え?
「おい小僧!大丈夫か!」
「え、あ、はい」
そこまで考えた所で声が掛けられ爺さん登場。
近くで見ると筋骨隆々なのがわかる。
腕、太いな!
爺さん熊を一瞥。
「小僧が倒したのか?」
「偶然ですが」
狙って出来る気がしない。
「しかしすまんかったの」
「生き残れたのでその辺は大丈夫です」
「初撃で決めるつもりだったんじゃがの」
「え」
一撃で熊のHP4分の3飛ばしたのかこの爺さん。
「まだまだ精進が足りんな」
十分だと思いますよ?
「しかしなんじゃあのへっぴり腰は」
「突然の事で慌ててしまって…」
いきなり熊ですよ?
「まあ見た所鍛えてる訳でも無いしのう」
「冒険者になろうと思い、ここに」
「この辺に住んどるなら激昂熊も知っとる筈じゃから本当そうじゃの」
「ええ」
まだ初めて数分なのに知らないよ!
しかしまあ。
「これからどうしよう……」
「む、なんじゃお主行き場が無いのか?」
「ええ、まずは町に行って登録をと思ったんですが方向もわからないので」
ここが何処かすらわかってません。
「そうか、では一旦ワシの家に来い」
「良いのですか?」
やったぜ。
「色々と教えてやる必要がありそうじゃからな」
「ありがとうございます」
こっちじゃ、と言いながら歩いていく爺さん。
その後ろを歩いて行きつつこれからどうなるかなあとぼんやり考える。
もう少し耳を澄ませていれば気づけたかも知れない。
「カウンターであの攻撃力……場数が足りんのか?それならばワシが鍛えればあるいは……」
とぶつぶつ言っている爺さんの笑みに。