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2-35 続々々四十八日目

市街地は閑散としていた。

魔方陣が確認されて以降即時に都市の放棄が告知され、最低限の防衛に携わる者以外の移動が開始された。

行く先は南、激昂の森を迂回してラルタ街に決定。

この迅速な決定は確度が高い情報提供者による裏付けと、都市に残る者達への期待からであった。

都市に残るは異邦人。プレイヤー。国持たぬ者達。


気楽な気持ちで都市の外に駆け出していく者がいる。

情報と推察からその場で待つ事を選んだ者がいる。

掲示板に書き込みながら装備を整える者がいる。

すわ一大事と全力で駆け抜けていく者がいる。

友人と談笑しながら外に出ていく者がいる。


見た目は様々、老いも若きも入り乱れた集団とも呼べない群衆が動き出す。

こうして街は再び騒がしくなっていく。





「どうもー」

「おー、一日ぶりー」

「まさか揃うとはなあ」

「まあ本戦時の縁もあったし都市内部の方が面倒らしいし?」

「一番の理由はまあ似たような感じか?」

「我々が日夜迷惑を掛け続けたこの街には恩返しが必要だからネェッ!」

「「「「「ういーす」」」」」

「キミタチィ!?」


都市内部には魔物の召喚陣がばら撒かれており、都市外部よりも強い魔物が多く出現。

それに対して親善試合参加者達の多くが都市内部の正常化を目標に行動を始め、迅速に制圧が行われ続けていた。

当事者達ですら困惑する程の勢い。

その理由の一端は予選中に暴れ続けた者達に巻き込まれ続けた事にあった。


「こんな時だから言えるけど実は行きたい所があってな……」

「おお?何処だ何処だ」

「予選中に酷い目に会い続けてただろ?その時にちょっと、な」

「もしかして、もしかすると?」

「喫茶店のおっさんに愚痴聞いて貰ったりしてな、見に行っときたい」

「なるほどなー」


賞金首が都市に侵入してくるまでの間、参加者達は普通に戦っていられた。

だがそれが崩壊して以降、遭遇戦を強いてくる相手が居ない間、プレイヤー達は癒しを求め飲食店や散策などに勤しむ様になった。

その最中で仲良くなった相手やお気に入りの場所、都市を駆け巡った事で感じた世界との一体感なども相まってそれらに愛着を抱く者が増え、都市内外の予選参加者と非参加者の比率にそれが表れている。


「あー、それならこっちも行きたい所言っても良いか?」

「構わないぞ」

「幾らか向こうの辻の角の所のパン屋がなー」

「パン目当てでランカー同士やりあった挙句首狩りに轢かれた所か?」

「そうそうそこ……ってやかましいわ!」

「店番の娘さん目当ても多くなかったか?」

「事故った日はあの店の喫茶スペースで愚痴聞いて貰ってたなあ」

「はぁ!?ラーレさんと喋ったのかテメェ!」

「お前こそ名前知ってるとかどう言う了見だアァン!?」

「常連さんに教えてもらった」

「「「「その手があったか……」」」」

「普通思いつかないか?」


メンバーの内の一人を囲むように地面に膝をつき項垂れる面々。

火球狂いが締めるように声を掛ける。


「まあどの道ボク達は走り回るのが役目だし一向に構わないサ」

「「「「「あざーっす」」」」」

「キミタチィ!?」





「うわー……、マップ見たら外が円状に赤いのに対して中の赤さが凄い勢いで消えてる」

「私達みたいに予選本戦に参加してた人達がローラーしてるみたい」

「それじゃあそろそろ外かしらね」

「えええええええ!?まだ終わらないんですか!?」

「ツルギさん!流石にちょっと休憩を!」

「あら、情報によると外の方が弱いらしいわよ?」

「しかし数は如何程になるのでありましょうか?」

「積極的に塊になってる所に突っ込ませるつもりだけど」

『ッ!?』


都市内部外壁付近の一角。

ツルギを先頭にアリサ、アリス、ミカ、ケンヤ、コノハナの六人が走っている。

ギルド加入後のヨミとの顔合わせを一瞬で済ませたツルギにまずコノハナが抱えられ止めようとした残りの戦闘職が巻き込まれた形でやって来ていた。

ほぼ敵が途切れないままに駆け抜け続けて早数十分。

ツルギ自身に何かの勘でもあるのか的確に強敵に遭遇させられる面々の顔は段々生気が失われている。


「……そこまで嫌なら休憩する?」

「良いんですか!」

「ただし後で闘技場に戻って貰うけど」

「闘技場?」

「なにゆえに最後がそこになるのでありましょう?」

「勘よ」

「ねえミカ、信じたくないんだけどツルギさんってもしかして……」

「確実に当たってると思うからこのまま素直に都市内で遊びましょう!!」

『お願いします!!!』

「そう。じゃあ行くわよ」

『はい……』


ますます生気が失われつつも段々連携の手際が上がっていく事に少しの達成感を覚えだした面々と適度に魔物を消し飛ばしていくツルギ達。

暫くの後、合間の休憩中にツルギが情報板を見つつ呟く。


「そう言えば鬼武者君がまだ闘技場から動いてないらしいけど?」

「ああ、タテヤさんですか?」

「タテヤ君だったわね。彼、いの一番に飛び出してそうなのだけれど」

「あー、なんでも『理不尽と戦う事になった』って言ってましたよ?」

「そう。なら良いわ」

「逆に何だったらダメなんです、か……?」


聞き返したミカに対してそうね、とツルギが一言呟いてから少し。

答えが出たようで一度頷いてから口に出す。


「雑魚相手に調子に乗り出したら消し飛ばすつもりではあるわ」

「……予選時の恨みとかは」

「あるわよ?」

「あるんですか!?」

『あるんだ……』

「さて、休憩は終わり。行くわよ」

『はい……』


自分達が八つ当たり先では無い事を祈りながら再びツルギに続き駆け出していく。

ギルド内チャットに書かれた二文に疑問を抱きながら。


そして自分達が巻き込まれない事を願いながら。





「落ちてくる山を砕く?自分が?」

「うむ」

「ええ」

「え?え?え?」


うん。

まず最初の疑問。

山って砕けるモノなの?

そして何故師匠達がやらないのか。

どうして自分がやる事になっているのか。


「幾つか疑問があります」

「そうじゃの」

「じゃあ手順を説明するわ!」


先程の少女を見てから何処までもにこやかなルーネ先生が説明を始める。

手順は三つ。


一つ、ダンガロフ師匠が爆心地付近及び重要施設を守る。

二つ、ルーネ先生が都市全域を覆うように物理結界を張る。

三つ、自分が落ちてくる山を呼び方の単位が一塊程度になるまで砕く。


結論。

それなりの大きさになったなら自分達が何とかするからどうにか砕け。


いや無理では?

やりますけど。


「……まず師匠は一体何を?」

「落下の中心地はここ、闘技場。故にここを中心に守る。後はワシの持つ遠隔地の味方を守る能力で施設丸ごとを守る事になる」

「丸ごと」

「うむ」

「しかし自分が砕いたら都市全域が被害に遭うのでは」

「その点に関してはルーネ師匠の結界が次に来る」

「先生が?」

「ええ!私の出番よ!」


カモンカモン、と手を振っている先生に対しドン引きしている少女との対比が凄まじい。


「具体的にはどうするんですか?」

「まずは覆うと言っても都市を覆うんじゃなくて上に反らせるの。お椀みたいに」

「はあ」

「実際にはもう少し角度を付けるだろうけど。で、そこでまず受け止めるの」

「受け止める……、受け、止める……?」

「先生に任せておきなさい!」

「は、はい」

「それでなるべく落下した際の勢いを殺さないままここに落とします」

「え?」


落とすの?


「ええ、そのまま落とせばここを中心にダンとこの都市が酷い事になるわよね?」

「質量兵器と言っても良い大きさですから……」

「だからそこをタテヤ君のカウンターで逆に吹き飛ばして貰います」

「ええ……」

「砕いた後は私が結界の形を変えてその際に乗ってた物は外壁の外に落とす。良い?」

「そこまでは良いですが外で戦っている人達は?」

「一応避難勧告は出してあるみたいだし何とかすると思うわよ?」

「て、適当ですね」

「有事の際は対応こそが何よりも求められるのよ?」

「……実際の所は?」

「タテヤ君と同じ所から来た人達なら多少岩に潰されても平気かなって」

「先生!?なんでそっぽを向きながら笑顔で言うんですか!?先生!」


ルーネ先生!?


失敗したら自分がまず消し飛ぶんですがそこの所を解っての進言なんですか先生!

あと魔族の少女がこっちまでドン引きの対象に含め始めたんですけど!


先生!せんせいぃー!


まあ準備し始めるんですけどね。

あっはっは。

はっはっは。


はぁ……。

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