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2-33 続四十八日目

先程の一戦以降も試合はサクサク進み人数が絞られた為に使われる盤面も減った。

コノハナは善戦し準々決勝の八名にまで食い込む大躍進。

だが今の試合会場の空気を表すとすれば沈痛。


「……まあ、よろしく」

「よ、宜しくお願いしたく申し上げ候!」

「……そんなに緊張しないでも良い」

「か、かたじけないであります!しかしヨミ殿を破った御仁と手合わせ……!」


コノハナの正面に立つのは数試合前、ヨミに勝った重鎧さん。

フルフェイスなのと背中に背負った巨大ペンチが相まって威圧感が凄い。

明らかにガチガチになっているコノハナとの会話も全域放送に乗って届いてくる。


「あの試合、面白かった」

「きょ、恐悦至極に御座ります!」

「だからこっちも面白い物、見せる」

「へ?」


彼?と思ったがどうやら彼女らしい。

背中に背負ったペンチを取り出し接続部の中央のボルトを外して―――、あ。


「巨大ペンチ兼片手ずつの重棍化仕様。あと一個秘密兵器がある。よろしく」

「やっぱり恨むでありますよタテヤ殿ー!!」


こっちのせいじゃ無いんだが?

まあ、うん、頑張れコノハナ。


審判が苦笑しつつも開始宣言を放った。







結果から言うとコノハナは凄い頑張った。

とても頑張った。

ただ準々決勝までに支払った情報が多過ぎたのが痛かった。

オチとしてはボルトが嵌め直されたペンチに挟まれて振り回されての敗北。

客席からのペンチコールに重鎧さんが応えた結果の光景な訳だが……。

存外ノリが良いらしい。


「いや~、酷いわね!もう、酷い酷い!」

「先生、爆笑しながらだと信憑性が無いですよ?」

「幾ら試合形式だからってああなるなんて何人が思ったのかしら」

「煽った奴等以外に居ないと思います」

「タテヤ君は?」

「なんやかんやで挟まれる事になるだろうな、と」

「確かになんやかんやあったわね」


やれる事が限られた中で試合時間目一杯まで頑張り続けたコノハナ。

自分だったら重鎧さんを相手にした時どうするだろう。

ノリと気分とテンションで決める気がする。

その時が来るまでは考えなくても良いな、うん。


準々決勝も終わり準決勝以降の為の休憩時間になった大会についてはさておき。

相変わらず自分と先生以外の姿が世話役ぐらいしか居ない席を見る。

師匠や偉い人達は今も対応を練り続けて居るのだろう。

ここは先生の武力に対する信頼故にか警護役すら借り出され静かな区画になっている。


「敵?の方々は何時頃来るんでしょうね」

「もうじき来るんじゃないかしら」

「律儀にタイミングを待ってるのかそれとも時間までまだ有るのかどっちでしょう」

「わざわざ警告があったぐらいだしロクな事じゃないのよねえ……」

「経験則ですか」

「私基準だと無害で他からすれば大災害になるって言えば解る?」

「えー、あー、成る程ぉ……」

「面倒よねー」


面倒で済む辺りスケール感が違い過ぎる。

でもやって来るなら対処は必要。

自分も駆り出されるのは決定済み。

嬉し恥ずかし最前線らしいが確実に趣味で行かされる気がする。


ただ他のプレイヤーを巻き込むかどうかで少し会議が紛糾しているらしい。

異邦人を信用もしくは信頼出来るかどうか、らしいが多分報酬出せば食い付くと思います。

その旨はさっきやって来た連絡役の人に伝えておいた。


「そう言えばトドロキ達も出すんですか?」

「今はそれぞれ元居た場所に返して守護させてるわ」

「国全体での警戒なんですね……」

「まあ腐ってもバカ強い魔族なのよねー。腐り切らないかしら……!」

「もし先生に執着してなかったらどうなってたと思います?」

「魔族一強のままになってた筈でここまで多種族の国家が発展してなかったんじゃない?」

「……それは、また」


結果的に言えば魔族が自滅したお陰ではある。

あるものの幾ら何でも時を超えて執着し過ぎでは無いかとも思う。

……あれ?


「普通に聞いてましたが敵って魔族で決定なんですか?」

「昨日来てた子居るでしょ?あれ多分穏健派」

「えぇ……」

「だから味方と思って接してあげてくれる?」

「いやまあそうするつもりでしたけど……」

「幾ら何でも馬鹿だけじゃ滅亡するのよ?」


笑みを浮かべてはいるものの目が笑っていなかった。


「えーっと、じゃ、じゃあ伝言とか有りますかね」

「んー、始まる少し前にでも合図が欲しいって言ってくれる?」

「わかりました」


この辺りで準々決勝も終わり準決勝が始まった。

そして自分が通路に出て暫くして昨日と同じ人(多分魔族の女性)がやって来た。

深くかぶったローブから顔全体は見えないものの挙動から焦りが伝わって来る。


「すみません、監視網を抜けるのに手間取りました」

「もしかして、もう直ぐにでもですか?」

「ええ。決勝戦の終わりに合わせて始めるようです」

「わかりました。……あっ」

「何か不都合な事がお有りですか?」

「いや、ルーネ先生からの伝言が……」

「なっ!?か、かの方は一体なんとお言いに!?」

「始まる少し前にでも合図が欲しいと……」

「……え」


自分が暫く待っている間にもう決勝戦が始まろうとしていた。

そして自分は顔の上半分が見えなくても絶望の表情は伝わって来ると言う無駄知識を知る事になった。

少し前だから直前でも大丈夫だと急ぎ説得する事になったのは先生のせいだと言いたい。

言えないけど。







急いで彼女を連れて先生の元に戻れば先生が笑みを消して席から立っていた。

立ち上がった状態で空を睨む先生の視線の先に釣られて目を向けてみればそこには一見では解らない程巨大な何かの記号や記述が描かれた発動陣が宙に浮いていた。

多分王都の上空を覆うサイズなのだが高度も相まってよく解らない事になっている。

ただ悪意だけはヒシヒシと感じるのであれが多分仕込みなのだろう。

呆然としていると先生が口を開く。


「大規模な魔寄せにあのサイズの転送陣……、何が出て来るにしてもどうしても私に復讐したいみたいね?それとも力の誇示?もしくは私がどうしようも出来ないからこその周囲への八つ当たりかしら?」


口調こそ静かなものの怒気が溢れ出ている。

口端から火の粉が散っている気がした。

何も言えずにいると先生は尚も続ける。


「ねぇ、どう思う?」


「ねぇ」


横に居る彼女は空気の乱れで感じ取れる程震えている。

だが自分は震えていない。

何故だろうと思う。

先生は尚も続ける。


「あぁ、見えてるアレに対してじゃなくてね?」


「そこで震えてる貴女に対してもじゃなくて」


「タテヤ君なら解るかしら?」


少し考えていやそれは無いだろうと打ち消して、結局答えた。


「絶対に一発ぶん殴る、ですかね」


自分の返答にルーネ先生はにっこり笑った。


「正解♪」



本日のメインイベントが始まる。

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