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2-31 続四十七日目+友人とのチャット

試合を見る方も集中力と言った物が必要で、だからなのか前半にランキング上位者達の試合が多く挟まる様なスケジュールが編まれていた。

どの試合も見応えが有るのは全力で挑んだ者達のお陰だ。

とはいえ。


「な、なんでこんな組み合わせにっ!」

「いやあ、なんでだろうね?」

「なんでだろうねぇ」

「身内で潰し合わせる為にと勘繰りそうになりますが……」

「AI……、じゃなくて運営から『厳正なる抽選の結果』って返答が来てるけど」

「実際順位もバラバラだったし……」

「運良く本戦まで残れたと思ったらこれは無いわよねー」

「せ、拙者はいかなる時でも全力で挑ませて貰うでありますっっっ!!!」


組み分けが抽選なので時には身内同士の潰し合いに発展する事もある訳で。

普段のストレス発散も兼ねているのか愚痴の言い合いに発展しているのはどうかと思う。


「そもそも私はここに居る予定無かったんですけどー!」

「僕等は確実に残れてたけどね」

「あの二人の流れに乗れたのが大きかったと思うよね」

「流されるままに楽しんでたらこうなるなんて……」

「友達から『楽しそうだね!』ってメールが着たんだけど八つ当たりしても良い?」

「出来れば止めて欲しい、それと原因はあの二人」

「直接的じゃあないけれどあの二人よねー」

「ああもう!恨むでありますよタテヤ殿、ヨミ殿ーーー!!!」


大半の対象を自分とヨミに向ける辺りはなんともウチらしいと言えるだろうか。

酷い共食いを見た後に休憩と慰安がてらに観客席に居る面々の所に向かう事にした。


「まさかの二人が残ったなあ……、いやあれもまた運かなぁ?」

「やっと一人きりになりましたね、人と龍の弟子の子よ」


向こうに着いたら何を話そうかと意識が散漫していたと言うのは言い訳だろうか。

VIP席から一般席に出る通路の一つ。そこに一人の何者かが居た。

頭部を覆うマスクにフード付きのマント、杖を持った姿。

どう見ても魔法関連の見た目をした者との突然の遭遇に動きが止まる。


「えーっと、どちら様でしょうか?」

「貴方から見れば不審者でしょうか」

「はぁ」


不信感を抱く前に自己申告を受けたせいで素の反応になった。

そこから思考を回す前に次の言葉が飛んでくる。


「私としては味方のつもりですけどね」

「はい?」

「ともあれ明日、お気を付け下さい」

「え」

「どうもまだしでかそうとする者が居るようです」

「あの」

「忠告はしました。私から言える事は信じて下さい、でしょうか。では」


言い切るなり目の前の何者かの姿が見えなくなる。

一応声からして女性だとは思うものの顔が見えなかったので確証が無い。

それに言われた忠告とやらも何処まで信憑性があるのやら。

ただまあ胡散臭くはあったものの正直者ではあると言う直感があった。

ので。


「ワシに話を持って来たと」

「師匠はどう思いますか?」


通路を引き返しVIP席へと戻りダンガロフ師匠に先程の出来事を話す。

最初は驚いていたものの慌てていない自分の様子から直ぐに熟考へと移った。


「うーむ……。実際に話しかけられた者の印象としてはどうだった?」

「何処か抜けている面はあるものの敵対する意思は無さそうでした」

「ふむ。ではお前はどちら側だと思う」

「自分としては信じられる情報だと思っています」

「根拠は」

「こちらから見れば不審者だと言うのを第一声で自己紹介する相手だったので」

「気が合いそうか」

「気楽だとは思います」


こちらの返答に何かしらの回答を見出したのか幾分か表情を和らげる。

自分としても面白さを感じる相手とはあまり敵対したくないので良かったと思う。


「うーむ。放っておいても構わんが下手人予定の者の相手は要るのう」

「自分はどうしましょうか」

「唯一の接触者と言えば聞こえは良いが機会を窺われていたのならそれも違うじゃろう」

「師匠達に相談する所まで折り込み済みですか」

「問答無用で敵対する者に伝えるよりは悩む余地のある者に話した方が届き易いからの」

「今の所の方針としては?」

「信ずるならば明日は確定、ただ大舞台か道中かまでは解らず、場当たりじゃな」

「心構えだけですか」

「有ると無しでは雲泥の差が有る。ワシからも伝えておこう」

「ありがとうございます」

「なに、知れて良かった事でもある」

「はい」

「まあ今日は越せるじゃろうて、動揺した姿を悟られるで無いぞ」

「わかりました」


椅子から立ち上がり両王の下に行く師匠を見送り自分は試合会場の方に目を移す。

色取り取りの光と音が乱れ舞う祭りの場はこちらの懸念を知らぬままに輝いていた。

先生の煽り声が上まで響いて来るのは声質だからなのかそれとも声量か。

しょうもない試合は出来そうに無い辺りは良い事だと思う。


「さて、どうなるかなぁ……」




その日のチャット。



「なんか明日襲撃があるらしいぞ?」


『いきなりブッ込んで来たわね』


「いやまあ自分も最初聞いた時は何の冗談かと思ったんだけどさ」


『理由は?』


「不審者だと自己紹介する不審者って一週回って信じたくならないか?」


『……ネタ振りをするツッコミ待ちの芸人みたいな?』


「ただ向こうはツッコミ待ちじゃなかったらしくて明日顔合わせかなあ」


『内輪もめと自浄作用にこっちを巻き込むのは止めて貰いたいわねー』


「会話下手ではあったけど切実さは伝わって来たぞ?」


『リアルのアンタに鏡見せても良い?』


「それは卑怯じゃないかな」


『今以上に饒舌になられても困るけど』


「どっち側かを聞いても?」


『調子に乗りそう』


「それは残念」


『で?』


「とは?」


『他に情報は』


「無い」


『……無能?』


「待て、それは待って。そもそも会話が成り立たなかった可能性をお忘れでは?」


『どうせ初対面相手に思考停止してたんじゃないの』


「辛辣っっっ!」


『まあハイスピードで会話纏められたんならそれも仕方ないとは思うけど』


「なんでそっちがそれを?」


『舞台横に居た笑顔の怖い美人さんから話してもらったからだけど』


「……あの距離聞こえるのかあ」


『高低差は?』


「VIP席の一番上と舞台横」


『うわあ……』


「ま、まあそっちにも話したんならそれなり以上に信用はされてると言う事で」


『戦力?』


「突破力かなあ」


『まあ、そうねえ……』


「と言う訳で色々起こりそうだから心構えだけは宜しく」


『他の面々には?』


「どちらでも。始まればどの道参加してくると思うけど」


『臨機応変ねー、面倒そうだけどやってみるわー』


「……」


『何よ?』


「いや、まあ、うん」


『?』


「普段通りの延長線上で良いんだなあって、ふと思って」


『それは当たり前でしょ』


「うん?」


『私達は楽しんでるんだから最後に笑ってられるようにすれば良いだけなのよ?』


「正しい楽しみ方?」


『向き合い方の問題よ』


「ふむ。ロールプレイは千差万別」


『我等はただキャラを演じる者達なり』


「そう言う事か」


『そう言う事もあるわよね』


「それじゃあ」


『ええ』


「明日も」


『よろしく』

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