2-27 四十五日目
賞金首生活六日目。
そろそろ追っ手の数がシャレにならなくなって来た今日この頃。
参加者同士のPvP外キルが解禁された事で追っ手同士が食い合う事態に発展中。
しかし昨日は結局最後まで酷い目にあった。
『首狩り』さんがある程度の所で引き上げてくれなかったらと思うと溜息も出る。
「あの人絶対に『切り札』あるよなあ……」
自分も自分で『職務投棄』を持っているのでなんとなく解る。
首狩りさんもまた何かしらのイベントを起こしたか行動したのだろう。
最後まで切り出すかどうかの素振りを見せ続けていたのは若干気になるけれど。
あの場面でポイント倍増はデメリットが多分にあったからだろう。
それにしては首狩りさんよりも自分の方にヘイトが偏っている気がする。
なので前を走っているいつもの面々に問い掛ける。
「なんでだろうな?」
「何に対してかは解りませんけどなんでこっち来るんですかー!?」
「逃げる先にミノリ達が居るからなあ。……嘘だけど」
「追い詰める方向ですよね!?ね!?」
「それにしてもそんなに急いで何処行くんだ?」
「タテヤさんの視界外に行きたいんですけど!」
「じゃあ次のY字路こっちは右に行くから」
「わっ、わかりましたぁ!左ですね!」
分かれ道の先で合流した。
「あれぇ!?あれぇー!?」
「先輩先輩!言葉選ばずに言いますけど確信犯ですよね!」
「はっはっは、そんな事はないぞう」
「途中で一回大ジャンプしてなかった?」
「タテ兄と目が合った瞬間「あっ」て表情してたのは見た」
「タテヤ殿ーーー!!」
「仕方ないなあ、じゃあ次の十字路右に行くから」
「じゃ、じゃあこっちは左ですね!」
右に行った後左に二回曲がった上で一つ先の十字路で合流した。
「……あのぅ」
「……進行方向から追っ手が来たんだ」
「タテヤぁ!アンタほんっといい加減にしなさいよぉ!」
「いやまさか首狩りさんが来てるとか思わなくて……」
「あれ?でも残り二日間は全域で自由に戦える様になってる筈じゃ」
「だからかな。追っ手の数がさっきから減ってるの」
「なんて事を!なんて事を!」
「と言うか巻き添えにされてる私達に対するコメントは無いんですか?」
「ああ、うん、――――頑張れ」
「タテ兄、精神論は今ちょっと困る」
いつもの面々から凄く怒られた。ごめん。
しかし追っ手同士で戦闘しながらもついでに狙われているこの状況。
大会を回す役目としては成功しているものの最後までポイントを撒きたい所。
さてそれをするにはどうしようかと悩んでいると真横に並ぶ二人のプレイヤー。
後方から飛んでくる攻撃を剣と盾で受け流していく姿に緊張は感じられない。
「いやー、久々と言う程でも無いけどそれでもこの騒乱は凄いな」
「僕達もポイントを稼ぎに来たは良いけどタテヤ君倒したら粘着必至だと思う」
「ライアン、それにガノンも来たのか。どうする?戦る?」
「やらないやらない。デメリットの方が酷そうだ」
「今の段階で一位と同額のポイント貰った所で巻き込まれ方が酷くなるからね」
「具体的には?」
そう問うと二人は顔を見合わせ笑みを消した真顔になった。
同時に口を開く。
「「首狩りが本気出してくる」」
「あーーー……」
やっぱり切り札あるんですね。
やだなあ。
「と言うか追っ手が増えてるんで何とかして下さいよー!」
「君らもいい加減に大多数戦に慣れとかないと今後困るよ?」
「そもそも敵を作りまくってる最中だし脱退した所で情報バレてるよねえ」
「自分は象徴だから、多少はメンバーが補佐してくれないとなあ」
「総責任者が何か言ってますぅー!」
『そこの賞金首はそろそろランカーの相手してくれないかなあ!?』
後ろを向けば追っ手の集団の中央から爆音と共に人が宙に舞っている。
多種多様な感情が混じった声が聞こえてくる辺り皆エンジョイしている様子。
自分はジャックポット扱いとして『堅実に』ポイントを稼ぐ事にしたらしい。
「熱いラブコールだけど?」
「流石にあの人数の中央に突貫するのは面倒ですよ」
「面倒で済むのが君達らしいよね」
「達?」
「そう言えばヨミちゃんも追われてるらしいけど聞いてた?」
「いや全く」
「20番台らしくてね、下からだと狙い目なんだと」
「じゃあ今屋根上走ってるのがそうですか」
「「あー、あれだね」」
都市を形作る建築物の数々。その屋根上を走る少女が一人。
後ろには追っ手を携えながらも歩みは止まらず駆け抜ける。
騒ぎの最前線を目指すその動きは明らかに怒気に満ちていた。
やがて少女は目的の人物を見つけると思わず屋根が凹む程に足を踏み込み飛ぶ。
そしてその大跳躍が届く先、手に持った直剣を叩き付けるように飛び込んだ。
「手加減しろって言ったでしょうがぁぁぁぁあああ!!」
「だよなあーーーっ!!」
ガンゴンギンガン!!!と籠手と直剣をぶつけ合う音を響かせながら走り続ける。
両隣の二人は後方集団の方にポイント稼ぎに行ったようで居なくなっていた。
前に居た面々は更に足が速くなったようで段々と距離が離されている。
そこまでを見ながらもヨミとお互い様子見の応酬を交わし続ける。
「とりあえず、まあ、久しぶり?」
「こっちではそうなるわね。……だからと言って怒りは治まらないけど」
「待て。いや待ってくれ、これはだな」
「第二陣を狙って堅実にやってたのに突然大乱戦とかアンタのせいよね?」
「それはその、面白くなるかなあー、と」
「自重しろって言って置いたんだけど!?」
「賞金首の仕様ガバった運営に言ってくれないかなぁ!」
「アンタもアンタで適度に倒されてればこうならなかった筈なんだけど!」
「いやでもうっかりはともかく差し出すのはプライドに関わるって言うかあ……」
「くねくねしてしなを作るなしなを!……どうやってんのそれ?」
「んー、腰の動き?」
「こう?」
「そうそう」
「……」
「……今のは女子がやるとかなり刺激てk」
「絶対死なすっっっっっ!!!」
「どわぁぁぁ!!」
「あ、ヨミさんがタテヤさんに突っ込んだ」
「手加減皆無よね、あれ」
「ヨミ殿のお陰で勢いは落ち着くとは思われますが我等はどう動きましょう」
「タテ兄を抑えてくれてる内に決めないと放流されそう」
「それにしても痴話喧嘩にしか見えないね……」
後方で交わされ続ける応酬を遠目に眺めながら学生組は走り続ける。
火力のミキサー状態な集団を見て取り込まれたいとは思わない。
ここに至ると如何にして今日を生き残るかと言った方向に思考がシフトし始める。
とりあえず順位を落とさない様にすると言った目標に設定。
そして新ルールについて話し合う事に。
「身内同士の共食いもアリってなってくるとまた面倒よねー」
「濃縮?」
「抽出じゃないかな」
「本戦トーナメントに出れる確率を上げるならケンヤ殿とミカ殿でありましょう」
「私?アリスとアリサはどうなのよ」
「やめとく。私もアリスもお祭りの気分を味わいたくて参加した感じだし」
「わっ、私は!あのぅ、そのぅ……」
「ミノリ殿と自分もまたサポート役なので目立つのは苦手なのでありますよ」
「コノハナ君の場合はロールプレイも入ってそうだけどね」
今後誰かがやられそうになった時はケンヤかミカにトドメを刺して貰う事にした。
「覚悟は良い?振り返るわよ」
「あー……、ランカー勢と言うかあの二人とやり合いたくないんだけど?」
「この時間帯だと密度濃いのしか残って無さそうですしね」
「まあまあ、先輩方も手心は無いだろうけど手加減はしてくれる筈だし」
「今の一文の中で何を信じれば良いか解らないでありますよ?」
「タテ兄とヨミ姉に気を付ければ生き残れはする……、と良いよね……」
『不穏だ……』
こうして彼らは一度は得た平穏をまた自ら捨てて戦場へと駆けていく。
その顔に苦笑はあれどつまらないと言った感情は一欠片も無かった。




