2-26 四十四日目
賞金首生活五日目。
今日も今日とて都市内を走り回る。
昨日は修練の輪でゴキブリの如き生命力を幾度と無く発揮し結局生き残った。
その代わり掲示板等の情報サイトからは蛇蝎の如く疎まれる様に。
曰く、『来なくて良いのに来るラスボス』だそうで。
それはさておき。
「ああ言う戦法はアリと言えばアリですが基本的には無しなんじゃ?」
「しょっ、賞金首!なんでここに!」
都市全域で戦いが行われている中でプレイヤーも千差万別。
ともなればこう言う事態に『遭遇』するのも中にはあるもので。
一見すれば一つのPvPとその観戦者達に見える人だかり。
1対複数人の様だがこれはランカー側が決められるので了承済みなのだろう。
「『目的の相手にほぼ勝てる構成』をした集団でランカー狙い撃ちですか」
「魔法使い相手、それも近接が苦手とくりゃ情報も上がってくるだろ?」
「近接が苦手……、近接が苦手?」
そこで丁度MPが切れたランカー側に対し挑戦者側が近付き始める。
基本は足を使った回避系で構成されているもののHPは大分削れている。
ランカー側の魔法使いが強いのもあるのだろうがえてして回避系は防御が薄い。
ただ魔法使いも防御は余り無いのでこの後蹂躙されるのだろう。
普通なら。
「まあ確かに何故かやられた連中が近接が苦手としか書いてなかったけどよォ」
「あの人は近接も強いですよ?」
「は?」
しかし彼女の事を自分は知っている。
何しろ一度戦っていて、そして蹴り飛ばし、ボーリングの玉にした。
今もそう、余計な装飾の無い杖を槍の様に構え飛び込んで来た一人を串刺しに。
そうしてこちらに気付いたのか戦闘中だと言うのに喜色の声を上げる。
「あっタテヤ君!」
「お久しぶりです。マリーさん、ジョージさん」
マリー&ジョージペアとのまさかの再会。
ジョージさんは参加者じゃ無いようで、楽しそうに応援していた。
こちらに気付くと手を振ってくれたので振り返す。
マリーさんもテンションが上がって来たのか楽しそうに乱戦に持ち込んでいる。
近接戦に持ち込んで実力でねじ伏せる作戦と言うか思考らしい。
「近接が苦手……」
「多分やられた人が悔しかったんだと思います」
「まあ、だろうな……」
横に居るプレイヤーも思わず苦笑いする程に挑戦者側が崩壊している。
初見殺しと言うか嬉々として近接戦をするのは予想していなかったらしい。
あの時の自分もしてませんでした。
それでも蹴ったけど。
「まあこの後は全員平等に狩るんですけどね!」
「このまま見逃してくれる流れじゃなかったか!?」
一人、また一人と倒れていくのを見て戦闘の終わりを悟る。
それを見つつ身体を動かし装備を整え視線を巡らせ呟いた。
隣の人はこの場の第一犠牲者になるだろう。
既に立ち位置は用意してあるし。
「やだなあ、自分は『賞金首』ですよ?」
「素直に追い掛けられてろよ!なんで来るんだよ!」
「追い掛けてくれる人がめっきり減ったからですよ!!!」
「来んなあああああああ!!!」
こちらの大声でのやりとりに観戦者達の注目が薄れていたのが再び戻る。
鬼面の奥で笑いながら盾棍棒を取り出しキメポーズでもって叫ぶ。
「皆様ポイントお届けに参りましたァ!賞金首でーす!」
「持ってるだけじゃ意味ねーじゃねーか!帰れ!」
そう言いつつもノリは良いようで戦闘準備をしてくれるプレイヤー達。
今日も修練の輪付けてるので倒せるなら倒しても良いんですよ?
こっちはポイントばら撒くと戦場が動くのでどっちでも美味しい。
何よりも悪役(?)ロールプレイが楽しい。
「そう言えば一位さんのポイント量がおかしいんですが気のせいですかね」
「その原因の一端賞金首が配る特別ポイントのせいだからな!」
「なーるほどー」
「コイツッ……!」
軽口を叩き合いながら戦闘を始める直前。
唐突に少女の声が背後から届いた。
「賞金首さん、見ぃつけたぁ」
どろり、とした声音。
何か大量の感情がそこに籠められているのは解る。
解るものの何故それが自分に向けられているのかが解らない。
気付けば辺りが静まり返り、マリーさんが勝利していた。
「賞金首さん賞金首さん、賞金首の流浪の鬼武者さん、こっちを向いて?」
予想外の自体に固まっているとちゃり、ちゃりと石畳を歩いてくる音がする。
それは真後ろで止まり、声をかけてくる。
振り向きたくないもののプレイヤー達が目線で促してくる。
さっさとお前の客だろどうにかしろと促してくる。
「えーっと、どちら様でしょうか」
「こっちを向いて喋ってくれないかなぁ……?」
「はい」
声色に苛立ちが混じり始めた所で恐怖を感じて振り返る。
自分と同程度の背丈をした黒髪の美人さんが立っていた。
腰に剣を刷き、重要部位に革鎧を付けた冒険者スタイル。
ここまで普通なのも珍しい。
「……えっと?」
「自己紹介をしましょう」
「あ、はい」
見覚えは無いものの自分の方が名は知られているのでその辺りだろうか。
考えていると何処かから震えた声が。
「ら、ランキング一位『首狩り』……!?」
「え」
思わず声の方向に振り向いてから顔を戻せば笑顔で怒っている美人さん。
その口が弧を描き開かれる。
「どうも、君のお陰で挑まれる回数が極端に増えたランキング一位です」
獲得ポイント量から言外に全部返り討ちにしたけどね、と言われた。
それから先程の熱量を思い出し、行動を起こす。
「すっ、」
「す?」
「すみませんでしたあああああ!」
「あっこら逃げるな!言いたい事は山ほどあるんだから!」
凄まじい速度で謝った後にその場から逃げ出すものの芳しくない。
プレイヤー達が壁になって思う様に速度が出せず、加えて周囲は全て敵。
それでも無理矢理活路を見出しながら殴り蹴飛ばしていくも数は多く。
気付けば対面にランキング一位さんが居て周りを囲まれていた。
「なんで逃げるかなぁ……?」
「いやぁ、衝動的に……」
あのままだと戦闘に発展してた気がしたんです、とは言えない。
一位に賞金首が狩られた場合ポイント倍点になって更に狙われると思いますが。
それすらも余り考慮していない印象を受けたので逃げました。
今は多少落ち着いているので大丈夫な気がする。
「一応説明しておくと、そこまで怒ってはないから」
「は、はぁ」
「ただ日に数十試合やらされると疲れる位には一般人なの」
「え?」
「一般人なの」
「は、はい、首狩りさんは一般人です」
「よろしい」
じゃあ、と言いそして首狩りさんは剣を抜いた。
「……え?」
「それはそれとして恨みつらみが溜まってるから一戦やりましょう」
「ええーーーー!?」
わぁ、と周囲が沸く中で首狩りさんの攻撃を受けて行く。
途中途中に高速の突きで剣が喉に何度も刺し込まれる。
速度も攻撃力に加算されているのかHPの減りが著しい。
職務投棄こそ使っていないものの修練の輪で弱体している現状。
考える前に叫んでいた。
「これは辛いなあ!」
「さっさと倒れなさいよっ!」
こちらのパワーアップを許さない勢いで連打が叩き込まれる。
カウンターも発動出来ない状態のまま耐えて耐え続ける。
色々と迷走しているものの、自分は盾職なので耐えられている。
瀕死になっても回復するので死に切らない。
向こうも大技が無いようでトドメが来ない。
「あのー……」
「……なに?」
今も乱打を繰り出してくる首狩りさん。
気迫に半歩後ずさりつつも言葉を続ける。
「えーっと、そろそろ諦めませんか?」
「レベル差の経験値が美味しいから駄目よ」
「えええ……」
「返事は?」
「解りましたっ!」
楽しげに攻撃を続ける彼女と怯える周囲。
そして瀕死と危険域を行き来し続ける自分のHPバー。
今日は厄日かな?




