2-23 続四十一日目
ゴルドラン王国の冒険者ギルドは王城から暫く離れた場所にある。
ギルド前には大広場があり、ギルド経由で辿り着いたプレイヤー達が居る。
宿屋等の施設を用いて居ない状態での入国後の復活地点はこのギルド前広場中央に設定されており、そこから転び出た者達を取り囲む様に人の輪が出来ていた。
「お、先行挑戦組だ」
「随分多いな」
「ラスト一人が勝ったか?」
「ひーふーみー、あれ?全員……だな……」
「え、全滅したの?」
「全滅はちょっと……」
「何があったんだ」
「とりあえずまず言いいたいのは賞金首がヤバい」
「マジでヤバかった」
「あれは無理、マジで無理」
口々に彼らが零す言葉に周囲は騒めき更に質問を重ねる。
返ってくる内容はどれも苦笑交じりのモノ。
「その後も色々理不尽だったな」
「とりあえず数人が刀で斬られて散るだろ?」
「その後すごく楽しそうにウェルカム言いながら歩いて来るんだ」
「既に笑い出してたな」
「それにビビッて数人が特攻仕掛けたんだが、な」
「そいつらが散った後で武器変更したと思ったらなんか柱が出て来た」
「柱ってなんだ」
「なんか表面に盾がビッシリ張り付いてた、詳細は自分も散ったから知らん」
「殴られた奴がボールの如く飛んで行ってたな」
「普通に振り回してたが何の補正付いてるんだアレ」
それらの言葉に大きく反応するプレイヤーが居た。
先程無言で飛び掛かった上で斬り捨てられた者だ。
「棍棒?盾?……あっ、ああああああ!」
「おいどうした初撃散り男君」
「どうした自信満々にスキル説明してた初撃散り男君」
「なんだい自分がポイント総取りだと言ってた第二陣の初撃散り男君」
「そこはもう許してくれよっっっ!!!」
「一応フォローしとくと大抵の奴は君の初撃で沈むから安心しなさい」
「暗殺特化型の急所攻撃で沈まないとかマジかぁ……」
次々に会話を進ませる中でまた別のプレイヤーが反応する。
「俺も思い出した。久々に見たが盾棍棒だったらあのギルドの作品だろ」
「拳骨鍛冶屋のゲンコツの作品だったっけか」
「盾棍棒ってなんだよ?」
「角柱の表面に盾が張り付けてあるだけだぞ」
「何の意味があるんだそれ……」
「特定職にだけ扱える武器が自作出来るとしたらどうする?」
「まあ、そりゃ作るが盾を張り付ける意味は?」
「両手盾と言う未だによく解らん職があってだな」
「未だに解らんので誰もが挑んでは居るものの突然変異は彼ぐらいだな」
「結局わかんねぇんだな……」
今度は野次馬側のプレイヤーが口を開く。
「そう言えばあの少年確か拳骨鍛冶屋に初期投資してなかったか」
「あの大規模投資以降プレイヤー全体が強化されたしなあ」
「噂話じゃなかったのかよ?」
「当人が人里に降りてこないだけで基本的に誇張は無いぞ」
「何故か森の中に籠ってる筈なのに凄く成長してるんだよなあ」
「さっきは凄く楽しそうに刀振り回してたんだよなあ」
「ああ、楽しそうに棍棒持って襲い掛かって来たなあ」
「嬉しそうに笑ってたよなあ」
そうして知っている者達はああ、と一息。
『敵で来ちゃったかあ……』
項垂れた。
PvPを始める事も忘れ項垂れるプレイヤー達と事態を呑み込めていないプレイヤー達、それを周囲から見ているプレイヤー達。
その周囲から見ているプレイヤー達の一角。
広場周辺にあるカフェのテーブルに男女混合のグループが座っている。
テーブル上には飲み物のカップと幾つかの料理が並んでいるものの手を付ける速度は遅く、広場から聞こえてくる声に耳を澄ませてはため息が漏れ出ていた。
「とうとう犠牲者が出たわね……」
「タテ兄ロールプレイ好きだったよね……」
「先輩に関しては遭遇したくないんですけど」
「私も同意!無理!無理!」
「あちらで項垂れておられる方達は強者としての有名所ばかりなのですが……」
「見事に意気消沈してますね!」
「ヨミちゃんも参加してるらしいけど別行動主体だってさ」
「私と御茶葉はサポートに回ります。と、言いたい所ですが」
つい、と烏龍が持ち上げた指が指し示す方向を座っている者達が追っていく。
そして指し示したモノを視認すると同時、頬が引き攣っていく。
その場に居た全員が確認したのを見てからもう一度烏龍が口を開き。
「もうじき一時間でしたね」
『あっ……』
広場に繋がる道の一本。
見覚えのあるバーテンダーの制服に似合わぬ鬼面を付けたプレイヤーがそこに居た。
名前、レベル、各種バー等も表示されていない為に周囲からも余り目を向けられておらず、それ故かその人物は丁寧な準備運動を行っている。
やがてこちらに気付いたのか応答代わりに軽く手を振って来る。
手を降ろした後は何やらメニューの操作をし始め、そして届くメッセージ。
『後で挨拶しに行くから』
最後に一度こちらを一瞥し、広場中央に向かって歩き出す。
そこに居る大勢の参加者を目指して。
足取り軽く、上機嫌なのが伝わってくるステップで。
テーブルの面々が顔を見合わせる事数瞬。
その直後届く先程見た人物の現在地。
それが見間違い等ではなく直ぐそこに居る事。
それらを踏まえて口を開く。
「逃げるわよ」
「逃げよう」
「あのテンションだと刈られますね……、賛成です」
「それが良いと思いますっ!」
「承知致した!」
「わ、私、お会計して来ますね!」
慌しく予選参加組が店を出て逃げ行く様を不参加組の二人が見送る。
ゆったりとした空気を崩さないその空間の直ぐそこで爆音が響き渡っている。
「私達はどうしよっか」
「後でヨミに送ってあげましょう」
「あー、それ良いかも。そうしよっか」
「ええ」
そして辺りに響く高笑いと誰かの悲鳴。
彼がそこに居る。
城門前でトドロキと別れてから暫く。
あの後、路地裏に入って仮面を鬼面に戻し武具類も仕舞ってバーテンダー服に着替えてから、NPCから貰った観光用のパンフレットを片手に家々の屋根上を走っていた。
掲示板の情報を見る限り既に自分が王都侵入済みなのは知られている様子。
ただ城門前で消えた為に現在地は不明。
告知時間の一時間制限まで残り十数分。
目的地の冒険者ギルド前広場に辿り着いた所で近くの路地裏に身を降ろし隠れる。
そっと広場を覗けば先程戦ったプレイヤー達に加えて大勢の未参加組が居る。
あの中に突っ込んだら確実に芋洗い状態になるだろう。
これも修行との事なので籠手と小盾のみで戦ってみようかとも思う。
倒されても良いものの倒されたくないこの心理。
修行と言う事にしておいて倒されたなら元通りにしよう。
そうして籠手を装備した所でふと思いつく。
告知と同時に現れたら面白そう。
と言う訳で時間潰しの為に念入りに身体を動かしておく。
ふと目が合った気がしてそちらを向けばギルドメンバーの学生組の姿。
既にログインしていた事に驚きつつ参加者のマークが出ている事を確認。
後で挨拶しに行こう。
ちゃんと言っておかないとな。
『後で挨拶しに行くから』
こちらが書き込んだ文面を見た後に思い切り目を逸らされたのは何故だろうか。
そろそろ時間なので標的達を目指して歩き始める。
結局は大盾と盾棍棒を使う事になる気がする。
まあそれも人が捌けてからだろう。
「さて、挨拶は基本だよな」
横をすり抜ける度にざわめきが増えていく。
そしてこちらに気付く者が増えるにつれて動きが固まっていく。
そうして辿り着いた中央。
ぽっかりと開いたスペースに立ち、声を上げる。
「どうも賞金首でーす!首狩りに来ましたー!」
『ぎゃあああああ!!!』
その反応は酷くないか?
まあ一手お願いしますよ。
ねえ。
ね?
待ってー!
逃げないで―!
ちょっと首狩るだけだからさぁ!
なぁ!




