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2-22 四十一日目

『それじゃあ女性陣の何人かは脱退するのか?』

『当初の目的だった保護みたいなのももう要らなくなったしね』

『それは少し寂しくなるなあ』

『アンタは関わる事も少なかったけど割と苦労してたのよ?』

『す、すまん』

『その他の理由としては今の所ウチが戦闘系の集まりみたいになってるの』

『あー、それは……、その……』

『それに一階の喫茶店が繁盛し過ぎてそっちで楽しみたいらしくて』

『え?』

『楽しみ方は人それぞれよ?』

『そ、そうだったな』

『そうよ。で、今の所の釣果は?』

『悲しいかな、ボウズだ』

『今後の予定も一応聞いとこうかしら』

『素潜りかなあー』

『わぁ、面倒ね』

『ひでえ』

『掲示板とかも見とくと魚群の場所が判ったりするわよ』

『おう』



ゴルドラン王国、王都近郊。

王都に繋がる道の中央にて仁王立ちする人と獣が居る。

鎧武者と四足の獣の一人と一匹が立っている。

人と獣の目は王都の方角を向いており、目的がそちらにある事を示している。

正しくはそちらから来る者達を待っている。


「来ないなあ」

「ガァ」

「見に来てはいるんだけど」

「ガァゥ」

「さて、どうするか」

「ガゥ?」


人の口調は軽く、鬼面を付けている者にしては気楽なモノ。

それを聞く獣もまた脅威を感じていない様に相槌を打つ。

しかし両者が身じろぎする度に空気は騒めき密度が上がる。

そして鎧武者が腰の一刀を引き抜いた所で草むらから一人の男が飛び出してくる。


「様子見され続けても何も起こらなそうだし」


男は無言で直剣を振りかざし首と言う急所を狙い喉突きを放つ。

しかしそれはカンッと言う軽い音と共に『防具の無い素肌』に弾かれる。

男が驚愕し動きを止めた一瞬。

鎧武者がその暴力を数度振るった後には男は光の粒子と化していた。

その光の粒子が散りきる前に鎧武者は一歩を踏み出し獣に問い掛ける。


「全員に襲い掛かれば反撃されるよな?」

「ガァ!」


鎧武者が笑い、獣が吠え、隠れていた人々が悲鳴を上げ始める。

それでもなお駆け寄ってくる者達に向かい歓迎する様に鎧武者が手を広げる。


「ウェェェェルカァァァム……!」

「ヒィッ!?」


関わり合う羽目になった者達に取っての不幸はこの鎧武者が例え幾度倒そうとも復活してくる最悪の敵である事だろう。

当人はただ楽しんでいるだけなのだが。

鎧武者が巻き散らす暴虐は続き、いつしかその手には巨大な棍棒が握られていた。

六角柱の全面に盾が張り付けられたそれは一見すれば意味不明な代物。

だがそれを持つ者にとっては振るうに値する代物であった。



試作型盾棍棒【両手盾】 品質C+ レア度3 重量85(5)

トレントの原木に芯を入れ強化した丸太

その表面に小盾を60枚程くくりつけた物

常人では持つ事すら叶わない

防御+15(盾合計+900) 破壊力+4

※両手盾職補正[重量軽減-80]



「範囲攻撃手段持ってないから対人だとコレか鉄塊だな」


黒騎士セットもたまには使ってみようかと面の隙間から零しつつも動きは止まらないままに身の丈を超える棍棒を振り回し続ける鎧武者。

轟音と爆音と剣音が響き渡る中、一人消えまた一人と風に吹かれる様に減って行く。

いつしか周りに人は居なくなり、再び鎧武者と獣のみになっていた。


「もう誰も居ないか?」

「ガァー……」

「やり過ぎたかあ」


地面に置いた盾棍棒に座りながら腕組みをしている鎧武者。

その近くには困惑したままの獣の姿がある。

風が一陣、また吹いた。



プレイヤーが大勢来てくれたのでうっかり張り切り過ぎた。

さっきの戦闘中も自分の高笑いと相手の悲鳴だけを聞いてた気がする。

トドロキの顔を見てみれば器用にドン引きしている。

うん、今後は多少自重しよう。


「ともあれこれで一旦は今の姿が印象付けられた訳で、だ」

「ガァ」

「次の変装をやってみようと思う」

「ガゥ?」


別に手配書通りで居続けなきゃいけない縛りも無いよね?

運営から怒られたら手配書通りに戻すとしましょう。

久々に黒騎士に見える全身鎧と剣に見える鋼の鉄塊を装備する。

仮面はリストにあった青年に替えておいて中身バレを防ぐ。

後は参加者を見分けられる様に表示設定を切り替えて、と。


ただトドロキはどうしよう。

ここに置いていくのも怖いしかと言って街にいきなり入れば国のお世話に……。

あれ、世話になった方が話が早いような?

災害級の魔物に対して出てくるとすれば騎士団長さん達だろう。

暴れていれば駆けつけてくれるだろう。

上手く説明しないといけないのが大変そうだが生き残れれば機会はある筈。


「トドロキ、この後の予定なんだがとりあえず街に行って暴れようと思う」

「ガァ!?」


ん?これだと突然破壊魔と化した人物みたいに思われるな。

言い直そう。


「すまんすまん間違えた、街に行ってさっきみたいな奴等を刈ろうと思う」

「ガァァ!?」


ん?これもまた突然辻斬りに目覚めた奴みたいな感じだな。

言い直そう。


「その、なんだ。実は大勢から狙われててな?いっその事目立とうかなと」

「ガァァァ!?」


言い直す度にトドロキが逃げたそうに後ずさっていく。

後ろ足に力を込めたのを見た所で背中に手をかけ笑顔で告げる。


「大丈夫大丈夫、刈っていい奴とダメな奴の判断は自分が出来るから」

「ガァー……」


一緒に生き延びような。

多分ステータス的にどうにでもなると思うし。

大丈夫だって。

な?



告知時間を一時間に伸ばし現在地の誤魔化しをした上で王都に向かう。

トドロキの上でふんぞり返り堂々としていると存外疑われないらしい。

物珍し気に虎に乗った騎士の姿を口々に話し合う様を見るのは結構楽しい。

さすがに街門で衛兵に止められたものの依頼書を見せれば即座に通された。

むしろ早く連れて行って欲しげな顔で迅速に手続きが終わらされた。


王都の中に入って暫く、トドロキの上から降りて徒歩で王城に向かっている。

流石に目立ち過ぎたのか周囲を人に囲まれ過ぎた為に降りる事になった。

と言うのは建前で実際にはトドロキに触ってみたい群衆に請われた結果だ。

今も子供が背に乗り大人は毛を触り女性が声を掛け男性が尾を触れずに居る。

トドロキが不快に思っていたのなら止めるつもりだったが今の所は無さそうだ。


「まあ、これもまたトラウマ解消か」

「ガァ」


それに近付いて来るのも予選参加者以外の人達とNPCなのである意味暇だ。

加えて今の自分は変装と偽装を含めて人混みに埋没しやすい状態なので尚更。

ただ王城に近付くに連れプレイヤーは増え、そして予選参加者も増えてくる。

やがてこちらに目を向け自分の装備を見て逃げる者と首を傾げる者が出てくる。

前者はイベント経験者、後者は自分を知らないプレイヤー達。

トドロキを王城に届けたら数日間は王都中を走り回れるだろう。


その前に騎士団長殿と一戦交える予感がするのは気のせいだろうか。

気のせいであって欲しいし、トドロキも巻き込まれる予感がしている。

自分が戦いたかったと言わんばかりの笑みをまだ自分は忘れていない。

何故か決着がつかない様な気もするし、譲ってもらえそうな気もする。

ステータスではなく純粋な技量差からだろうか。


パレードを続け王城付近にまで辿り着く頃には城門の周囲が騒がしくなっていた。

城門前には完全武装の騎士が踵を揃え並んでおりその先頭には騎士団長殿。

トドロキを見て笑みを浮かべた後横に立つこちらに気付き柄に手を掛けた。

それに周囲が驚き立ち止まった隙間をトドロキと歩き続け眼前に立つ。


「依頼は不達成と言う事か」

「残念ながら誇り高き暴虎の盗伐には失敗しました。すみません」

「ふむ……」

「今後に関しての保証は出来ませんが今の所は討伐対象からは外れたかと……」

「君が言うなら信じてやりたいのは山々なのだが、ね」


迎え入れるにあたってのケジメと言う物も必要なのだよ。

今の我々には。


そう騎士団長殿が零した次の瞬間トドロキに対して剣が振り下ろされていた。

剣の軌跡は真正面から顔を真っ二つにするもの。

目でしか追えないそれを最後まで見届けかけた所で瞬きをしてしまった。


「トドロキッ!」

「うむ、大丈夫そうだ」

「って、あれ?」


声を荒げかけた所でよくよく見てみればトドロキは斬られていなかった。

騎士団長の剣はトドロキに触れておらず、宙にて止められている。

トドロキも静かに寸止めされている剣を持った騎士団長を見ていた。

恐らく本当に斬るつもりは無かったとは思うものの肝が冷えた。

自分だったら斬られていたと思えるそれはやはり相対したくないと感じる。


「えーっと……」

「ああ、トドロキ殿は大丈夫だと言う判断を私が下した。安心してくれ」

「あ、はい」

「人に剣を向けられて害意の有無でもって判断出来る程の知性だ、大丈夫だろう」

「もし反応してたらどうなったんですか」

「戦っていただろう」

「……ガァ」


強者と戦ってみたいと思うのは求道者の常だとは思わんかね?


そう言って騎士団長殿は楽しそうに笑っていた。


上機嫌な彼に連れて行かれるトドロキを見送り自分も動き出す。

とりあえずは辻ミンチにしていこうかな。




鉄塊に攻撃力を付与するとどうなる?


当たったモノが爆発します。

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