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2-20 四十日目

今日も今日とてログインしました。


師匠達が移動後に立ててくれていたのかテントの屋根布を見つつ起きる。

テントの中は静かなものの外からは虎と竜の悲痛な鳴き声。

それから師匠の諌める声と先生の笑い声。

そして響く轟音。

何か巨大な物が砕ける異音。

虎と竜以外の命乞いの鳴き声。


先生の笑い声。


どうやら暴亀が既に死に掛けているらしいです。


一旦聞かなかった事にしてメニューを開き情報確認。

丁度良く予選開始日時のお知らせと付随して幾つかのログが来ていた。

そして大量の友人知人からのメールの数々。

……見なかった事にしたい。


≪イベント:国家間親善試合:予選開催日程について≫

≪予選は本日12:00時より一週間後の本戦前日まで行われます≫

≪本戦進出者の枠は256枠となっています≫

≪予選中は参加者同士によるPvPでの獲得ポイントによって順位が変動します≫

≪予選最終日終了時に1位から256位までを算出し本戦出場者と見なします≫

≪戦闘可能領域はゴルドラン王国内に限定されます≫

≪PvPのレベル制限は無し、アイテムに数種類の制限有り≫

≪これらについては別枠のルールをお読み下さい≫


そろそろ中間テストの時期だなと思っているとものの見事に被る日程だった。

テスト前期間に予選七日間と本戦二日間の日程がお知らせに書かれている。

本戦二日目の次の日試験開始なんですが。

続きのログを読む。


≪タテヤ様は既に特別試合への参加権を持っています≫

≪客将『暴虎を鎮めし者』としての登録案がゴルドラン王国より提案されています≫

≪了承しますか? YES/NO≫


んんんっん――――?


……暫く悩み、NOを選択。

名前で色々バレるのは仕方ないとしてもこの登録案は避けたい。

何しろ既に掲示板から色々な場所に情報を漏らした上に討伐依頼も不達成。

この提案からすると許されてる様だがこの二つ名は……。


この状態で迂闊にこの登録案を採用したら更に火が燃え盛るに違いない。

主に情報量的に。

メールも大半が予選にも参加するのかと言った物。

本戦までに名前を考えておかないとなと考えているとまだログがあった。


≪イベント:国家間親善試合:特別枠のお知らせ≫

≪このお知らせは通常予選枠で参加出来ないプレイヤーに送られています≫

≪特別枠で参加した場合参加者全員からの賞金首となります≫

≪特別枠参加者は予選参加者をキルした場合にプレイヤーキラーになりません≫

≪特別枠参加者は予選開催中PvPを行う事が出来ない代わりに制限はありません≫

≪特別枠参加報酬として身隠しの仮面が配布されます≫

≪参加する場合登録完了後に全プレイヤーに賞金首の参加報告が通達されます≫

≪参加しますか? YES/NO≫


どうやら自分の様な訳有りに対する救済措置らしい。

賞金首は大量のポイントを持った宝箱と言った扱いなものの自由度は高い。

自分で言えばこの暴力的なステータスをいつでも叩き付けられる事だろうか。

それも通りすがりの参加者全員に。

いっその事高笑いしながらの狂気ロールを演じながら追いかけるのは……。


そこまで考えた所で指が勝手にYESを選択していた。


あっ。


いつの間にか再確認まで終えた所で意識が戻る。

一応言い訳として暴虎以外の依頼は受けてないので自由行動しても大丈夫な筈。

後は単純にお祭りに参加したい気持ちからです。


≪特別枠参加報酬として身隠しの仮面を受け取りました≫


ストレージから身隠しの仮面を取り出す。

見た目は顔全体を覆い目穴も無い白色の仮面。

ジョークグッズか何かと思い一瞬疑う程にシンプルなソレ。

だがそれも詳細を見てみれば口が開く代物だった。



身隠しの仮面 品質A レア度6

千人に化けたと言われる道化師が作りし仮面

使用者の思うがままに形を変え万人を騙す

変形 隠蔽【大】気配遮断【大】魔力遮断【大】



これだけで参加した意味はあったな!

さすが特別枠。

ただ顔以外でどの道バレる気もする。


≪続いて手配書を作成します≫

≪登録名を入力してください≫

≪人相書き用の画像を撮影して下さい≫


顔に付けてみると仮面と言いつつ視界は遮られない。

目元を触ると板の感触があるので当たり判定はある様子。

変形と言うスキルがあったので試しに使ってみれば変形先を選ぶらしい。

幾つかの変形先の中で一つ気になる物を見つけ変形させる。

選んだのは二本の角持つ朱色の鬼面。

古代龍の大盾の変形と合わせれば鬼武者が爆誕する。


と言う訳で登録続行。


≪登録名:流浪の鬼武者≫

≪宜しいですか? YES/NO≫


YESを選択。

自撮りも必要なので外に出て撮影する事に。


後でヨミになんて言おうか、なんて気楽な気持ちで入り口の布をめくる。


「ギャ、ゲ…………」

「あはははははは!」

「ルーネ師匠!それ以上は亀が死にます!」

「グロロロォ……」

「グゥ……」

「お気に入りの服を泥だらけにされた恨みよ!」

「ギャゲエゲゲゲゲゲゲエ―――――…………っ」

「ルーネ師匠―――!」

「グロォロォー!」

「ガァァァー!」


ヨミ、外に出た瞬間地獄絵図を見たけど自分は元気です。

ああ、空が青い。



「ふむ、祭りに参加したいと」

「そうなります。……駄目でしょうか?」

「構わぬ」

「おお!」

「それに罰にもなるのでな」

「あー……」

「私も行きたいのにー!」

「ルーネ師匠は後片付けを終えてから喋って下さい」

「むむむむぅ!」


自分が起きて来た事に気付いた師匠の必死の説得で暴亀は生き残る事が出来た。

こうなった発端は到着した後に野営の準備を整えた後の夜半に起きたらしい。

龍の気配を感じた暴亀は生存本能から殺される前に殺すしか無いと判断した。

その結果がテントごと吹き飛ばす水砲であり、地面を転がった結果の泥汚れ。


暴虎も巻き込まれたそれを先生が無傷でいなしながらも服までは間に合わず。

キレた先生が生かさず殺さず数時間程半殺しにしていたらしい。

それでも自分と戦わせるつもりだったらしいが先頃二度目の汚れを付けられ破綻。

結果暴亀の甲羅が見るも無残に打ち砕かれひっくり返ったまま痙攣している。


この状態でも暴走魔結晶に適応したらしく身体の修復が始まっている。

ただ完全に心がへし折れた様に見えるんですが大丈夫なんでしょうか。

生きていれば再起は出来るらしいので自分は何も言わない事にします。

プレイヤーからすれば全種とも強ボスだったのに……。


「ただお主だけと言うのもちと不安が残る」

「え、誰か連れて行かないと駄目ですか」

「ああ、依頼主への報告も含めて慣れておかんとのう」

「そうなると暴虎ですか」

「そうなるな」

「わかりました」


師匠達はこの後暴牛を鎮圧しに行った後一週間ほど国と周辺を見回る予定らしい。

加えて環境破壊の後も治しながら行くそうでこれは暴走した先生への罰らしい。

ただ常在戦場とまでは行かないもののある程度戦闘しておく事も言い渡された。

丁度そうなる予定だったので楽しみながらキルして行きたいと思う。


身隠しの仮面と古代龍の籠手、道着、大盾、刀、脚甲、首飾りを付けて装備完了。

その状態で登録用の画像撮影をして登録を完了させる。

師匠が身隠しの仮面に驚いているが口を噤んでいたのが少し気になった。

それはさておきログを見る。


≪新賞金首の誕生:流浪の鬼武者:所持ポイント:一位と同額≫

≪全参加者への告知完了≫

≪一定時間経過毎に現在地が参加者へ告知されます≫


賞金首は完璧に宝箱扱いとして自分はステータス的にレイドボスだよな?

現在地が解り続けると言う事は倒してくれと言う事で。

ただ倒されたくないので頑張ります。

鬼面の下で笑っているとパーティーの編成画面が出てくる。

うん?


≪轟雷虎:トドロキをパーティーに加入させますか? YES/NO≫


名前、あったんだ……。


暴虎改めトドロキを見る。

先程までの騒動で疲れを見せているもののこちらを見つめる目は力に満ちている。

思わずニッコリ笑って口を開いた。


「これから一週間トラウマのリハビリやるから頑張ろうな」

「ガァ!?」


齧っても大丈夫な敵ばかり用意するから。

大丈夫だって。



そして届くヨミからのコメントメール。


『何してくれてんの?』

『楽しそうだったんで……つい』

『キルされたらどうにかしてキルするから』

『アッハイ』


頑張ろう。

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