2ー18 とある虎の三十八日目
熱い。
熱い。
熱い。
痛い。
痛い。
痛い。
人。狩る。
人。狩る?
人。狩る。
人。待つ。
人。待つ。
人。まだ待てる。
人。
「行って来ます」
「うむ、行って来い」
「いってらっしゃい!」
来たれり。
踏む。
来る。
行く。
「がっ、あっ!?」
死なない?
潰す。
死なない。
「油断しおったな」
死なない。
後ろに敵意を向ければ死ぬ。
待つ。
『ようやく呼び出されたと思えば、何をやっているのだお主は』
格上。
死ぬ?
挑む。
死んでない。
「龍化!」
格上の化身。
生きたい。
殺すと死ぬ。
「食われる気がするんだがっ!」
『耐えろ』
「んぎぎぎぎぎぎぎ……!」
「ガァァァアアア!!」
光。
避ける。
構え?
「参る」
居る。
殺 ゲギャッ!?
腹、砕け……
「ガッ…………」
「あっ」
意識がもど、…………。
何かを潰した。
目覚めた時には身体が軽く、力が漲っていた。
今も身体の中身が書き換えられている様だが己に一体何があったと言うのか。
何故か周囲に龍と神狼と強者と人の子が居る。
朧気な記憶の中でひたすら攻撃を仕掛けていた人の子が座り込みこちらを見ている。
喜の感情が向けられるが何故か解らない。
解らないままに人の子の後ろに回り身体を支える。
『ふむ。見所がある』
唐突に神狼殿に話しかけられ、全身が総毛立つ。
上位者から話し掛けられるなど我が身の格では考えられなかった事だ。
気付けば王に上がって居たがこの身は一体……。
『主が生きておる理由を聞くか?』
「ガァ」
「うぉっ」
上位者達の話し合いを聞きつつ己に起こった事を神狼殿から聞いていく。
人を殺したが人を殺しては居ないらしい。
訳が解らないが人の子が同類だと言われ思わず立ち上がりかけた。
大分前にやって来た者等に手も足も出ず拘束された日を思い出す。
あれらに邪魔なモノを身体に植え付けられてからああなっていたのだ。
腹を見れば邪魔なものは無くなり、代わりと言う様に体毛がある。
『我は動かずとも良いのだな?』
上位者達が気付いてから暫く、己の感知領域に人が入って来たのが解った。
先日殺した筈の者達と同一の気配を持ち、これが殺せない者達なのだろう。
先を考える。
上位者達は殺せない者達を倒し、ここを離れるらしい。
ここにはもう居れぬ。
山下の村と人を想う。
神狼殿と上位者様達にお頼み申す。
『どうも御主に頼み事があるらしい』
「頼み?」
『正しくは願いかも知れぬが』
「暴虎からか」
『うむ』
人の子と目を合わせる。
こちらを恐れない目。
だが殺気を出せば殺される場。
この人の子に己が身を託す。
数秒。
「師匠、先生」
「構わぬ」
「良いわよ~」
笑みを向けられた。
力が漲る。
「グルゥ」
目の前に立つ人の塊が好き勝手な事を言い続けている。
一瞬で消し飛ばしてくれようかと思うがそれは出来ない。
力を見せねばならない。
暴虎の力を。
戦うらしい。
近付いて来る。
構え?
邪魔を消し飛ばす。
「いつの間に」
「待ち伏せておるのに準備せぬ奴はおらんじゃろう」
「私が居るわよ?」
『「「…………」」』
「もう!」
後ろで龍が放った言葉で周りの気配が変わった事を感じる。
呆れ?
見放されるのは不味い!
もっと力を示さねば!
「暴走状態よりつよ、ガハ!」
「おら退け俺が討伐して名を上げ、ガッゴッ!」
「回復急げ死ぬ死ぬ死ぬ!」
この身ならば一瞬にして狩る事も出来る。
だが人の子に力を見せる為にこの身で出来る事を示していく。
困惑の感情。
足りない。
まだ足りない。
まだまだ。
人の子を見る。
頷き。
足りぬか?
相手が動かぬ。
困った。
噛む。
うむ。
大きく頷かれた。
よし。
噛む。
止められた。
「村の人に挨拶とかしないといけないんでしょうか?」
「何、勝手に移動したとでも言えば良かろう」
「本人に聞かないまま進めたら駄目よ~」
同行する事が許された後、人の塊は帰って行った。
後少しで全員食えたが仕方ない。
上位者達はこちらの身を案じている様で説明を受ける。
姿を見せてから去るか。
見せずに行くか。
人の子を見る。
視線が合う。
見に行く事にした。
『夜は主の背に小僧を括り付けたまま走ってもらう』
「え?」
「ガゥ?」
他にも自分と同じ状態の者が居るらしい。
それを助ける為の活動として自分の脚が人の子には必要だと。
龍と強者と神狼殿は自分よりも早いそうだ。
成る程。
「……寝てる間だから大丈夫ですよね?」
「縄が千切れん限りの」
「それに格落ち含めても幾つか反応有るから戦って貰うわよ?」
「え?」
「ちゃんと死なん様にするわい」
「夜の内に着いておいて起きたら修行!」
「えっ……」
人の子がこちらを見る。
悲哀の感情。
尻尾で頭を撫でる。
「……これからよろしく」
ガゥ。




