2-10 ゲーム内にて。続続三十六日目
昨日に引き続きゴルドラン王国の王城に到着した所で足をもつらせて倒れる。
今日もまた思った以上に精神疲労が大きかったらしい。
寝転がったまま同伴者二人を窺えば、ダンガロフ師匠は顔にこそ疲れは見えるものの動きはいつも通りで、ルーネ先生は色々と発散したようでイキイキとしている。
自分はと言えば仰向けでゼヒゼヒ言ってます。
城門前に出て来ていた迎えの人達も困惑しているので立ち上がりたいのだがまだもう少し寝転がったままでいたい程度にはバージョンアップすると言う修行に対して恐れを為しています。
モンスターと戦ってる方がマシなのでは……?
あ、師匠の目が「そろそろ起きろ」と言っている。起きます。
「……中々愉快な状況ですが、王がお待ちです。こちらへ」
昨日のお披露目を計画した役人さんに連れられて城の中に入って行き謁見の間へ、と思いきや案内されたのは昨日自分が案内された応接室だった。そしてそこにゴルドラン王も居られたのですがこれ自分は跪かなくて良いんでしょうか。
駄目な気がするのでやろうとしたら全力でゴルドラン王国側の人に止められた。
青褪めた顔を向こうがするのに対して先生と師匠は苦笑。
唯一話が解っていないのは自分だけと言う状態に。
「なんで止められたんでしょう」
「タテヤ君、君が思っている以上に英雄と聖女の教え子と言う立場は権力を持っている」
「え?」
唯一顔色の変わらなかった役人さんが言うにはダンガロフ師匠とルーネ先生の教え子だと言う事を証明出来る物があれば大抵の国がフリーパスで通れる程度には権力が有るらしい。
審査は?と思えば「常人が龍の教え子なんて嘘を吐けるかい?」と言われた。
結構色々な事を隠してる気がするけれど、どうだろう。
それに朝食後のデザート抜きだと言う嘘はセーフなのだろうか?
聞いてみた所向こう側の口があんぐり開いた。
役人さんは口端を引き攣らせている。
先生は笑いながら怒っている。
師匠からは後頭部を掴まれ軋まされている。
ごめんなさい。ごめんなさっあいたたたたたたたあ!
「まあ、こう言う奴なのでな。慣れてくれると有り難い」
「タテヤ君、今日のメニューは昨日出来なかった事にするからね?」
師匠と先生が言葉を発する間も周りの驚愕は収まらず、今日のメニューが確定。
落ち着いた所でゴルドラン王と役人さんが主に話す事になった。
「まず昨日までの私達の状態を表したなら洗脳状態だった……、のだろう」
「だろう、と言うのもこちら側の殆どが夢現の様な日々を過ごしていた様でして」
「覚めたと感じたのは昨日聖女殿の威圧を貰って以来だ」
「あれで大抵の者が正気に戻った上で死を覚悟しました」
ルーネ先生が言うには龍の威圧を浴びた結果恐怖のショックで解けたらしい。
軽く怒った後で様子が変だと言う事で自分と師匠の必死の説得に応じた様子。
様子が変じゃなかった場合は?何かしらが起こっていた筈です。
死を覚悟したと言うのも間違いじゃ無いと思う。
加えて話を聞いていくといつの頃からか城に居た顔の見えない魔術師を新王が重用しており、先代が諌めようとも聞き届けず戦争の準備すら始めていたと言うのだから恐ろしい。
大義名分等は無く、龍種が居る国に対して火種を起こしかけた所で昨日の騒ぎに。
あの一件で目が覚めた人達で解いて回っているらしいが後始末が大変らしい。
「聖女様の怒りで国が滅ぶ前に自滅するやも知れんのだ」
「と言うのも戦争準備をしていたせいで国庫及び必要物資がカツカツでして」
「おまけに国を纏める者達が狂ったと言う噂も蔓延しているので国民感情は最悪」
「裁可した国務も本当に自分達が認可したのかと言う案件ばかりでした……」
そこで国を立て直すまでの間、国民の目を逸らす為に国家間親善試合と言う名の武闘大会を開催し各地から徴発した物資の放出及び返還を行いたい、とのお話。
バルガロフ王に話を通さなくて良いのかと思った所でルーネ先生が音頭を取ったならそれは国を挙げて成すべき事になるらしく後で確定した物として話が行くらしい。
……胃痛が凄そうですね!
しかし場所を提供するとは言え主催はバルガロフ王になり、ゴルドラン王は最低限の歓待時以外は仕事に忙殺される事が決定しているらしい。国同士の態度を傍目にもわかり易くしないとこう言う場合は収まらないそうで。
先生も何かしら思う所があったのか「……今度こそ消し飛ばさないと」と小声で言っていたがその場に居た全員が静まり返っていたので聞こえており何人かは気絶していた。
背筋が凍り過ぎて後ろに倒れかけた所で師匠に支えられる。
「それで、何故ワシ等がまた呼ばれたんじゃ。バルの奴でよかろうに」
「バルガロフ王には後ほど正式に文を送るが何の事は無い、大会への誘いと言うものだ」
「ふむ、表向きはそれで良かろう。裏はなんじゃ」
「……我々は意識が混濁している最中、ひたすらエターナル・ネフィリムを怨んでいた」
ゴルドラン王が放ったその一言を皆が聞き、そして一人の女性へと目を向ける。
能面に彫られたが如き苛烈な笑顔であった。
「ルーネ師匠が怨まれるとなれば、昔話のおとぎ話が復活した様ですな」
「私に直接喧嘩売れないから人を巻き込もうと考えたみたいね~」
「ルーネ師匠、気を静めてくだされ。ここには魔族は居りませぬぞ」
「あっ!ごめんなさいね♪」
先生、今更取り繕っても殺気を出すのは不味いと思うんです。
周りの人達も何と戦おうとしてたのかを察して死にそうな表情してますし。
落ち着いた所で再開。
「まあルーネ師匠が絡んでいるとなれば見捨てる訳にもいかんじゃろうて」
「見捨てるつもりだったのかしら?」
「ルーネ師匠を止めるか止めないかの違いですぞ?」
ゴルドラン王が昨日と今日だけで数年老けた様に見える顔でぽつりと呟く。
「……まこと、我々は九死に一生を得たのだな」
「タテヤ君が居なかったらやっちゃってたかも」
「えっ」
「ルーネ師匠!?」
「聖女殿!?」
一斉に自分に向けられる視線の数々。
先生を見れば舌を出して頬に拳をこつん――ぶりっ娘ポーズ……!?
やっちゃった♪じゃないのですが。
そしてそのポーズは一体誰に教わったんでしょう?
「そう言えばタテヤ殿にも頼みたい事があるのだが」
「なんでしょう」
「此度の大会にてゴルドラン王国の客将身分として出ては貰えないだろうか」
「えええ!?」
なんでもやらかし続けていた最中に実力のある人達を王都から離れた場所に理不尽な理由で飛ばしていたりとやっていたらしく実力者の数が足りないらしい。
しかし客ですよ?
そもそもバルガロフ王の国にも所属してない異世界人なんですが。
悩んでいると師匠の言葉。
「ルーネ師匠の御付きで通るじゃろ」
「それで通そう」
「通しちゃえ!」
「通るんですか!?」
「では書類を用意しましょう」
師匠、ゴルドラン王、先生、自分、役人さんの順に声をあげ、何故か周囲からは拍手を貰う。
本当に良いのだろうか。
「何、大トリだけだから安心してくれて構わない」
「えええええ」
そこで負けたら国の威信ガー!って奴じゃないですか。
「負けてくれても構わない、だが」
「だが?」
「聖女殿を抑えてくれると助かる」
「無理難題では!?」
「何、聖女殿は大丈夫と言った、なら我々はそれを信じよう!」
『信じましょう!』
目の焦点がこっちに向いてないんですけど!
そして役人さんが超特急で用意して来たのだろうまだ生乾きのインクの匂い漂う書類が目の前に滑り込んで来る。
先生を見る。笑顔のサムズアップ。いや若干いたずらっ子な目をしてますね。
師匠を見る。腕を組みつつの首肯。断ったら酷い事になりそうですね。
書きます。はい。
書き終えた所で運営インフォメーション。なんでしょう。
≪イベント名『国家間親善試合』がゴルドラン王国にて開催される事が決定しました≫
≪プレイヤーの皆さんは奮ってご参加下さい≫
≪開催日時は後日通達されます≫
同時にヨミからコメントメール。
『今何処に居るのかしら?』
ヒェッ。
悩みに悩みつつ。
書ける人は凄いなあと。




