2-8 ゲーム内にて。続三十六日目
昨日の事を簡単に思い出した所で今日は何をするのかと言うと修行、なのだが。
今日から何日間かゴルドラン王国でやる事になっている。
色々あったんです。
「まさかとは思いますが自分を連れて行ったのもああなる事を見越してですか?」
「それは副産物じゃがの。お前とワシが居なければあの国は終わっていた」
「向こうの王様との対面時にルーネ先生が笑顔でしたしね」
「笑顔じゃったからの」
良い笑顔でした。
「かと言って自分にまで言い掛かりが飛んで来るとは思ってなかったんですが」
「無表情のルーネ師匠は久々に見たのう……」
「あの状況で自分が負けてたらどうなったんでしょうね」
「ルーネ師匠の本気の指導が始まっておったと思うが」
「師匠!自分は今生きている喜びを噛み締めています!」
「そ、そうか」
ルーネ先生の本気の指導とか英雄でも育てられそうなんですがそれは。
ともあれ最悪の事態は避けられたのでこの先もゲームを楽しめそうです。
その割りに普通のプレイング一切してない自覚はあるけれど。
「今日は朝食後直ぐに移動ですか?」
「そうじゃな。タテヤには悪いが暫く付き合って貰うぞ」
「頑張りますね」
「うむ」
暫く無言で今日の事を考えていると朝食が出来たらしく、ヤクさんの呼ぶ声。
「少年、ダンガロフ。朝食の用意が出来た」
近づけば良い匂いがしているので今日も期待出来そうです。
あ、そうだ。
「ヤクさんにお願いがあるんですが」
「なんだろうか」
「朝食後のデザートってありますか?」
「あるが……、それで?」
「ルーネ先生の分は無しでお願いします」
「……ああ、分かった」
「またかの」
「またです」
配膳の手を止めないまま苦笑しているヤクさんと渋い顔のまま手伝う師匠。
視線をずらせば自分がヤクさんに言った事を察したのか笑顔を引き攣らせた先生。
聞いていたのか驚愕するロン。笑い続けているアル様の姿。
絵面だけ見れば普通の人達……、ですよね。
触らぬ神に祟り無しを地で行く人達を怒らせない様に謙虚に行きたいと思います。
あ、この肉美味しい!
結局ルーネ先生の機嫌を直す為に食後のデザートは出しました。
先生の顔が晴れたのは良かったんですがその後の笑顔が怖かったです。
ちょっとふざけ過ぎたかな?
その後、隣国に向かう道中で先生からの弓を避け続ける修行が行われた。
先生は笑顔でした。ごめんなさい。
必死で逃げながら昨日の事件の後の事を思い出していく。
謁見の間で笑顔一つで向こうを恐慌状態に陥らせたルーネ先生を師匠と二人でどうにか説得して話し合いの場を設ける事にしてからしばらく。
何故か応接室で役人さんと二人きりで対面する事になっていた。
既に疲れ切った顔を隠そうともしない辺り相当なストレスが掛かっている様子。
その状態でも丁寧な応対をしてくれるので申し訳なさが出てきます。
そんな人から提案があると言う。一体なんでしょう。
「こちらの国の騎士団との手合わせ、ですか」
「名目上はタテヤ様のお披露目、ですが実際には信じられない者達にも解らせてくれとの御老人達からの依頼となります」
「師匠達は何か言ってましたか?」
「御二方からは既に了承を貰っていますが伝言が御座います」
「聞きます」
「ダン・ガロフィルト・ハイマン氏からは『次の時代が来ている事を見せ付けてやれ。それと断った場合のルーネ師匠の事を考えてみろ』とのお言葉を達観した表情で頂きました。エターナル・ネフィリム様からは『どーんとやっちゃって!』との一言と共に聞いた者が走馬灯を見たとの報告を貰っています」
「……受けます」
「ありがとうございます!」
グワシィ!と言わんばかりの勢いで両手を握られ上下に振られる。
役人さんは既に解放された表情をしてますがまだ戦ってませんよ?
一体誰と戦うのやら。
そして訓練場にて騎士団長なる人と対面しています。
ちょっと待って欲しい。
「……てっきり団員の方と戦うとばかり思っていたんですが」
「ダンガロフ殿と伝説の龍の弟子と聞けば私が出るしかあるまい!と直訴したのだ」
何故そこで満面の笑み?
周囲には大勢の観戦者と応援の声を上げる団員の皆様方。
さっき見た新王も居るのだが何か憑き物が落ちた様な顔をしている。
最初に会った時の狂乱からの沈黙は何かを起こしたのだろうか。
戦い終わったら師匠達にでも聞いてみようと思う。
さて現実逃避はこのぐらいにして。
「お披露目、ですよね?」
「まあ、お披露目ではあるな」
「……お手柔らかにお願いします」
本当に頼みますよ?
さて武装ですが古代龍の籠手と古代龍の道着は大前提、古代龍の大盾と翔龍の脚甲も装備しておく。古代龍の刀と祝いの首飾りは悩んだものの着ける事に。相手のレベルが解りませんしね。後は色々とふざけた事にシールドチェンジに試作型盾棍棒【両手盾】を入れただけで防御力が900増えたのでもっと早く思いついていれば良かったなと思う。
思いつかなかった理由としては加護のせいですね。
祝いの首飾りの二倍が大き過ぎると言うのもあるんですが。
それでも攻撃力は0である。スキルでどうにかするけど。
「ふむ、それが神代の時代の物かね」
「神かどうかは解りませんが、それに近いかなと」
「君自身もどうにも色々ありそうだが」
「あははは……」
察しが良いですね。異世界人です。
と言えないので苦笑いしか返せません。
審判としてルーネ先生が立ち、審査員として師匠を含めて数名。
「勝敗の基準は戦えば解ると思うから二人とも頑張りなさい!」
「先生、それだといつ終わるか解らないって事ですよね?」
「負けたら承知しないから!」
「え?あ、はい、頑張ります……」
今の段階でも普段以上の防御力が有る筈なのだが一切安心出来なくなった。
負ければ何が待っているんでしょうね?
「それでは、始めっ!」
ざわついていた外野もその声を皮切りに静まり返っていく。
そして騎士団長さんは剣を抜き盾を構え、自分は拳を構える。
「宜しくお願いします」
「よろしく頼む」
言い終わると同時にお互いが前にダッシュ。
団長さんの顔が笑っている気がした。
おかしな音が響き続けている。
剣と籠手がぶつかる度に剣が弾かれ拳が直進する。しかし相手には届かない。
盾と脚甲がぶつかる度にお互いが弾かれ再び激突する。そしてまた応酬が起こる。
変わった事と言えば少年の顔が苦しげな物になり、騎士の方は笑みを深めた事か。
少年が一度距離を取る動きをするも騎士は追わず、盾を背中に仕舞い、剣を抜く。
二本目であった。
この人めちゃくちゃ強いんですけどォ!
何が辛いって最初の数合で見切られた後からカウンターが相手に届いていない。
剣自体に当てた上でダメージを増やしてお返ししてるのに上手く流されてる印象。
実際にはもっと色々な事をした上でダメージの相殺をしてるとは思うけれども。
向こうからの攻撃は今の所はシンプルな物で、盾を壁として使い、剣で斬る。
そしてこちらがそう意識をした所で役割を反転させ盾で殴打、剣で牽制してくる。
それが凄く辛いです。技術があるってこんなに怖くなるものなんですね。
ガノンを思い出すがあれよりも重厚な感じがあります。
一旦引いて作戦を考えようと思っていると団長さんが盾を仕舞う所。
続いて取り出したるはもう一本の直剣。
あれ?団長さん二本目の剣?え?あれ? あぁあ!?
「『砦盾』!」
なりふり構っていられなくなったので古代龍の大盾を急いで展開。
古代龍の刀も抜いた上で半身で構える。少しは驚いてくれるだろうか。
即死スキルが付いてるけど先生の刀であればこう言う場面では発動しないと思いたい。
気に入られているのなら。
周りのざわめきも意識の外にあるような笑みのまま団長さんが口を開く。
「本気を出すか」
「これからは攻撃しますよ」
「ふむ。……来い!」
『職務投棄』も併用しつつ団長さんを攻め立てるもきっちり凌がれ続ける。
なんで刀の側面に剣の側面を当てて攻撃不発とか出来るんですか。
こちらの攻撃も刀以外の打撃は当たっているとは言えステータスと装備のゴリ押しで。
何度か職務投棄を使っている時にカウンター不発で良いものを貰っている。
どうも鎧の継ぎ目を打撃の如く斬られている様で身体のあちこちが痛い。
さて、どうしよう。どうしようも無いか。
お互いの大振りを同時に避けた所で若干の空白の間。
どうしようも無いので動きを止める。
そうしてから団長さんに謝罪をして、ルーネ先生に顔を向ける。
「今の自分だと騎士団長さんに勝てません」
「今の私だと彼には負けないな」
自分達がそう言うとルーネ先生はにっこり笑顔でこう告げた。
「この勝負、引き分け!」
皆の心情としては数名以外は全くもって予想外だっただろう。
自分も予想外でした。負けだと思ったんですけど。
団長さんを見れば苦笑しつつ頷いてみせる。
えええ?
こうしてなんとも言えない心境のままお披露目は終わった。
この時は先生の判定に疑問を抱き続けていたのだが。
周りにどう映っていたのかをもう少し考えていれば解ったのかも知れない。
充分異常な戦闘だった事に。




