2-7 ゲーム内にて。三十六日目
「今日は組み手をしましょう」
「はあ」
「ついでに昨日の事も詳しく話さないとね!」
「お願いします」
「でね、お願いがあるんだけど」
「なんでしょうか」
「助けてくれない?」
『起きたか』
「おはようございます」
「あれー?無視かなー?」
今日も今日とてログインしました。
そしてテント前でロンに背中を踏みつけられつつキメ顔を作ったルーネ先生からのご提案。
絵面に困惑してます。
また先生が忍び込もうとしたんだろうけど。
「なんでロンも邪魔するのかなー!?」
『邪念を感じたのでな』
「……私は無邪気ですよーう」
『……オヌシ、懲りておらんな?』
「懲りませんとも!」
本気で抵抗していないとは言えじたばたしてるルーネ先生と困惑しながら押し留めているロンの差が凄いなあと目の前の光景を頭で理解しながらとりあえず一言。
「先生は食後のデザート抜きですね」
「そんなっ!?」
龍には食欲絡みが効くようで。
ロンが口をあんぐりと開けてるがそんなにおかしかっただろうか?
とりあえず師匠達の所に行って色々始める事にします。
肉の焼ける良い匂いがしてますね。
「おはようございます師匠、ヤクさん、アル様」
「うむ」
「おはよう少年」
「おはよう!少年君!」
三者三様の返事を貰いつつ湖の傍に。
身体を解しいると手透きになった師匠がやって来る。
珍しく気が重そうだ。
「昨日はすまんかったの」
「突発的な事でしたし気にしてませんよ」
「それは助かる、何しろ用件を聞かされた時のルーネ師匠の笑みが酷かったからの」
「あの笑みを向けられたら自分は意識を飛ばすと思います」
「実際向こうの馬鹿共は気絶しておったしな……」
昨日の事だ。
師匠達に稽古を付けて貰っていると昼頃に渋面を隠そうともしない様子のバルガロフさんがやって来た。その格好だがベテラン探索者と言った風情で、街からの道中で大量に獲物を狩ったのであろう事が一目でわかる程度にはその手に持った大剣に証が残っている。
後々話を聞いた所ストレス解消の為にちょくちょく来ているらしい。
「兄者が継がなかった理由はこれだったのやも知れんな」とも言っていた。
師匠……。
バルガロフさんは厄介事を持って来たらしく師匠とバルガロフさんが話している間にルーネ先生から話しかけられる。
どうも打撃に関する事らしい。
「タテヤ君って最近まで戦う事自体が無かった気がするんだけど気のせい?」
「いえ、合ってます」
「だよね。だからかな、力が上手く入ってないって言うか、身のこなし……?」
「えーっと、つまり?」
「だからね」
「はい」
ルーネ先生が言うには自分の戦い方は促成栽培と言うか実戦特化でやって来た影響がそろそろ出て来ているらしく幾つか気になっているらしい。
「いきなり全部は難しくても直せる所は直さないとねー」
「はい!」
「それで今日の所はね、破壊力を増やしましょう」
「破壊力?」
「そう、破壊力。見た方が早いかな?」
「え?」
「えいっ!」
言うなり先生が腕を振るう。
振るう、と言っても静止している腕の角度と直後に起こった莫大量の風圧で先生が腕を振ったとの予想を宙に数秒浮かびつつ湖に着弾するまでの間に考えていた。
風圧で吹き飛ぶのは二度目かな?
莫大量の水飛沫が上がる。
「あっ!」
「「なんじゃ!?」」
死ぬかと思った。
濡れ鼠になった身体をどうにかしてから再開。
自分を見たバルガロフさんが驚愕した顔をしていたのは何故だろう。
「えーっと、さっきのが範囲を決めずに身体を動かした場合の一例」
「はあ」
「それで、これからちゃんと攻撃するから良く見ててね」
「えっ……、あ、はい」
「大丈夫、ちゃんと被害が出ない様にやるから!」
自分の懸念はそこでは無いのですが。
ともあれ先生を止める事なんて出来ないので若干離れた位置で見る事に。
おや、と思ったのは空手の正拳突きの様な姿勢を先生が取り、それが師匠とダブって見えた所で先生が気迫とともに拳を打ち出した。
「シッ!」
パァン!と空気が破裂する音がしたものの今度は微風程度で済んでいる。
ただ先生の前に破壊出来る物があったなら爆散している事は間違い無いと思う。
ちゃんと殴ると音速を越えられるらしい。
「殴り方の型は何でも良いけどちゃんと殴る、これが大事なの」
「よくわかりました……」
結局の所、先生が言いたかったのは自分に合っている殴り方を身に着けろと言う事だった。
大振りをコンパクトにして突き刺す感じにするとああなるらしい。
確かにこの周辺の相手だと適当に戦う様になっていた様に思う。
このまま慢心した動きをしていると死に戻るのは確実な気がしてきた。
「それと急がないといけない理由なんだけど」
「なんでしょう」
「防御力0だと上手く攻撃しないと自傷ダメージがあるって知ってる?」
え?
簡単に言えば殴るであれば上手くやらないと手首を傷める。蹴りだったら関節を痛める。
防御力0だと普段であれば大丈夫な強引な動きが致命傷になるらしい。
普通は防御力0なんて事にはならない上にHP回復装備持ちだったので解らなかったと。
既に慢心してたかあ。ううむ。
それでもなんとかなってたのは反動を貰う前に相手が吹き飛んでたかららしい。
「じゃあ今日はひたすら先生と組み手……」
「になるね!」
「わあい」
現実逃避も出来ないので早速始めようとすると師匠とバルガロフさんがこちらに来る。
なんでしょう。
「ルーネ師匠、申し訳ありませんが少し時間を頂いても宜しいでしょうか」
「どうしたの?」
「詳しくはバルからも話させますがゴルドラン王国の事でして」
「……へぇ」
先生がとてもとても小さな声を発した次の瞬間。
周囲に莫大量の圧力が放出され。
自分は久々に走馬灯を見ました。
「し、師匠!タテヤの事も気遣ってくだされ!」
「あ、ごめんね!」
師匠達の声に目を覚ますと自分の全身が細かく震えていて、師匠とバルガロフさんも顔をしかめながら先生に声を掛けていた。
「それで、今度は一体何をやらかすつもりなのかな?」
「やらかす、では無くやらかした、になるのかと」
「もう?」
「ええ。ゴルドラン王国ですが前代が退き新王になったのですが、そこでワシらが友好を結んでいると言う事をどうも自分達に都合の良いように解釈したらしく、こちらを呼びつけているそうで」
「幸いにして阿呆なのは新王とその周囲ぐらいでまだ憶えておる重鎮達からは必死の謝罪も貰っておるんじゃがな。放っておくと囀りが喚き声になりかねん」
今にも頭を抱えそうな師匠とバルガロフさんに話を聞けばこの前のイベントで関わった隣国の事らしい。後始末として色々やった上で友好を『結ばせてやった』事を向こうの馬鹿な人がこちらが頭を下げる力関係だと勘違いしているらしい。
幸運な事にちゃんと危機感を持っている人達も居るので先生もあまり怒れず、困惑。
どうするんでしょう?
「解決策として当事者であるダン・ガロフィルト・ハイマン、エターナル・ネフィリムの両名には隣国に行って教育を命じたいのじゃが受けてもらえるか」
「ワシは構わんが……、師匠はどうです?」
「んー……、もうそんなに時間が経ってたのね」
「経ちましたなあ」
「それじゃあ今の人達に教えに行きましょうか!」
「承知しました」
どうやらお礼参りに行く事になったようです。
先生の顔が活き活きとしだす反面師匠の顔がどんどん沈痛な面持ちになって行く。
そして三人の顔がこちらを向く。
「タテヤよ、お主にも着いて来てもらうぞ」
「え?」
「連れて行くよ!」
「え?」
「国が滅びぬよう善処してくれ」
「え?」
その日、ゴルドラン王国に暴風が吹き荒れた。
そして両名の弟子として自分の事も認識される様になりました。
景色が綺麗でした……。
感想、評価ありがとうございます。
頑張れます。
思い付きをのんびり書いて行きます。




