番外編 バレンタイン 一年生時
書いてみました。
一般的なバレンタインデーを知らないのでこうなりました。
二月十四日。
バレンタインデー。
お菓子会社の陰謀だなんだと言われる日であり、同時に年頃の男女が一喜一憂出来るイベントの日でもある。
少年は少女達に貰える事を期待し。
少女は少年達に嘘と本音を織り交ぜた物を渡さんとしている。
さて、自分こと桜川純也はその日を暗澹たる気持ちで迎えていた。
理由は一つ。貰い過ぎるからだ。
これだけ書くと嫉妬に嫉妬を重ねた上で執念を抱かれるモノではあるのだがこちらにも如何せん理由が存在する。
例えばの話だ。
一枚の板チョコがあるとする。
むしろ普通に義理だとわかりやすく保存も効きやすいのでそちらの方が有難い。
だがこれが手作りだとするならば?
保存はしにくく、さりとて捨てるも惜しいモノを貰い、渡した後に嬉しそうに去って行く少女達を見て一口も食べずに捨てられるだろうか?
男なら大丈夫だろう。
そう言いたい奴も居るだろう。
ただ、先にも述べた通り『貰い過ぎる』のだ。
机の天板が見えなくなる程に積もった色とりどりの包装紙に包まれた箱、箱、箱。
朝から既に何件呼び出しを受けただろうか。
登校直後に下駄箱にみっしりと詰まった手紙の束を見てしまっては気分も沈む。
何しろいつ『不細工』だと言われるか気が気でないのだ。
もしくはそれに準ずる言葉をいつ貰うかと戦々恐々としつつ呼び出された場所に向かい続け、そして笑顔と共に渡されて帰って来る。
周りからの視線が痛い。とても痛い。
だが嫉妬の目線が少ないのは何故だったろうか。
さりとて平和だったのは午前中まで。
それまでは様々な事で関わりを持ち、知人と呼べる人達からの贈り物だった。
つまり義理であった。もしくは処世術。
そして午後からは魔の時間である『本命お断りタイム』が始まる。
その頃には既に『王子』と言う噂も利用した上で相手に配慮しつつ断りを入れて行く。
途中から『演じている』と思えば存外話せる事が判明したが故に色々と方向性を間違えたまま動いた結果更に『王子』が定着した事を自分は知らなかった。
※断り文句の一部を抜粋
15才。
『そのお気持ちは受け取れません。ですが、貴女が好いてくれた事を心に留め置くためにそのチョコが必要なのです。譲っては頂けませんか?』
18才。
『お待ち下さい。貴女には他に好いている方が居る筈です。私を逃げ場所に使うのはお辞め頂きたい。それはかの方に渡されるべき物です!』
16才。
『麗しいお嬢様方、もしも私の心が想いを向けている方に届かなかった時は私の方から馳せ参じる事を誓いましょう。ですのでどうか、どうか断る事をお許し下さい……!』
途中から演劇部の衣装を借りた上でプチイベント風味になったのは何故だったろうか。
人と関わり過ぎた為に緊張から意識が所々欠けている事柄が多く、ハッキリと覚醒した時には山積みの貰ったチョコの山とクラスメイトの男子達から貰った普通の菓子類の山を眺めつつ授業を受け切った時だった。
教師も注意して来なかった上に生暖かい目でこちらを見て来たのが印象に残っている。
放課後もやはり戦争だったと言っておく。
正直五体満足で生きて帰れたのが不思議だと思う程には怖かった。
お姉様方がとても怖かった。
食われるかと思った。
だが面倒見の良い方達だと聞いていたし知っていたので無下にも出来ずひたすら頑張った。
記憶があやふやである。
そうしてようやく帰宅出来ると校舎を出れば校門の前で仁王立ちをしている少女が一人。
その顔を見ようとした途端突然頰に熱を感じそのまま俯いてしまう。
仕方ないので顔を伏せたまま歩き、少女の側を通り過ぎようとすると袖を掴まれた。
「あの……?」
待つ事数秒。
何も言わない少女に段々と怯えの感情が出て来るのを感じつつ言葉を待つ。
やがて差し出された物は小さめながらも綺麗な包装紙でラッピングされた箱。
「桜川君」
「は、はい」
次に何を言われるかと頭を回しているとシンプルな呼びかけ。
そして端的な回答。
「あげます」
「はい」
「……」
「えっと……」
「じゃあ、またね」
「え? あ、うん。また……」
渡すだけ渡して後は早足で去って行く彼女を見つめつつしばしその場に佇む。
その後数分考えるも思いつかなかったので足を帰路に向けて踏み出しつつもボンヤリとした疑問は浮かべる事が出来た。
彼女は一体どんな気持ちでこれを渡したのだろうかと。
その答えは二ヶ月後に判明する。




