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122 答え合わせと乙女の姿

遅くなりました。

のんびりしてます。

階下に降りた自分を待っていたのはお盆の上にショートケーキを二切れと湯気の出方から淹れたてだと解る紅茶が入ったティーカップを二つ載せ、今まさに階段の一段目に足を掛けた母親の姿だった。

明らかに目がいたずらを思い浮かんだ子供の様に光っている。

全力で茶々を入れに来るつもりだったな……?危なかった。


「あんな綺麗な彼女が出来たなら私も向こうの親御さんに挨拶しないといけなくなるわね」

「いや母さん、まだ四方木さんと付き合うかは決まってないから」

「『まだ』、ねえ?とりあえず冷める前に持って行っちゃいなさい。ほら」

「ん」


短いやり取りの後、お盆を受け取り後ろから付いて来ない事を耳で確認しながら部屋へと戻る。

確かに四方木さんは美人の部類に入るとは思うがまだ彼女になるとは確定していない訳で。

あれ、でも既に告白されてるんだよな。……どうしようか。


そんな事を考えつつも数十秒後。

現在自分は机に座り、目の前のスマートフォンを操作しながら紅茶とケーキを楽しみつつ『会話』をしているのだが幾つか問いたい事がある為に口に出して確認して行く事にした。


「まず俺、いや自分の口調はどうすれば良いかな」

『そっちが気楽な方でお願い』

「わかった……、とは簡単には言えないけどやってみるよ」

『ありがと』

「それでまあ一応会話の体裁は戻って来た所でさ、一つ聞きたい事があるんだけど」

『何かしら』

「なんで俺は四方木さんに背を向けたまま話してるんだろう」

『察しなさい』

「ごめんなさい」


一応ノックして存在感を示した後部屋に入った自分と頑なに目を合わせようとしない四方木さんだったのだが、美味しそうな物を目にしてしまうとどうしても気になるらしく、しばらく悩んでいたのだがやがて小さな声でノートパソコンを貸して欲しいと言って来た。

まあそこまで複雑な事もしないだろうと思い、起動して渡せば受け取った後にこっちに自分を直視しない様にと言ってからキーを叩き出す音が聞こえだした。

そしてそれから数十秒が経った頃自分が使っているスマートフォンの方にいつもの様にヨミからのチャットが表示されていた。


『口に出すのは恥ずかしいのでこっちで話させてください』


ごめん四方木さん、その気持ち、解りそうで解らないよ。



ただ受け入れないといつまでも話が進みそうに無いので相手の顔を窺えぬまま独り言にチャットが返ってくると言った会話を続ける事に。

……なんだこれ。


「もう色々とグダグダな訳ですが」

『顔見たら気絶しそうだから許して頂戴』

「あれ、さっきまでは大丈夫だった様な」

『告白までした女子の心中、わかってる?』

「あー……、すまん」

『こっち見たら泣くか襲い掛かるかの二択になるわよ』

「そ、そうか。口調全然違うけどやっぱり引っ張られるもんかね?」

『そりゃ何年も使ってればね。そっちもそうでしょ?』

「確かに」


ヨミと四方木さんの二人と話している様な不思議な感覚を覚えつつもチャットを読めばいつも通りのノリで書かれていて。

なので自然と自分もそっちに釣られた口調になって行く。

それとさっきから扉の前で微かな物音がするのだが聞いている人は一体何を思うのだろうか。

四方木さんの事を無口だと考えているに違いない。実際には喋り続けてるけど。

段々ゲーム内の思考になって来た。大丈夫だろうか。

ダメな時はヨミが止めてくれるだろう。あ、今ログインしてなかった。

駄目みたいですね。

そんな感じなので何を考えると言う事も無く言葉を発し続ける。

危ない人みたいになってるけど気にしない。


「それで、ヨミと四方木さんが同一人物って事は周りも知り合いとか多いのかな」

『お察しの通り私の友達とか色々有名なのも居るわよ』

「ほお、例を挙げるとすれば?」

『下の学年に有名な兄妹居るでしょ?』

「ああ、居るな」

『あれがケンヤとミカの中身』

「マジか」


一瞬ゲーム内の二人と結びつく様な所が無かったが金髪を黒色にしてみれば成る程、あの二人と似ている……、のか?

あんまりじっくり見た事無いんだよなあ。それにしても驚いた。


『マジよ。他にも御茶葉は葉子、烏龍は瑠々、雷閃は律。まあ律の方はまだゲーム内だと会ってないんだけど』

「下の名前だけ言われても覚えてると思うか?」

『それもそうね。前から五条院、水橋、清水の苗字よ』

「ああ、それなら解る。成る程、いつもの面子か」

『他にも居るけど聞く?』

「本人から聞いた方が面白いかな?」

『向こうは気付いてるけどね』

「リアルの方で気付かれてるのか……、そんなに特徴的か自分の顔」

『喋り方とかその他諸々で気付いたのも多いからそこまで気にしなくて良いと思うわ』

「人は顔だけじゃ無いんだな」

『重要だとは思うけどね』

「そろそろ身バレしてる危険性について語りたい」

『実際に見た事無かったらゲーム補正クラスだからアンタの顔』

「そ、そうか。つまりこれは調子に乗っても良い流れなのか?」

『別に良いけど刺されるわよ?』

「誰に!?」

『さて、誰かしらね』


物騒な単語に勢い振り返りそうになったが後ろから突き刺さる視線を感じどうにか思い留まる。

その発言はこっちがビックリするんですが。

うん、いきなり天狗にならない様にしよう。伸びた鼻を切り落とされそうだ。



そして今まで自己評価を低くしてやり過ごして来た色々の事を改めて考え直す事を決めると共に自分が今までしていた自己評価がひっくり返った場合色々と恥ずかしい行動や自意識過剰な事をやって来た事を自分の中で消化するのに多少の時間を食いながらもヨミとの会話は続く。

その内に時計を見ればいつもであれば既にログインしている時間なのだが今日は大分ずれ込みそうだ。

それにしても未だに背を向けたまま喋り続けているのだがいい加減普通に話しては駄目だろうか。

そう思いふと後ろを振り向くと笑顔でキーを叩いている四方木さんの姿があった。


いつも涼やかな視線は眉尻が下がった綺麗な弓型の笑みを作り。

頬は微笑みの形を作る様に持ち上げられ。

口は次に打ち込もうとする内容を呟いているらしかった。

正座もいつの間にか崩れ、リラックスした姿勢になり。

奏でられる鼻歌に合わせる様に身体を揺らしそれに吊られて時折髪が揺れている。

目は未だ画面を見ている様なのでこちらが見ている事に気付いていないようだが見てしまった自分としては何かコメントを残さずにいられない衝動が湧きあがる。

それを抑えつつも何を言うべきかを悩みつつ前に向き直る。さて何と言おうか。


『いきなり静かになったけどどうかした?』

「いや、まあ、その、なんだ」

『何?』

「そこまで気を許してくれるのは嬉しいがちょっと速過ぎないか?」

『何が、って……』


コメントの後半の辺りで自分の状況に気付いたのだろう。

後ろからガタタタン!と言う音と共にテーブルに何か堅い物がぶつかる音が聞こえた後にうめき声が聞こえて来た。

……なんだろう、今突然立ち上がろうとして失敗した後にテーブルに額をぶつけた様な時の音がしたんだが。あのうめき声ってそうだよな、多分そうだよな?

その後しばらくして諦めたのか、はたまた吹っ切れたのかしばらく振りの肉声が飛んで来る。


「……ごめんなさい、引いたかしら」

「いや、可愛いなあとも思ったから評価的にはプラスだと思う」

「そ、そう?  それにしても怒らないのね」

「何を怒るんだ?」

「今までの理不尽と顔に対するコンプレックスの原因についてとか」

「今更『俺は超絶イケメンです!よろしくね!』とは言わないが人は顔で決まらないと言われ続けたからなあ。その辺に関してはゆっくり変えて行くよ」

「ありがとう。それと、確認なんだけど」

「おう」

「返事をそろそろ聞いても良いかしら?」

「……まだ待って下さいお願いします」

「ええ……」

「いやだって四方木さん美人じゃん、気後れするって」

「こ、こっちから言ってるのに?」

「それといきなりヨミ本人だと聞いてもまだ消化出来そうにない」

「はうっ」

「まあそんな感じだからまだもう少し待ってくれ」

「き、期待はして良いのかしら?」

「嫌いになる時は自己嫌悪が行き過ぎて逃げ出す時だから大丈夫だ」

「その前に結論出しなさいよ!」

「善処するよ」

「はあ……。でも脈アリなのが解っただけでも良かった……」

「実際今もドキドキしてるしドギマギしてるからな?」

「全然見えないんだけど」

「頑張って隠してるんで察して下さい」

「ややこしいのね、男子って」

「女子も似たような物だと思うぞ……?」

「否定はしないわね」

「お、恐ろしいなオイ」

「まあ、面倒よ。この前もね……」

「わぁ、とっても聞きたく無い話題来ちゃった……」




噂って、怖いわよね。

その後色々と裏話を愚痴付きで教えてくれた後にそう呟いた四方木さんの目が暗く濁っていたのを見たせいでその日一日の楽しかった記憶が殆ど吹き飛んだ事を自分は未だに忘れない。

あれ?カップルってこんな感じだっけ……?

四方木さんポンコツ説。


あれ?

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