116 『拝啓、ヨミ様』
※にごり湯です
二十日目。
「やはりと言うべきか、痛みが無いだけ良かったと言えば良いのか。さてどっちだろうか」
唐突に起こった『盾の魔王が幼女に簀巻きにされた上で散歩』と言う出来事によって「また一層忙しくなったわよ……」とため息交じりにヨミから愚痴られた昨晩。
それから一日経ち、隣の席の四方木さんが放つ不機嫌オーラをどうにかやり過ごしいつも通りの時間にログインすれば身体は重く、何か温かみを感じる物体が胸上から足にかけて乗っていた。
顔を動かして原因の物体を見てみればテントの壁側、左腕側にライアさんがしがみついたまま眠っており、入り口から身体を入れる様にして胸上から足元に掛けてはまるで布団の如くロンが乗っており実際重い。
感覚があったのなら寝苦しい事この上なかったに違いないだろう。
「……どうやって起こすかなあ」
一応無理やり起き上がれそうな気もするのだが心臓の上の部分にロンの左前脚が乗っており下手をすれば爪が立てられそうで恐ろしい。絶対に致命傷である。
なんて事を考えていれば今日もまた大量のファンメールと呼ぶべき物が届いていたのでそれらを読みつつたまに掲示板を読んだりなどしてしばし時間を潰す。
そうしているとライアさんの目が薄く開き、こちらを認めると笑顔になった。
ああ、こう言う妹系って救われるよなあ……。
無言系アグレッシブと言うのはどうかと思うが。
『目覚めたか』
『おはよう!』
「おはようございます。ロンさん、ライアさん」
『……おかしな口調になっているがどうした?』
『また敬語付けてる!』
「おっとっと。違ったな。二人とも、おはよう」
『それで良い』
『おはよう!』
朝の挨拶を交わした所で二人に身体を解放してもらい、テントの外に出て伸びをする。
さて、今日は何をしようか。魔法技能でも育てようか。まずは街に帰るとするかねえ。
『今日は上まで行くぞ。ライアも付き合え』
『え、お爺ちゃんこの山に来てるの?』
「え?」
なんて事を思っていたら今日は山登りになるそうです。
上はまだ雪が残っており、このまま登るには色々と追加スキルを取らないと厳しい地形らしいので新たに耐寒、登攀、持久力、ダッシュ、身体強化の五つを取る事にする。
消費は前4つが10、身体強化は40掛かった。
ついでに色々と上がっていたステータスとスキルを改めて確認する。
名前 タテヤ Lv47
職業『両手盾』Lv14
攻撃 0
防御 310 +800
俊敏 20 +400
精神 20 +400
知力 20 +400
生命力 20 +400
残BP 330
残SP 185
キャラクタースキル
錬金術師 Lv2 解体 Lv7 鑑定 Lv6
識別 Lv13 発見 Lv12 言語学 Lv7 看破 Lv14
盾 Lv35 回避 Lv34 受け Lv37 精密操作 Lv27
火魔法Lv5 水魔法Lv5 風魔法Lv5 土魔法Lv13 光魔法Lv2 闇魔法Lv1
耐寒 Lv1 登攀 Lv1 持久力 Lv1 ダッシュ Lv1 身体強化 Lv1
何と言うか、色々と凄まじく上がっていた。
そう言えば反省会の時にヨミが経験値の溜まり様にバグか何かかと勘違いしていたらしいが自分も疑う事になるとは思っていなかった。
細かく説明するとキリが無いのだがとりあえず盾関連が軒並み上がっている事に若干の安堵を覚えつつももう少し満遍なく上がらなかったのかと言わずにはいられない。
まあその辺の技能を使ってなかった自分が言えた事では無いのだが。
それにしても先生達の加護が無ければただの雑魚ですねこのステータス。
ま、消えたらその時にどうするかを考えよう。
「えーっと、それで、今日は山登りになるんだよな?」
『左様。今回の目的は上に来ておられる龍神殿に会いに行く事だ』
『わざわざ頂上付近に露天風呂を作るなんて変わってるよね!』
「……えーっと、あの、そんな気楽に会いに行っていい存在なんだろうか」
『何、あの御方はその様な事を気にはすまいよ』
『ただ生きてる伝説だから崇められちゃうのが嫌だって言ってたね』
「お偉いさんは皆暇を持て余してるのか……?」
『下手に動けば世界が滅びかねない者達の集まりだがその辺は気にするな』
『一応私たちが特別なのもあるんだけどね!』
サラッと言われた単語に対し驚くタイミングを逃した所で更に色々と叩き込まれる。
俺は一体どうすれば良いのだろう……。
何も考えない方が良いような気もしてきた。
『では行くとするか』
『久しぶりの温泉楽しみ~』
「何だろう、これは俺がおかしいんだろうか」
『安心せよ、普通はお主の反応方が正しいと人族からは聞いている』
「あ、そうですか……」
先導としてロンが行き、その背にはライアが飛び乗り揺られだす。
それを見ながら自分が平凡な1プレイヤーからかけ離れて行くのを感じながら自分も歩き出す。
それにしてもこの山、街から見える以上に高く見えるのは気のせいだろうか?
じっと眺めていたら看破スキルが1上がったのだが一体何が施されているのだろう……。
謎である。
あれからしばらく延々と若干雪が積もる岩肌を登り続け、時折足を滑らせてはロンさんの前足に引っ掛けてもらって空高く打ち上げてもらいそこをライアさんがキャッチしてまた岩肌に戻すといった工程を繰り返しながらも上へ上へと着実に歩を進めていた。
甘えは許されないのかと思ったが自分の足で歩かないと行けないそうなので耐える事に。
それにしても先程から身体が凍えそうになっている。
何しろ軽装も軽装、いつものバーテンダー服である。
既に端々は凍り出しており、時折氷が割れる音が響く。
それをBGMとして聞きながら感覚が鈍くなっていく指先が割れる感触と共に岩を登って行く。
リアルだなと思う反面リアル過ぎるのも辛いですと思わなくもない。
ただまあ流れる空気は清浄で、神秘的な物を多少は感じる。
「ただ上から凄い威圧感があるんですけど」
『機嫌が良いのだろうな』
『機嫌が良い時だね!』
「機嫌が良いと威圧が凄いんですか」
『力が漏れ出るのであろうな』
『酔った時も酷いから……』
「ええ……」
どうやら龍神さん、かなりアレな様である。
わざわざ雪が積もってる山の頂上付近に露天風呂作るぐらいだもんなあ……。
自分でも今日はテンションが低いとは思うのだが驚くのにも疲れたせいだろうか。
それよりかは何だろう、何か会いたくないモノに会いに行くような感覚がある。
さて、龍神様とは一体どんな人なのだろうか。
「おや、君は?エターナル・ネフィリムの気配が少しするけれど…」
「あ、一応アルさんとヤクさんからも色々貰ってます」
あの後どうにかこうにか山頂まで辿り着くとそこは平らな場所となっており森を一望できる方向に風呂が掘られ、そこに一人の人物が浸かっていた。
ロンとライアは早速風呂に入り、身体を温めているので流石に辛かったのだろうと考えられる。
自分も浸かっていた人物に促されその横へと身体を沈める。
冷え切った身体に染み渡る温かさはやはり格別でともすればおかしな吐息を吐きそうであった。
「へえ、あの子達がか……。君の名前は?」
「タテヤと言います」
「タテヤ君、ね」
「はい。龍神様には何か名前があるんでしょうか?」
「あるには有るけどまだ教えられないな。今は龍神様で良いよ」
その後落ち着いた所で件の人物、龍神様が口を開く。
存外威圧と言う物は無くただ楽しそうに口を開く様はある疑念をこちらに浮かばせた。
「わかりました。それで、一つ気になった事を聞いても良いですか?」
「なんだい?」
「まあ些末事ではあるんですが」
「うん」
あっさりと許可が出た事にやはりこの世界のNPCは凄いなあと別の意味で思いを巡らせながら改めて龍神様の容姿を見て言葉を選ぶ。
「ライアさんからお爺ちゃんって呼ばれてたと思うんですけどどう考えても少年に見えるんですが」
「タテヤ君」
「はい」
聞いた瞬間に龍神様は真顔になりそして水面の波紋が消え去りそれに中てられたロンとライアが縮み上がり地雷を踏んだと確信し死に戻りを覚悟した自分を置いて数秒真顔を保った後その相好を崩し笑顔になる龍神様。
その変わり様に無意識に警戒してしまうがそれも一笑に伏される。
「大丈夫。怒った訳じゃ無いからさ」
「では何が……?」
「うん、久しぶりにそのツッコミをされてどうやって返そうか迷ってたんだ」
「は?」
「この場合はなんて言えば良いのかな。人型の時の趣味って所かな?」
「え、は。はあ」
「うん、趣味だ。趣味だね!」
「え、えーっと、つまりお気に入りの変化先で良いんですかね」
「おお、それそれ!良いね、それ!」
「は、はは……」
思わず空を見上げれば雲も無く遮る物が無い晴天の空が目の前に降りしきる。
そのまま龍神様はロンとライアと話し出し、楽しそうに言葉を交わし合っている。
そしてその光景を見て思わず頭の中でヨミに対して手紙を書くのであった。
『拝啓、ヨミ様。
こちらは現在雪山の頂上にて露天風呂に神狼と大精霊と龍神様と入浴する機会を得ています。
そちらは今も忙しいのでしょうか。無理や無茶はゲームに支障が出ない程度にして下さいね。
自分はそろそろ街へと帰りたいと思います。と言うか助けて。ストレスがマッハだから。
ともあれ数日以内には戻れるかと思われますのでそれまでご健勝をお祈りしております。
敬具
ただの1プレイヤーにはもう戻れそうにないです』
ステータス関連が更にガバガバになってます。
あれ?
それと凄い人登場。
どれくらい凄いかと言うととりあえず凄いです。




