表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/162

107 「あ、先生!その先は俺がさっき作ったクレーターが!」

左上腕に小盾、右手に手盾、背中にトレントの大盾を背負いいつもの姿勢を取る。

職務投棄を使いつつ飛んで来た兎を思い切り殴れば爆散した。


「盾と言うより鈍器だよね!?」

「久々に聞きましたね、そのツッコミ……」


先生が後ろで驚いているのが聞こえるが今は振り向いている余裕が無いので無視させてもらう。

ちゃんと守ってくれてる様だし安心して暴れる事が出来るのはありがたい。

大盾を振り回し面での打撃を重視しながら敵の濃い所に対して突撃を連打する。

鍛え上げたカウンタースキルにより与ダメージは倍となる!


攻撃受け止めてないですね。

まあ仕方ない。


無心で飛んで跳ねて走って殴って蹴って飛ばしてまた殴る。

時折地面に叩き付けたりもしていたので凹みが出来ているが後で直るのかコレ?

そんな事を繰り返しているとある時背中側に衝撃が走らない事に気付く。

横目で見てみれば流れる黒髪と踏み込みの音が二人分見えて来る。

もう休憩は終わったらしい。


「まだ休まなくて良いのか?」

「気付いて無いと思うけど一時間以上経ってるわよ」

「そんなに戦ってたのか。気付かなかったわ」

「楽しそうに戦ってたから先生と二人で雑談してたってのもあるけどね」

「マジすか」

「ごめんなさいね?」

「疑問形で言われてもなー」

「ま、帰るまでは持つと思うわ」

「あいよ」


こちらの横に立ち再び森の奥に歩を進めるヨミに続いて歩みを緩める。

その前を先生が元気よく走って行った。


「それじゃ、二人ともいっくよー!」

「あ、先生!その先は俺がさっき作ったクレーターが!」

「え? のわー!」


地面の窪みに足を取られ体勢を崩した先生は地面を思い切り蹴って土くれを周りにまき散らしながら飛び上がると前方に回転しながら放物線を描いて行き着弾地点に居た熊を踏み潰して着地した。

砂煙が晴れた頃、自分とヨミは砂に塗れていた。

周囲のモンスターも吹き飛んでいたのでゆっくり言葉を選ぶことが出来る。


「そこでこけまいとする余り地面を爆発させる蹴り脚は予想外でした」

「つ、土が口に……」

「ご、ごめんね!」

「まあ隠れやすくなったと思えば……、行けるか?」

「その発想が出て来るとは思ってなかったわよ」

「そうか?」

「そうよ」


そうなのか。

自分では存外普通だと思うんだけどなあ。



そこから離れ再び歩き出すと後ろからそれなりの数のプレイヤーがやって来ているのが見え出す。

そして徹夜組が戦闘中に寝落ちをしてそのまま街に強制送還されている事も聞く。

ただ戦果は大量に出している様なので幾分の余裕が生まれ、段々と戦線は上がりつつあるようだ。

ヤケっぱちパワーは強かったらしい。体力が切れた彼らの顔は安らかだったそうな。

ただ後衛の要員が大量に寝た為割りと厳しい事になりかけていたらしいがそこにNPC達が救援に駆けつけてくれているらしく戦況はこちらの優勢になり始めたらしい。

と言うのを代表さん、もとい雷閃さんから聞きながら戦っている。


「そう言えばそこにヨミ居ますけど説明しなくて良いんですか?」

「んー……。気付いてくれると思ってたんだけどね。さすがに解りにくかったかな」


自分が受け止めた所を手数を重ねて倒して行くスタイルの雷閃さんを支える様に他の親衛隊の面々の援護も入って来る。

時たま「隊長の事も口説いてるのか……。これだからイケメンはっ!」等の会話を耳元で言ってくるのは怖いんで勘弁して下さい。


「リアルとは外見結構変えられますしね。代表さんもそうなんですか?」

「変えてはいるんだけどそこまでかなあ……、って感じだね。代表さんって?」


前方から突進して来た熊を受け止めつつ後ろに滑らされた所に周りからの攻撃が入る。

そのまま押し返し、先生のパンチでトドメを刺してもらう。


「ああ、初対面の時に代表っぽいなあと思いまして。やめましょうか?」

「ううん、面白いね、その呼び方。一応は隊長みたいなポジションなんだけどね~」


ヨミが時折こちらを不安そうにちらちらと見て来るのだが何を気にしているのだろうか。

俺の防御力の高さは知っている筈なのだが。


「親衛隊の?」

「親衛隊だね」


隊長!でも雷閃さん女性だものなあ。

そこまで怖い様にも見えないし……。


「隊長さん……。うーん、やっぱり代表さんで」

「りょーかーい」


戦っていればそれぞれの立ち位置も変わって行く。

気付けば自分とヨミと先生を中心とした槍の様な形になった集団が作られ、前進をし続けていた。

前から流れ作業でHPを削って行くと言う事を繰り返し着実に戦力を奥へと運んでいると唐突に目の前に広場が現れる。


「何ぃ!もうここに来ただと!?」


なんて事をのたまう者の存在をそこに見つけながら。



周囲には熊、熊、熊。

そして一人の魔術師っぽい男の姿が一番奥の熊の横に立っているのが見える。

こちらを見て色々と叫びながらも大量の紙や魔術書などを取り出し始める。


それを横目に見ながら一番奥の熊の名前の識別に成功する。

熊の名前は『悟った熊』と言うらしい。

何を悟ったのかとても気になるが怒りを通り越し何かを悟ったらしい。

その目は深く澄み通っておりこちらを静かに観察していた。


「あの熊がボスかね」

「でも様子が変ね。好戦的に見えないんだけど」

「魔術師かー。それにあの術布……、うん、二人に一つお願いしても良いかな?」

「なんでしょう」

「なんですか?」


先生が熊と目を合わせると熊は目を見開きその後静かに項垂れた。

それを見て魔術師は困惑しているが何の反応なのだろうか。

ともあれ先生はそれで何かを察したらしい。


「あの男は私に任せて二人は一番おっきな熊さんは倒さない様にしてくれるかな?」

「その注文の理由は?」

「うん、色々聞きたい事があるからね」

「解りました」


そう言って笑う先生の顔はとても綺麗で、そして怖かった。

相手が肉片にならない事を祈ろう。


「え、今ので分かったのアンタ」

「ヨミちゃんも良いかな?」


横のヨミや後ろのプレイヤー達も困惑しているが自分には解る。

あの熊は倒してはいけないと。

しばし考えていたヨミだったがやがて顔を上げると答えを出す。


「何が解決に繋がるのかが私には解って居ませんから……、お任せします」

「うん、任された!」


そうしてまた無い胸を……、と思った所で先生がこちらを向いて笑みを見せる。


「胸に視線を感じたけれど、一体何を考えたのかな?」

「何も考えてないんでその拳を降ろしてくださいお願いします」

『魔王が謝った!?』


ははは、やだなあ。俺だってここまで来て死に戻りは嫌だからね。

全力で生き残るすべを模索しますよ。

そこで先程から色々やっていた男の方に目線を向ける。


「き、ききき、貴様らァ!この私を放置して漫才などど、ふざけているのか!?」


そう叫んで来たのでこちら側は顔を見合わせこう言った。


『真剣ですけど?』

「嘘をつけええええええ!行け、熊ども!」


絶叫と共に周囲の熊達の身体が光ったかと思うと次の瞬間にはこちらに突撃して来る。

自分とヨミはそれの対応には加わらず奥に居た悟った熊の前に歩み出る。

魔術師の方には先生が行き、魔法の打ち合いが始まっていた。

どう見ても相手の方が分が悪いのだが彼はそれにいつ気付くだろうか。

笑顔で魔法を放ち続ける先生の顔は珍しく怒っているように見えた。

え、怒り?


……大丈夫かな?


「さて、ヨミさんや」

「何、タテヤさんや」


のそりと悟った熊が立ち上がると怒れる熊より少し小さい体躯なのが解る。

自分は装備はそのままにメニューを開きとある操作を行う。


「この一戦、俺はカウンターを使わない事に決めた」

「不殺を頼まれちゃったもんね。私はどうしようかしら」


目の前の熊はまだ静かにこちらを眺めており挑みかかって来る様な気配は無い。

そして解りやすい殺意と言う物も無く、不思議な存在だと思った。


「刃引きの剣とか無さそうだし鉄塊使うか?」

「ああ、偽竜殺しのアレ?丁度いいわね、貸して頂戴」

「あいよ」


ヨミに鉄塊を渡し、自分は盾を構え熊と正対する。

その動きを不思議そうに眺めていた熊だったが次に言われた言葉に笑みを浮かべた。


「先生が何とかしてくれるまで、俺たちと遊んでてください」

「命懸けの遊びね……」


何かのトリガーを引いたかの如く気配と言う名の圧力が漏れ出す。

一声上げるとこちらに踏み出して来る。


「ただ周囲の熊はごめんなさい」

「そこ、謝っちゃうの?」


こちらの言葉を理解しているかの如くキョトンとするも次の瞬間には獣の表情になっていた。

そして段々身体が絞られて行き、普通の熊のサイズになって行く。


「まあ、うん。良い熊っぽいし」

「……どうなのかしらね?」


悟った熊の体形がさらに引き絞られて行く。

それを見て若干表情が引き攣るがどうにか構える。


「まあ」

「ええ」


遂に目の前にやって来た熊を見上げ、ヨミと二人笑みを持つ。

さて、と。


「とりあえず、だ」

「始めましょうかね」



先生、早くして貰わないとじゃれ合いで済まなくなりますよ?

主に俺が。

わかりやすいフラグ付きの敵登場。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ