106 「すまんヨミ、出来心だったんだ」
演説を終え、鎧も脱いで身軽な格好になりいつも通りの装備に変更しながら歩く。
階段に向かう最中でもあれこれと聞いてくる先生にほんの少しイラッとしたので戦場に叩き込む為に背負い投げでもって外壁の上から放り投げ、その後自分も飛び降りた。
唐突にやった筈なのだがそれでもしっかりと音を立てずに着地する辺り先生は達人だなと感じる。
俺はと言うと。
盛大な音と砂煙を立てて着地した上に足首を挫きました。
おのれ地面。
「もー!いきなり投げるなんて酷いなあ!」
「いやー、早く行かないと他の人に手柄を取られる気がしまして」
「あ、そうだった!早く行かないと返り討ちに会いそうな気配があるんだった!」
「え、静かな怒れる熊以上にヤバイ奴ですか?」
「うん、それとその子以外にもたくさん居るから一緒に頑張ろうね!」
「……わー、スパルタだなあ」
唐突に落ちて来た先生と俺に周囲がビビっているのを横目にポーションを一瓶飲んで足首を直しながらのんびり北側に向かって歩き出す。
それにしても更に上位種居るのかあ……。
「もう!いきなり人を投げた上に飛び降りるとか聞いてないわよ!」
「すまんヨミ、出来心だったんだ」
歩いていると後ろから足音と共にヨミが肩を怒らせながらやって来た。
不満顔で言われた事に対する嘘偽りない感想を言うと再び先生の愕然とした表情が見れた。
「そんな感覚で私は投げられたんだ!?」
「あ、すいませんルーネさん、この馬鹿には後できつく言っておきますんで……」
「自分も今後は投げない事を誓いますよ」
ヨミに後頭部をがっしり掴まれながら先生に対し頭を共に下げる。
歩きながらなので腰がひねられて微妙に辛い。
「ねえ、『投げない事』だけとは言わないよね?」
「タテヤ、アンタ……」
いやまあ、うん。一瞬そっちも考えました。
「何か言ってくれないと不安になるんだけど!?」
「ははは、やだなあ、ちゃんと守りますって」
「もー!そんな事言ってると怒っちゃうぞ!」
「すみませんでした許して下さい」
「まさかの土下座ッ!?」
怒られたらここら辺一帯が消し飛ぶので全力で謝る。
街と自分の命を守る為なら俺は土下座も辞さないぜ!
「タテヤ、アンタ今カッコ悪いわよ?」
「許せ、ルーネさんに怒られたら世界が滅びるんだから」
「私は君の中で一体どうなってるのかな!?」
決まってるじゃないですか。
「怒らせたらヤバい人です」
「普通は怒ると怖いからね!そっちだよね!?」
「ははは、やだなあ、ははははは」
「はぐらかされたっ!?」
そんなやり取りを呆れた様に見ていたヨミは自分の装備の確認をするとこちらの腕を取り持ち上げ人の形に戻してくれる。
「ルーネさん、タテヤも。そろそろ漫才も終わりにしてくれるかしら」
「「はーい」」
「……息ぴったりね」
「そうか?」
「そうかな?」
「そうよ?」
そこで先生と顔を見合わせ少し溜める。
同時にヨミに振り向きこう言った。
「「そーなのかー」」
「シバき倒すわよ?」
「「ごめんなさい」」
ヨミさん、コワイ!
少しふざけ過ぎたかと先生と二人、早歩きで若干ヨミから逃げる様に歩く。
まあ即座に追いつかれるぐらいの速さな上に今も戦闘してるんですけどね。
さっきの土下座も戦闘の合間にやってました。
何をやってるんだろうね。
「防衛と言う名の撃滅だね!」
「心を読まないで下さい、ルーネさん」
「まあ実際全滅させないと負けなのよね……」
「せやな!」
「せやのう」
「シバくわよ?」
ヨミさん、コワイ!
二人して逃げようとした所で足元に直剣が刺さりました。
ヨミを見れば苛立ちの中にしてやったと言う感情も見える表情。
何その投擲技術。
なんて事をやりながらも三人で森から染み出して来るモンスターをひたすら倒し続ける。
俺が受ける事が多く、そこに二人が攻撃を仕掛けるパターンが基本になって来た。
自分と先生は割と自由に動いているのだがヨミが上手く調節してくれているので破綻する様な事も無く少しずつ前進し続ける事が出来ている。
そして遂にアイツが出て来た。
そう、静かなる怒れる熊。
奴である。
「それで、どうしよっか?」
「俺が受けますんで二人で削り切れますかね?」
「ルーネさんの攻撃力なら大丈夫だと思うけど」
後続が追いついて来る時間を稼ぎながら静かな熊さんが動かない事を利用して作戦会議。
とは言ってもシンプルな物になりそうだが。
「それじゃ、ここからは熊肉集めだね!」
「え、食えるんですか?」
「美味しいよ?」
モンスターって食えるのか……。
あれ?でも確かに食ってた様な気もするぞ?何処だっけか。
「食えるのか……。よし。ヨミ、後から来る連中に解体任せても良いか?」
「このイベント中は狩った人に直接ドロップ品入るそうよ?
「そうなのか?」
「解体した方が良いアイテム出やすいらしいけど」
「それは良いな」
右手にて戦っているヨミにそう問えばそう返ってきた。
そして左手側で戦っていた先生が楽しそうな声を上げる。
「二人ともやる気になったみたいだね!」
「え、あの、私は……」
「大丈夫!お姉さんが守ってあげるから!」
「諦めろ、ヨミ」
「えー……」
腑に落ちない表情をしながらもしばらく無言で戦っていたヨミだが途中、眉尻を下げると肩を落としながら何事かを呟いた。
「はあ……、なんでこんなのを好きになったのかしら……」
「え?何がどうしたって?」
丁度盾にガンガンぶつかって来ている時だったのでエフェクト音で聞き取り損ねた。
聞き返そうとするとヨミは焦ったように語気を荒げて言い繕う。
「何でもないわよ!さっさと狩って、街に戻って眠りましょ!」
「あ、それなんだが目の前の奴に加えて上位種が居るらしい」
「……え?」
ヨミはと言えば目の前の静かな怒れる熊を倒せば良いと思っていたのか一瞬虚を突かれたかの如く動きが止まる。
そこに飛び掛かって来たモンスターをこちらが弾いた所で動き出した。
「ちなみにここまで深く来ちゃうと狩り切るまで帰れないし眠れません」
「……最初に二人で歩いてたのは?」
「自分と先生ならダッシュで逃げれば良いかなって」
「……私が居ると?」
「担ぐかお姫様抱っこで運搬になるけど」
「それもい……、いえ、何処まで行くのかしら?」
「この群れの総大将倒すまでだから……。死に戻りの方が街に早く帰れるぐらい?」
「うあー……」
明らかにヨミのテンションが下がって行くのを感じ取りながらしばしの間お互い無言になる。
やがてヨミは顔を上げると表情をヤケクソ気味の笑顔に変えていた。
「あーもー!付き合ってやるわよー!」
「うんうん、気合十分だね!それじゃ行くよー!」
「ルーネさん、あれはやけっぱちと言います」
まあ自分も正直諦めが大半なんですけどね。
慣れてしまった自分が恐ろしい。
その後は色々吹っ切らされたヨミの攻撃によって静かなる怒れる熊のHPがゴリゴリ削られて行き先生の乱打によって反撃すら潰されると言う光景を見る事が出来た。
俺がした事と言えば戦いやすいように周囲の掃討を引き受けた事だろうか。
ただその仕事も二人の攻撃の余波でごっそり減っていたので余り活躍していない。
そして途中先生の横を通りすがった時に聞こえて来た「ヨミちゃんも強いなあ……、頼んだら戦ってくれるかな?」と言う言葉に関しては思わずヨミの方に向かって手を合わせて無事を祈ってしまった。
トラウマが作られない事を切に願う。
そうしてとりあえずの広場一帯を殲滅しつくすと少しの間休息の時間を得る。
自分と先生はそこまででも無いがヨミの消耗が激しかったのでしばらく全力戦闘は無理そうだ。
「さて、次は自分が頑張る番ですかね」
「私はヨミちゃんを守っておくね!」
「お願いします、ルーネさん」
「任された!」
そう言って無い胸をドン、と叩いて笑う先生の強さに安心しながらも再び集まりだしたモンスターの群れに向かって歩いて行く。
さて、しばらくは何も考えられなさそうだ。
感想爛に返信するかで迷う日々。
徹夜のお話は背筋がゾッとしました。
ひええええ。




